カテゴリ「1.0-古典文学」の158件の記事 Feed

2014年11月 6日 (木)

千代田図書館で古書目録の調査を続ける

 早朝より立川で仕事をし、午後は九段下の千代田図書館へ目録の調査に行きました。

 今日は、弘文荘の反町茂雄さんが関わっている古書目録を中心に見ました。『源氏物語』をはじめとして、多くのすばらしい古典籍が掲載されています。重要文化財や重要美術品になっている古典籍が、昭和20年代後半にたくさん市場に流れていたことがわかりました。

 特に目を引いたのは、天理図書館に現蔵の鎌倉時代中期書写『耕雲本源氏物語』(薄雲・朝顔)が、写真2葉とともに掲載されていたことです。


141106_kouun1



141106_kouun2


 その説明文には、次のようにあります。

薄雲・朝顔の二巻データ、紙数七十枚の厚冊。為氏と伝ふる鎌倉中期の古写本に、南北朝時代の源氏研究家として有名な花山院長親(号耕雲)が自ら校合を加へ、異同を詳細に書入る。巻末に耕雲自筆の和歌一首と自署花押がある。本文は所謂古本の系統で、流布本とは異同が多い。原装上本、二重箱入。(即売会『新興古書大即売展出品略目』、会場・東京古書会館、1954.12)

 なお、別の『新興古書大即売展出品略目』(即売会、会場・東京古書会館、1959.12)には、次の記載がありました。

源語拾玉 きりつぼより松風迄 室町期写 一冊 3,500

 『源語拾玉』という本のことは、今わたしにはわかりません。慈円の家集である『拾玉集』しか思い浮かびません。『源氏物語』関係の本の別名なのでしょうか。

 同じように、「源氏かなつかひ、伊呂波分、能筆写 二」(即売会『新興古書大即売展出品略目』、会場・東京古書会館、1954.12)と「源氏物語はらはぬ塵 本多忠憲著/上写本、未刊本 四」(同)とある本も不明です。

 こうした本について、どなたかご存知の方がいらっしゃいましたら、ご教示いただけると幸いです。

 そして、この目録調査に参加してくださいる方を求めています。
 まだ、書庫にある目録の100分の1も終わっていません。私には山をも移す作業なので、若者に引き継ぎたいと思っています。
 興味のある方は、1度ご一緒しませんか。
 今日は、若い仲間が一人参加しました。いろいろと貴重な収穫があったようです。このことは、また別の機会に報告します。
 
 
 

2014年10月31日 (金)

茶化された古典の日(11月1日)にちなむ記念切手

 「古典の日」が日本で粗略に扱われています。
 「古典の日」を軽視している風潮が現実にあります。
 「古典の日」が茶化されていることに歯痒い思いでいます。
 
 明日が「古典の日」ということで、『源氏物語』に関する記念切手が本日発売されました。
 かつて、国文学研究資料館所蔵の『源氏物語団扇画帖』が記念切手に採択されたことがありました。今でも、発売前に霞ヶ関の担当部局に伊井春樹館長とご一緒に行ったことを思い出します。

「記念切手の背景画になった国文研の源氏絵」(2008/7/24)

 本日早速、郵便局で、切手シートと説明書をいただいて来ました。
 説明書(表裏)は、次のものでした。


141031__001



141031__002


 これは、「古典の日」が制定されたことを記念して発行された特殊切手です。
 古典の日が11月1日となっているのは、『紫式部日記』(1008年・寛弘5年11月1日)に『源氏物語』の存在が記されていることによるものです。

 『源氏物語』の作者を紫式部という一個人に特定しない私にとって、この理由付けは承服しがたいものです。また、本記事の末尾に述べるように、その制定の経緯と法律の条文に不信感を抱いているので、多分に問題のある記念日だと思っています。

 さて、日本郵便のホームページに掲載されている、今回の切手のデザインに関する説明を引用します。


発行する郵便切手のデザインについて

切手シート全体を料紙(染料や顔料で色付けしたり、金・銀の箔で装飾した紙)に見立て、さらに各切手の画面を扇型及び貝覆いを想起させる蛤形にすることにより、古典のイメージを表現しています。
切手のデザインは、「古典の日に関する法律」で定められている「古典」の定義により、「文学、音楽、美術、演劇、伝統芸能、演芸、生活文化その他の文化芸術、学術又は思想」の分野を代表する各種題材により古典を表現しています。
 
(1)紫式部日記絵巻と書籍
 紫式部日記絵巻と書籍により、文学、美術、学術及び思想を表現しています。

(2)華道と囲碁
 華道と囲碁により、生活文化及びその他文化芸術を表現しています。

(3)能楽と文楽
 能楽と文楽により、演劇及び伝統芸能を表現しています。

(4)琵琶と演芸
 琵琶や落語、浪曲により、音楽及び演芸を表現しています。

(5)源氏物語絵巻と巻物
 源氏物語絵巻と巻物により、文学、美術、学術及び思想を表現しています。

 切手を見ながら、それぞの図柄に関して多くの疑問が生まれました。
 重箱の隅を突くようになりかねないので、最初の絵についてだけコメントを付します。

 一枚目の上段の図柄は、『紫式部日記絵巻』(重文、旧森川家本、第3段)からのイラスト化だと思われます。道長の妻である源倫子が、若宮の敦成親王を抱いている場面でしょう。

 下段に描かれている書籍は、四ツ目綴じ(あるいは康煕綴じ)です。『日本古典籍書誌学辞典』(1999年、岩波書店)によると、「四つ目綴じ」の項目に次のような説明があります。


中国明代に隆盛を見た糸綴じ線装本の影響を受け、わが国室町初・中期よりこの装訂法が起り、以後和本の写本・刊本を通じての主流となった。(594頁)

 平安時代を背景とする『紫式部日記絵巻』と一緒に、この綴じ方の本を配するのが適当であったかどうか……。雰囲気のイメージ化なので、平安も鎌倉も室町も一括りで「古典」ということなのでしょう。
 また、冊子の題簽は右上に貼られています。普通は、左上か中央なのですが……
 一般的には、こうしたキャラクター物は古典の雰囲気が出ていればいい、ということに留まります。しかし、本そのものに興味を持つ者の習い性として、細かなことが気になりました。これについても『日本古典籍書誌学辞典』から説明を引きます。


題簽が貼られる場所は短冊簽は表紙左上が普通だが、歌書・物語・絵本などの書き題簽が表紙中央に貼られる場合が多いのは、外題は中央に記すという中世以来の文学的伝統を踏まえたもののようである。寛永時代(一六二四—四四)以降の刷り題簽になると歌書・俳書・絵本・草子の類は短冊簽を中央に貼り、その他の本はおおむね左上に貼られ、類書や字書の類は題名を示した短冊型の外題簽を左上に、方型の目録題簽を中央に貼るというような類型が出来てくる。(366頁)

 この題簽に書かれている文字は、右の本が「花のいろは(花能以呂八)」で、小野小町の「花の色はうつりにけりな……」の初句のようです。左の本は「秋乃花」です。

 蛇足ですが、5枚目の絵に描かれた巻物も、興味深い装幀となっています。表紙の裏面(見返し)は装飾料紙ではなくて、和歌を書いた紙が貼ってあるのです。そこには、「めくりあいて〈改行〉それとも」と読めそうで、紫式部の歌の一部です。

141031_kana


 左側の本文料紙の巻頭部分は、「いか(可?)お(於?)た(多?)む(武?)かし〈改行〉よりて」と読めそうです。小さな文字の変体仮名が識別し辛いので、私にはやっと判読できる程度で意味不明です。
 雰囲気作りとしてのイラストなのですから、あまり細かく見ないほうがいいようです。

 古典の日の制定について、私は個人的には批判的です。

 そのことは、「空転国会の暇つぶしで決まった「古典の日」の条文は空疎な文字列」(2012年08月31日)で、詳細に記した通りです。

 今、「古典の日」は祝日ではありません。しかし、この「古典の日」を祝日にすることにでもなれば、その時にはこの法律のあやふやな日本語文を全面的に書き換えた方がいいでしょう。
 私にとっての「古典の日」は、国会議員に騙し討ちに会った記念日となっています。

 「古典の日」にちなむ傑作なキャラクターが出現した年もありました。文化庁のポスターにも掲載されたので、ご記憶の方も多いかと思います。
 このことについては、「素直に祝えない「古典の日」に伊井語りを堪能する」(2012年11月01日)でも報告しました。このイラストは、文化庁からその後、訂正版が出ました(『京都新聞』2013.8.3、「古典の日キャラ 巻き物逆向き」)。

 「古典の日」については、もっと正しい情報を若者たちに流してほしいと思っています。
 
 
 

2014年10月28日 (火)

第38回国際日本文学研究集会のお知らせ

 第38回目となる国際日本文学研究集会が、1カ月後の11月29日(土曜、午後)と30日(日曜、全日)の2日間にわたって、国文学研究資料館の大会議室(2階)で開催されます。
 日本における国際集会の老舗といわれ、毎年充実した発表とシンポジウムが行われています。

 今年のプログラムは次の通りです。


141028_38th_poster


 本年も、多彩な研究発表があります。
 私が関係しているところだけでも、メモとして記します。

 第1セッションで司会を担当しています。
 このセッションは、海外関連の研究となるグループで、3名の方が発表されます。

 ポスターセッションとしては、会場前のロビーで2日間にわたって最先端の成果が報告されます。
 江草宣友(国文学研究資料館事務補佐員)氏の「国文学論文目録データベースの利用状況に関する考察」は、ウエブサイトに公開している50万件以上の論文データ群に関して、利用傾向を分析した結果と今後の課題を考察するものです。

 この論文データベースを担当して8年になります。今もこのデータベースなくしては、国文学関連の論文は執筆できないと言えるものに成長しています。特に、本年2月にリニューアルを果たし、ますます研究に重宝するデータベースに仕上がりました。
 この「新・論文目録データベース」については、次の記事で報告しています。
 
「国文研の「新・論文目録データベース」のこと」(2014年01月27日)

 この論文データベースに関して、今まで、そのデータ群に分析の手が入ったことはありません。『源氏物語』がもっとも検索される作品であることは、今もずっと変わらないことはよく知られています。しかし、その他にどのような作品や誰の作品が検索されているのか等々、その利用傾向の分析は興味深い情報の提供となるはずです。ぜひ、立ち寄って聞いてください。あらためて、この「国文学論文目録データベース」の存在意義を再認識していただけることと思います。

 第1日目の夕刻よりレセプションがあります。諸先生方と親しくお話のできる場となっていますので、これにも多数の参加をお待ちしています。
 
 
 

2014年10月26日 (日)

続・雅楽三昧の一日(夜の部・北区王子北とぴあ)

 神野藤昭夫先生と宮内庁楽部で雅楽を観た後は、そのまま東京駅から王子駅へと向かいました。もう一つの雅楽会があるからです。雅楽のダブルヘッダーは、なかなか得難い経験です。

 王子駅前にある北とぴあ(つつじホール)で、京都方楽家安倍家の伝承シリーズとして、「幻の雅楽」という公演が、午後6時半から始まりました。


141026_gagaku


 「幻の雅楽」は、宮内庁楽部の雅楽とは打って変わって、主催者である三田徳明さんの楽しくわかりやすい解説で進行します。
 ゲストとして話題ごとに3人が壇上に呼ばれ、雅楽や舞楽に関する話の背景や、思い出話などが繰り広げられました。この味付けは、主催者である三田さんの独壇場です。

ここでも、忘れないように演目を列記しておきます。


【演目】
第一部 京都からの出立
 ・安倍家伝来の古譜より「廻忽」「五常楽」
第二部 明治維新と雅楽
 ・「君が代」の起源
 ・〈陸蒸気(おかじょうき)〉と雅楽
  「慶雲楽」「蘭陵王」「還城楽」
第三部 安倍季昌氏思い出の舞楽「胡蝶」に因んで
 ・幻の曲「胡蝶破」(管弦曲)
 ・安倍家所蔵の古譜による「胡蝶急」(現行楽曲、舞付き)

 この中で、私は古歌「君が代」の演奏と、京都方楽家安倍家29代当主である安倍季昌先生の幼い時の体験談の後に演じられた舞楽「胡蝶」が印象に残りました。

 主催者である三田さんには、出口で神野藤先生とご一緒に挨拶をして、会場を後にしました。

 王子駅周辺に詳しい神野藤先生には、王子神社を始めとして、楽しい解説付きで案内していだきました。


141026_toden


 妻がこの近くの学校に勤めていました。結婚直後に、私の大学院生活を支えてもらっていた時代のことです。
 私も、この近くの開成学園と東京成徳学園で講師をしていたことがあります。しかし、いつかはと思いながらも、結局はこの王子に降りたったことはありませんでした。

 この街は、東京を去るあと2年程の間に、妻と共にまたあらためて来ることになりそうです。
 
 
 

2014年10月25日 (土)

雅楽三昧の一日(午後の部・宮内庁楽部)

 大手町駅で神野藤昭夫先生と待ち合わせをし、皇居の大手門から入って宮内庁の楽部へ行きました。
 大手門から桔梗濠越しに日比谷方面を望むと、都心とは思えない程ののどかさがあります。


141026_kikyoubori


 神野藤先生に誘われるままに、式部職楽部の雅楽演奏会に行ったのです。


141026_gakubu


 いただいたパンフレットには、舞楽図の「御神楽人長」が描かれています。
 舞台のすぐそばに座ったので、足元には白い玉砂利が敷かれています。


141026_panflet


 2階に上がってみると、全体がよく見通せました。

141026_butai1



 また、2階には楽器や衣装が展示されていました。


141026_gakki


 これまでに何度も先生からお声を掛けていただき、雅楽のお供をさせていただいています。
 雅楽やお能は退屈しそうです。しかし、先生と一緒だと眠くなることもなく、楽しく観られるから不思議です。適度な説明とお心遣いに感謝しています。

 忘れないように、曲目を列記します。

◆管弦
 ○盤渉調音取
 ○千秋楽
 ○越殿楽 残楽三返
 ○劔氣褌脱

 以前に聞いたこともあってか、「越殿楽 残楽三返」が心地よく聞けました。曲が進むにつれて、笙や篳篥が順番に演奏を休止するものです。


141026_butai2



 
◆舞楽
 ○還城楽
 ○蘇志摩利

 「還城楽」は一人舞でした。途中で蛇を手にしてからは、特に動作がきびきびしていて、印象深い舞でした。
 「蘇志摩利」は四人舞でした。腰に着けた笠を被るなど、これも惹き付けられました。この曲は「明治選定譜」にないもので、近年再興されたものだそうです。

 帰りに、御苑できれいな冬桜を見ました。


141026_sakura



 
 
 

2014年10月14日 (火)

江戸漫歩(89)畠山記念館で見た不昧公の逸品

 秋季展として、「開館50周年記念特別展 大名茶人 松平不昧の数寄―「雲州蔵帳」の名茶器―」が開催されています(平成26年10月4日(土)〜12月14日(日))。
 これまでにない大型台風が来る直前の間隙を突いて、不昧公のお茶道具を拝見しに畠山記念館へ行きました。


141013_fumaiko


 お茶の良さなどはまだまだわかりません。しかし、名茶器といわれるものは見られる時に見ておきたいと思っています。良いといわれるものは何でも見て、目を慣らしたいのは、古写本や古筆切を見る時の気持ちと同じです。

 不昧公(1751〜1818)は、出雲国松江七代藩主です。茶の湯を極めた、江戸時代を代表する大名茶人として知られています。
 その「不昧公」という名前は、私の出身が島根県出雲市ということもあり、幼い頃から両親に「松江」「山川」「若草」という言葉とセットで聞いていました。
 本家のお爺さんがお茶人で、わけもわからずにお茶室の茶碗などを玩具がわりに悪戯していたころから、不昧公は何となく耳にしていた名前です。

 父に連れられて松江に行き、お茶席で蓮華とお菓子をもらって帰ったことは、今でも記憶に鮮やかです。お茶をいただいたのかどうか、今となっては定かではありません。しかし、緋の毛氈と大きな傘と桜が、微かながらも残映として残っています。

 昨春(2013年4月6日(土)〜6月2日(日))、逸翁美術館で「小林一三生誕140周年記念Ⅰ 復活!不昧公大圓祭-逸翁が愛した大名茶人・松平不昧-」が開催されました。逸翁美術館館長の伊井春樹先生から連絡をいただいていました。
 4月28日には、「池田亀鑑賞の選考委員会が逸翁美術館で」あったので、会場までは足を運んでいました。しかし、当日は慌ただしかったため、また改めて、と思ったのがいけませんでした。その後も何かと多忙だったこともあり、とうとう拝見する機を逸してしまったのです。
 逸翁が収集した不昧公に縁のある名品を見られなかったので、今でも再会を待ち望んでいるところです。

 そんなことがあったので、どうしても畠山即翁が集めた名茶器を見たくて、並の勢力ではないと警戒されている台風の中を、それこそ見られる内にとの思いから出かけたのです。

 国宝の藤原佐理筆『離洛帖』(平安時代)は、展示期間が来月(11月8日~12月14日)なので今回は見られませんでした。
 それでも、重要文化財となっている『唐物肩衝茶入 銘 油屋』(南宋時代)と『井戸茶碗 銘 細川』(朝鮮時代)の2つは、しっかりと見てきました。

 次に興味を持ったのは、『観音蒔絵硯箱 銘 玉河』(室町時代)です。これは、平仮名が装飾絵の中に紛れ込むように隠されているものです。「葦手絵」と言われる、絵文字の一種です。平安時代に遡る散らし書きの中に、平仮名の連綿体が絵画の中に溶け込むようにして書いてあるのです。
 近年は、絵文字がメールなどで頻繁に使われています。この絵文字も、由緒正しき遊び心溢れる葦手の流れなのです。

 『源氏物語』では第32巻「梅枝」に、光源氏が「葦手、歌絵を、思ひ思ひに書け」と言っています(『新編日本古典文学全集』第3巻、417頁)。
 また、その後に「葦手の草子どもぞ、心々にはかなうをかしき。」(同、420頁)と、若い人が草子に葦手書きをしていることをおもしろがっています。

 今日拝見した硯箱の蓋裏には、千鳥が飛ぶ模様の中に、崩し字で「ゆふ」と「され」が隠れるようにして書いてありました。また、硯箱の身には「しを」と「かせ」が装飾絵の中にかすかに読めます。
 もっとも、読めますと言えるのは、ここに書いてありますよ、という指示があるのでわかる程度です。ここまで平仮名を崩されると、目を凝らさないと識別できません。おまけにガラスケース越しなので、なおさら判読が大変です。

 これは、平安歌人である能因法師の和歌
ゆふされしほかせこしてみちのくの のだの玉河千鳥なくなり」(新古今和歌集、巻6、冬)
の歌意を装飾的に意匠化したものでした。
 この硯箱の銘が「玉河」となっているのも、この能因の和歌から来るものです。

 葦手絵は、平仮名の特性をうまく引き出した遊び心満載のデザインです。文字で遊ぶなど、海外の装飾文字とはまた違う、一風変わった言葉遊びと絵画化が融合したおもしろい文化です。

 帰りには、小雨が降り出しました。
 今夜から明日にかけて、関東地方も大荒れになりそうです。
 
 
 

2014年10月10日 (金)

筑波大学附属視覚特別支援学校訪問記

 国立民族学博物館の広瀬浩二郎さんと一緒に、筑波大学附属視覚特別支援学校の高村明良先生にお話をうかがいに行きました。
 視覚障害者が古写本『源氏物語』を読めるようになるための方策について、相談とご教示をいただくためです。

 広瀬さんとは、地下鉄有楽町線の護国寺駅で待ち合わせをし、盲学校に向かいました。
 駅から学校までは、複雑な交差点を通り、急な長い階段を登ります。今日も私の腕を広瀬さんに貸して歩いて行きました。

 途中で、前から白杖を持って足早に歩いてくる女学生と行き合いました。こちらが先に気づいたので道を譲りました。狭い点字ブロックを頼りに歩くので、すれ違いざまにぶつかることもあるそうです。

 今日学校には、ハンガリーからのお客様がお出でになっていたそうです。下駄箱には、ハンガリー語の張り紙がしてありました。


141010_hungary


 折しも、先日ハンガリー語訳『源氏物語』の本を整理していたので、なんとなく親近感を持ちました。もっとも、私はまったくこの文字は読めませんが……

 高村先生からは、たくさんのアドバイスをいただきました。
 数学の先生ということもあって、何事もストレートに話してくださいます。理路整然と自分の考えをおっしゃるので、それがかえって私にはわかりやすくて助かりました。

 また、和やかにいろいろな視点から情報交換ができたのは、広瀬さんが中学と高校時代にこの学校に通い、高村先生に教わっていたという事情もあります。先生の歯に衣を着せぬ、何の遠慮もなさらないお人柄に、かえって信頼してお話をうかがうことができました。

 高村先生のお話には、まず結論が先にあります。私が本当におもしろいと思うことから、相手に伝えるべきだと。それが、触ることによってわかれば、それが一番いいのだからと。
 ぜひ伝えたいと思うことから始めて、そこから興味をさらに膨らませるために道具を使えばいいのだというのが、先生の基本的なお考えでした。

 今日うかがったお話の要点を、以下に列記しておきます。

 私が、今考えていることを説明すると、高村先生はまず、それによって視覚障害者に何がわかるようになるのか、と問い返されました。見えている人はわかることであっても、見えない者には字の形を触らされて終わるだけではないかとも。

 昔から、浮き出た文字はありました。それを、触って理解しようとした人もいました。
 しかし、それがなぜ受け入れられなかったか、ということがあります。そこには、目で見る者と手で触る者とのギャップがあったからだそうです。また、目の見えない者にとって、手で形の大小の変化はわかるが、形は見分けられないのだそうです。

 目で形を認識するにあたっては、自分の頭の中で補正ができるのです。しかし、目の見えない人が、手で曲がったものの形を理解するのには、自分の中で補正ができないのだそうです。その点、点字は6点が形作る文字なので、ズレることなく指先で識別できるのです。その意味から、変体仮名の違いを理解できるかどうかは、手で認識できる限界を超えることのようです。ただし、丸も六角形も、大きくなると個体差が出てくるので、文字としての識別は可能となるようです。

 話をまとめると、見えてできることと、見えなくてもできることがあり、その認識の手段が問題となるのです。自分が達成できる手段かどうか。その手段を考える必要があるのです。その意味からも、私のプロジェクトの目的をもっと明確にすべきだ、とのことでした。

 千年前の文字で書かれた写本の魅力を伝えたい、という趣旨は理解していただけました。しかし、実用的な問題として、やはり変体仮名を読むことは難しいのだということです。もっとも、文字の変化を伝えることは、意義があることであるのは理解できるとも。

 そのためにも、私が研究しているプロセスを伝えてみてはどうだろうか、という提案を受けました。おもしろい、と思うことをやってみてほしいそうです。

 私の研究テーマから言えば、異文発生のおもしろさを知るために、文字の違いがわかるのは大事なことです。そして、『源氏物語』のおもしろさを前面に出して、自分で理解して楽しむことに誘導できればいいのです。

 文字は、見た瞬間にわかります。同じように、目が見えない方のためには、図形としてわかるようにすることも大事なようです。

 文章にひらがなでルビを振り、その平仮名をたどって読むことについての意見をうかがいました。
 これについては、指先が理解する解像度は低いことと、立体コピーは太さが出てきて判読しにくいので、問題は山積しているようです。あまり現実的な、有効な手段としては理解してもらえなかったようです。

 また、目が見える者が自分の文化に他人を巻き込もうとしているのでは、と批判的にもおっしゃいます。
 向こうの文化をこちらの文化に寄り添わせることも大事なようです。相手の文化に沿うことの大切さです。その意味からは、点字のよさを再認識させられました。文化の受け渡しの道具としての点字を見ると、なかなか優れものなのです。
 私の説明では、見える世界を見えない世界に押し付けているようにも思われるそうです。それであっても、触っておもしろさが理解できればいいのです。触ることで世界が開けるのですから。

 何とかしてでも、伝えようとするのが大事なようです。理解するためのツールとして、今回の提案を活かしたらどうだろう、ともおっしゃいます。見えなくてもできること。それを我々に伝えてほしいとも。

 たくさんのアドバイスをいただきました。これを再検討の課題として、いましばらく考えたいと思います。

 帰りに玄関の写真を撮りました。来た時には、こんなに長時間お話をするとは思わなかったので、外に出て暗くなっていたので驚きました。


141010_mougakko


 帰りの護国寺の駅の改札横に、立体模型で駅中の状況がわかるようになっていました。


141010_gokokuji


 ただし、これは少し奥まったところにあります。もっと目に付きやすいところにあってもいいと思いました。
 
 
 

2014年9月27日 (土)

活発な意見交換がなされたカナダでの国際研究集会

 ブリティッシュ・コロンビア大学は広大な敷地の中にあります。
 シンボルタワーを通りかかると、かわいいリスが出迎えてくれました。

140926_tower_2



140926_risu_2


 「国際研究集会 in Canada ─日本古典文学の可能性と異文化の交響」と題するイベントは、ブリティッシュ・コロンビア大学アジアンセンターで開催されました。

140926_jingirei_2



140926_asiancenter_2


 わかりやすい研究発表と熱心な討議で、非常に盛り上がった研究集会となりました。

 後日、報告書にして刊行しますので、今は実施記録としてまとめておきます。
 司会進行をしながら発表内容と質疑のメモを取り、その場で簡単な要約をiPhoneに入力していたので、発表者の意を汲まない箇所があることかと思います。ご寛恕のほどをお願いします。

 今回の国際集会は、次の2つの科研(A)が合同で行うものです。


・科学研究費補助金基盤研究(A)「日本古典籍における【表記情報学】の基盤構築に関する研究」
(国文学研究資料館・22242010) 研究代表者 今西裕一郎

・科学研究費補助金基盤研究(A)「海外における源氏物語を中心とした平安文学及び各国語翻訳に関する総合的調査研究」
(国文学研究資料館・25244012) 研究代表者 伊藤鉄也

 まず、午前の部「翻訳からみた平安文学」は、伊藤の科研(A)による研究発表会です。

 ジョシュア・モストウ先生の開会の挨拶で始まりました。


140927_kaikaimostow_2


 続いて、私が今回の翻訳に関する伊藤科研の趣旨説明をしました。


140927_aisatu_2


 発表内容とその質疑は、以下のとおりです。
 
 
(1)Gergana Ivanova(シンシナティ大学)
  「英訳された『枕草子』が作り出した大衆文化」


140927_ivanova_2


 ウェイリーが翻訳した『枕草子』が、ピーター・グリナウェイの映画『ザ・ピロー・ブック』や歴史小説に与えた影響についての発表でした。
 →江戸時代の枕本や春画の影響についての質問には、多彩で活発な意見が出ました。エロティックな解釈は60年代が中心となっているそうです。これを日本では「もののあはれ」で読むのが伝統だということで落ち着きました。
 
 
(2)緑川眞知子(早稲田大学)
  「小説として読まれた英訳源氏物語」


140927_midorikawa_2


 アーサー・ウェイリー訳『源氏物語』の書評の確認とロイヤル・タイラー訳から、『源氏物語』の受容の変化を考察されました。
 →日本語には間接話法がないとの指摘に、補強する意見がいくつも出されました。タイラー訳は、コンマとセミコロンの使い方が巧いとも。ネイティブも自然に思うほどのテクニックが駆使されているようです。
 
 
(3)川内有子(立命館大学 大学院生)
  「1955年のサイデンステッカー訳蜻蛉日記について」


140927_kawauti_2


 1955年のサイデンステッカー訳『蜻蛉日記』の翻訳態度に注目した発表でした。新出資料として小山敦子氏の『蜻蛉日記新釈』も回覧されました。
 →近年『蜻蛉日記』を翻訳されたトロント大学のソンジャ先生がこの集会に参加してくださいました。親しくお話を伺う中で、サイデンステッカーの訳は見なかったとのことでした。古典作品の翻訳を見直す際には、近代・現代文学を翻訳した時の経験も関係するようです。

140927_sonja


 
 
(4)ディスカッション(参加者全員)
 ディスカッションは、上記のような意見が活発に交わされました。
 さまざまな立場からの理解が示され、この質疑だけで十分に翻訳研究の魅力が伝わってきました。
 時間が足りない中を、どうにか次の発表につなげることとなりました。


140927_discaaston1


 
 続いて午後の部「漢字と仮名の表記情報学」は、今西科研(A)による研究発表会です。
 今西館長から、今西科研の趣旨説明がありました。


140927_imanisisetumei



 
 
(1) Torquil Duthie(カリフォルニア大学ロスアンゼルス校)
  「『万葉集』における書記の可能性」


140927_duthie


『万葉集』の書記法の意義と可能性と共に、平安時代の書き言葉としての畿内貴族の現地語の発明について発表されました。
 →戯書はなぞなぞあそびであり、漢字表記は思い出すための符号・記号だったとの意見が出ました。また、記紀歌謡は非常に変わった文字を使うようです。漢字で表記することの多彩な問題点が浮き彫りになりました。
 
 
(2)上野英子(実践女子大学)
  「『伊勢物語の歌絵』を通して見た伊勢物語諸伝本の漢字表記法」


140927_ueno


 『伊勢物語』の歌絵を通して、表記情報学の観点から表記のありようと問題点を発表されました。
 →実践女子大学本は、描かれる人物がおおいことについての質問について。嫁入り本だったので、きれいな女性を描くほうが見栄えがよくなることが考えられる、とのことでした。絵と詞の詳細な調査だったので、さまざまな質疑が交わされました。
 
 
(3)伊藤鉄也(国文学研究資料館)
  「『蜻蛉日記』の表記情報−傍記が本行本文に混入すること−」


140927_kagero


 『蜻蛉日記』において傍記が書写過程で本行に混入する現象を確認することで、異文を読み解くヒントを得ようとする発表でした。
 →「日記」の「記」は「起」ではなくて、やはり「記」ではないかとの異見がありました。また、傍記が混入したのか補入なのかについての疑義も出されました。さらなる用例の検討が必要です。
 
 
(4)海野圭介(国文学研究資料館)
  「漢字,かな,font:江戸時代の表記と書体」


140927_unno


 書体(フォント)から表記と書籍の内容との相関関係を考察した発表でした。多彩な用例が、問題の幅広さを示していました。
 →実践女子大学の下田歌子の短冊にも、有栖川御流のものと普通の仮名書きのものがあるそうです。今後の調査が楽しみです。また、歌舞伎台本と浄瑠璃台本の書体についてはさらなる調査をすることになりました。
 
 
(5)ディスカッション(参加者全員)
 前半と同じように、さまざまな意見が交わされました。
 若い大学院生からも積極的な質問が出され、活気溢れるやりとりが展開しました。
 後ろの壁掛け時計は、予定の5時をオーバーランしています。これからさらに、白熱の質疑応答が続きました。

140927_discaaston2



140927_discaaston3



 なお、今西科研の用語である【表記情報学】を英語で何と言えばいいのか、ということで、休憩時間に盛り上がりました。
 今回は、ジョシュア・モストウ先生の提案で「グラマトロジー」を使いました。しかし、トークィル・ダシー先生から、新たに「テキスチュアル・スクリプトロジー」という新語が提示されました。
 これらは、伊藤科研で取り組む「グロッサリー」の問題でもあり、私の方で検討を続けていくことにします。
 
 
 

続きを読む »

2014年9月22日 (月)

カナダのブリティッシュ・コロンビア大学で国際研究集会を開催します

 今週26日(金)に、カナダのバンクーバーで日本古典文学に関する国際研究集会を開催します。
 これは、今西祐一郎・国文学研究資料館館長の科研(A)と、伊藤鉄也の科研(A)が午前と午後に別れて共同開催するものです。

 会場となるブリティッシュ・コロンビア大学と国文学研究資料館は、今春、学術交流協定を締結しました。今回は、締結後最初の学術交流となります。

 今回のプログラムと、研究発表の要旨を以下に掲載します。

 なお、会場となるブリティッシュ・コロンビア大学のサイトからも、今回のイベントの告知がなされています。
 カナダなど海外のお知り合いの方に連絡を回していただけると幸いです。
 
「NIJL workshop conducted in Japanese」
 
 
 今回は、次のポスターを作成しました。
 これは、今西科研の阿部江美子研究員と、伊藤科研の淺川槙子研究員・加々良惠子補佐員がカナダと日本の秋をイメージした作品です。


140922_canadaflier



国際研究集会 in Canada
日本古典文学の可能性と異文化の交響
The Possibilities of Classical Japanese Literature and Cross-Cultural Harmonies
 
■日時:2014年9月26日(金)
    September 26, 2014
 
■会場:ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)
    Room 604, Asian Centre
 
■住所:1871 West Mall V6T 1Z2
 
○午前の部(10:00〜):「翻訳からみた平安文学」
     “Heian Literature as Seen in Translation”

  司会・伊藤鉄也(ITO Tetsuya/国文学研究資料館 教授)
 
開会の挨拶 Opening Remarks
  ジョシュア・モストウ
 (Joshua MOSTOW /ブリティッシュ・コロンビア大学 教授)
 
科研趣旨説明/伊藤鉄也(ITO Tetsuya/国文学研究資料館 教授)
 
ゲルガナ・イワノワ(Gergana IVANOVA/シンシナティ大学 准教授)
  「英訳された『枕草子』が作り出した大衆文化」
  “The Pillow Book in English Translation and Popular Culture ”
 
緑川眞知子(MIDORIKAWA Machiko /早稲田大学 非常勤講師)
  「小説として読まれた英訳源氏物語」
  “Reading Lady Murasaki's 'novel': the reception of Genji monogatari ”
 
川内有子(KAWAUCHI Yuko /立命館大学 大学院生)
  「1955年のサイデンステッカー訳蜻蛉日記について」
  “Concerning the 1955 Seidensticker Translation of Kagero nikki”
 
ディスカッション Discussion
 
 
○午後の部(14:00〜):「漢字と仮名の表記情報学」
     “The Grammatology of Kanji and Kana ”
 
  司会・海野圭介(UNNO Keisuke/国文学研究資料館 准教授)
 
科研趣旨説明 今西裕一郎(IMANISHI Yuichiro /国文学資料館 館長)
 
トークィル・ダシー(Torquil DUTHIE /カリフォルニア大学ロスアンゼルス校 准教授)
  「『万葉集』における書記の可能性」
  “Possibilities of Writing in the Man'yoshu”
 
上野英子(UENO Eiko /実践女子大学 教授)
  「『伊勢物語の歌絵』を通して見た伊勢物語諸伝本の漢字表記法」
  “Chinese Character Usage in Texts of The Ise Stories as seen through Ise monogatari Poem-Pictures ”
 
伊藤鉄也(ITO Tetsuya/国文学研究資料館 教授)
  「『蜻蛉日記』の表記情報-傍記が本行本文に混入すること-」
  “The Grammatology of Kagero nikki-Marginalia Incorporated into the Body of the Text- ”
 
海野圭介(UNNO Keisuke/国文学研究資料館 准教授)
  「漢字,かな,font:江戸時代の表記と書体」
  “Kanji, Kana, Font: Edo-Period Grammatology and Script ”
 
ディスカッション Discussion
 
閉会の挨拶 Closing Remarks
  今西裕一郎(IMANISHI Yuichiro /国文学資料館 館長)
 
 
科学研究費補助金基盤研究(A)「日本古典籍における【表記情報学】の基盤構築に関する研究」
(国文学研究資料館・22242010) 研究代表者 今西裕一郎

科学研究費補助金基盤研究(A)「海外における源氏物語を中心とした平安文学及び各国語翻訳に関する総合的調査研究」
(国文学研究資料館・25244012) 研究代表者 伊藤鉄也


 
----------------------------------------------------------------------------
 

〈 発表要旨 〉
 
【英訳された『枕草子』が作り出した大衆文化】
The Pillow Book in English Translation and Popular Culture

シンシナティ大学
ゲルガナ・イワノワ / Gergana IVANOVA

 日本では清少納言の『枕草子』は、『源氏物語』としばしば対立させられるが、常に脇役に徹してきた。しかし、日本国外では『枕草子』は非常に注目され、日本文学を代表する作品になり、小説、詩、映画などの幅広い文芸作品のきっかけになっている。これらの脚色は様々あり、日本をオリエンタリズム的観点から描くことから、日本文学・文芸への敬意を表すような扱い方までなされている。
 文学作品の評価は、その作品が国境を越えた場合どのように変わるのか。翻訳は、日本、日本文学、そして日本人のどのようなイメージを作り出すのか。平安文学は翻訳されることによって、何を得て、何を失うのか。本発表では、1928 年に出版されたアーサー・ウェイリーの『枕草子』の英語訳、1996 年に創作されたピーター・グリナウェイの『ザ・ピロー・ブック』という映画、そして2000 年から2012 年までの間に出版された歴史小説に焦点を置き、これらの問いについて考える。ウェイリーの英語訳が英語圏の大衆に対して、『枕草子』がエロチックな作品であり、清少納言が色好みの女性作家だという今に繋がるイメージの基礎を構築したことを明らかにする。
 
 
【小説として読まれた英訳『源氏物語』】
Reading Lady Murasaki's 'novel':the reception of Genji monogatari

早稲田大学
緑川眞知子 / MIDORIKAWA Machiko

 源氏物語には主要な英訳が5種類あるが、世界文学としての地位を確実なものにしたのは、モダニズム文芸運動などを背景として出版されたアーサー・ウェイリー訳の功績が大きかったといえよう。明治時代には源氏物語の英国人日本学者たちによる源氏物語評価は決して高いものではなかった。特にチェンバレンは『日本事物誌』第5版において、源氏物語をこき下ろしているが、最終版(第6版)『日本事物誌』において、その意見を180 度転換している。その理由としては、ウェイリー訳の影響が考えられる。当時の英国において、大きな関心を得たウェイリー訳は、英語圏においては、普通に小説として受け入れられていった。そのような英語圏読者の姿をまずは書評を見ることによって確認してみたい。また、それが新しいタイラー訳の出現で源氏物語受容においてどのような変化がもたらされたのかについても考察をめぐらしてみたい。
 
 
【1955 年のサイデンステッカー訳蜻蛉日記について】
Concerning the 1955 Seidensticker Translation of Kagerô nikki

立命館大学大学院 博士後期課程
川内有子 / KAWAUCHI Yuko

 『蜻蛉日記』には、現在までに主に4つの英訳が出版されている。本発表でとりあげるのは、1955 年に発表されたEdward G. Seidenticker による翻訳である。この翻訳は、Seidenticker にとって初めての日本文学作品の翻訳であり、『蜻蛉日記』にとっても、全篇が訳されるのはこの1955 年版が初めての機会であった。この翻訳は、1964 年にThe Gossamer Years と題する改訂版が出て以来、あまり読まれなくなった。しかし、Seidenticker の最初期の翻訳態度を知るためには、重要な資料の一つであると考えられる。
 1964 年版の改訂の際、Seidenticker は、誤訳を訂正し本文研究の進展を訳文に反映させ、原文に忠実に直したと説明している。1955 年版と1964 年版を比較してみると、確かに、誤訳を訂正したと思われる例や、1955 年版の発表以後に出版された新しい注釈書に従って改めたと思われる例が見られる。
 今回の発表では、『蜻蛉日記』を英語圏の読者へ分かりやすく紹介しようと目指したSeidenticker の翻訳態度を見ることができる箇所として、1964 年版では原文への忠実さのために改められた意訳部分に注目する。
 
 
【『万葉集』における書記の可能性】
Possibilities of Writing in the Man'yoshu

UCLA(カリフォルニア大学ロスアンゼルス校)
トークィル・ダシー / Torquil DUTHIE

 『万葉集』の歌の書記法は、大別して二種類がある。一字ずつ表音的に書くいわゆる〈音仮名主体〉と、主に表意的に書きながら、必要上その一部に表音的な書き方を交える、いわゆる〈訓字主体〉である。前者はもともと中国の漢文における発音を示す文字法で、後者は漢文訓読から展開された書記法である。従来、『万葉集』の多彩な書記法は日本語を書き写すための実験的な(または戯書的な)試みとして理解されてきた。しかし、最新の研究によれば、むしろ、『万葉集』の歌における漢字使用を通して、歌という特定のジャンルに限られた、書き言葉としての畿内貴族の現地語が初めて発明されたと思われる。本発表は『万葉集』の書記法の意義と可能性を概要的に説明すると同時に、平安時代の現地語の文学(=仮名文学)との繋がりにも少し触れていく。
 
 
【『伊勢物語の歌絵』を通して見た伊勢物語諸伝本の漢字表記法】
Chinese Character Usage in Texts of The Ise Stories
as seen through Ise monogatari Poem-Pictures

実践女子大学
上野英子 / UENO Eiko

 実践女子大学蔵『伊勢物語の歌絵』は伊勢物語のなかから6 段分の絵と本文を抄出した絵巻です。
 奥書に「居初氏女書画」とあるので、居初氏の娘が絵と詞を書写したことがわかります。石川透氏によれば、17世紀後半に絵師・書家・往来物作家として活躍した居初津奈だとしています(2009 年三弥井書店刊『奈良絵本・絵巻の展開』)。
 今回はこの『伊勢物語の歌絵』を取り上げて、【表記情報学】の観点から分析してみたいと思います。すなわち、膨大な伝本数を誇る伊勢物語ですが、そのなかから〈本文だけの写本群〉20 本、〈絵巻・絵本群〉16 本、〈近世絵入刊本群〉26 本を抽出し、『伊勢物語の歌絵』における漢字表記のありようと比較してみることにしました。それによってこの資料の【表記情報学】からみた位相が判明し、同時に各群における伊勢物語諸伝本の漢字表記の様相も伺うことができるだろうと思われます。
 これまで【表記情報学】では「和文脈系の写本は時代が下るほど漢字表記数が増加する」という特徴が指摘されてきました。それでは伊勢物語写本の場合もこの特徴が指摘できるのか、絵の入った作品の場合はどうなのか、またこれまで【表記情報学】では写本のみを対象としてきましたが、版本の場合はどうなのかといった問題にも迫っていこうと思います。
 
 
【『蜻蛉日記』の表記情報─傍記が本行本文に混入すること─】
The Grammatology of Kagerô nikki
―Marginalia Incorporated into the Body of the Text―

国文学研究資料館
伊藤鉄也 / ITO Tetsuya

 今春、国文学研究資料館蔵の『鵜飼文庫 蜻蛉日記 阿波国文庫本』(国文学研究資料館影印叢書5、勉誠出版、2014.3)が刊行された。これまでは、宮内庁書陵部蔵桂宮本を底本にして『蜻蛉日記』が読まれてきた。『蜻蛉日記』の本文は推測本文に頼るしかない現状の中で、阿波国文庫本はそれに次ぐ重要な写本であった。その本文が鮮明な影印で容易に確認できる研究環境が提供されたことは、『蜻蛉日記』の本文を考える上で意義深いものと言える。
 これまでに私は、『源氏物語』と『和泉式部日記』において、傍記された語句が書写伝流の途上で本行に混入していく実態を確認してきた。傍記が当該語句の前に混入するか後に混入するかという傾向を明らかにすることで、異文が発生する事情の一端が明らかになってきた。
 この、傍記が本行の本文に混入する書写傾向の現象が、『蜻蛉日記』にも確認できる。その傍記混入の実態を踏まえて、これまで推測本文によって読まれてきた『蜻蛉日記』の本文について、あらためて考えてみたい。書写状況を知る手がかりの一つから、『蜻蛉日記』の不可解な異文を読み解くヒントが得られると思うからである。
 
 
【漢字,かな,font:江戸時代の表記と書体】
Kanji, Kana, Font: Edo-Period Grammatology and Script

国文学研究資料館
海野圭介 / UNNO Keisuke

 漢字、ひらがな、カタカナを交ぜ書き表記する日本語の表記方法のなかには、その表記法それ自体が記される書籍の内容と関わりを持つ例が認められる。漢字やカタカナで書かれた書籍は内容も固く、ひらかなで書かれた書籍は、内容的にはやや娯楽に傾く性格を示し、享受層の面では成人男子というよりは婦女子を対象とする傾向があるとされている。こうした表記と書籍の内容との相関関係について、本報告では書体(font)という視点からも考えてみることとしたい。
 中国より伝わった五種の書体(篆書(てんしょ)・隷書(れいしょ)・草書(そうしょ)・行書(ぎょうしょ)・楷書(かいしょ))のうち、前近代の多くの書物や文書に用いられた行書体(ぎょうしょたい)には、多くの固有の書体(font)が考案され、またそれが学習されて伝承されていった。近世日本において一般に普及したのは、「御家流」と呼ばれる書体であり、寺子屋などの庶民教育機関で教授され、小さな村に残された公文書にまで確認されるほど広く浸透した。また、一方で上層階級には、持明院家(じみょういんけ)(流(りゅう))などの入木道(じゅぼくどう)の家が伝える書体が浸透していった。江戸期の日本においては、階層、性別、職業などの執筆者の社会的属性と書物の内容によって様々な書体が行われた。いわば、書体(font)にも身分があったといえる。本報告では、江戸時代の書物の構成要素としての書体の問題につき、具体的資料を挙げつつ、その検討課題の所在について報告を行いたい。


 
 
 

2014年9月 3日 (水)

読書雑記(107)中津文彦『つるべ心中の怪 塙保己一推理帖』

 中津文彦『つるべ心中の怪 塙保己一推理帖』(光文社、2008.1)を読みました。


140902_tsurube


 本作は、同書名で光文社時代小説文庫(2010年10月)としても刊行されています。
 塙保己一推理帖シリーズの第三弾です。ただし、本作がシリーズ最終巻となっています。

 「あとがき」には、次のようにあります。


 ──というわけで、保己一にはこの後もなお波瀾に富んだ生涯が待っているのだが、このシリーズはひとまずこの巻で筆をおきたい。保己一の人物像やその足跡のあらましをより広く知ってもらいたい、という願いはほぼ果たせたと思えるからだ。
 もちろん、この続編を再びお届けする機会はまたやってくるかもしれない。(中略)
       二〇〇八年初春 著者  (322~323頁)

 本シリーズの全3冊を読むと、塙保己一と『群書類従』をテーマとしては、これ以上は展開させようがないことがわかります。そのせいもあってか、本書の第3話の終わり方は非常に中途半端なものとなっています。なによりも、保己一は推理をしなくなります。
 
 中津文彦の突然の死が齎されたのは2012年4月24日でした。肝不全によるもので70歳でした。
 今、中津氏の病歴がわかりません。この塙保己一推理帖シリーズが突然中断したと思われることと、中津氏の体調のことに何か関係があったのではないかと、個人的には思っています。
 
 
■「第一話 つるべ心中の怪」

 大田南畝が、保己一の跡目を継ぐと思われている金十郎に、次のように諭す場面があります。


「そんな顔をするな。これは、ただの座興や遊びではないのだよ。訝しいと思ったことは、決してそのままに放っておいてはいかんのだ。それが、古文書やさまざまな家記を読み解いていく上でも、最も大事なことだろうが」(49頁)

 『群書類従』の刊行を進める保己一の温古堂における、古典籍に対する心構えがわかることばです。疑問があれば何事も放置しない、という学問的な姿勢が、事件に首を突っ込む保己一の根源にあると言うのです。納得です。
 それに対して、情報が隠される当時の社会的な仕組みが語られていることにも、興味深いものがあります。業界の事情が事件を隠すのです。そこを明らかにする保己一の指示は鮮やかです。【3】
 
 
■「第二話 赤とんぼ北の空」
 江戸の狂歌師として知られた大田南畝の素顔が語られます。これまでにも保己一の推理の相手をしてきた南畝の私的な生活が、詳しくおもしろく描かれています。
 保己一の養子となった金十郎と友の話は、まとまりがよくないので退屈でした。それがガンという病だということで、情に訴える話となります。しかし、保己一の出番はなく、本書のありようが薄れたままで本話は終わります。【1】
 
 
■「第三話 夏の宵、砕け星」
 第二話を受けて、ガンという病に翻弄される友のことが語られます。
 『群書類従』に収録する写本の書写から刊行にまつわる話は、その描写が具体的であるだけに、保己一の苦心がよくわかる逸話となっています。
 やがて、人殺しの後、医学書に火を着けて逃げるという事件が、おもしろく展開します。『本草和名』という貴重な本が、本話の舞台回しとなっています。本をめぐるミステリー仕立てです。
 ただし、推理らしい推理はなく、保己一の出番もありません。すーっと消えるように話が収束します。そのあっけなさに、多くの読者が、これは一体どうしたのだろう、と思うことでしょう。【1】
 
 
 前2作の「塙保己一推理帖」については、以下の記事をご笑覧ください。
 
「読書雑記(104)中津文彦『塙保己一推理帖 観音参りの女』」(2014年07月16日)
 
「読書雑記(106)中津文彦『塙保己一推理帖 枕絵の陥し穴』」(2014年08月29日)
 
 
 

続きを読む »

2014年8月29日 (金)

読書雑記(106)中津文彦『塙保己一推理帖 枕絵の陥し穴』

 中津文彦の『塙保己一推理帖 枕絵の陥し穴』(光文社時代小説文庫、2010年1月)を読みました。
 これは、『移り香の秘密 ー 塙保己一推理帖』(光文社、2006年3月)を改題したものです。

 〈塙保己一推理帖シリーズ〉としては、「読書雑記(104)中津文彦『塙保己一推理帖 観音参りの女』」(2014年07月16日)に次ぐ、第2作目です。なお、第1作の『塙保己一推理帖 観音参りの女』(カッパ・ノベルス、2002年8月)は、『亥ノ子の誘拐 ー 塙保己一推理帖』(光文社時代小説文庫、2009年12月)と改題して刊行されています。
 

140722_makurae


  ■「移り香の秘密」  江戸の大相撲に関して、雷電をめぐる話が展開します。松江藩主松平不昧公のお抱え力士だったのです。  殺されて川に投げられた娘の話は、その事情説明がくどくて、読んでいる途中で飽きてしまいました。話の聞き役が太田南畝という粋人だということに起因するのでしょうか? あるいは、南畝という描かれる人間が持つ魅力だけで語ろうとするせいでしょうか。話の力点が崩れているように思いました。  話の中に、宿舎がある越中島が出てくるので、物語の舞台となる情景に感情移入してしまいます。自分が知っている場所が出てくると、つい身を入れて読み進みます。黒船橋や深川仲町が出ると、身近な今の話のように思うから不思議です。  本話は盛り上がりません。お香がポイントです。しかし、話題に興味を持っても、そこに鋭い切れは感じられませんでした。【2】  


■「三番富の悲劇」
 江戸時代の旅の仕方やお金の価値など、知識編とでも言うべき章になっています。
 伊能忠敬の話が突然出てきました。深川の富岡八幡宮に伊能忠敬の記念碑があるので、物語られる地域に縁の深い人です。しかし、ここまでに話題となった孝行息子の卯吉が磔になったことと、なかなか結びつきません。
 卯吉が父親のことを調べるために伊勢に行ったことが、物語の背景で謎をさらに脹らませます。うまい構成です。ただし、余分な話があまりにも多すぎます。
 主人公である保己一に謎解きをさせないこの終わり方も、それはそれで秀一だと思います。【3】
 

■「枕絵の陥し穴」
 闇夜に展開する人殺しの様が、音だけの世界としてリアルに描き出されます。うまい語り始めです。
 下手人は、温古堂で版木を刻む彫り師の1人です。殺されたのは、地本問屋の夫婦。娘だけは一命を取り留めました。俄然おもしろくなります。
 この時は享和三年。西暦1803年。オランダから西暦が伝わった頃です。そしてこの頃は、多色刷りの木版技術が発達し、色鮮やかな錦絵が広まったのです。枕絵を裏で販売する地本問屋が大儲けをしていたのです。
 浮世絵の話になると、私も知っている名前のオンパレードとなり、楽しくなりました。
 鳥居長清、鈴木春信、喜多川歌麿、蔦屋重三郎、東洲斎写楽、などなど。
 物語は意外な展開をたどります。犯人はすぐにわかります。しかし、そうであっても、うまく話ができていて楽しめました。
 もう一つ、保己一の妻となった三人の女性のありようも、おもしろく点描されています。著者会心の作と言えるでしょう。【5】


2014年8月18日 (月)

科研の合同研究会で『蜻蛉日記』の発表をする

 朝一番の新幹線で上京しました。

 何かと段取りが悪くて、今日の研究会で私が発表する資料も、シートに蹲りながら、パソコンを駆使して全体の体裁を仕上げる始末でした。

 できあがったレジメを、準備に抜かりのないプロジェクト研究員の阿部さんと淺川さんに、メールに添付して送信ボタンを押しました。ちょうど、新幹線から乗り継いだ中央線の電車が、新宿駅を出た頃でした。研究会開始の3時間前です。いつもギリギリで、申し訳ないことです。

 東京は京都に比べて、風が涼しく感じられました。
 湿度が関西よりも低いからでしょうか。

 今日の研究会は、今西館長の科研のメンバーと私の科研のメンバーが一緒に討議をする形式となっています。初めての顔合わせ、というメンバーもいます。それだけに、質疑応答も活発におこなわれました。また、参加者もいつもの倍に近い人数でした。


140818_kaken1



140818_kaken3


 今回の私の発表は、乱れている『蜻蛉日記』の本文を大掃除することです。
 『蜻蛉日記』は、いい本文に恵まれていません。残されている写本の紙面には、書かれたままの文字を見つめていても、どうしても読解できない意味不明な語句が散見します。

 そこで、以下の要旨のもとに具体例をあげながら、その乱れた本文の読解に対処するための方策を報告しました。
 そして、傍記混入という視点から、私なりの解釈も提案しました。


 『蜻蛉日記』の本文は、江戸時代以降のものしか確認できない。また、本文も乱れたままで伝流している。ここでは、重複して字句や語句が書写されている箇所を中心にして、その本文異同の発生が傍記混入に起因するものであることを確認する。傍記が本行に混入したために解釈できない異文となっていることを確認し、次の本文解釈のための段階への踏み台としたい。

 今回は、『蜻蛉日記』における傍記混入の私見を初めて公表するものです。そのためもあり、検討対象となるすべての用例を資料としてあげました。A4版10枚ものレジメとなりました。
 この資料の中から、今度の国際集会で紹介するのに相応しい用例を数例に絞り込んだ上で、本番のカナダ発表に臨みたいと思います。

 場所が海外なので、参加者は現地の先生や学生さんです。難しいことばや、ややこしい問題は伝えるのが大変です。わかりやすい発表にしなければなりません。あと1ヶ月のうちに、今日の発表内容を練り直し、もっとシンプルな内容でありながら、今後の研究に役立つ成果を盛り込むことにします。

 もっとも、この最後の詰めに手間と時間がかかるものです。
 来月の海外での国際集会が意義深いものとなるように、その前提となる一つ一つの発表の内容や構成についても、もっとよくするために、みんなで検討を加えて行くことにします。
 
 
 

2014年8月14日 (木)

オンライン版『海外平安文学研究ジャーナル』の原稿募集

 昨今、日本文学は「日本国内の文学」にとどまらず、「世界の中の文学」として位置づけられる時代となりました。世界中の人々と共に日本文学について考えていくために、現在私が取り組んでいる科研では鋭意情報を収集整理し、その成果は科研のホームページを通して発信し、頻繁に更新しているところです。

 そのような中で、このたび、オンライン版の『海外平安文学研究ジャーナル』を創刊することとなりました。すでにISSN番号(仮2188-8035)を取得し、公開の準備は整いました。ISSN番号とは、「International Standard Serial Number」(国際標準逐次刊行物番号)の略号で、日本では国立国会図書館が番号の登録や管理を行っているものです。

 このオンラインジャーナルでは、平安文学を中心にした以下の内容を掲載します。


〔1〕研究論文
〔2〕小研究(note)
〔3〕研究余滴(column)
〔4〕翻訳実践

 海外で平安文学を研究する方々は、どのような背景や環境のもとに日本文学の研究や翻訳をして来られたのでしょうか。そうした問題意識を持ちながら、翻訳を含めた多言語に対応した平安文学研究の意義や成果等を、世界各国の人々と一緒に考えていきたいと思います。

 発信母体は、科研のホームページ「海外源氏情報」(http://genjiito.org)です。

 こうした企画の趣旨をご理解いただき、下記の原稿募集要項に則った投稿でお力添えくださいますよう、この場を借りてお願いする次第です。

〔付記〕 応募される方は、次の要綱を確認の上、氏名・所属・仮題・簡単な原稿内容・パソコンのメールアドレス等を明記して、8月末日までに予め執筆意向の連絡を【itokaken@gmail.com】まで送付してください。
 
 

140814_khbkj_2



 
 
 

2014年8月11日 (月)

国文研で2つの科研の合同研究会を開催します

 台風一過、残暑厳しき日々を覚悟のお盆明けとなりそうです。
 そのような中ではありますが、8月18日(月)の午後から、国文学研究資料館で今西科研(A)と伊藤科研(A)の合同研究会を開催します。

 これは、9月下旬にカナダのブリティッシュ・コロンビア大学で国際日本文学研究集会を開催するにあたり、日本側から参加する者が中心となって模擬発表を行うものです。海外の方々にわかりやすい発表をすることを目標として、みんなで意見交換をすることになります。

 後掲の研究テーマに興味と関心をお持ちの方は、科研のメンバー以外の方でも構いませんのでお気軽にご参加ください。資料の準備の都合がありますので、予め連絡をお願いいたします。

 なお、今西科研と伊藤科研のテーマは、以下の通りとなっています。


【今西科研】
「日本古典籍における【表記情報学】の基盤構築に関する研究」
 
【伊藤科研】
「海外における源氏物語を中心とした平安文学及び各国語翻訳に関する総合的調査研究」

==========
 
■日時:2014年8月18日(月)13:30〜18:30
■場所:国文学研究資料館 第1会議室(2F)
■第1部:「漢字と仮名の表記情報学」
13:30 ご挨拶、今西科研 科研趣旨説明(今西祐一郎)
13:40 発表及び質疑応答 海野圭介
    「書の秘伝:入木道伝書に見る文字表記の理念」
14:20 発表及び質疑応答 伊藤鉄也
    「『蜻蛉日記』の表記情報」
15:00 休憩
15:20 発表及び質疑応答 上野英子
    「伊勢物語と【表記情報学】―「伊勢物語歌絵」を軸に―」
 
■第2部:「翻訳からみた平安文学」
16:00 伊藤科研 科研趣旨説明(伊藤鉄也)
16:10 発表及び質疑応答 川内有子
    「1955年のサイデンステッカー訳蜻蛉日記について」
16:50 休憩
17:10 発表及び質疑応答 緑川眞知子
    「小説として読まれた英訳源氏物語」
17:50 連絡・報告
18:00 終了・その後、立川駅前で懇親会
 
==========
 
 
 

2014年7月16日 (水)

読書雑記(104)中津文彦『塙保己一推理帖 観音参りの女』

 江戸川乱歩賞作家の中津文彦氏が70歳でお亡くなりになったのは、2012年4月24日でした。
 中津氏の作品では、以下の推理物を本ブログの読書雑記で取り上げる予定でした。
 その機会を逸したままだったので、これから順次とりあげます。


(1)『塙保己一推理帖 観音参りの女』
(2)『移り香の秘密 塙保己一推理帖』
(3)『つるべ心中の怪 塙保己一推理帖』
(4)『千利休殺人事件』

 まずは、『書下ろし連作時代小説 塙保己一推理帖 観音参りの女』(2002年8月、光文社。、カッパ・ノベルス)からです。

140715_hokiichi


■「観音参りの女」
 手際よく、同郷で幼馴染みの保己一と善右衛門のことが紹介されます。
 折しも近所で火事があり、後妻と子供が焼死しました。その状況に疑問を持った保己一は、ことの真相に挑みます。
 江戸市中の組織のことが克明に描かれており、松平定信が『群書類従』を支援したことも、丁寧に語られます。『群書類従』の校訂事業の中で保己一の女性とのことも、しっかりと書いてありました。よく目の行き届いた物語です。
 『群書類従』刊行のありようが、詳細に語られていて、集書と出版に対する意識が高まります。
 後半で、深川が舞台として出てきました。本書を読むのは2度目です。前回は横浜の宿舎にいた頃に読みました。今回は、江戸深川に宿舎を移してから読んだこともあり、住まいの周辺が物語展開の中で出て来ると、イメージが具体的になっておもしろさが格段にあがりました。物語られる舞台に住んでいるとか、あるいは知っているということは、物語を理解する上では大きな影響力があるようです。
 謎解きは、保己一の嗅覚が大事な役割を持っていました。ただし、母親の子への想いに関して、中途半端なままで描ききれなかったように思えます。表題も生きていないようです。【2】
 
 
■「五月雨の香り」
 聖徳太子の十七条憲法が『群書類従』の雑部に入っていることの説明について、興味深く読みました。第2条の「篤く三宝を敬え」とは、実は「三法」のことで、神・儒・仏のことではないかと。その疑念が残るので、律令の部ではなくて雑部に分類しておくのだ、というのです。資料に対する見識の問題です。
 また、お香の話は、最近興味を持っていることなので、おもしろく読みました。推理に関して、話は次第に高まります。いいラストシーンでした。盲目の女性が上手く描かれています。【4】
 
 
■「亥ノ子の誘拐」
 江戸時代の寛政期の市井が、裏面史も含めて活写されています。特に、出版界の事情は、『群書類従』の話にも関連するので、おもしろく読めました。また、学者保己一の話も、よくわかりました。興味深い話に仕上がっています。
 ただし、謎解きのキレが悪くて、説明口調になってしまったのが残念でした。【2】
 
 
 巻末に掲載されていた、EYEマークに注目しました。
 こうしたことは、初めて知ったからです。

「EYEマーク」&「許諾文」

この本をそのまま読むことが困難な方のために、
営利を目的とする場合を除き、「録音図書」「点
字図書」「拡大写本」等の製作をすることを認め
ます。製作の後は出版社まで、ご連絡ください。

140717_eye_mark


2014年6月23日 (月)

今西科研の第1回研究会とホームページ公開のこと

 今日は午後から、今西館長科研の平成26年度第1回目の研究会がありました。
 いつものように、【表記情報学】に関する活発な意見交換がなされました。

 トップバッターは、九州から来ていただいた沼尻利通氏(福岡教育大学)の発表です。
■「「篝火」巻の使用文字・使用字母の検討」
 「篝火」巻の文字使用傾向について、江戸時代の版本の表記を中心にしての発表でした。これまでの成果の蓄積がその背景にあるので、いろいろなことを考えさせてもらいました。特に、表記を考える上で大事な、字母レベルに立ち戻っての漢字か仮名という認定については、今後とも幅広い共通理解が必要であることを痛感しました。

坂本信道 氏(京都女子大学)
■「漢字片仮名本の土佐日記の登場と貫之評価」
 江戸時代の『土左日記』の中でも、漢字カタカナ混じり本の用例を示しながらの発表でした。この本が、どういう人たちに読まれたのか、という点に興味を持ってうかがいました。平仮名ではなくて、カタカナで書かれているという点が、今後につながる問題点を提起していました。

上野英子 氏(実践女子大学)
■「【表記情報学】で『覚勝院抄』を読み解いたら……」
 『覚勝院抄』の物語本文は三条西本に近い、という結論は納得できました。まとめにあたり、定家本「柏木」巻は漢字使用率が高いところから、定家がカナを漢字に改めながら書写していたのではないか、という結論も興味深いものでした。これは、今後とも定家が写した『源氏物語』の写本を考える時の、大事な判断基準の1つになります。

 最後は、阿部江美子氏(国文学研究資料館研究員)の「「明融本」源氏物語の漢字・かな使用率について」でした。
 これは、現在進んでいる明融本(実践女子大学蔵)の翻字作業に関する途中経過報告です。十数帖の報告でした。しかし、今後が楽しみです。一揃いの写本の漢字・かなの使用率は、貴重な情報提供となるはずです。

 なお、この今西館長科研のホームページが公開されました。
 以下のアドレスからご覧になれます。

 「日本古典籍における【表記情報学】の基盤構築に関する研究」(研究代表者:今西祐一郎)

 次回は、8月下旬を予定しています。
 決まり次第、またお知らせいたします。
 
 
 

2014年6月14日 (土)

江戸漫歩(81)畠山記念館で鎌倉期の『今鏡』を見る

 畠山記念館は、明治学院大学に近い白金台にある美術館です。
 都営浅草線「高輪台」駅から徒歩5分です。
 敷地内には、いくつかのお茶室があります。
 実業家畠山一清(茶人即翁)が収集した茶道具を中心にした古美術品は、2階の展示室で見られます。

 これまで畠山記念館へ行ったことは、次の2つの記事で取り上げていました。

「江戸漫歩(66)畠山記念館で即翁の朝茶事展」(2013年09月07日)

「江戸漫歩(71)畠山記念館の利休展」(2014年01月25日)

 今回の平成26年春季展「開館50周年記念 茶道美術の玉手箱─畠山記念館名品展─」の会期は、明日15日(日)までとなっています。
 最終日の前日となり、ご紹介するのが遅れました。都心で目を楽しませてもらえ、贅沢な時間が過ごせるところとして報告します。


140614_hatakeyama1


140614_hatakeyama2


 多くの名品と言われる茶道具を堪能しました。
 また、書画も貴重なものが見られました。

 その中でも、重要文化財に指定されている鎌倉時代書写の『今鏡(23帖)』は、今回の展示品の中でも私がもっとも時間をかけて拝見したものです。
 桝形本で、9行書きのゆったりとした書写でした。

 写本の画像は、以下のアドレスで確認できます。
http://franchise-ken.sakura.ne.jp/sblo_files/kurokawatakao-beauty/image/img520.jpg

 第1帖が室町時代初期の補写とのことです。全帖を確認していないので詳細はわかりません。機会があれば、ガラス越しではなくて、ぜひ直接拝見したいものです。

 最近は、鎌倉時代の古写本を積極的に見ることで、日本の古典文学の雰囲気を体感として味わうように心がけています。
 今から800年以上も前の本が確認できて、さらには読めるのですから、文化的に豊かで恵まれた国にいることを誇りに思っています。
 
 
 

2014年6月13日 (金)

今西科研の第1回研究会のご案内

 2014年度の今西科研「第1回研究会」が、下記の内容で開催されます。
 春の学会シーズンも一段落した中で、【表記情報学】に関する本年度の第1回目となる研究会です。
 この科研は、本年度が最終年度の5年目となります。

 9月には、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学で、国際研究集会を開催することになっています。これは、伊藤の科研と共同開催の形をとることで、準備を進めているところです。

 今回の第1回研究会は、外部より研究発表者をお呼びしての研究会です。

 この研究会に参加を希望される方がいらっしゃいましたら、資料等の用意がありますので、本ブログのコメント欄を使ってお知らせください。
 


--------------------------------------
平成26年度 今西科研 第1回研究会
[日本古典籍における【表記情報学】の基盤構築に関する研究]
 研究代表者:今西祐一郎(国文学研究資料館・館長)

日時:平成26年6月23日(月)
場所:国文学研究資料館 第1会議室(2階)
内容:
15:00 今西祐一郎館長ご挨拶
15:05 沼尻利通 氏
    「「篝火」巻の使用文字・使用字母の検討」
15:40 坂本信道 氏
    「漢字片仮名本の土佐日記の登場と貫之評価」
16:15 休憩
16:45 上野英子 氏
    「【表記情報学】で『覚勝院抄』を読み解いたら……」
17:20 阿部江美子 研究員
    「「明融本」源氏物語の漢字・かな使用率について」
17:40 連絡
18:00 終了
--------------------------------------


 
 
 

2014年6月 7日 (土)

立教大学での中古文学会 -2014 春-

 春の中古文学会は、立教大学新座キャンパスで開催されました。


140607_rikkyo1



 早く着いたために校舎をウロウロしていたら、秋山虔先生が休憩室にいらっしゃることがわかりました。早速、昨日できたばかりの『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「蜻蛉」』(新典社)を直接お渡しし、ご挨拶をしました。
 秋山先生は、お心の籠もった労いのことばと、『源氏物語』の本文資料の整理という仕事のことを含めて、励ましてくださいました。誰もしない地道な仕事だけれど、これまで通りずっと続けるようにとの、温かいことばをいただき感激しました。確かに、私がやっていることは、写本を読んで文字としてパソコンに入力するという、だれにでもできる単純な仕事です。しかし、秋山先生はそれを何十年も続けている意味を、よく理解してくださっています。何度も、長文の励ましのお手紙をいただき、勇気づけられてはまた写本に取り組む、という繰り返しです。
 秋山先生は、私のような情報整理屋をも、元気づけてくださる先生なのです。

 今年の中古文学会では、フリースペースという場所が新たに提供されました。代表委員の阿部好臣先生の発案だということです。これは、素晴らしいことです。

 次の3つのスペースを、それぞれの担当者に申請してもらい、テーブルをお借りすることができました。


(1)今西科研の広報
(2)伊藤科研の広報
(3)NPO法人〈源氏物語電子資料館〉の広報

140607_freeppace1


 ただし、科研とNPOが公私混同のように誤解されることを避けるために、(1)と(2)は1つのテーブルで、NPOは少し離れた場所にパンフレットや資料を並べました。

 日頃の研究に関連した情報を広く知っていただくための研究者コミュニティーの提供は、今後とも継続していただきたいと思います。学会だからこそできるプレゼンテーションもあります。特に若い方々は、こうした機会を有効に活用されたらいいと思います。

 このフリースペースの場所が、学会会場の1つ上の階なので、訪れてくださる方はほんの少数だったのは残念でした。すばらしい取り組みなので、ぜひとももっと参加者に宣伝していただきたいと思っています。

 2日目の明日8日(日)も、フリースペースが開催されます。
 科研のスペースでは、送付用のタックシールを用意しています。そのシールに住所を書いていただけましたら、私の科研の報告書である『日本古典文学翻訳事典1〈英語改訂編〉』や、今西科研のDVD付きの報告書を、後日お送りいたします。公費による非売品なので費用の負担をしていただくことはありません。
 この機会に、ぜひともお手元に置かれてはいかがでしょうか。何かとお役にたつ資料集になっていると思います。
 今日は、20数人の方が申し込んでくださいました。
 明日の2日目もフリースペースにいますので、ぜひとも足を運んでいただき、送付先を書いていただきたいと思います。

 また、NPOについては、案内のリーフレットと、先般発行したニューズレターの第1号を置いていますので、どうぞご自由にお持ち帰りください。。
 この印刷物が、NPO法人〈源氏物語電子資料館〉の活動を理解していただく一助にでもなれば幸いです。


140607_freeppace2



 さて、学会のプログラムとしては、本日はミニシンポジウムが2つありました。

 最初は、「定家本・青表紙本『源氏物語』とは、そもそも何か?」というテーマのミニシンポジウムでした。
 『源氏物語』の本文に関する情報整理をしている者として、期待してうかがいました。
 提言者の久保木秀夫氏が、宮内庁所蔵の三条西家本を再評価をしておられたことが新鮮な成果でした。
 しかし、そのこと以外では関係者には本当に申し訳ないのですが、非常に退屈でした。主催者とパネリストの方々の準備段階からのご苦労には敬意を表します。しかし、内容が思うように展開しなかったように思います。

 私個人としては、「青表紙本」という手垢と黴臭ささにまみれた用語をあえて前面に出されたことに、さらなる新提言や進歩を期待しました。しかし、「青表紙本」という池田亀鑑が広めた用語を、そのまま埋め戻すだけの世間話に終始しました。これでは、若者を〈本文研究〉から遠ざけてしまいます。

 会場では、私の横に岡嶌偉久子さん、その横に藤本孝一先生がおられました。終わってから、お互いに『源氏物語』の本文に関わる研究仲間として、この件で話をしようと思って、近くに席を取って聞いていました。しかし、無言で溜息だけを残して会場を去らざるをえなかったのです。久し振りに会ったのに、お互いにこのシンポジウムのことは何も語らないままに別れることになったのは、返す返すも残念なことでした。

 2つ目の「中古文学会で、中世王朝物語を考える」は、新たな刺激を受けました。日頃はあまり馴染んでいない作品群が話題となりました。短時間にもかかわらず、わかりやすい話でした。
 ただし、共同討議になると、交わされる内容や専門用語が途端にわからなくなったので、後半は苦痛の時間でした。

 ご専門の方々には失礼な物言いでしたら、専門外で勉強不足の身ということで、ご寛恕を願います。年をとったために、若者の話が理解できなくなった、ということにしてください。

 明日は、研究発表があります。
 また、会場の上の階でフリースペースを担当もしています。
 今日も、多くの若い方々とお話をすることができました。
 明日もまた、この学会が新しい出会いの場となることを、楽しみにしています。
 
 

2014年6月 5日 (木)

目の不自由な方と写本を読むために(2)

(承前)
 東京都人権プラザ(台東区橋場1丁目)で開かれている、企画展「読む権利」に行ってきました(入場無料、7月27日まで)。


140604_jinken1


 これは、視覚障害者を支える〈読むためのグッズ〉を、実際に触って体感できる紹介展示でした。私にとっては、初めて見たり触ったりするものです。いろいろと工夫を凝らした〈読むためのグッズ〉としての本や機器を、実際に触ることができました。目の不自由な方が本をどうやって読んでおられるのかを知るのに、いい機会であり、いい勉強になりました。


140604_tenji1


 日本は、本年2014年1月に、障害者の社会参加を促す「障害者権利条約」に批准したそうです。まだ私は不勉強なので、その詳細は語れません。しかし、「障害者の表現の自由、知る権利、平等にサービスを受ける権利」(第21条)は容易に理解できます。

 全国の視覚障害者は推計31万6千人(厚生労働省2011年の調査)。東京都では、約3万9千人(2014年2月現在)の視覚障害者が都内で暮らしておられるそうです。
 こうした状況を知るにつけ、自由に文字が読み書きできる環境作りに、今私の意識はしだいに傾斜していきます。

 今回の展示で、私が一番注意を惹いたのは「触図」です。点字で著された文字による図書だけでなく、凹凸や半立体化によって情報を伝えるものです。
 中でも、絵画を鑑賞する本に注目しました。絵画を立体的に浮き上がらせてあり、触って作品の形状を感じられるようになっているのです。

 例えば、イタリアの画家サンドロ・ボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」は、こんな感じで浮き出しています。


140605_tenji3


 『京都 ─指で読む旅行案内─』という本から、下鴨神社周辺の地図を立体図にしたものを拡大すると、こんな感じになっています。Y字型の少し上の◎印が下鴨神社です。


140605_tenji4


 これだと、確かに触ることで図像が鮮明にイメージできそうです。これなら、知りたい建物や道が、どんな場所に、どの位置にあるのかが、触感でわかります。

 漢字についても、その形を触ることで学べる小学生向けの教材がありました。説明パネルには「紫外線硬化樹脂インク(UV樹脂)によって墨字の漢字を凸点で表現しています。」と書いてあります。


140605_tenji5


 もちろん、触る絵本もありました。わが家でも子どもたちが大好きだった「ノンタン」シリーズは、点字で言葉が読める上に、絵も少しですが浮き上がるような透明フイルムが貼ってありました。


140605_tenji6


 そういえば、先月下旬に姪の家に行った時、姪の娘がキティちゃんが印刷されたシートに、いろいろなパーツを剥がして貼って遊んでいました。そのパーツを見ていて、変体仮名もこうした仮名文字のパーツを作って並べたものを考えれば解決するのでは、と思いました。


140605_kity



 今回も、企画展で展示物を見ながら、変体仮名で書かれた古写本を読むためのヒントを、たくさんいただきました。

 特に、版本が2冊置いてあったことは、いい刺激となりました。


140605_tenji7



 これは、印刷された文字の大きさを比べるために展示されているものでした。しかし、私には、目の不自由な人が縦書きの文字をどうして読んでいるのだろう、という素朴な疑問に立ち向かわせることになったのです。

 今から30年前、コンピュータが出始めの頃に、文字をモニタに縦に表示したり、縦書きで印刷することに多大なエネルギー割きました。縦書きにどう対応するかは、すでに経験済みであり、何とか対処できました。
 この、縦書きと横書きの問題は、次の記事を参照願います。

「【復元】縦書き & 横書き」(2010/4/21)

 この点字や触図と縦書きの表記の問題は、今どのようになっているのか、これから調査します。

 一通り展示を拝見してから、この企画を担当なさった都人権啓発センターの林勝一さんに、疑問に思っていることを率直にお尋ねしました。


(1)古写本の変体仮名を視覚障害の方が読む方法
(2)点字では縦書きの表記表現ができるのか
(3)視覚障害の方が縦書きの文字を読むための方策

 林さんによると、縦書きのことは考えても見なかった、とのことでした。
 また、古写本を読むことなどは、立体プリンタがあるので、墨で書かれた変体仮名を指でなぞることは可能だが、果たしてそれが現実的にどうなのかは実際にはよくわからない、とのことでした。
 そして、今回の企画展でお世話になったという、日本点字図書館(新宿区高田馬場)の用具事業課の澤村さんに、すぐ電話をしてくださいました。私の質問を伝えてくださり、調べるのにしばらく時間がほしいので、二三日後に電話をしてほしい、とのことでした。

 親切に対応していただいた林さんと澤村さん、お忙しいところを本当にありがとうございました。
 今後ともよろしくお願いします。

 また、こうしたことについて、ご教示いただける方がおられましたら、お知恵をお貸し願いたいところです。
 知らないことは恥ずかしくない、ということを強みに、とにかく前を向いて突き進んでいきたいと思っています。
 
 
 

2014年6月 4日 (水)

目の不自由な方と写本を読むために(1)

 昨夏、塙保己一史料館・温故学会の斎藤幸一理事長から、本年平成26年のこどもの日に開催される記念大会で何か話をしてもらえないか、という依頼をいただきお引き受けしました。
 この日のことは、「早朝の地震の後、渋谷の温故学会へ」(2014年05月05日)に記した通りです。

 昨秋あたりからだったと思います。目の不自由な方々と、『源氏物語』の古写本を読む楽しみを共有できないだろうか、と強く思うようになったのは……
 これには、自分がいつか目が見えなくなるのでは、という不安が過ぎっているからでもあります。

 例えば、天理図書館蔵の池田本やハーバード大学蔵本をテキストにして、指や肘や鼻や頬や舌や耳朶などを使って、墨で書かれた古写本の変体仮名が読めるようにできないものか、等々。
 あれこれとその方策を思案していました。

 このことに関連して、以前に本ブログで『源氏物語』の点訳本のことに触れたことがあります。

「点字本『源氏物語』(その後)」(2009/9/9)

「【復元】点字本『源氏物語』(全3冊)」(2009/9/10)

 ここでは点訳本のことしか思いが及んでいません。しかし、今はそれだけではなくて、変体仮名そのものを目の不自由な方々と一緒に読めないか、ということを考えているのです。
 何か方法があるはずだ、と思いながら月日が経っていました。なかなかいい情報に出会えていませんでした。

 今年の5月5日に、塙保己一史料館で『群書類従』のお話しをした後の懇談会で、思い切って、目の不自由な方も墨で書かれた古写本が一緒に読める環境を作れないかと考えている、ということを話題にしました。
 会場にいらっしゃった何名かの方から、いろいろと有意義なアドバイスをいただきました。

 『群書類従』は、全盲の塙保己一が膨大な文献を編纂したものです。目が見えない、ということと、墨で書かれた文献を理解することに垣根はありません。しかも、人に読んでもらって理解するのではなくて、書かれた文字を自分自身の身体を使って確認しながら読み進む行為は、どこかでその障碍は超えられるはずです。

 変体仮名は、現行の50音の平仮名を知っていても、古写本に書かれている日本語は読めませんし、理解できません。点字のように1字1音ではないからです。
 今の平仮名の「あ」は、「安」を字母とする文字一つだけです。しかし、かつて日本人が読み書きに使っていた変体仮名では、それ以外に次のようにいくつもの字母を異にした表記がなされていました。

【阿】【愛】【亜】【悪】

 このハードルを超えるためには、目の不自由な方々のための変体仮名の字書が必要でしょう。

 その用意は、少しずつしていました。
 昨秋刊行した『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」』(新典社、2013年)から、書かれている文字を切り出して編集しだしたところです。
 今週末には、その続編である『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「蜻蛉」』(新典社、2014年)も刊行されます。ここに書かれている文字も、字書に登録したいと思います。

 まず、この変体仮名と言われるたくさんの平仮名の形を、感覚として覚えてもらわないと、古写本を自分で読む、ということは実現しません。

 ハーバード大学本に書かれた墨の文字を、指か手のひら等を使って、一文字ずつ認識してもらうことで、今まで想像だにし得なかった古写本で記された『源氏物語』の世界へと、目の不自由な方々をお誘いできるのです。
 3Dプリンターも普及し出したことでもあり、自宅で手軽に体験や参加ができるのではないでしょうか。

 まずは、触れて覚える変体仮名の字書を作り、少し古典文学の勉強をしていただいてからでないと、このことは実現しないと思います。しかし、目の不自由な方々は鋭い感覚をお持ちでしょうから、困難なことではないと思っています。
 指や頬や鼻などの感触で文字の認識ができるようになると、800年前の日本の古典籍を実感を伴って読むことができるようになるのです。目の見えない方々も、このことが日本文化をさらに深く理解できるきっかけになるのではないでしょうか。

 とはいいながら、私の身の回りには目の不自由な方が皆無なので、なかなか行動に移せないでいました。
 何人かの仲間には、この計画の全体像を伝えています。
 壷坂寺のある奈良は、こうした仕掛けをスタートさせるにはいいのでは、と思っています。
 しかし、人口の多い東京の方が始めやすいかもしれません。

 こんな新たなチャレンジを始め出したところ、ちょうど東京都人権プラザ(台東区橋場1丁目)で、目の不自由な方が本をどうやって読んでいるのかを知る「企画展「読む権利」」が始まっていることを知りました。
(明日に続く)
 
 
 

2014年5月 5日 (月)

早朝の地震の後、渋谷の温故学会へ

 今朝は、夜明け方に部屋が大きく揺れたので目覚めました。天井を見て、ここが東京の宿舎であることを確認してから、大急ぎで起きました。

 今日は午後から、渋谷の温故学会にある塙保己一史料館講堂で「塙保己一検校 生誕第268年記念大会」があり、そこでお話をすることになっています。

 一昨日、飛騨の地震で京都も揺れました。そのことがあったので、昨日の夕方には上京しました。いつ新幹線が止まってもいいように、今日に備えたことは幸いでした。

 皇居のある千代田区は、震度5弱とのことです。私がいる江東区は、千代田区に隣接する海側です。東京駅から東南3.5㎞という至近の距離にある宿舎は、震度4でした。幸い、揺れる時間が長かった割には、壁などからは何も落ちず、被害はなくて大丈夫でした。40インチの大型モニタがユッサユッサと揺れていたのが不気味でした。

 今日、京都から上京する予定の妻には、余震の様子を見てから新幹線に乗るように連絡しました

 地震騒動が一段落してから、本日の会場である温故学会のある渋谷へ出かけました。

 渋谷駅東口は、再開発のためにかつての面影はありません。


140505_station


 写真左下手前にあったバス停は、写真右端に仮設バス停として移動しています。
 駅前が狭くて迷路のようになっているので、歩いて行くことにしました。
 昨年まで國學院大學に非常勤講師として来ていたこともあり、渋谷は勝手知ったる街です。
 氷川神社の石段を上り、前方の渋谷の丘に聳える國學院大學の並びにある温故学会を目指します。


140505_hikawa


 この氷川神社は、学生時代に同じクラスの女性が作って持って来てくれたお弁当を、よくこの石段に座って一緒に食べた場所です。それが今の妻なのですが、お昼休みになると、この神社の境内に来ていました。
 温故学会へ行く前に本殿にお参りをし、40年以上前のことに感謝してから、塙保己一検校の像の前に佇みました。

140505_onkoentrance


 入口の門には、本日の案内があります。


塙保己一検校生誕
 第268年記念大会
 平成26年5月5日(こどもの日)
記念講演
 「英国ケンブリッジ大学と米国バージニア大学の『群書類従』」
       国文学研究資料館研究部
          教授 伊藤鉄也氏
記念講演
 「古賀政男 我が心の歌」
   ―メロディーで綴るその音楽人生―
       古賀政男音楽博物館
          学芸員 漆山賢明氏

 黒板にチョークで書かれているのが、この学会らしいいい雰囲気を醸し出しています。

 塙保己一が何をした人か? 『群書類従』とは何か? ということが、今の若い方々に伝わっていないようです。その意味からも、こうした機会が毎年継続的に開催されていることは慶事です。そうしたことを前提にして、次のような内容のお話をしました。


140505_kouen



一、『群書類従』が英国ケンブリッジ大学に収蔵された経緯
二、米国バージニア大学から『群書類従』のDBを公開
三、電子化された『群書類従』の利用環境
四、国文学研究資料館の平成の大事業は『(新)群書類従』

 本日のお話に使ったレジメは7頁ほどのものです。
 興味のある方もいらっしゃるかと思いますので、その【講演資料を自由にダウンロード】してご覧いただけるようにしました。通覧していただければ、このレジメだけでも本日お話ししたことの大凡は伝わるかと思います。

 ケンブリッジ大学図書館に収蔵されている『群書類従』に関する情報は、日本部部長の小山騰さんからご教示いただいた内容です。いつも、詳細な調査結果を教えてくださるので、本当に有り難く思っています。

 バージニア大学の『群書類従』のデータベースは、2003年から取り組んで公開しているものです。この『群書類従』のデータベース化は、いまだ完成していません。
 作成したデータの中の「人名」「地名」「書名」「和歌」「年号」「その他固有名詞」に、一定のマークアップを施す、ということは、一部の作品については終えています。しかし、それを公開するまでには至っていません。
 手元には、次の作品の入力済みデータがあります。

物語部
 三〇七 伊勢物語/三〇八 大和物語/三〇九 竹とりの翁物語/三一〇 住吉物語/三一一 秋の夜の長物語/鳥部山物語/松帆浦物語/児教訓/三一二 無名草子/三一三 拾遺百番歌合/百番歌合/源氏物語願文/三一四 伊勢源氏十二番女合/源氏人々の心くらへ/三一五 源氏物語奥入/三一六 原中最秘抄/三一七 弘安源氏論議/三一八 仙源抄/三一九 源語秘訣/源氏物語竟宴記
日記部
 三二〇 和泉式部日記/三二一 紫式部日記/三二二 讃岐典侍日記

 これを今後はどのように活かして、多くの方々に利用していただける環境を提供すればいいのか。まだ思案中の課題です。

 国文学研究資料館が本年度からスタートさせた平成の大事業である〈日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画〉は、いわば『(新)群書類従』とでも言うべき国家プロジェクトです。こうした流れの中で、日本の文化遺産である『群書類従』の位置づけを、明らかにしておく必要があります。

 以上のようなお話を1時間ほどしました。
 この内容は、来年度刊行の『温故叢誌』に掲載予定なので、その折にはまたお知らせします。
 
 
 

2014年4月29日 (火)

電子化された『群書類従』に関する情報

 『群書類従』に関する情報を収集しています。
 電子化されたものとしては、本年夏(2014年夏)にネットワーク版が配信されることで、一通り出揃うことになります。ただし、これもPDFによる画像版で提供されるため、検索はできても利用者側の使い勝手はよくない環境は続きます。

 ともかく、この時点で、『群書類従』の本文を確認する用途に関する情報のすべてを整理しておきます。

 現在、『群書類従』を利用する環境としては、印刷物としての書籍版と、CD—ROMやインターネットで確認できる電子版の2種類があります。

 書籍版の『群書類従 正・続・続々』は、街の古書店やネットの古本屋で見かけます。オークションにも出ているかもしれません。
 それ以外で新本(オンデマンド版)を購入する場合は、八木書店が窓口となります。

 これまで『群書類従 正・続・続々』は、大正11年に創業した続群書類従完成会(国書刊行会:明治38年創立の後身)が出版・販売をしていました。しかし、同会は2006年9月に閉会し、その後は八木書店が2007年6月より出版事業を継承しています。販売形式はオンデマンド出版です。

【その1】
翻刻資料 群書類従
群書類従(全30冊)〔オンデマンド版〕
初版発行:2013年4月25日
定価(本体314,000円+税)
A5判 カバー装
ISBN978-4-8406-3585-1 C3321

【その2】
翻刻資料 続群書類従
続群書類従(全86冊)〔オンデマンド版〕
初版発行:2013年4月25日
定価(本体688,000円+税)
A5判 カバー装
ISBN978-4-8406-3586-8 C3321

日本古典文化の集大成!
最新の改訂版を底本に、オンデマンド版で提供!
群書類従・続群書類従は旧版よりも版面を拡大し、読みやすくなりました
分売可

【その3】
翻刻資料 群書類従
群書類従・続群書類従・続々群書類従(全133冊)〔オンデマンド版〕
初版発行:2013年4月25日
定価(本体1,187,000円+税)
A5判 カバー装
ISBN978-4-8406-3588-2 C3321


日本古典文化の集大成!
古代から近世末期まで、法律・政治・経済・教育・道徳・宗教・社会・史学・文学・美術・音楽・言語・風俗・遊芸その他各分野にわたる全三七五〇書目を分類収録した一大叢書
最新の改訂版を底本に、オンデマンド版で提供!
復刊の待たれていた基本資料がすべて入手可能に!
群書類従・続群書類従は旧版よりも版面を拡大し、読みやすくなりました
分売可
○法律・政治・経済・教育・道徳・宗教・社会・史学・文学・美術・音楽・言語・風俗・遊芸その他各分野にわたる約3750点の書物を分類収録した、日本古典文化の集大成である一大叢書。
○続群書類従完成会本の最新の改訂版を底本に、群書類従・続群書類従・続々群書類従の合計133 冊をオンデマンド版にて提供。
○76 冊が品切(残部僅少26 冊)など、入手困難で復刊の待たれていた基本資料がすべて入手可能に。
○群書類従(30冊)・続群書類従(86冊)は、B6 判からA5 判に拡大、読みやすくなりました。
○装幀も従来の上製・函入から、使いやすい並製・カバー装に。「八木書店ホームページより」

 書籍版以外に『群書類従』は、CD—ROM版やUSB版、さらにはインターネットで確認できるPDF版(2014年夏より)として電子化されています。

【その4】大空社・CD—ROM版『群書類従』
 底本=続群書類従完成会『群書類従』全30巻・訂正三版
 出版年 1997年
 注記 CD—ROM3枚/Windows 対応のみ
 ISBN 4-7568-0178-1
 定価 本体 50,000円+税
 ●文献名・輯・巻・頁数等による検索。
 ●付箋・メモ機能および付箋検索機能。
 ●画面拡大・縮小機能。
 ●「文献一覧」「文献年表」(テキストデータ)も付録。

【その5】大空社・CD—ROM版『続々群書類従』
 底本=国書刊行会版『続々群書類従』全16巻
 出版年 2004年
 注記 CD—ROM2枚/Windows 対応のみ
 ISBN 4-283-60001-6
 定価 本体 32,000円+税
 『群書類従』『続群書類従』に漏れた資料、10部・約300点収録。

【その6】大空社・デジタル資料叢書[USB版]『群書類従』
 ISBN 978-4-283-01239-4
 定価 本体 50,000 円+税
 2013年3月刊行
 【仕様】 USB 1本 ・対応OSは Windows(他のOS利用不可)
 WindowsXP(SP2 以上)〈32bit〉,Windows Vista〈32bit〉,Windows 7〈32/64bit〉
 収録内容・形式・機能 *以下をPDF形式で収録。
 (1)塙保己一編纂『群書類従』【底本:続群書類従完成会版、全30巻・訂正三版。1~29 輯および別巻(総目録・年表ほか)を各輯1ファイルとした。原本1頁を1コマとするモノクロ画像】
 (2)「文献一覧(目次)」【(1)に収録する文献の書名・輯・頁の一覧(収録順)。テキスト検索可。各文献にジャンプ】
 (3)「文献年表」【底本別巻所収「正続群書類従文献年表」に準拠し編集。テキスト検索可】
 ※本製品は『CD-ROM 版 群書類従』全3枚(大空社)をPDF形式で閲覧できるようにしたものです。
 ※3枚が1本に メディア差し替えが不要。研究が大幅にスピードアップ!
「[USB版]『群書類従』パンフレットより」

【その7】八木書店オンデマンド版『群書類従』パンフレットより


【予告】Web 版 群書類従シリーズ〔2014年夏公開予定〕
 『群書類従』『続群書類従』『続々群書類従』を電子化!
 全文横断検索(フルテキスト検索)が可能に!

 2014年夏配信を目指し、『群書類従』『続群書類従』『続々群書類従』
 合計133冊を電子化し、Web配信にて販売をいたします(予価100万円)。
 書籍紙面をPDF画像で忠実に再現し、新字による全文横断検索(フルテキスト検索)を可能にいたします。全3750書目という一大叢書を全文横断検索することで、よりいっそうの活用が期待されます。
 鋭意製作進行中です。ご期待ください!


 
 
 以上、『群書類従』は、従来の書籍版と新しいオンデマンド出版、そしてPDF版があります。電子化されたといっても、いずれもPDFレベルのものです。検索はできます。しかし、テキストデータや画像データを利用者側で自由に使い熟すレベルには至っていません。

 米国バージニア大学の〈日本語テキスト・イニシアティヴ〉から公開されている『群書類従』は、文学関係のほんの一部(『伊勢物語』など7作品)を私が試験的に作成したものです。

 『竹とりの翁物語』の場合は、次のような表示で確認できます。

140429_taketori


 こうしたテキストベースでの公開の必要性は、今後とも議論が必要かと思います。
 PDFで十分だとしておくと、いつか読めなくなったり、検索できなくなることも予想されます。テキストの抜き出しにあたって、文字化けがつきものであることも、今後の障碍となることでしょう。私は、テキストにしてデータベース化すべきだと思っています。
 『群書類従』の本文の質について検討すると、時間ばかりが経ちます。とにかく、今ある最良の状態のテキストを、忠実にデータベース化することが、喫緊の課題だと認識しています。
 
 

2014年4月25日 (金)

京洛逍遥(316)京都における香道関係の調査に同行

 昨夜帰洛し、今朝は茶道資料館へ行きました。

140425_tyadosiryoukan



 総合研究大学院大学文化科学研究科日本文学研究専攻で、香道伝書と文学に関する博士論文を執筆中の武居雅子さんの調査に同行しての訪問です。
 茶道資料館では、筒井紘一先生にお目にかかり、長時間にわたりお話を伺いました。
 筒井先生は、茶道資料館副館長、今日庵文庫長、京都学園大学人間文化学部教授、茶書研究会会長と、幅広く活動なさっています。
 6月には、古田織部400年遠忌追善茶会をなさいます。

140425_oribe400



 ご著書も多く、私が読んだ本については、以下の記事で報告しました。

「読書雑記(65)筒井紘一『茶道具は語る』」(13年5月19日日)

 筒井先生は、武居さんの修士課程における指導教授です。そのことは、以下の記事で紹介した通りです。

「茶道資料館で香道具を見たあと筒井先生にお目にかかる」(2013年5月 2日)

 本日は、茶道資料館のテラスで苔の庭を見ながら、筒井先生から多くの示唆に富むお話を伺いました。その内容に関しては、今後発表される武居さんの論考に譲ります。

 筒井先生からは、今後の研究におけるありがたいアドバイスを、何点か示してくださいました。特に私が記憶に残ったのは、大枝流芳と茶道についてはあまりやられていないのでは、というご指摘でした。香道にばかり目がいっているのではなくて、こうしたところもやってほしいとの提言でした。

 さまざまなお話を伺う中で、山田松香木店の山田英夫社長からもっと詳しい話を聴くように、とのことで、早速電話で仲介の労をとってくださいました。

 前回お目にかかった折にも、山田社長と三条西堯水氏(御家流香道宗家)と勉強会をするので来ないか、というお誘いを受けていました。まだその会は実現していませんが、今日もその話が出ました。この勉強会がスタートしたら、また新鮮な情報交換ができるようになります。大いに楽しみにしています。

 ただし、今日はあいにく山田社長が上賀茂神社へ出向いておられたこともあり、筒井先生いわく山田松の大番頭だとおっしゃる大杉直司さんを紹介してくださいました。
 そして、山田松香木店で大杉さんから、『香道秋の光』の巻末に記載されている「香道具細工所」に関して多くのご教示をいただきました。

140425_yamadamatsu



 その後、「香道具細工所」に記載されていたことで一番気になるという「京河原町姉小路西南角 人形屋幸助」を追うことにしました。
 香道における盤物では、人形を使ったりします。その人形を作る職人さんの1人が、人形屋幸助という人だと推測されるからです。それを、大枝流芳が紹介している、という流れの中での調査なのです。

 これについては、私が思いついきで推薦した『京都マップ 伝統と老舗編』(光村推古書院)に橋本人形店が掲載されており、そこが初代幸助から4代目だとの記述があります。
 もっとも、この橋本人形店は安政2年(1855)創業となっており、『香道秋の光』に記載された「京河原町姉小路西南角 人形屋幸助」よりも100年以上も後の創業となります。しかし、とにかく行ってみないことには埒があかないということで、四条から仏光寺へと出かけました。

 橋本人形店はすぐに見つかりました。

140425_hasimoto



 突然のことながら思い切ってお店に入り、訪問の趣旨などを説明していると、対応してくださったご当主は開口一番「それはうちですわ。その幸助は初代やと思います。」とのことでした。そして、創業はもっと前かもしれない、ともおっしゃっていました。京都に来る前は名古屋だったのではないか、とも。
 300年も前の話をしているのに、それがごく普通に今と結び付いて話題にできるのです。
 畏るべし京都、を実感しました。

 話をしていると、曖昧な部分が出てきました。しかし、それがつい昨日のことを思い出すかのように進んでいたので、不思議な思いでやりとりに参加していたことになります。

 また、この人形屋さんは、○に平という文字がお店の印となっていました。これがいつからかはわからないそうです。

140425_maruhei



 この橋本人形店は、お店が京都の中を何カ所も移動しているので、いつの時代にどこにお店があったのかもよくわかりませんでした。そのため、「京河原町姉小路西南角」という場所についても、情報は掴めませんでした。

 とにかく、「人形屋幸助」「丸平」などなど、キーワードはわかってきました。
 このことについて、ご存じの方がいらっしゃいましたら、情報をお寄せいただけると幸いです。

 今回私が武居さんの研究調査に同行しているのは、京都の市街に土地勘があるために効率的に回れるためです。また、私は学生時代から民俗学の現地調査をしており、こうした聞き取りには馴れていることもあります。その点では、武居さんの研究の現地調査のお手伝いはできたと思います。しかし、こうしてわかったことをつなぎ合わせるのは武居さんの問題なので、専門的なことはすべて後日ということになります。
 
 
 

2014年4月17日 (木)

夢語り「今回の科研で取り組みたいこと」

 昨日、科研の報告書として発行した『日本古典文学翻訳事典1』のPDF版を、ホームページ「海外源氏情報」から公開しました。
 幸い、多くの方々に興味を持っていただけたようで、予想外のアクセスやダウンロードが続いています。公開してよかった、との思いを強くしています。
 こうした内容の事典がこれまでになかったので、草分けとしての第一歩となったようです。

 無謀にも、上代から近世までという守備範囲が広いこともあり、まだまだ不完全な翻訳事典です。しかし、折々に事典の項目を参照していただき、不備や追補すべき情報収集の誘い水になれば、と思っての発刊でした。ご自由にご覧いただき、お知り合いの方にも紹介していただければ幸いです。それが、掲載した情報の更新や増補につながれば、願ってもないことなのですから。

 予想していたと言うべきでしょうか、今後の科研での活動予定に関する問い合わせがありました。
 本来なら、科研のホームページで公表すべきことです。しかし、その前にこの場でブレーンストーミングをし、みなさんと意見交換をして取り組む課題を絞るのもいいかと思います。
 これを機会に、現時点で何とかしたいと思っていること等々、私見を思いつくままに記し残しておきます。
 いつもの夢語りだということで、以下は読み捨てていただければ幸いです。

 このブログは、何の制約もなく、私が勝手に個人の日録として記す場所です。ご意見やご要望があれば、コメント欄を使ってお知らせいただけると、そこからまた具体策を練る足がかりができます。

 さて、今回の翻訳事典は、次のシリーズ化を私が勝手に想定しての、初巻となるものでした。


(1)『日本古典文学翻訳事典〈1・英語改訂編〉』平成26年3月刊
  ※上代から近世までの英語訳された作品で『源氏物語』以外を扱う

(2)『日本古典文学翻訳事典〈2・諸外国語編〉』平成27年3月刊
  ※諸外国語とは、英語以外のイタリア語・フランス語・ドイツ語等

(3)『日本古典文学翻訳事典〈3・関連資料編〉』平成28年3月刊
  ※関連資料とは、翻訳史年表・ウェブサイト情報・翻訳論文情報等

(4)『英語表記のための日本文学研究語彙事典』平成29年3月刊
  ※日本文学を英語で表記表現する際に参照できる古典文学用語用例集

(5)『海外における日本文学研究論文3』平成29年3月刊
  ※既刊の『海外における日本文学研究論文1+2』の続編となるもの

(6)『海外における日本文学研究者事典』平成29年3月刊
  ※海外で日本文学に興味と関心を持つ研究者や翻訳家等の情報資料集

 ここには『源氏物語』の翻訳情報がありません。
 『源氏物語』については、2008年に笠間書院より刊行していただくはずでした。そのために、一応の原稿はお渡しし、再校までは終えています。
 しかし、その後も次々と翻訳が出現し、今も増え続けているために、私が再校まで目を通して、その後は止まったままになっている企画です。本当に申し訳ないことです。

 これについては、平成29年3月に本科研が終了した早い段階で、一書として刊行する準備を進めています。残された3年間では、とてもまとめきれないほどに、『源氏物語』の翻訳書は大量にあり、今も世界各国で刊行されているのです。本年2月にも、32言語目となるベトナム語訳があることがわかり、早速現地に飛んで調査をしてきました。
 『源氏物語』の翻訳本の9割9分以上は、すでに収集し終えています。後は、今後刊行が予定されていることがわかっているいくつかの『源氏物語』の翻訳本について、随時入手して事典の項目としてまとめていくことになります。
 すでに原稿を頂戴している先生方、および根気強く出版を待っていただいている笠間書院には、本当に申し訳ありませんが、もうしばらくお待ち下さい。と言うよりも、いつも我がままを言って恐縮ですが、あと3年ほどお待ちください。

 上記6点は、翻訳研究を中心とした[資料編]というべきものです。
 これ以外に、[研究編]として、以下の研究誌を発行する予定です。


『海外における平安文学研究ジャーナル 第1集』平成27年3月刊
『海外における平安文学研究ジャーナル 第2集』平成28年3月刊
『海外における平安文学研究ジャーナル 第3集』平成29年3月刊

 これは、海外での研究や翻訳に関する考察等を、〈論文〉〈研究ノート〉〈コラム〉〈資料〉の4項目に分けて1冊に収録するものです。
 執筆者は、海外の方および留学生のみなさんを想定しています。
 試しに、私が原稿を依頼できる方々をリストアップしたところ、94名もいらっしゃいます。
 海外がらみの論考や報告は、雑誌の特集などが組まれない限り、あまり目にする機会がありません。そこで、そうした関係の研究に資する原稿を、ここで集めたいと考えています。
 来月から原稿のお願いをする準備を進めています。
 みなさんのご協力を、よろしくお願いいたします。

 以上、あくまでも今自分が描きうる夢を書き綴ってみました。
 しかし、これらは夢とばかりは言い切れず、これらが結実する可能性は大きいと思っています。
 とにかく、多くの方々のご協力をお願いするしだいです。
 
 
 

2014年4月16日 (水)

PDF版『日本古典文学翻訳事典1』がダウンロードできます

 先月、科研の報告書として発行した『日本古典文学翻訳事典1』には、残念ながら製本ミスがありました。「早々と本ブログで紹介」(2014年4月 1日)しながらも、今日現在、印刷物として広く配布できない状態にあります。
 スタッフ一同で精魂込めて作成したものだけに、忸怩たる思いで刷り直しが届くのを首を長くして待っているところです。

 この印刷所に関しては、一昨年も「科研の報告書に製本ミスが見つかる」(2012/4/7)ということがあり、多大な手間と時間を吸い取られた経緯がありました。また、同じ印刷所でのことです。正直なところ、もう勘弁して下さい、と叫びたい気持ちを、今回もグッと堪える日々が続いています。

 『日本古典文学翻訳事典1』に関するお問い合わせが多いことから、当初の計画を早めて、科研のホームページである「海外源氏情報」から、PDF版としてダウンロードできるようにしました。これは、海外の方々にも利用していただきやすい環境を、このような方法で実現することにしたものです。

 ただし、本日公開したPDF版には、パスワードを設定しています。データ管理上、以下の要領でパスワードを請求していただく必要があることを、ご了承ください。
 申請していただくと、即座にメールの自動応答という形で、PDF版を閲覧できるパスワードをお届けいたします。もっとも、日本語による返信であることを、あらかじめご了承ください。

 今後とも、可能な限り、本科研で作成したデータは公開していきます。
 これは、一人でも多くの方々に利用していただき、その上でデータの不備や追補すべき情報等をいだいて補訂することを前提としたものです。ご教示いただくことを目的として、ウェブを通して広く公開するものです。
 この趣旨をご理解の上で有効に活用され、そして情報を提供していただければ幸いです。

 以下、本データをダウンロードする手順を、簡単に記します。


--------------------------------------

『日本古典文学翻訳事典1』ダウンロード方法

(1)メニューバーの「経過報告」の下に出るプルダウンメニューから「研究報告書一覧」を選択。
   (「お急ぎの方はここをクリックしてください」
 
 

140416_screen1



(2)「研究報告書一覧」の説明を読み、「申請は[こちら]からお願いします。」の「こちら」をクリック。
 
 

140416_screen2



(3)「日本古典文学翻訳事典パスワード請求」という画面で、必要な情報を入力し、その下段にある[確認画面へ]をクリック。
 
 

140416_screen3



(4)入力内容を確認して、よければその下段左側の[送信する]のボタンをクリック。
 
 

140416_screen4



(5)すると、閲覧用パスワードを記したメールが、指定のメールアドレスに送信されます。
 
 

140416_screen5



 なお、情報を提供していただける方は、上記画面の下部にある[こちら]のボタンをクリックしてください。

 そして、「情報提供のお願い」の最下段に記された[メールフォームへ]をクリックして、入力欄にご教示いただける内容を記入して送信していただけると幸いです。
 
 

140416_screen6



 
 

140416_screen7



 
 

 まだまだ、本書に掲載している情報は不完全です。また、遺漏も多々あることは承知しています。
 みなさまのご理解とご協力を得て、さらに的確な記述で、全時代を網羅した事典へと、気長に育てて行きたいと思っています。
 これを機縁として、本科研の趣旨をご理解いただき、ご協力のほどを、どうかよろしくお願いいたします。
 
 
 

2014年4月 8日 (火)

『群書類従』に関する講演会のお知らせ

 今年のゴールデンウイークの最中に、下記の記念講演会でお話をすることになりました。

140408_onkogakkai



塙保己一検校 生誕第268年記念大会 ご案内
日時 平成26年5月5日(祝)午後1時半 開会
場所 塙保己一史料館講堂
   JR渋谷駅東口から日赤医療センター行きバスで國學院大學前下車、前進200m
   【注・渋谷駅工事中につきバス停移動しています】
一、開会挨拶 公益社団法人温故学会理事長 齊藤幸一
一、記念講演「英国ケンブリッジ大学と米国バージニア大学の『群書類従』」
       国文学研究資料館 研究部教授 伊藤鉄也
一、記念講演「古賀政男 我が心の歌」
      ―メロディーで綴るその音楽人生―
       古賀政男音楽博物館 学芸員 漆山賢明
一、閉会挨拶 研究員代表 堀口和正

※ 聴講無料 先着80名
※ 懇親会 希望参加 会費2000円(当日受付にて)
       東京都渋谷区東2丁目9番1号
       公益社団法人温故学会理事長 齊藤幸一
       電話・FAX03-3400-3226

 これは、英国ケンブリッジ大学図書館の小山騰先生からもたらされた情報が縁となり、今回、海外における『群書類従』に関するお話をすることになったものです。

 また、米国バージニア大学から「テキストイニシアティブ」の1つとして公開されている『群書類従』を担当した経緯を踏まえて、その現状も報告します。

 『群書類従』は、現在、活用されることは少なくなりました。しかし、若手による貴重な研究例もあるで、その報告もしたいと思います。

 こうした内容のもとに、日本の文化史において『群書類従』が果たした意義と次世代に引き継ぐ問題点を、文学研究の立場からお話しする予定です。

 興味をお持ちの方は、ご参加ください。

 なお、この『群書類従』に関しては、本ブログでは以下の記事で報告していますので、参考までに紹介しておきます。

「授業(2013-4)海外における『群書類従』と学際的研究」(13年5月10日金)
 
 
 

2014年4月 1日 (火)

『日本古典文学翻訳事典 1〈英語改訂編〉』を発行しました

 平成26年度が始まりました。
 昨日は、平成25年度の科学研究費補助金・基盤研究(A)による研究成果報告書が完成し、納品されました。
 短い期間に、翻訳データの整理から印刷の段取りへと、慌ただしい日々の年末年始でした。
 多くの関係者のみなさんに、大変お世話になりました。
 この場を借りて、お礼を申し上げます。
 無理難題を聞き届けていただき、本当にありがとうございました。
 おかげさまで、ずっしりと重い報告書ができあがりました。

140401_bookcover


 これから、発送の準備に入ります。
 科研費による発行のため、非売品です。
 印刷物は、公的機関や研究協力をしていただいた方々に優先的に配布します。
 ただし、科研のホームページ「海外源氏情報」(科研HP)で、本書のPDF版がダウンロードできるように準備をしています。
 さらには、文字列で検索して、画面上でブラウジングできるような仕掛けも用意します。
 用意が調いましたら、またアナウンスをしますので、今しばらくお待ちください。

 本報告書は、あくまでも暫定版です。
 この冊子が呼び水となり、追補すべき情報や、記述の補訂に関してご教示をいただくことにより、さらなる増補版が生まれればとの思いから、あえてこの時点で発行したものです。
 幅広い方々からのご意見や情報提供を、楽しみにお待ちしています。
 本ブログのコメント欄か、科研のホームページ「海外源氏情報」(科研HP)を通して、些細なことでも結構ですのでご教示を、よろしくお願いいたします。

 なお、本報告書の位置づけを明確にしておくためにも、参考までに巻頭に置いた前書きを、以下に引用します。


は じ め に

 —試行版としての事典であること—

 本報告書を作成することになった発端は、私がスペインで「“Spanish translation of the tale of Genji”(スペイン語に翻訳された『源氏物語』)」というタイトルで研究発表をする前日でした。
 2013年10月23日、現地マドリッド時間の朝7時に、国文学研究資料館内の科学研究費補助金担当の方から「25年度科研費の交付内定について(10/21追加内定)」というメールが届いたのです。4年間で3千2百万円の直接経費が認められた、とのことです。

 突然の朗報に驚くと共に、早速、提出書類である「交付申請書」と「交付請求書」を、マドリッドのホテルで作成しました。そして、同時に26年度分として申請を予定していた基盤研究(B)については、すでに事務に提出していたものが重複するため、その申請は取り下げることになりました。
 慌ただしい、科研費研究のスタートです。

 年度途中の追加配分であっても、補助金の使用にあたって特別なルールはないとのことです。4月に交付された場合と同様の扱いで、研究費の運用するのです。そこで、大至急研究体制を整えることになりました。

 この科研を支えてもらうプロジェクト研究員には淺川槇子さん、技術補佐員に加々良惠子さんという頼もしい2人の採用を経て、研究支援態勢を迅速に整えました。そのお陰で、こうして無事に、初年度の成果が事典という形に結実することになりました。

 本書は、数年前に発行され『日本文学研究ジャーナル』に掲載された記事を再確認し、情報を追補してまとめたものです。
『日本文学研究ジャーナル』は、科研費の基盤研究Aとして、平成21年から24年にかけて実施された研究の成果刊行物です。平成23年度までの3年間は前国文学研究資料館館長の伊井春樹先生が、平成24年度は私が研究代表者となって、当初の研究目的を達成した報告書です。

 今回その成果の中から、第2巻以降3回にわたって掲載された翻訳事典のデータをあらためて取り出し、追補修訂を加え、再編集してまとめ直しました。

 第4号の「はじめに」で、私は以下のように記しました。


特に、懸案だった「翻訳事典」が、不十分ながらも一つの形になって本報告書に収載できたことは、今後につながる成果だと言えるで しょう。この翻訳事典には、2006年4月23日にお亡くなりになった、国文学研究資料館名誉教授福田秀一先生から託されていたメモを最大限に活用しました。
 本科研では、英語に関する文献だけを対象としていることに留まらず、各項目のまとめ方も含めてまだまだ不備の多いものです。これを補訂し、さらに追加していくことで、よりよい事典に育てていきたいと思います。(3頁)

 また、その「あとがきにかえて」では、次のように記しています。


翻訳事典は、分量的な問題もあって、単独の編著作物とはなりませんでした。これは、今後につながるものとして、さらに項目と情報の拡充に努めたいと思います。(301頁)

 日本古典文学に関する翻訳事典としては、各項目の内容がいまだ未整理の状態にあります。今回、その見出し項目と表記上の体裁及び、内容に関する記述の統一をしようと試みました。しかし、いろいろな機会に、多くの方々に執筆していただいた原稿の集積であることから、不統一の感は免れません。各所に編者の判断で多くの手を入れました。しかし、あくまでも暫定的な処置に留まるものです。
 そのことを承知で、この時点で公開することにしたのは、これを叩き台にし、より良い情報の提供を受ける中で、さらに充実した事典に育てたいと思うからです。まさに、試行錯誤の中での暫定版としての事典です。
 みなさまからの情報提供により、各項目の精度を高めたいと思います。
 今後とも、ご理解とご協力を、よろしくお願いいたします。

2014年3月
日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(A)
「海外における源氏物語を中心とした平安文学
 及び各国語翻訳に関する総合的調査研究」
研究代表者
大学共同利用機関法人 人間文化研究機構
国立大学法人 総合研究大学院大学
国文学研究資料館 伊藤 鉄也


 
 

2014年3月18日 (火)

第3回池田亀鑑賞の募集は平成26年3月末日が〆切りです

 第3回池田亀鑑賞の募集期間は平成26年3月末日です。
 応募の〆切りまで、あと2週間となりました。

 第1回受賞作は杉田昌彦氏の『宣長の源氏学』(新典社)が、第2回受賞作は岡嶌偉久子氏の『林逸抄』(おうふう)でした。
 弛まぬ努力が結実した、すばらしい成果に対して贈られたのです。

 募集内容や選定に関する詳細は、「池田亀鑑賞のホームページ」をごらんください。

 応募対象は、平成25年4月1日〜平成26年3月末日の間に刊行された奥付のものと発表分です。自薦他薦を問いません。

 この「池田亀鑑賞」の趣旨は、ホームページに以下のように明記されています。


文学の研究基盤を形成する上で、顕著な功績のあった研究に対して贈るものです。
その地道な努力を顕彰し、さらなる成果の進展を期待する意味を込めています。
「池田亀鑑賞」は、伝統ある日本文学の継承・発展と文化の向上に資することを目的として、池田亀鑑生誕の地である日南町と池田亀鑑文学碑を守る会が創設しました。

 選定にあたっては、「前年に発表された『源氏物語』を中心とする平安文学に関する研究論文や資料整理及び資料紹介に対し、学界に寄与したと評価されるもの1作品を選定します。」とあります。
 つまり、「研究論文や資料整理及び資料紹介」が対象であることが、この池田亀鑑賞の特色です。

 応募先は以下の通りです。


〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1-44-11
新典社内 池田亀鑑賞事務局
TEL:03-3233-8051  FAX:03-3233-8053
e-Mail︰info@shintensha.co.jp

 選考は、以下の6人の委員があたります。


伊井春樹(会長)
伊藤鉄也(委員長)
池田研二
妹尾好信
小川陽子
原 豊二

 今年もすばらしい作品の応募があることでしょう。
 選考委員の一人として、池田亀鑑賞のホームページに私は次のコメントを寄せています。


文学研究の基礎を支える資料を整理し、成形し、提供する営為には、多大な時間と労力と根気が必要である。そして、こうした作業や仕事にこそ、弛まぬ努力と継続への理解と応援が必要である。池田亀鑑賞は、日頃の地道な調査研究活動に光を当て、さらなる励みと新たな目標設定を支援するところに意義があると思っている。達成したものばかりではなく、進行しつつあるものも含めて、研究環境の整備に貢献した仕事を顕彰したいと思っている。

 コツコツと研究を続けて歩んで来られた成果が、今回も応募作として並ぶことを、大いに期待し、楽しみにしています。

 池田亀鑑賞についてのお問い合わせは、上記「新典社内・池田亀鑑賞事務局」にお願いします。
 
 

2014年3月10日 (月)

京都いちひめ雅楽会の定期公演会へのお誘い

 京都いちひめ雅楽会の藤井友子さん(篳篥)が、以下の情報を送ってくださいました。
 3月22日(土)は、何かと多忙な年度末のため、私はおそらく京都へ帰れないと思います。
 ぜひとも参加したいと思いつつ、私のところで留めるには惜しい情報なので、ここに引用してお知らせいたします。

 また、英文付きなので、現在科研で取り組もうとしている平安文学関連のグロッサリーに、可能な範囲で活用させていただこうと思っています。

 取り急ぎ、昨日からの時差ボケで覚束ない指先で、ご報告まで。


We would like to inform about the 26th regular concert of Gagaku by Kyoto Ichihime Gagaku Ensamble. Gagaku is traditional court music and dance of Japan. You will find Karyobin, Kocho and Seigaiha which were scribed in the Genji Tale. We are very happy if you as academic researchers of the Genji Tale could come to our concert.

京都いちひめ雅楽会、第26回定期公演会のご案内をお送りします。今回は、源氏物語に描写されている迦陵頻・胡蝶・青海波(輪台・青海波)を奏します。源氏物語を研究なさっています皆様に是非ご覧頂きたいと存じます。

The 26th regular concert of Ichihime Gagaku Ensemble
(Access: http://www.kyoto-ongeibun.jp/kyotoconcerthall_e/map.php)
MARCH 22. 2014. (SAT) 6 - 8 pm.
At the Ensemble Hall MURATA / Kyoto Concert Hall

いちひめ雅楽会 第26回定期公演
2014年3月22日土曜日18時-20時
京都コンサートホール・アンサンブルホールムラタ
(アクセス:http://www.kyoto-ongeibun.jp/kyotoconcerthall/map.php)

Kangen: Orchestra music by brass, string, percussion and voice.
Etenraku (most popular music of Gagaku) / Kashin (Voice with brass and string instruments)/ Konju (music of drinking foreigner)

管絃:
平調 越殿楽(雅楽でもっとも代表的な曲)/朗詠 嘉辰(めでたい席で奏する歌と器楽演奏)/壹越調 胡飲酒破(異国の人が酒を楽しむ様子を曲にしたもの)

Bugaku: Dance with music by brass and percussion.
Enbu (Purify of the stage with spears) / Karyobin (Birds of paradise) / Kocho (Foreign butterfly) / Seigaiha (Waves in blue ocean) Chogeishi (Music for public leaving from the hall)

舞楽:
振鉾(鉾を振って、舞台を清めます)/迦陵頻(極楽にいる人面鳥の姿を舞にしたもの)/胡蝶(異国の珍しい蝶の姿を舞にしたもの)/青海波(4人舞の輪台と2人舞の青海波からなる組曲)
長慶子(観客の退出時に奏する曲)

Entry ticket (free of charge) is needed. Please let me know how many tickets you will have. You can get them with your name at the Lobby of the concert hall. I'm looking forward to seeing you on March 22th!

入場無料、ただし入場整理券(自由席)が必要です。
必要枚数をお知らせ下さい。公演当日、受付に入場整理券をご用意します。
みなさんの、ご来訪心よりお待ち申し上げます。

Tomoko Fujii (Member of Kyoto Ichihime Gagaku Ensamble / Hichiriki)
藤井友子(京都いちひめ雅楽会会員・篳篥)


 
 
 

2014年2月21日 (金)

今西館長科研の本年度第3回研究会

 東京と言っても、多摩地区の立川市にある国文学研究資料館は、まだ庁舎周辺は雪に囲まれています。

140221_yuki


 本日、今西館長の科研費(基盤研究A)における、本年度最後の研究会が開催されました。
 この科研は、来年度で5年目となり最終年度を迎えることとなります。
 本年度の研究成果報告書は現在印刷中であり、来月3月に完成する予定です。
 この4年間、着々と成果を積み上げて来たことが、こうした報告書によってわかります。

 本日は、4人の研究発表がありました。
 いずれも、原本資料を元にした、手堅い発表でした。

140221_happyou



日時:2014年2月21日(金)15:00〜18:00

場所:国文学研究資料館・第1会議室(2階)

内容:
(1)〈ご挨拶〉 今西祐一郎
(2)〈研究報告〉今西祐一郎
    「嵯峨本の表記試論 ー平家物語の場合ー」
(3)〈研究発表〉横井孝
    かな字母による表記情報学の課題」
(4)〈研究発表〉相田満
    『蒙求』をめぐる表記情報学 ー台北故宮博物院蔵最古注本を中心にー」
(5)〈研究報告〉阿部江美子
    「「榊原本」源氏物語・「明融本」源氏物語の漢字・かな使用率について」
(6)連絡及び打ち合わせ

 私は、今西先生と横井先生の発表の中で、『源氏物語』の尾州家河内本をめぐる話題に一番興味がありました。
 古写本に書き写されていることは、まだわからないことだらけです。
 こうした集まりで意見の交換を重ねることで、少しずつ理解が深まり、新しい展望が開けるはずです。
 他の分野もそうでしょうが、文学の研究も、一つの結論を得るまでに、手間と時間がかかります。 研究会に参加するたびに、そんな思いを抱きます。

 今日も、稔り多い研究会となりました。
 
 
 

2014年1月27日 (月)

国文研の「新・論文目録データベース」のこと

 国文学研究資料館では、広報誌『国文研ニューズ』(国文学研究資料館広報出版室編)を年4回発行しています。
 その『国文研ニューズ No.34(WINTER 2013)』(平成26年1月24日発行)に、「研究ノート 『新・国文学論文目録データベースについて』」と題する拙文が掲載されました。

140127_nijl_news


 最近7年ほどは、このデータベースを担当しています。
 昭和16年から昭和52年までは書籍形式の『国文学研究文献目録』として、それ以降、平成19年までは『国文学年鑑』として刊行され、多くの方々に利用されてきました。しかし、時代の波と共にウェブ対応のデータベースとしての需要が高まり、平成17年度版(2007.10)をもって書籍版は休刊となりました。

 これは、「国文学論文目録データベース」として一般に公開されています。研究者や学生にとって、今や必要不可欠な論文検索ツールとなっています。日本文学や日本語学関係の研究状況の調査や、研究論文を執筆するにあたっては、これなくしては一歩も前に進めないという情報検索ツールです。これをあらかじめ調べておかないことには、研究論文はまったく執筆できない、というのが現状です。

 現在は、明治21年から平成23年までに一般に公表された、国文学関係の論文[約53万件]が検索できます。この「国文学論文目録データベース」が、平成26年1月末をもって、つまり今月末から装いも新たな形で公開されることになりました。

 外見上はあまり変化がありません。しかし、制作主体である国文学研究資料館内部では、これまでのデータ作成から公開までの流れを再検討し、システム部分から作り直したものです。これによって、論文情報を公開するスピードが飛躍的に速くなります。

 このデータベースの特徴は、検索結果の精度にあります。
 論文のタイトルやサブタイトルに記述がないのに、的確に知りたい論文の情報がヒットします。その理由は、大学院生が実際に登録する論文にあらかじめ目を通し、専門的な目で分類し、キーワードを付けているからです。さらには、専門員といわれる10人以上の大学の先生方が、そのデータの1点1点をチェックしておられます。

 とにかく、目に見えないところで、手間暇をかけた贅沢なまでの至れり尽くせりの環境で、論文目録データベースは作成されているのです。他の論文データベースとは、格段に質の違う検索結果が利用者のお手元に届けられるのには、こうした背景があるからです。
 たかが論文リストではないか、と思わないでください。その制作過程に、プロの技が潜んでいるのです。

 来週には、新しいデータベースとして公開されます。
 当面は、新しいシステムになったということから、当然ながら不具合も見つかることでしょう。しかし、すべてのデータベース構築の過程を見直し、よりよいシステムを作り上げたものなので、すこしずつ不具合を直していく中で、理想に近い論文目録データベースに育っていくことでしょう。

 使っていただく中で、いろいろなご意見をいただきたいと思います。
 それが、さらにデータベースを成長させることにつながるのですから。
 国文学研究資料館の柱の一つともなっている、重要な公開データベースです。
 非常に地味なデータベースです。
 しかし、使っていただかないと、その良さは理解していただけません。
 来週からのリニューアル公開を、どうかお楽しみにしてください。
 
 

2014年1月 7日 (火)

読書雑記(89)片桐洋一著『伊勢物語全読解』

 お正月に、片桐洋一先生が刊行されたばかりの大著『伊勢物語全読解』(和泉書院、2013年12月)を、気の向くままに頁を繰り、拾い読みですが目を通しました。

 1118頁もの分厚い本に、先生のこれまでの『伊勢物語』の研究の精髄がぎっしりと詰まっています。その一端を、好きなときに好きな箇所が読め、確認できるのですから、贅沢この上ないことです。

 私は、『伊勢物語』の中では、「筒井筒」と言われる第二十三段が一番好きです。
 これは、私が小学生から中学生の頃に、その舞台となる河内高安で育ったことにあります。この話は、その物語られる世界に親近感をもって読むことができるのです。

 その後、東京の大学から帰ってまた、この高安に住みました。さらに、高安山から業平道を通って奈良側に転居し、信貴山のある生駒郡平群町で子どもたちを育てたのです。
 高安・信貴・生駒の山脈を挟んで、大阪側と奈良側の両方で生活をしたのです。よくよく縁のある「筒井筒」の段は、私にとって殊の外愛着のある話となっているのです。

 片桐先生の本でも、最初にこの段を開きました。
 そして、片桐先生が藤原定家の校訂になるとされている箇所を、興味深く一つ一つ確認しながら目で追いました。
 以下に、その部分を抜き出しておきます。
 


【校異の問題点】
7(前略)古い時代には「らしも」が一般的であったと言ってよさそうである。
(中略)非定家本はもちろん、定家本でも「すぎにけらしも」が一般的であったのだが、本書の底本に用いている天福二年本の段階になって、定家は「すぎにけらしも」よりも「すぎにけらしな」をよしとする何らかの根拠を得て、「すぎにけらしも」を「すぎにけらしな」に校訂したのであろう。(197頁)

 

【校異の問題点】
10の「ひとりこゆらん」と「ひとりゆくらん」の相違は、掲出した三本の非定家本だけではなく、真名本や七海本・天理為家本などの初期の定家書写本や時頼本・最福寺本などの別本に至るまで「ひとりゆくらん」となっていて、「ひとりこゆらん」は定家が、ある時期に「ひとりこゆらん」をよしとする根拠を得たゆえに校訂を加えたのではなかったかと思われるのであるが、『古今集』の場合はおおむね「ひとりこゆらん」になっているから、『古今集』による校訂の可能性も大きい。【和歌の他出】と【研究と評論】参照。(201頁)

 

【和歌他出の問題点】
(四九)(前略)『伊勢物語』の場合は、定家本以外は、おおむね「ひとりゆくらん」とあることを思えば、『伊勢物語』の方を「ひとりこゆらん」の形にしたのは、おそらく藤源定家その人ではなかったかと思うのである。【研究と評論】参照。(202頁)

 
 ここで先生は、定家が「何らかの根拠」とか「根拠を得た」ことから、本文を校訂したと言っておられます。その「根拠」について、想像を逞しくして自分勝手に考えています。
 この訓練が、『源氏物語』の本文を定家はどのように校訂したのか、ということを考える上で参考になっていくと思っています。

 さらに頁を繰っていて「考説篇」に収録されていた「三、『業平集』再説」の最後で、次のように言っておられることも、ここに引いておきます。


 他の作品の本文研究でも同じだが、校訂や増補を繰り返すことが普通であった私家集の本文を研究する場合においては、その写本が書写された時点に研究の焦点を固定させてしまうのではなく、その写本に至る過程、すなわちその「写本の歴史」を透視する姿勢が必要であるように思うのである。人間にそれぞれの歴史があるように、写本にも、それぞれに歴史がある。写本によって伝えられる本文にもまたそれぞれに歴史がある。それを遡及してゆく姿勢が今後の本文研究に必要なのではないかと思うのである。(1051頁)

 〈「写本の歴史」を透視する姿勢〉ということばに釘付けとなりしました。
 写本を追いかけ、本文を確認する作業に明け暮れる自分の日々に、また元気をいただきました。
 
 

2014年1月 4日 (土)

映画「かぐや姫の物語」を観ました

 我が家の梅の開花は、例年よりも遅いようです。
 昨日は白梅が少し花開きました。

140102_ume


 今日は、紅梅が一斉に咲き出しました。

140103_ume


 この紅梅白梅の様子は、毎年お正月の楽しみとなっています。
 
 箱根駅伝で、我が母校である國學院大學が、あと数秒というところでタスキが途切れました。
 タスキを渡すのにあと数十歩という、目と鼻の先に次のランナーがいました。しかし、そのタスキを渡そうとしているのに、号砲と共に自動的にスタートとなり、引き離されるように視界から仲間が消えていくのです。ルールとはいえ、非情な世界を目の当たりにし、身の引き締まる思いで見入ってしまいました。

 2011年にも、シード権争いのデットヒート中に、國學院大学はゴール寸前にコ­ースを間違えたのです。幸いにもすぐに気付き、何とか10位に入って事なきを得ました。
 それにしても、箱根駅伝での応援は、ハラハラドキドキのタスキ渡しのレースです。
 
 夕刻から、京都駅南にある映画館で「かぐや姫の物語」を観ました。
 年末に「利休にたずねよ」を観たT・ジョイ京都です。
 ここは、バスで京都駅北口中央で降りてから、JR駅を渡り都ホテルの先という、相当離れたところにあります。しかし、開演時間の関係で、よく行く三条の映画館はパスして、ここにせざるを得なかったのです。

 「かぐや姫の物語」は出色のできばえでした。
 背景がない映像に引き込まれます。
 改めて、背景とは何だったのか、と考えさせられました。
 物語展開の緩急も絶妙です。帝からの求婚場面の後しばらくは、とにかく目が釘付けです。

 疑問もありました。
 5人の貴公子の話です。
 製作スタッフの皆様には申し訳ないのですが、あまりにも詰まらなくて、つい瞼がくっつき、睡魔から逃れるのに大変でした。少し微睡んだようです。

 ここは、どのような趣向があるのだろう、と期待していました。しかし、それがあまりにもありきたりで、本当に失望しました。
 3人の話でも充分だったと思います。なぜ5人の話にして、わざわざ退屈にしたのか。
 教育関係者に配慮せざるを得ない裏事情でもあったのでは、と邪推したくもなります。
 今はその真意を理解できないままにいます。

 また、捨丸の存在は中途半端でした。なぜ捨丸に結婚をさせ、子供までいる設定にして、かぐや姫と邂逅させたのでしょうか。私には、その俗悪趣味がよく理解できません。
 そのような人物設定にしておいて、最後にかぐや姫と一緒にどこまでも逃げようとします。
 結婚をせず、子供もいない男としなかったのはなぜなのでしょうか。
 これも、教育関係者と妥協した引き替えに強引に残した、という穿った見方をしたくなります。

 このあたりは、ご覧になった多くの方が、気持ちの中にシコリとして残ったはずです。

 制作者側には、それなりの意味をもたせてのことなのでしょう。
 なぜこんな成り行きにしたのかという点については、また後日の楽しみとしておきます。

 そうは言っても、現代の文明社会への厳しい目と、自然への眼差しの優しさが伝わってきたのが、この映画の一番のよさでしょう。特に、若い方々へ、日本的な心情と文化と風物のすばらしさを伝えようとしていると思います。

 また、最後に、かぐや姫を迎えに来る阿弥陀さまの一群が、紫雲と共に降りてくるシーンも圧巻でした。何と言っても、そのバックグラウンドミュージックが軽快でおしゃれなのです。心浮き立つメロディーの中で、阿弥陀さまの無表情さが気に入りました。

 細かな点では、なぜ? が多い映画でした。
 しかし、全体としてはよくできた作品だと思います。
 
 

2013年7月28日 (日)

展示期間が延長された「いろは歌」を記した土器

 今出川通大宮東入にある京都市考古資料館は、いつでもブラリと入れる場所です。
 
 
 
130728_koukom
 
 
 

 そして、資料の写真撮影を認めている所なので、写真を仲間に見せたりして情報を共有しやすくなっています。これは非常にいいことで、開かれた資料館として高く評価すべきだと思います。海外の博物館などでも、撮影は自由なところが多くなっています。
 
 
 
130728_satuei
 
 
 

 こんなものが出てきたんだよ、と一人でも多くの方々に写真を見せて語れることは、文化財のありようからも意義深いことです。
 日本の文化財は、光に微妙に反応するものが多いので、フラッシュなどの影響を受けやすいものもあります。しかし、すべてを閉め出すことはないと思います。これは、展示側の問題意識によることになります。学芸員の資格を持っている立場から、いろいろと言いたいことはあります。しかし、それはまたいつか。

 まずは2階で、白河天皇陵で発掘された和琴をしばらく見入ってしまいました。ガラスケースの最下段に横長の姿で展示されています。
 これは、鳥羽殿の儀式で用いられたものと思われ、裏板がないことから壊れたために廃棄されたものだとされています。
 
 
 
130728_wagon
 
 
 

 檜の一枚板に6本の弦を張ることができ、尾部に柏葉形の切り込みの装飾があります。長さ151センチ、幅24センチ、高さ7センチの大きさです。『源氏物語』にも出て来る和琴のことを思いながら、贅沢な時間を独占することができました。どのような音色が響きわたり、どのような奏法で演奏されたのでしょうか。

 1階では、お目当ての「いろは歌」が書かれた土器を見ました。

 平安時代前期の西三条大臣・藤原良相(813〜867)の「西三条第」(百花亭)の跡地から見つかった「ひらがな」が書かれた土器のことは、【1-古典文学】「土器に書かれたひらがなをどう読むか」(2012/11/30)で詳細に記しました。

 今回の展示に関する京都新聞の記事を引きます。


いろは歌、最古の「全文」土器の墨書確認 中京・堀河院跡

 京都市埋蔵文化財研究所は27日、平安京にあった堀河院跡(京都市中京区堀川通御池北東)で1983年に発掘した土器の小皿を再調査した結果、平仮名でほぼ全文がそろっている「いろは歌」の墨書を確認した、と発表した。市埋文研によると、平安時代末期(12世紀末)から鎌倉時代初期(13世紀初め)の土器で、ほぼ全文が残るいろは歌では国内最古。当時の都における仮名の基準史料となる。
 市埋文研によると、小皿は土師(はじ)器と呼ばれる素焼きで、直径9センチ、高さ1・5センチ。いろは歌の47文字のうち、皿の欠けた部分が「く」「え」「て」「ゆ」の4文字分あるが、他はほぼ全文書いてある。皿の右端から順番に書かれている。徐々に余白がなくなり、最後の行「ゑひもせす」は右端の余白に戻って書いてある。
 誰の文字かは不明だが、太めの文字でバランスが悪く、市埋文研は、初心者が手習いのために書いた可能性があるとみている。
 小皿は、現在のANAクラウンプラザホテル京都敷地内で、平安京左京三条二坊九町にあたる堀河院跡の井戸から出土した。
 いろは歌は、10世紀末から11世紀中ごろに成立したとされる。いろは歌が書かれた墨書土器では、三重県明和町の斎宮跡から国内最古となる11世紀末〜12世紀初めの土器の一部が昨年に確認されている。今回の土器はほぼ全文が確認できる史料としては唯一となる。
 墨書土器は29日から7月28日まで市考古資料館(上京区)で公開する。(京都新聞、2013年06月27日)


 
 
 
130728_hiragana
 
 
 
 上の写真の右側は、赤外線スキャナーによる画像です。
 現在は、次のようなかたちで展示されています。
 
 
 
130728_irohadoki1
 
 
 

 この展示は今日7月28日まででした。しかし、この「いろは歌」が人気で、家族連れが多いことから、8月1日まで展示を延期することになったそうです。

 「いろは歌」は親しみがあるためでしょうか。6月29日の展示初日(土)の来館者は146人。翌日の日曜日が160人。通常の週末は100人ほどなので、いつもの1倍半と人気の展示となっているのです。

 土器に書かれ文字の右上にある「ゑ」などは、皿の口の歪んだ部部とはいえ、どう見ても下手です。ひらがなを書き慣れない人の手になるものと思われます。
 今でも、この「ゑ」を書くのが苦手な方や、学生たちの中には書けないという者まで、ひらがなの中でも「ゐ」と共に悩ましい仮名文字となっています。

 この皿が発掘された堀河院は、平安時代前期の藤原基経の邸宅があったところです。平安時代の中期の藤原兼通の頃には、円融天皇がここを最初の里内裏としています。後期には、堀河天皇が里内裏とし、ここで亡くなっています。
 その後には、中宮篤子、令子内親王、久我通具がここに住んでいました。

 この土器により、平安時代末期から鎌倉時代初期(12C末〜13C初)にかけて書かれた「いろは歌」の現存最古のかな文字の実態がわかりました。かなの字母にも興味深いものがあります。

 この「ひらがな」を見ると、日本語の文字について、あらためて見直すことになります。一人でも多くの方が、この9センチほどの1枚の皿をご覧になったらいいと思います。1000年もの長きにわたって伝えられ、今も日常的に使っているかな文字について、この土器から新鮮な気持ちを感じ取るのもいい機会になることでしょう。

 なお、入口右の特別展示コーナーでは、「平安貴族の住まいと暮らし」という展示もなされています。ここに、昨年公開された「西三条第」の跡地から見つかった「ひらがな」が書かれた土器が展示されています。また、斎宮邸の庭園や出土土器なども、興味を惹きます。
 この展示は、今年の12月1日まで開催されています。

 資料館への入館は無料です。月曜日は休館です。
 
 
 

2013年6月 6日 (木)

古典籍の調査に関する2人の講演

 今日は国文学研究資料館で、国文学文献資料調査員会議がありました。

 日本の古典藉に関して、全国に散在するそのすべてを調査し、さらにフイルムやデジタルの画像として収集するのが、国文学研究資料館の大きな仕事です。これは一般に公開されているので、全国各地の所蔵先に足を運ばなくても、立川に来れば多くの典籍や資料が画像として確認できるのです。これは、計り知れない恩恵を、研究者をはじめとする多くの方々に提供しているのです。

 この悉皆調査のために、全国にたくさんの調査員の先生方がおいでになります。そのみなさまが年に一度集まり、調査の確認と情報交換をするのです。北海道から九州までの各大学や機関の先生方80人がお集まりでした。

 担当する地域の先生方との打ち合わせを終えると、後半は講演会です。
 今回は、専門的で硬い題目が並んでいました。しかし、私はこれを楽しみにしていました。

 落合博志先生(国文学研究資料館)は「仏書から見る日本の古典籍」という題で、古典藉の本の形態や装訂に関するお話でした。特に、あくまでも仮称だとしながらも「双葉装」というものに関する話は、おもしろく聞きました。糊を使っている粘葉装によく似てはいても、糊ではなくて糸や紙縒りで綴じた本のことです。「折紙双葉装」については、実際に紙を折ってその仕組みを体験できました。

 堀川貴司先生(慶應義塾大学付属斯道文庫)は「漢籍から見る日本の古典籍─版本を中心にして─」と題する講演で、紙に印字されている文字を中心とした話でした。図版を多用しての話だったので、よくわかりました。
 今回の話で、古典籍に見られるルビの問題は、私がいままで注意していなかっただけに、そのありようがおもしろいものだと再認識しました。『源氏物語』でも、異文注記なのか読み仮名なのか、私はこれまであいまいなままで処置してきました。写本などにおける本文書写の伝承なのか、写本を読む上での補助的性格のルビなのか、今後はよく実態を見ていきたいと思います。

 私自身が不勉強なために持ち合わせていない知識を、こうした機会に補うことになります。さらには、視点を変えて考えさせてもらえるのです。今日もいいヒントをたくさんいただけました。ありがたいことです。
 
 
 

2013年6月 1日 (土)

館長科研の研究会で研究報告

 今西祐一郎・国文学研究資料館館長の科研研究で、本年度第1回目の研究会が昨日ありました。
 プログラムは以下の通りでした。


(1)〈ご挨拶〉今西祐一郎
(2)相田満「知識の基層をなす漢字オントロジをめぐる考察と分析─『古事記』の場合─」
(3)阿部江美子「国文研蔵『夫木和歌抄』の写本・版本・濱口本の漢字・かな使用比率について(和歌)」
(4)伊藤鉄也「国文研蔵『夫木和歌抄』の写本・版本・濱口本の漢字・かな使用比率について(詞書・左注)」
(5)阿部江美子「榊原本の漢字・かなの使用比率」
(6)阿部江美子「榊原本の影印本とウエブ版における欠脱画像について」
(7)阿部江美子・淺川槙子・伊藤鉄也「なんでも鑑定団に出品された『源氏物語』の本文」

 相田先生の発表は、『古事記』と『千字文』をめぐる漢字の使用に関する発表でした。膨大な資料を駆使しての、詳細な研究の成果です。

 阿部さんと私は、『夫木和歌抄』における写本・版本・濱口本相互の漢字・かなの使用比率を調査したことを踏まえ、その結果を報告しました。これは、この研究会ではこれまでに『源氏物語』を中心とした物語の文字を扱ってきたので、今度は和歌の傾向をみようとしたものです。
 文字の使用比率の調査に関しては、神田久義君が作成したエクセルのマクロを活用しています。
 『夫木和歌抄』の本文は、「国文学研究資料館の本文共有化のプロジェクト」が刊行した、『平成17年度研究成果報告書 夫木和歌抄データベース[DVD]』(平成18年3月、国文学研究資料館)所収のデータを活用しました。

 これまでの本科研での調査結果では、鎌倉時代から室町時代にかけては漢字よりもかなが多く用いられていることが、すでに何度も確認されています。古い写本では、漢字が2割前後という傾向が顕著でした。室町から江戸時代の版本になると、それが逆転して、漢字が8割にものぼります。そして、江戸時代の後期の版本では、また漢字の使用比率が低くなるのです。

 今回の調査では、『夫木和歌抄』もほぼ同じ結果でした。ただし、和歌の部分はそうであっても、左注に関しては、室町時代に写されたと思われる写本の濱口本だけは、漢字とかながほぼ同じ比率を示したのです。この特殊な現象に関する原因や理由は、まだわかりません。今後とも、調査を進めていきたいと思います。

 最後に、先日のテレビ「なんでも鑑定団」(平成25年5月21日放送)に出品された『源氏物語』の本文に関して、それが日本大学蔵の三条西家証本にほぼ一致するものであることを報告しました。
 これは、テレビに映し出された写本の本文部分を、手持ちの本文データベースに当てはめて確認したものです。テレビ画面に映し出された写本の墨付き部分の映像をもとに、「桐壺」「帚木」「朝顔」「柏木」「鈴虫」を、研究仲間の淺川槙子さんが丹念に読み取った資料が、その基になっています。

 この日大本とテレビで紹介された『源氏物語』の本文を校合した結果を、淺川さんが次のようにまとめてくれました。昨日の研究会では時間の関係で、この資料は提示しませんでした。記録として、ここに掲載します。

 この番組を録画なさっていた方で、以下の翻字の不備に気づかれた方は、ぜひお知らせいただければ幸いです。


■「なんでも鑑定団に出品された『源氏物語』の本文について」淺川槙子■

 ☆三条西家本との比較

 上段の【な】が鑑定団に出た本、下段の【三】が日本大学蔵三条西家本。
 三条西家本は『影印資料 日本大学蔵源氏物語』(八木書店、1994年)を使用した。
 漢字とかなの違いは[ ]で、異文や表記の違いは《 》で表示した。

---------------------------------------------------------------------
 「桐壺」

◎冒頭一丁オ
①【な】いつれの御時にか女御更衣あまたさふ
 【三】いつれの御時にか女御更衣あまたさふ

②【な】らひ給けるなかにいとやむことなきゝ
 【三】らひ給けるなかにいとやむことなきゝ

③【な】はにはあらぬかすくれてときめき給ふ
 【三】はにはあらぬかすくれてときめき給ふ

④【な】ありけりはしめよりわれはとおもひあか
 【三】ありけり・はしめよりわれはとおもひあか

⑤【な】り給へる御かた/\めさましきものに
 【三】り給へる御かた/\めさましきものに

⑥【な】をとしめそねみ給おなしほとそれより
 【三】をとしめそねみ給おなしほとそれより

⑦【な】下らうの更衣たちはましてやすから
 【三】下らうの更衣たちはましてやすから

⑧【な】すあさゆふのみやつかへにつけても人
 【三】すあさゆふのみやつかへにつけても人

⑨【な】の心をうこかしうらみをおふつもりに
 【三】の心をうこかしうらみをおふつもりに

⑩【な】やありけ《ん》いとあつしくなりゆき物
 【三】やありけ《む》いとあつしくなりゆき物

---------------------------------------------------------------------
 「帚木」

 五月雨の夜の宿直に、女の品定めが始まる場面「右のおとゝのいたはりつゝかしつき給ふすみかはこの君もいとものうくしてすきか」の後から。

◎見開き一枚目
①【な】ましきあた人なりさとにてもわかかたの
 【三】ましきあた人なりさとにてもわかかたの

②【な】しつらひまはゆくして君のいて
 【三】しつらひまはゆくして君のいて

③【な】入し給にうちつれきこえ[たまひ]つゝ
 【三】入し給にうちつれきこえ[給]つゝ

④【な】よるひるかくもむをもあそひをもも
 【三】よるひるかくもむをもあそひをもも

⑤【な】ろともにしてをさ/\たちをくれ
 【三】ろともにしてをさ/\たちをくれ

⑥【な】すいつくにてもまつはれきこえ[給]ふ
 【三】すいつくにてもまつはれきこえ[たま]ふ

⑦【な】ほとにをのつからかしこまりもえをか
 【な】ほとにをのつからかしこまりも《え》をか
        (「え」ヲ見せ消ちノ後「本無」)

⑧【な】す心のうちにおもふことをもかくしあ
 【三】す心のうちにおもふことをもかくしあ

⑨【な】へすなんむつれきこえ給けるつれ/\と
 【三】へすなんむつれきこえ給けるつれ/\と
 
⑩【な】ふりくらしてしめやかなるよひの雨に
 【三】ふりくらしてしめやかなるよひの雨に

◎【次の丁】
①【な】殿上にも《お》さ/\人すくなに御とのゐ所
 【三】殿上にも《を》さ/\人すくなに御とのゐ所

②【な】もれいよりはのとやかなる心ちするに
 【三】もれいよりはのとやかなる心ちするに

③【な】おほとなふらちかくてふみともなと[み]
 【三】おほとなふらちかくてふみともなと[見]

④【な】給ちかきみつしなる色々のかみなる
 【三】給ちかきみつしなる色々のかみなる

⑤【な】ふみともをひきいてゝ中将わりなくゆ
 【三】ふみともをひきいてゝ中将わりなくゆ

⑥【な】かしかれはさりぬへきすこしは[み]せん
 【三】かしかれはさりぬへきすこしは[見]せん

⑦【な】かたはなるへきもこそとゆるし給はね
 【三】かたはなるへきもこそとゆるし給はね

⑧【な】はそのうちとけてかたはらいたしと
 【三】はそのうちとけてかたはらいたしと

⑨【な】おほされんこそゆかしけれをしなへたる
 【三】お《ほ》されんこそゆかしけれをしなへたる
    (「ほ」ノ後ニ「しめ」ト補入)

⑩【な】おほかたのはかすならねとほと/\に
 【三】おほかたのはかすならねとほと/\に

◎見開き二枚目
 頭中将の言葉である、「女の『これはしも』と、難つくまじきは難くもあるかな」と、やう/\なん、見給へ」の後から。

①【な】しるたゝうはへはかりのなさけにてはし
 【三】しるたゝうはへはかりのなさけにてはし

②【な】りかきおりふしのいらへ《は》心えてうちし 
 【三】りかきおりふしのいらへ心えてうちし

③【な】なとはかりすいふんによろしきもおほ 
 【三】なとはかりすいふんによろしきもおほ

④【な】かりと見給ふれとそもまことにそのかた
 【三】かりと見給ふれとそもまことにそのかた

⑤【な】をとりいてんえらひにかならすもるまし
 【三】をとりいてんえらひにかならすもるまし

⑥【な】きはいとかたしやわか心えたることはか
 【三】きはいとかたしやわか心えたることはか

⑦【な】りを[を]のかしゝ心をやりて人をはおと
 【三】りを[お]のかしゝ心をやりて人をはおと

⑧【な】しめなとかたはらいたき事おほかりおや
 【三】しめなとかたはらいたき事おほかりおや

⑨【な】なとたちそひもてあかめておひさき
 【三】なとたちそひもてあかめておひさき

⑩【な】こもれる[まと]の中なる[程]はかたかと
       (「まと」ニ合点アリ)
 【三】こもれる[窓]の中なる[ほと]は《たゝ》かたかと

◎【次の丁】
①【な】きゝつたへて心をうこかすこともあめ
 【三】きゝつたへて心をうこかすこともあめ

②【な】りかたちをかしくうちおほときわかや
 【三】りかたちをかしくうちおほときわかや

③【な】かにてま《か》るゝ事なき程はかなきすさ
 【三】かにてま《き》るゝ事なき程はかなきすさ

④【な】ひをも人まねに心をいるゝこともあるに
 【三】ひをも人まねに心をいるゝこともあるに

⑤【な】をのつからひとつゆへつけてしいつる事も
 【三】をのつからひとつゆへつけてしいつる事も

⑥【な】ありみる人をくれたるかたをはいひかく
 【三】ありみる人をくれたるかたをはいひかく

⑦【な】しさてありぬへきかたをはつくろひて
 【三】しさてありぬへきかたをはつくろひて

⑧【な】まねひいたすにそれしかあらしとそら
 【三】まねひいたすにそれしかあらしとそら

⑨【な】にいかゝはをしはかり思くたさんまことかと
 【三】にいかゝはをしはかり思くたさんまことかと

⑩【な】[み]もてゆくにみをとりせぬやうはなく
 【三】[見]もてゆくにみをりせぬやうはなく

---------------------------------------------------------------------
 「朝顔」

◎冒頭 一丁オ
①【な】齋院は御ふくにておりゐ[給]にき
 【三】齋院は御ふくにておりゐ[たまひ]にき

②【な】かしおとゝれいのおほしそめつる[事]
 【三】かしおとゝれいのおほしそめつる[こと]

③【な】たえぬ御くせにて御とふらひなと
 【三】たえぬ御くせにて御とふらひなと

④【な】いとしけう[聞]え[給]宮わつらはし
 【三】いとしけう[きこ]え[たまふ]宮わつらはし

⑤【な】かりし事をおはせは御[かへり]も[打]と
 【三】かりし事をおはせは御[返]も[うち]と

⑥【な】けてきこえ給はすいとくち
 【三】けてきこえ給はすいとくち

⑦【な】おしとおほしわたる[九月]になりて
 【三】おしとおほしわたる[なか月]になりて

⑧【な】[桃]その《の宮》にわたり《に》給《ひ》ぬるを
 【三】[もゝ]その《ゝ宮》にわたり給ぬるを

⑨【な】聞て女五の宮そこにおはすれは
 【三】きゝて女五の宮《の》そこにおはすれは

⑩【な】そなたの御とふらひにことつけて
 【三】そなたの御とふらひにことつけて

---------------------------------------------------------------------
 「柏木」

◎冒頭 一丁オ
①【な】えもんのかんの君かくのみなやみ
 【三】えもんのかんの君かくのみなやみ

②【な】わたり給[事]猶をこたらてとしも 
 【三】わたり給[こと]猶をこたらてとしも

③【な】かへりぬおとゝきたのかたおほし
 【三】かへりぬおとゝきたのかたおほし

④【な】なけくさまを[見]たてまつるに
 【三】なけくさまを[み]たてまつるに

⑤【な】しゐてかけはなれな《む》いのちのかひ
 【三】しゐてかけはなれな《ん》いのちのかひ

⑥【な】なくつみおもかるへき事を[おも]ふ
 【三】なくつみおもかるへき事を[思]ふ

⑦【な】心は[心]としてまたあなかちにこの
 【三】心は[こゝろ]としてまたあなかちにこの

⑧【な】世にはなれかたくおしみとゝめま
 【三】世にはなれかたくおしみとゝめま

⑨【な】ほしき身かはいはけなかりしほと
 【三】ほしき身かはいはけなかりしほと

⑩【な】より[思]ふ心ことにてなに事をも人
 【三】より[おも]ふ心ことにてなに事をも人

---------------------------------------------------------------------
 「鈴虫」

◎冒頭 一丁オ
①【な】なつころはちすの花のさかりに入道の
 【三】なつころはちすの花のさかりに入道の

②【な】姫[宮]は御ち仏ともあらはし給へるくや
 【三】姫[みや]は御ち仏ともあらはし給へるくや

③【な】うせさせ《給》このたひは《お》とゝの[君]の
 【三】うせさせ《給ふ》このたひは《を》とゝの[きみ]の

④【な】御[こゝろ]さしにて御ねんすたうのく
 【三】御[心]さしにて御ねんすたうのく

⑤【な】ともこまかにとゝのへさせ[給]へるをや
 【三】ともこまかにとゝのへさせ[たま]へるをや

⑥【な】かてしつらはせ《給》はたのさまなと
 【三】かてしつらはせ《たまふ》はたのさまなと

⑦【な】なつかしう[心]ことなるからの錦を
 【三】なつかしう[こゝろ]ことなるからの錦を

⑧【な】えらひぬはせ[給]へりむらさきの[上]そいそ
 【三】えらひぬはせ[たま]へりむらさきの[うへ]そいそ

⑨【な】きさせ給ける[花]つくえのおほひなとの
 【三】きせさせける[はな]つくえのおほひなとの
  (前カラ二文字目「せ」ノ後ニ「給」ト補入)

⑩【な】をかしきめそめもなつかしうきよら
 【三】をかしきめそめもなつかしうきよら

 
 その後、立川駅前で懇親会がありました。いつものように10名以上もの参加者で、日頃はあまり突っ込んだ話ができないこともあり、こうした場では貴重な情報交換ができます。

 懇親会を散会した後、私は立川駅前から夜行バスで京都へ向かい、今朝、京都駅前に着きました。
 自宅に帰る前に、下鴨神社へお参りをしました。

 下鴨神社は私の大好きなところです。ご町内下鴨の氏神さまということもあり、散策の途次によく立ち寄ります。本殿と干支の社をお参りしています。
 今朝も、NPOのことや、現在編集を進めている数冊の本のことなど、いろいろと神さまに報告しました。賀茂の御祖の神さまに、どこまで伝わっているのかはともかく、何でも理解して見守ってくださる神さまだと思っているので、こうしてフラリと来ては手を合わせています。

 早朝の境内には、数人しか人がいません。
 朝日を浴びる楼門は、気持ちを覚醒させてくれます。
 
 
 

130601_roumon_2
 
 
 

 楼門の脇に建つ橋殿の下には、みたらし池から奈良の小川に注ぐ水面に、かすかに回廊の塀が映っていました。
 
 
 

130601_hasidono
 
 
 

 みたらし池の前に架かる輪橋は、尾形光琳の絵のモデルになった梅で有名です。
 これも、私の好きな風景です。
 
 
 

130601_sorihasi
 
 
 

 境内をぐるりと左回りに見て、帰り路の西方向左側に舞殿・神服殿・鳥居が、右手に授与所・葵生殿(結婚式場)が見えます。
 ここに来ると、昨年の3月、娘たちの結婚式の折、この葵生殿に入る直前に雨が奇跡的に上がったことを思い出します。
 
 
 

130601_maidono
 
 
 

 相変わらず慌ただしい日々です。
 しかし、こうして充実した毎日が送れることに、ありがたいことだと感謝しています。
 
 
 

2013年5月21日 (火)

『和泉式部日記』に関する研究ノート

 国文学研究資料館の広報誌である『国文研ニューズ No.31 SPRING 2013』(平成25年5月10日発行)に、私の研究ノートとして「『和泉式部日記』の本文異同への新視点 ─傍記混入から見えてくるもの─」が掲載されました。最近興味を持って資料を集め、本文を繰り返し読んで考えていることの一つを提示しています。ここでは、傍記混入の一例に限定し、具体的に画像を挙げて整理をしました。
 
 
 
130521_news311_2
 
 
 
130521_news312
 
 
 
130521_news313
 
 
 

 これは、昨秋開催された「第15回国文研フォーラム」(平成24年11月21日)で研究発表した内容を広く知っていただくために、その要点を平易にまとめたものです。
 ただし、お恥ずかしいことに、1文字の誤植があります。それは、後半に4枚の影印画像があるところで、右から2番目の画像の下に付したキャプションで、【応永本(一九丁裏一行目)】とある文字の中の頁数を示す「一丁」は、実は「一丁」の間違いなのです。ここに明記して訂正します。

 当日の内容は、本ブログ「『和泉式部日記』に関する研究発表をしました」(2012年11月21日)で報告した通りです。こちらも、ご参照いただければ幸いです。

 なお、今号の表紙に掲載された『源氏物語』の写本については、背表紙に次の説明がなされています。


表紙絵資料紹介
〔源氏物語〕(当館蔵)
存45巻。〔紫式部〕作。天文16年写。大本45帖。
縦28,2糎×横19,0糎。標色表紙改装。中央上に金銀下絵入りの原題簽を貼り、「はゝき木」「末つむ花」などと巻名を記す。料紙は斐楮混ぜ漉き。列帖装。一部の帖は補写。「①桐壼」「③空蝉」「⑤若紫」「⑩賢木」「⑱松風」「㊱柏木」「㊴夕霧」「㊷匂宮」「(54)夢の浮橋」の九帖を欠く。補写を除く帖に「天文十六年〈丁/未〉正月二十五日/蒲池近江守鑑盛(花押)/右筆以泉(花押)」との奥書を有する。  (神作研一)

 国文学研究資料館には、数多くの古写本があります。ぜひ、立川まで足を運ばれ、鎌倉時代や室町時代、そして江戸時代の写本を自分の手にとって、じっくりと見てください。
 写し伝えられてきた写本には、それを写した人の息づかいと共に、その背後にある文化などが五感を通して伝わって来ます。
 一般には、現代の研究者によって統一的に整理された、活字の校訂本文だけで読む傾向にあります。しかし、現代版の異文での受容だけではなくて、こうした古写本でその原典の姿を確認する中で、時の流れや人の手を経て今にある古典文学のさまざまな本文を読む、文献学に立脚した受容もあります。いろいろな経緯で伝えられて来ている多種多様な本文を、薄皮を捲るように丁寧に読み解く若い方々が増えることを楽しみにしています。
 
 
 

2013年5月 2日 (木)

茶道資料館で香道具を見たあと筒井先生にお目にかかる

 裏千家 今日庵の茶道資料館で開催中の、春季特別展「永青文庫所蔵香道具展」に行きました。これは昨日に続き、大学院生の武居雅子さんとご一緒でした。というよりも、香道と茶道の先生をなさっている武居さんに、初学者である私がご教示いただきながら観た、と言った方が的確です。
 武居さんに詳細な説明をしていただきながら、細川家に伝わる秘蔵の数々を拝見しました。いい勉強の機会となりました。また、茶道と香道の接点についても、認識をあらためる場ともなりました。

 一番記憶に残ったものは、「香木 銘 白菊」のどっしりとした姿です。
 また、十種香と盤物についても、実物を見ることで理解が深まりました。
 何でもかんでも聞きながらの観覧でした。武居さん、ありがとうございました。

 呈茶席で柏餅と薄茶をいただいた後、茶道資料館の副館長をなさっている筒井紘一先生と親しくお話をすることができました。筒井先生は、京都造形芸術大学で武居さんの博士課程前期(修士)の指導教授だった方でもあります。武居さんは、今は総合研究大学院大学の博士課程後期(博士)に進まれ、私が所属する国文学研究資料館の学生です。筒井先生は「私を蹴って貴方の所へ行った」と、笑いながら冗談をおっしゃっていました。
 筒井先生は今日庵文庫の文庫長もなさっており、その幅広い活動と研究の成果であるご著書については、また後日ここに記します。

 現在、香道に関する勉強会を予定しておられるとのことでした。私が『源氏物語』の勉強をしているということから、武居さんと一緒にどうですか、というお誘いを受けました。
 聞くところによると、三条西堯水氏(御家流香道宗家)や山田英夫氏(山田松香木店社長)などがご参加とのことです。香道に留まらず、多くのことが学べそうなので、よろしくお願いします、とありがたく参加したい気持ちをお伝えしました。
 さらには、その内容について検討中とのことだったので、武居さんの博士論文にも直結する大枝流芳について、候補の1つにしていただくことをお願いしました。
 さて、この話はどのように展開していくのでしょうか。大いに楽しみです。

 帰りに、山吹越しに如意ヶ岳の大文字がきれいに見えました。
 
 
 

130502_daimonji
 
 
 

 賀茂川には、オレンジのひなげしが菜の花に混じって咲いています。
 
 
 
130502_kawara
 
 
 

 まだ肌寒い日々ではあっても、確実に初夏に向かっていることが、目や耳や鼻を通して実感として身体に伝わってくるようになりました。
 
 
 

2013年5月 1日 (水)

同志社大学でお香談義

 国文学研究資料館が基盤機関となっている総合研究大学院大学文化科学研究科日本文学研究専攻に、昨春より香道と文学をテーマとして研究を志す学生さんが入学されました。それ以来、私にも香道に関する興味が湧いてきました。
 お茶のお稽古を始めたことと、聞香で2回も当たった(?)、というのも、そのきっかけと言えるかも知れません。

 大学院生になられた武居雅子さんは、香道と茶道の先生でもあります。その武居さんの研究論文が、「「源氏千種香」の依拠本を探る」と題して、みごとな成果を上げました。

 その流れの中で、同志社大学の矢野環先生ご所蔵の『源氏千種香』が閲覧できることになったのです。

 今日は、同志社大学の岩坪健先生の研究室で、その本を拝見する機会を得ました。当の武居さんはもちろんのこと、私もいい勉強をさせていただきました。

 この本については、「千種香の会」という研究会が作られていて、科研基盤(C)研究「伝統文化形成に関する総合データベースの構築と平安朝文学の伝承と受容に関する研究」の一環として、すでに研究が進められています。その活動の一端を、見せていただき、詳しいお話を伺うことができたのです。

 その詳細は、今後とも武居さんが論文の形で発表していくことになります。
 矢野先生のグループも、活動の成果として今秋には報告書が刊行されるようです。

 岩坪先生の研究室で3時間近く、いつ終わるとも知れないお香に関する談義をしました。

 その後、冷泉家の裏を通って今出川通りに出た時、京都御所の北側からきれいな虹が空に懸かっているのが、目に飛び込んで来ました。みごとな風景でした。
 
 
 
130501_niji
 
 
 

 虹を見ながら、懇親会場へと向かいました。
 場所は、寺町通りにある「よしくら」でした。
 
 
 
130502_yosikura
 
 
 

 おいしい京会席をいただきながら、また3時間以上も、お香を中心とした話に花が咲きました。
 今日は、お香三昧の1日となりました。
 
 
 

2013年4月22日 (月)

土器に書かれた日本最古の平仮名

 昨秋、本ブログの「土器に書かれたひらがなをどう読むか」(2012年11月30日)という記事で、9世紀後半の土器片に書かれたひらがなのことを報告しました。

 私は、画数の多い「漢字」がたくさん書写された、江戸時代を中心とした文献資料を読むのは苦手です。しかし、どこまでが1文字か悩ましい「ひらがな」を中心とした鎌倉時代の『源氏物語』の写本などは、目の前にすると心躍る気持ちを抑えられません。
 さらには、一度書いた文字を竹や金属のヘラなどで削ったり、文字を上からなぞたりして書き直してある箇所などに出くわすと、もう血が騒ぎます。その最初に書かれた、読めないようになっている文字を推測することに、無上の喜びを感じてジッと何時間でも見つめてしまいます。
 重要文化財となっている大島本『源氏物語』の調査をさせていただいた時などで、80倍に拡大できる顕微鏡などを使い、削られた繊維の屑の流れなどから、下に書かれていた文字を解読できたときなどは、言い知れぬ爽快感が身体中に込み上げてきました。

 ひらがなは、奥深い謎を秘めています。先般発掘された土器に関して、その責任者である丸川義広氏が、直接の当事者としてお話をなさる公開講座が開催されます。
 本来なら私もかけつけてお聞きするところです。しかし、あいにくこの開催日の6月22日は、鳥取県の日南町で池田亀鑑賞の授賞式があり、私はこの東京での講演を拝聴することができません。

 以下にその案内とポスターを掲載しますので、これをお聞きになった方からの報告をお待ちします。
 
 
 
130422_poster
 
 
 


専修大学人文科学研究所公開講座
日時 2013年6月22日(土)13時半より
場所 専修大学神田校舎303教室
「平安京右京三条一坊六町、藤原良相邸の調査」
 京都市埋蔵文化財研究所 統括主任 丸川義広氏
 
開会の言葉:
 良相邸出土墨書土器が語るもの 専修大学人文科学研究所 所長 小山利彦
総括:藤原良相の周辺     専修大学文学部 教授  荒木敏夫

 2012年11月29日三大新聞を含めて大活字の見出しが踊った。
 「9世紀後半 土器に墨書」「最古級の平仮名発見」「宴で歌い器につづる」などである。
 平安京跡から平安時代の有力貴族・右大臣藤原良相(よしみ)邸百花亭跡が京都市埋蔵文化研究所によって発掘された。
 それは歴史学・日本文化史・日本文学史における一大発見である。
 発掘責任者である丸川義広氏をお招きして、その重大史料を東京でも紹介して戴く貴重な機会である。
 
申込み方法:
 ご住所、お名前を明記のうえ、「人文科学研究所公開講座申込み」と題して、電子メール・ファックス・郵送のいずれかにてお申し込みください。
 定員超過の場合のみご連絡させていただきます。
 〒214-8580 川崎市多摩区東三田2-1-1 専修大学人文科学研究所
 Tel:044-911-1090 Fax:044-900-7836
 E-Mail:jinbun@isc.senshu-u.ac.jp

お問い合わせは、人文科学研究所まで電子メールでお願いします。


 
 
 

2013年4月13日 (土)

若手に古典文学研究の場を提供すること

 今年の新年5日に書いた本ブログ「王朝文学研究会創立50周年記念祝賀会」で、日本の古典文学研究に取り組む若い学生たちの頼もしい姿を紹介しました。

 その時に進行していた企画、『王朝文学研究会発足五十周年記念 志能風草(復刊)創刊号』が、300頁ものボリュームで先日発行されました。ズッシリとした手応えを感じます。
 
 
 
130412_sinobugusa
 
 
 

 この記念誌には、37名の論稿が収載されています。12名は大学院生以上の研究者です。しかし、それ以外の25名は、学部の学生なのです。これには驚きました。

 学部1年生が10名、2年生が3名、3年生が2名、4年生が10名です。
 この研究会を継承して指導している秋澤亙先生の成果であるとともに、若い学生にこのような発表の場を用意できたことが、何よりも大きな収穫となっています。

 4年生のうちの5人が大学院に進学したようです。『志能風草』の奥付けにある編集委員の前から5人です。その内の2人が、昨日の私の授業に顔を出していました。しかも、この記念誌の編集を担当したとのことです。慌てて読み返しました。しっかりした論稿となっています。
 若者の成長を間近に見る機会が得られ、今後がますます楽しみになりました。

 国内では全国的に文学部そのものが衰退し、日本文学の中でも古典文学に関しては、若者たちから顧みられなくなって久しい、と言われています。しかし、今この目の前で展開している現状はどういうことなのか、あらためて周辺の様子が知りたくなりました。
 若者たちが、日本の伝統的な文学や文化に目を向け出したのでしょうか。
 しばらく、あたりを見渡して情報を集めることにします。

 以下に、記念誌『志能風草』の目次を拾っておきます。
 ここに私は、手書きのガリ版刷りで印刷した『しのぶ草 第2号』(昭和50年3月刊)に寄せた、拙いものを再録という形で掲載させてもらいました。大学4年生の時の原稿なので、今回の記念誌に収録されている今の4年生の論稿と、つい見比べてしまいます。みんな立派な考察を展開しているので、冷や汗ものの参加となりました。逞しい若者たちの諸論の後にでも、ご笑覧いただければ幸いです。


『志能風草(復刊)創刊号』 目次
 
巻頭言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・池田憲昭
(1) 『源氏物語』の皇女 ―「女源氏の物語の視点から」―・・・・・・・秋澤 亙
(2) 玉鬘巻の霊験について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・井出 寿明
(3) 『百人一首』九十五番歌考・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・奥田 欣生
(4) 逢坂の関の秋の情景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・小出 健太郎
(5) 『竹取物語』石上麿足の役割・・・・・・・・・・・・・・・・・・高橋 慧丞
(6) 『拾遺集』八七〇番歌の解釈について・・・・・・・・・・・・・中安 奈樹沙
(7) 源典侍の「まみ」「まかは」・・・・・・・・・・・・・・・・・橋本 誠太郎
(8) 『紫式部集』冒頭歌考・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・廣澤 彰子
(9) 猫と人との関わり ―『更級日記』を中心に―・・・・・・・・・・福沢 孝子
(10)『源氏物語』空蝉巻巻末歌考・・・・・・・・・・・・・・・・・・藤本 千織
(11)明石の君と花橘・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・矢野 遼
(12)『古今和歌集』の「涙川」 ―「見立て」から見て―・・・・・・五十嵐 大樹
(13)『源氏物語』花散里香・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・池田 貴惠
(14)『源氏物語』における御簾 ―開かれる御簾、隔てる御簾―・・・・山本 夏希
(15)『源氏物語』「女にて見たてまつらまほし」考
      ―賢木巻における藤壺の視点―・・・・・・・・・・・・・・浦野 ちなみ
(16)『源氏物語』夕霧の大学入学・・・・・・・・・・・・・・・・・・矢部 志保
(17)「あてはか」なる明石の入道
      ―『源氏物語』明石の入道の人物像をめぐって―・・・・・・・神原 勇介
(18)『古今和歌集』における業平歌
      ―貫之ら撰者の立てた業平の墓標―・・・・・・・・・・・・・齋藤 佑介
(19)〈したり顔〉で〈さかしだつ〉人
      ―『紫式部日記』清少納言批評の解釈―・・・・・・・・・・・佐藤 有貴
(20)『源氏物語』の「落葉」と夕霧 ―光源氏の言葉の影響―・・・・・嶋田 龍司
(21)式子内親王論 ―忍ぶる恋を中心として―・・・・・・・・・・・田結庄 真衣
(22)『源氏物語』の扇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・玉手 正直
(23)「玉鬘物語」における「おほどか」・・・・・・・・・・・・・・・・成川 茜
(24)『源氏物語』胡蝶楽の山吹と胡蝶の喩 ―玉鬘十帖を中心に―・・・浜田 賢一
(25)『枕草子』道隆讃美考・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・村田 駿
(26)業平歌の独自性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・村山 大樹
(27)女三宮の心情 ―若菜上巻から―・・・・・・・・・・・・・・・・青柳 朝子
(30)『堀川百首』の恋歌と『源氏物語』・・・・・・・・・・・・・・長谷川 範彰
(31)『土佐日記』仮名表記による散文の実験と言説分析の方法・・・・・東原 伸明
(32)鳥部野の対岸、鴨川のほとり
      ―『源氏物語』の展開と六条院の歴史地理的背景―・・・・・・塚原 明弘
(33)〔新資料紹介〕揖夜神社所蔵・養法院様御筆『伊勢物語』・・・・・伊藤 鉄也
(34)数奇の世界にみる〈本歌〉・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・飯沼 清子
(35)アレゴリーとしての歳時 ―構造表現論の試み―・・・・・・・・・山田 直巳
(36)装束の試験的復元 ―『紫式部日記』の小袿―・・・・・・・・・畠山 大二郎
(37)『紫式部日記』祝祭の作法
      ―五日の産養における夜居の僧の位相をめぐって―・・・・・・大津 直子
(38)『蜻蛉日記』の表現 ―歌言葉「穂に出づ」を中心として―・・・・針本 正行
(39)『源氏物語』松風・総角の本文 ―蓬左文庫蔵の鎌倉期写本―・・・豊島 秀範
巻末言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・船津卓人

 
 
 

2013年2月 8日 (金)

国語研究所で開催された合同研究発表会

 国立国語研究所で、2つのプロジェクトの合同研究会がありました。
 国語研究所は、私の勤務先である国文学研究資料館とは地続きの敷地にあり、歩いて3分以内に行けるので、会議と仕事の合間に少しだけでしたが参加しました。

 そのプロジェクト名とプログラムは、以下のとおりです。


■プロジェクト名・リーダー名■
 ・「統計と機械学習による日本語史研究」 (略称:統計日本語史)
     リーダー:小木曽智信(言語資源研究系・准教授)
 ・人間文化研究連携共同推進事業「海外に移出した仮名写本の緊急調査(第2期)」
     リーダー:高田智和(理論・構造研究系・准教授)
■発表者氏名・発表テーマ■

(1)「平安仮名文学作品テキストの形態素解析」
    小木曽智信(国立国語研究所・言語資源研究系・准教授)

 近年「中古和文UniDic」が公開されたことにより,課題とされていた古典の形態素解析が可能になった。これにより,コーパス言語学の手法を導入した日本語史研究が可能になり,また,資料に対してより高度なアノテーションを施すことが可能になってきた。
 本発表では,平安仮名文学作品を中心に,古典の形態素解析の現状と問題点,今後の可能性について述べる。

(2)「統計的機械学習を用いた歴史的資料の表記整理支援」
    岡照晃(奈良先端科学技術大学・大学院生)

 生の歴史的資料の中には,濁点無表記や仮名遣の不統一,送り仮名の不徹底,踊字による省略表記といったように,表記のバリエーションが多く含まれている。表記のバリエーションは,可読性・検索性を下げるため,歴史コーパス整備の際にはその表記を整理する作業が行われる。しかしながら,表記整理は専門家にしか行えないため,作業人員の確保が大きな課題となっている。また,作業対象が膨大であるため,作業を完了するまでにも時間がかかる。
本発表では,統計的機械学習を使った表記整理作業を支援する試みについて述べる。主として,これまでに行なってきた近代文語論説文を対象にした濁点の自動付与について解説を行う。

(3)「米国議会図書館蔵『源氏物語』の全巻翻字本文公表と原本画像の一部公開」
    高田智和(国立国語研究所・理論・構造研究系・准教授)

 米国議会図書館蔵『源氏物語』写本の全巻翻字本文のWeb公表と,研究者向けではなく,原本で古典を読みたい一般や,変体仮名の学習者向けに設計した原本画像公表について述べる。

(4)「文字表記資料としての米国議会図書館本源氏物語」
    斎藤達哉(専修大学・教授)

 平成22年から24年度にかけて,室町末期から江戸初期の仮名資料である米国議会図書 館本「源氏物語」写本の調査に参加してきた。この調査の成果としては,電子テキス トに翻字したものが,国立国語研究所からウェブ公開されている。調査では,翻字データのほかに,一部の異体仮名の字母のデータ化も行ってきた。発表では,異体仮名【八】【盈】についての調査結果を報告し,表記の関係を考察するとともに,文字表記資料としての可能性について述べる。


 
 私が聴けたのは、最初の小木曾さんの発表だけでした。以前から興味のあったテーマなので、じっくりと聴くことができました。

 この発表で私が記憶に留めたのは、以下の点です。これらは、私の問題意識とも深く関わることでもあります。


・「無濁点資料に対する濁点の自動付与」技術を開発した
・「茶器」で中古和文のコーパスを利用可能に
・中古和文における個人文体とジャンル文体
・古文・歴史的資料に対応した UniDic(形態素解析用の電子辞書) の開発
・現代語用の UniDic では古文は解析できない
・中古和文 UniDic の短単位規定では、現代語の連体詞である「この」「その」が、中古和文では代名詞「こ」「そ」に格助詞「の」がついた形となる
・各種 UniDic で仮名文学作品のテキストを解析した場合、専用辞書を使わない場合の品詞認定の精度は以下のようになった
  中古和文→97.77%
  近代文語→83.78%
  現代語 →59.25%

 発表後の質疑応答で、1つだけ質問をしました。それは、伊井春樹先生を中心として角川書店でやった仕事で、『源氏物語』の大島本の校訂本文をすべて品詞分解したデータがあることに関してでした。活用形まで特定しているので、何かお互いに連携して役立てられないか、ということです。
 これについては、すでに別に小木曽さんたちのグループで単語認定をしていて、さらに現在も他の中古作品の分析をしている、とのことでした。お互いのデータを持ち寄れば、その確認作業に益することが多いと思われます。
 同じようなことを別々にやっていたわけです。しかし、今後の情報交換で、お互いの手法が再検討を経てまた有意義なものになることでしょう。

 後の発表も、どれも興味深いものばかりでした。しかし、どうしても大事な会議があるので帰らなければなりません。また、個別に内容の詳細を伺うことにします。
 
 
 

2013年1月 9日 (水)

鈴木淳先生の最終講義

 基盤機関を国文学研究資料館とする総合研究大学院大学文化科学研究科日本文学研究専攻では、定年退職なさる先生の最終講義が実施されます。

 今日は、鈴木淳先生の最終講義がありました。
 
 
 
130109_suzuki
 
 
 

 鈴木先生は私の大学と大学院の先輩です。國學院大學に入学後、私は小林茂美先生の指導を受けました。当時大学院生だった鈴木先生は、同じ研究室におられた内野吾郎先生の指導を受けておられました。

 研究室が同じだったということもあり、折々にお目にかかっていました。
 その後、私が大学院に入るにあたって、小林先生が大学院に講座をお持ちではなかったので、内野先生に預けられました。そのこともあり、鈴木先生にいろいろと教えを受けるようになりました。
 内野先生は近世国学の研究を専門になさっていました。小林先生は平安文学です。
 私は大学院で内野先生の指導を受ける中で、ドイツ文献学について興味を持ちました。そして、平安文学と文献学的研究を目指すようになりました。それが、今の研究手法につながっています。

 私が国文学研究資料館に職を得た時、鈴木先生は早くから国文研の中心的な教員として幅広い仕事をなさっていました。私が大学院で研究を始めてからの恩師である伊井春樹先生が、国文研の館長としてお戻りになってからは、鈴木先生は副館長として法人化や立川移転などの大仕事をこなされたのです。

 鈴木先生には、科研のメンバーに加えていただいただけでなく、海外の調査でもお世話になりました。今思い出すだけでも、アメリカ・ハーバード大学、イギリス・ロンドン大学、オランダ・ライデン大学でご一緒しました。特に、ハーバード大学が所蔵する鎌倉時代中期の『源氏物語』の古写本に関しては、その写真撮影を含めて多大なご理解とご協力をいただきました。本当に、ありがとうございました。

 初めてお目にかかってから40年という時間が流れました。先輩であり同僚として、今日は興味深く講義を伺いました。
 
 本日の題目は、「絵本名義考」です。

 まず、「絵本」という用語の語例と実態について、近世の諸文献に記された例証を挙げながら確認されました。
 そして、江戸時代の宝永頃までは、「絵本」は手本の意味で理解されていた、ということでした。

 お話の内容には、狩野派や土左派のことが頻繁に出てきて、私の関心をいろいろと刺激してくださいました。

 本日の最終講義は、年度末に冊子として発行されますので、これ以上ここに中途半端なことを書くことは控えます。

 先生のこれまでのお仕事はたくさんあります。


【単著】
近世学芸論考(羽倉敬尚論文集):422(1-422)(編)(明治書院,東京)(平4)
江戸和学論考:754(1-754)(ひつじ書房,東京)(平9)
樋口一葉日記を読む:175(1-175)(岩波書店,東京)(平15)
橘千蔭の研究:602(1-602)(ぺりかん社,東京)(平18)
【編著】
近世歌文集下:249(1-82, 107-254, 565-583)(共著)(岩波書店,東京)(平9)
カリフォルニア大学ロサンゼルス校所蔵日本古典籍目録:322(共編)(刀水書房,東京)(平12)
近世随想集:404(3-8,29-404,485-506)(共著)(小学館, 東京)(平12)
樋口一葉日記:1157(1-949,1-208)(岩波書店,東京)(平14)
ハーバード燕京図書館の日本古典籍:マクヴェイ山田久仁子共編著(八木書店,東京)(平20)

 これからは、研究の時間が充分にあると思います。ますますのご活躍をお祈りしています。

 写真をブログに載せてもいい、とのご許可をいただきましたので、最終講義の様子を冒頭に掲載しました。
 
 
 

2012年12月 3日 (月)

池田亀鑑賞の応募期間を延長します

 今年も師走に入ると共に、一年の仕事の整理と新年から年度末までの仕事のとりまとめで、あたふたと走り回る日々となりました。
 特に今年は、私が夏に1ヶ月ほど京大病院に入院していた関係で、何かと仕事が滞っていました。それが、ようやくいつくかが動き出したので、そのことの報告からです。

 まずは池田亀鑑賞について。

 「池田亀鑑賞のホームページ」に、一昨日(11月30日)付けで新しい情報がアップされました。
 内容は、【募集・選定概要】と【選考委員紹介】の更新です。

 更新及び変更された内容は、以下のとおりです。


■募集の変更
・第2回応募締切 平成25年3月末
  平成24年1月1日から平成25年3月末までに出版及び発表した作品
・選考会 平成25年4月中
・結果発表 平成25年5月中
・授賞式 平成25年6月22日(土曜日)午後1時30分〜4時00分
  於:日南町総合文化センター 多目的ホール
  〒689-5212 鳥取県日野郡日南町霞785

■選考委員会の構成員の変更
・会長 伊井春樹(新設)
・委員長 伊藤鉄也(新任)
・委員 池田研二/妹尾好信/小川陽子/原 豊二(新加入)

■選考委員紹介の補正と追補
・原豊二氏の選考委員就任にあたってのことばを掲載

 大幅な変更となったのは、年度末の3月に授賞式を実施することが難しくなったことがあります。
 日南町と池田亀鑑文学碑を守る会のご理解とご協力により、初夏6月で落ち着きました。
 そのため、募集期間を3ヶ月延長することになりました。

 併せて、『もっと知りたい 池田亀鑑と「源氏物語」 第2集』も、来春5月の刊行となります。

 池田亀鑑賞は、コツコツと地道な調査研究を通して産み出された仕事を顕彰するものです。
 みなさんの身近なところでそうした仕事があれば、この機会にご推薦いただければ幸いです。
 池田亀鑑賞が、文学研究の基礎的な土台を支える仕事を掘り起こし、関係者に元気を与えられるものとなれば願ってもないことです。
 ご推薦をお待ちしているとともに、奮って応募いただきたいと思います。
 
 
 

2012年11月30日 (金)

土器に書かれたひらがなをどう読むか

 昨日、ひらがなが書かれた、9世紀後半の土器片が出土したニュースが、財団法人京都市埋蔵文化財研究所から流れました。見つかった場所は、京都市内の貴族邸宅跡でした。平安時代前期の西三条大臣・藤原良相(813〜867)の「西三条第」(百花亭)の跡地だったのです。

 この良相は冬嗣の5男、文徳天皇の外叔父で、貞観8年(866)の応天門の変で失脚し、翌年亡くなりました。良相の逸話は、『今昔物語集』『江談抄』『大鏡』などに語られています。

 公開初日の今日、今回確認された土器を速報として展示している京都市考古資料館へ、京大病院の診察帰りに自転車を飛ばして立ち寄って来ました。

 展示場所である京都市考古資料館は、同志社大学の前の大通りである今出川通りに面し、堀川通りから西に少し歩いたところにあります。地下鉄今出川駅から歩くか、市バスの今出川大宮バス停の目の前です。西隣が「ねぎ太郎 西陣店」なので、すぐにわかります。
 
 
 
121130_genkan
 
 
 

 この京都市考古資料館の玄関を入って右手すぐに、ケースに入った土器が目に飛び込んで来ます。
 
 
 
121130_case
 
 
 

 自由に写真を撮ってもいいとのことだったので、ここに紹介します。
 ケースの中に置かれていた、入口に近い土器から9個の写真を並べます。漢字の墨書土器は、ここではとりあげません。また、ガラスケースの上から撮影しているため、文字が読みやすいように画像処理をしています。そのため、土器の地肌の色が実際とは相当異なっていることをご了承ください。

 資料館の方が、不明なところが読めたら教えてください、とおっしゃっていたので、解読に挑戦してみてください。
 仮名文字を読むのが仕事の私とはいえ、なかなかの難題です。いつも読んでいる鎌倉時代の古写本とは、これは勝手が違います。連綿体の続け文字も確認できて、非常に興味深い資料です。

 これを機に、ひらがなの成立事情が、これまで言われていた10世紀後半から9世紀後半と、少し遡ることになります。今回実際に見て、読んで、意外と変体仮名が少ないことに驚きました。今の通行のひらがなの字体に近いものが多いのです。今後は、さまざまな機器を導入して、さらに文字を解読してほしいものです。

 置かれていた資料に記されていた読みを、参考のために写真に添えておきます。
 インターネットによる横書き表示のため、縦書きが横並びに表示されていることを、ご了承ください。
 
 
 
121130_moji1
 
  □そこ
 なしも
 そまほる
   □□
 
 
 
121130_moji2
 
 □れ れ or な
 わあな
  □き or な く
  □ま□
 
 
 
121130_moji3
 
 □かくは□
 □たにひ□
 は ら □
   う or に
 
 
 
121130_moji4
 
  か
    に  か(逆)
     た
 
 
 
121130_moji50
 
 
 
121130_moji5
 
 写真の上部パネルを参照
 
 
 
121130_moji6
 
  なかつし
 □あけかて□
 
 
 
121130_moji7
 
 かつらきへ
 
 
 
121130_moji8
 
   へ
    あ
 (り)よいけにい□
 
 
 
121130_moji9
 
 はなわを
 はなま
 はこそ
 □て□□して

 めしろ□は
  へ
 
 
 

 財団法人京都市埋蔵文化財研究所のホームページに、今回の速報展に関して、以下の案内が掲載されています。


京都市考古資料館速報展『藤原良相邸出土の墨書土器』開催のお知らせ

京都市考古資料館では、佛教大学二条キャンパスの発掘調査(藤原良相邸)の整理作業を受け、明らかとなってきた文字資料の内、墨書土器につきまして、速報展を行い皆さまに見ていただく機会を設けることといたしました。下記の要項で速報展を行いますので、是非,ご覧下さい。

          記

1.期  間 平成24年11月30日(金)〜12月16日(日) 休館日は月曜日
2.展 示 品  藤原良相邸から出土した墨書土器20点(仮名墨書9点も含む)
3.開館時間 午前9時から午後5時まで(入館は午後4時30分まで)
4.入 館 料  無料

 
 
 京都新聞との記事は、以下のアドレスからご覧になれます。

「最古級の平仮名確認 京都・中京の貴族邸宅跡」( 2012年11月28日 23時50分)
 
 
 

2012年11月21日 (水)

『和泉式部日記』に関する研究発表をしました

 今日は、国文研フォーラムという公開の研究発表会がありました。今回は私が発表する役割だったので、『和泉式部日記』に関する研究発表をしました。
 タイトルは、「古典文学作品の本文異同 —『和泉式部日記』の場合—」です。

 いつもは『源氏物語』のことばかりを調べているので、久しぶりに違う作品を扱いました。

 かつて、私は『和泉式部日記』に関して、そのデータベース化の成果として、次の3つの仕事をしました。

 (1)拙稿「『和泉式部日記』データベース化の問題点ー現代版〈異本・異文〉の発生についてー」(『人文科学データベース研究 創刊号』同朋舎、昭和六三)

 (2)拙編著『データベース・平安朝 日記文学資料集 第一巻 和泉式部日記』(同朋舎、昭和六三)

 (3)拙編著『四本対照 和泉式部日記 校異と語彙索引』(和泉書院、平成三)

 その後、特にこの作品に関して論ずることがなかったので、『和泉式部日記』のことを考えるのは、十年ぶりとなります。

 本日の発表の内容は、『和泉式部日記』の本文の横に記されたと想定する傍記傍注が、書写を繰り返す過程で本行の本文に入り込んでくる、という現象を立証することです。しかも、一般に読まれている三条西本では、傍記が当該箇所の直前に混入する傾向が強い、ということまでを確認しました。

 これは、すでに『源氏物語』の諸本において、私が考察し立証してきたことの援用でもあります。
 これまで、傍記が本行の本文に混入することを指摘する研究は皆無でした。この問題は、さらに別の作品でも応用できる手法となるはずです。

 もし傍記があったら、という仮定を前提にした調査研究なので、例示とその検証に細心の注意を払いました。おおむね、妥当な結論を提示できたと思います。実際に質疑応答でも、この点での論理の飛躍は指摘されませんでした。無事に終わった今、正鵠を得た仮説検証の実践報告となったことに、安堵しています。

 本日配布した発表用の資料に興味をお持ちの方は、次のPDFをダウンロードしてご覧ください。
 
PDF資料をダウンロード
 
 念のため、「発表要旨」と「はじめに」を、参考までに引いておきます。


〈発表要旨〉
 平安時代の歌人である和泉式部に関する『和泉式部日記(和泉式部物語)』には、現在四種類の本文が伝わっている。三条西本・応永本・寛元本・混成本と呼ばれているものがそれである。
 本発表では、伝三条西実隆筆本(宮内庁書陵部蔵)に記された本文のありようを精査し、諸本間の本文異同の実態から、一つ前の段階の写本の姿を明らかにする。具体的には、三条西本は傍記が本行の当該語句の直前に混入することによって異文が発生している可能性が高いことを確認する。それによって、本行の本文に傍記がなかった、一つ前の時点での本文の姿が推定できるようになる。さらには、異文の位相に関しても、今後の問題点を確認したい。これによって、『和泉式部日記』の読みを新たに展開していく可能性が広がるからである。


〈はじめに〉
 三条西本は書陵部本だけが知られている。その最初の紹介者である池田亀鑑は、昭和二年までは自作説だった。しかし、昭和四年に『異本和泉式部日記』(現三条西本)を発見(『文学』岩波書店、昭和六年一一月号で紹介、昭和八年八月と一一月に翻刻紹介)してから、昭和九年以降は他作説に転じた。本書について鈴木知太郎は、「原典の形態を推究する上にも、欠くべからざる、第一義的な資料」(『和泉式部日記(解説・校異篇)』一一頁、古典文庫 or 武蔵野書院、昭和三三年)だという。
 なお、混成本は、『群書類従』所収本を用いた。これは、応永本を基にして寛元本の本文を適宜取り込んで成立したものとされる。本書について吉田幸一は、「校訂は恣意的になされてゐるし、本文は一層改悪されてゐる。」(『和泉式部研究一』古典文庫、七二頁、昭和三九年)としている。本考察では、参考資料としてその翻字を適宜参照している。
 現存三系統の本文から原本にたどり着くことは不可能だとされている。そのため、三系統論から原本を追求することは、現在では断念されているといえよう。
 しかし、傍記が本行に取り込まれるという、『源氏物語』と同じ書写状態が想定できるとすると、『和泉式部日記』における本文も再検討する必要がでてくる。ここでは、異文が発生し、収拾がつかないほどに混在している諸本間の本文異同の一端を、傍記混入という視点から考えていく。

 発表後、何人かの先生から質問を受けました。
 みなさん、私が言いたいことであった、傍記が本行に混入することはわかった、ということだったので、発表の意図が伝わったことに安心しました。

 その上で、質疑応答を通して、傍記の性格と傍記の有無を考慮して作品を読むことから、果たして何がわかるのかという、新たな考えるヒントをいただきました。

 さらに傍記には、

(A)〈注釈的なもの〉と〈異本校合の結果〉

に関するものがあることと、

(B)〈作者レベルの傍記〉と〈受容者レベルの傍記〉

があることの分別が必要であることも、質疑応答の中で認識を新たにしました。

 傍記の仕分けを通して、傍記の性格を明確にすることも今後の課題です。
 そうしたことを踏まえた作品の読みから、諸本の位相を論ずることになります。
 その際、混成本の本文のありようも、興味深い問題を内包しています。まったく別な表現になっている箇所が、いくつもあるのですから。近世の本文整定の位相も、こうした視点から考えることができます。

 研究発表することにより、あらためて問題意識が整理でき、問題点が明らかになりました。資料を整理して、それを報告し、ご教示をいただくことで、問題解決の道がさらに開けるのです。

 会場でご教示いただいた先生方に、あらためてお礼を申し上げます。
 研究発表という、いい機会をもらったことにも感謝しています。
 そして、考えをまとめて話すことの大切さを、今日の発表で再認識しました。

 発表後は、博士論文を執筆している大学院生が来週研究発表をするので、その予行演習を聞いてアドバイスを述べるなど、発表にあたっての準備のお手伝いをしました。資料の作り方、言葉遣い、そして言いたいことをいかにして伝えるか。自分が研究発表をし終えた直後というこもあり、1時間ほどでしたが、具体的なアドバイスになったかと思います。

 そしてすぐに、明日は京都で検査健診を受けるため、大急ぎで東京駅へ向かいました。
 案の定というべきか、今日も中央線が人身事故のために遅れていました。幸運にも、1時間半遅れの特急あずさが入ってきたので、飛び乗って終点となっている新宿駅まで出ました。もっとも、電車が前に支えているということで、立川駅の次は新宿駅なのにノロノロ運転です。
 そこから中央線に乗り換えたまではよかったのですが、今度は神田駅の直前で長時間停車し、東京駅でもホーム直前で長時間の入線待ちがありました。

 いつものことながら、中央線はあてになりません。それでも、17時50分に職場を出て、東京駅に着いたのは19時20分、そして19時33分の新幹線に乗れたので、効率的な移動ができたといえるでしょう。

 新幹線の改札口で待ち合わせをしていた妻と合流し、取るものも取り敢えず、ひかり号の自由席に飛び乗りました。新大阪行きの自由席はガラガラです。焼酎のウーロン茶割りを飲みながら、こうして今日のできごとをiPhone に入力しています。

 今年も、相変わらず慌ただしい年末です。
 
 
 

2012年11月18日 (日)

「たけくらべ」の自筆原稿における本文の異同

 第36回国際日本文学研究集会の2日目です。

 本日最後は、戸松泉先生の公開講演「「たけくらべ」自筆草稿を開く ―樋口一葉〈書くこと〉の領域―」でした。
 会場の真下にある1階の展示室では、「たけくらべ」の自筆原稿が展示されています。それと連動しての、貴重な勉強の場となりました。
 
 
 

121118_itiyou
 
 
 

 戸松先生は、樋口一葉の「たけくらべ」の自筆原稿を素材として、作品の本文の変遷を語ってくださいました。『源氏物語』の本文の異同に取り組んでいる一人として、その近代文学研究の実態と対処に共通点が多く、非常に刺激的な内容でした。

 『文学会』掲載本文(『新日本古典文学大系明治編24 樋口一葉集』岩波書店)と、『文芸倶楽部』再掲載本文(『全集 樋口一葉』小学館)との本文の違いが、プリントを元にして丹念に追求されました。。
 どちらの本文を読むべきか。これは、いつの時代でも、どの作品にも共通する問題のようです。

 今日のお話では、第12章あたりから本文が特に変容するようです。

 詳細な本文の違いを検討した結果、『文芸倶楽部』へ再掲載するにあたって、作者は変貌したのではないか、ということでした。真如をどう描写するかが揺れているようです。

 今後の検討課題として、再掲載の原稿で、作者である一葉自身が、通読する読者になっているのではないか、ということを考えていきたいとおっしゃいました。

 論証が難しい問題が、数多く提示されました。本文をどう読むか、というところに帰結する内容だったので、原典を基にしたさらなる本文研究が必要だと思いました。

 なお、配布されたレジメの最後に、気になる言葉が目に留まりました。


「〜ではないか。」「ようである。」「気がする。」「感じられる。」

 こうした言い方は、実証的ではなくて、印象批評に受け取られかねません。

 全体を通しては、非常に興味深い内容でした。
 『源氏物語』に通ずる、視点を変えてのいい勉強をさせていただきました。

 これで、近代文学における身近な本文の問題として、与謝野晶子、谷崎潤一郎、そして樋口一葉の自筆原稿が確認できるようになったのです。千年前の『源氏物語』とは異なり、まさにこの100年間に書かれた生の原稿と、容易に対峙することができます。

 作者の手元で文章が揺れ動いていたことを考えるのは、本当におもしろいことです。その環境が充実してきたことと、具体的な資料が提示されたことは、今後の大いなる楽しみとなります。
 古典を敬して遠ざける方々とは、この近代の自筆原稿の話でつながりを持ちたいと思うようになりました。
 
 
 

2012年11月17日 (土)

立冬を過ぎて加齢を実感

 ようやくと言うべきか、立冬を過ぎてやっと寒くなりだしました。

 今年の立冬は11月7日でした。私は結婚記念日と誕生日が同じ日です。ちょうど毎年この立冬の頃に中るので、季節の移り変わりがお祝いのタイミングと重なります。

 今年で61回目の立冬を迎えました。妻とは、37回もの立冬を共に迎えたことになります。もっとも、同級生だった学生時代から数えると40回目になりますが。

 月日の経つのは早いのか遅いのか、よくわからなくなりました。短かったような、長かったような。ただただ助けられながらの年月でした。
 これが、齢を重ねる、ということなのでしょうか。

 今朝は、この冬初めて、コートを着て出勤しました。
 自治大学の前では、落ち葉がカサカサと音をたて舞っていました。
 
 
 
121114_jitidai1
 
 
 

 今日から2日間にわたって、第36回目となる国文学研究資料館主催の国際日本文学研究集会が開催されるのです。

 この老舗と言える国際集会は、私が結婚後、大阪に移り住むようになってからスタートしています。品川にあった国文学研究資料館へ行き、伊井春樹先生にご挨拶をしてから大阪へ引っ越しました。ちょうどその頃、伊井先生などが第1回目の開催に向けて尽力なさっていたようです。
 サイデンステッカー先生やキーン先生をはじめとして、海外で日本文学を研究なさった方々は、みなさんこの国際集会を踏み台として大きな仕事をなさいました。
 今後ともこの国際研究集会がますます発展し、海外の若手研究者がたくさん育っていくことでしょう。

 委員会や打ち合せを慌ただしく終えると、熱気と活気のある研究発表と、それを受けての質疑応答を聞いていたこともあり、外の様子がわかりませんでした。そのため、午後から雨になっていたこともわからず、今朝方羽織って来たコートを部屋に忘れたまま帰りました。中野駅で電車を乗り換えるとき、大雨と強風で寒さに気付いたのです。

 明日の天気はいいようです。コートはなくても大丈夫でしょう。

 現在、国文学研究資料館の1階にある展示室では、〈研究展示「江戸の「表現」-浮世絵・文学・芸能-」〉が来週の11月20日(火)まで開催中です。

 また、特別展示として、〈樋口一葉「たけくらべ」自筆原稿展〉が、国文学研究資料館創立四十周年展示として、同じく11月20日(火)まで展示されています。この一葉の自筆原稿は、20年ぶりの公開です。

 共に入場無料です。この機会に、立川へどうぞ足をお運びになってはいかがでしょうか。
 
 
 

2012年11月 4日 (日)

秋の中古文学会―2012

 快晴の秋の一日、大阪の中南部にある大阪大谷大学へ行きました。中古文学会が今日と明日、富田林市にある大阪大谷大学で開催されるのです。

 この大学は、私が和歌山県に近い関西新空港のそばにあった大阪明浄女子短期大学(現大阪観光大学)に勤務していた頃、車で通勤していたのでよくこの横を走っていました。ただし、一度も中に入ったことはありませんでした。

 また、この大学には、私が高校の教員をしていた頃に大変お世話になり、今も感謝の気持ちを忘れていない中林功先生が、校長退職後にこの大学の入試担当をなさっていました。その直前まで中林先生は、妻が勤務する高校の校長をなさっていたのです。本当に縁のある先生です。
 さらには、この大学で中世文学を担当なさっていた小林先生は、今は同僚としてご一緒に立川の国文学研究資料館で仕事を共にしています。
 今回、中古文学会の開催校を引き受けたのが、この大学で中心的な存在となって活躍している浅尾広良君であり、彼は國學院大學の後輩なのです。
 まだあります。ある先生から電話があり、この大学に行かないかというお誘いがありました。しかし、私が大阪明浄女子短期大学に就職したばかりの年だったので、すぐに移ることもできない事情を話して、折角のありがたいお話をお断りしたことがあるのです。
 何とも、重ね重ね縁のある大学です。

 さて、滝谷不動駅に着いてから、ご一緒だった伊井春樹先生がお昼をどこで食べよう、とおっしゃいました。確かに、この小さい駅前には食事をするところはありません。一軒だけたこ焼き屋さんがあったので、ここしかないということで入りました。
 
 
 

121103_takoyaki
 
 
 

 伊井先生とは世界各地をお供した関係で、いろいろなレストランで食事をご一緒しました。しかし、ご一緒にたこ焼きというのは初めてです。たこ焼きは、6個で240円でした。
 取り敢えずお腹を満たした後、狭い道を縫って大学へと急ぎました。
 
 
 
121103_kaijyo
 
 
 

 開会後すぐに、第5回中古文学会賞授賞式がありました。今回の受賞者は、大津直子さんでした。彼女はこれまた私の後輩で、現在は日本学術振興会の特別研究員をしています。谷崎潤一郎の源氏物語訳の自筆原稿を整理していることに関して、私が特にその成果を期待している若手です。こうした賞を受賞したことにより、ますます活躍の幅を広げることに期待したいと思います。

 研究発表については、私が何かコメントできるとものはありませんでした。
 何か記すとすれば、活字校訂本文である『新編日本古典文学全集』(小学館)の『源氏物語』を引き、当該箇所に「別本」として異文を揚げて発表された方がいらっしゃいました。しかし、何を別本とするのかの説明もなく、しかも異文を掲載するにあたって、それがどこの何を引いたのかも明示されていません。異文の扱いが疎かだな、という感想を持ちました。これが『源氏物語』の本文を大事にしていない実態かと思うと、物語本文に対する意識の低さにガッカリしました。。

 休憩時間には、たくさんの先生方と言葉を交わし、慌ただしく今後のことなどの打ち合わせをしました。学会は、貴重な情報交換の場なのです。人と会って直接話をすることを、私は大事にしています。

 今日は、秋田から義兄と義姉が上洛されることもあり、懇親会は失礼して、少し早めに会場を出ました。
 
 
 

NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

Powered by Six Apart
Member since 07/2008