« 「ねんきん特別便」の結末 | メイン | 井上靖卒読(35)「姨捨」「胡桃林」「グウドル氏の手套」 »

2008年4月18日 (金)

『源氏物語』のお香と、初めての聞香

 日本でのお香の始まりは、仏教伝来まで遡るそうです。『日本書紀』の推古天皇3年(595)の記事が古いものでしょうか。
 『源氏物語』には、第32巻の「梅枝」に薫物のことが語られています。
 その他、『源氏物語』でお香に関することが語られている場面を、玉上琢彌編『源氏物語評釈』(角川書店)の「事項索引」から引いてみました。ただし、未整理のデータなので、入力ミスが多いことをご了解ください。


D83 香

○ 一般
源氏を迎える末摘花、着物は叔母からの貰い物だが、香は宮家のもの
蓬生3 四二七上
香は人の存在を知る手がかり
乙女4 三六七下
当時の人は香を大切にした
初音5 一七三下
玉葛の室内に匂っている香もこの場にふさわしく素晴らしいもの
蛍5 三一三上
源氏は香を得意とする
蛍5 三一三上
大弐献上の香、昔の舶来の香に怠る
梅枝6 三〇八下
空気の湿ってるとき薫物は強く臭う
梅枝6 三二三上
貴婦人方は香を合わすのに苦心する
梅枝6 三一〇上
香合わせに参加する夫人達の心理
御法9 五〇上
柏木の部屋に香がたかれていて病人特有の臭気がない
柏木8 九二上
匂宮は香るに熱心である
 早蕨11  三二〈二〉

○ 着物に香るをたきしめる
衣には自家製の香るをtきしめる
空蝉1 三三一上
柚にたきしめた香が涙にねれて強くなる
夕顔1 三五三(九)
源氏が柚を目元にちかずけると香が部屋一杯匂う
夕顔1 三五四下
匂ってくる香に藤壷、ふりむかなくても源氏とわかる
賢木2 五五一上
源氏が着物にたきしめた香の匂い
須磨3 四六(二)
匂いでの源氏の訪れを知る
須磨3 四七上
源氏は朝顔に会いに行く時香るをたきしめる
朝顔4 二七一下
大井を訪問、香るにも気を配る
薄雲4 一六九下
春の御方のたく香は梅の香るにも怠らない
初音5 一五七上
すでに焚きしめてある着物にさらに焚きしめさす
真木6 二二五上
大将、着物を着た後、更に自ら小さな香炉を手に柚の中をたきしめる
真木6 二二七上
大工の君、北の方のかわりに大将の着物に香をたく
真木6 二三四下
源氏の香るの匂い
わかな上7 一一一上・一一八下
柚口に香をたきしめる
わかな下7 三四五上
女房の裳にたきしめた香る
横笛8 一八三下
落葉宮の衣の香
夕顔1 三一三下
花もはずかしく思う程の匂い宮の香る
梅枝6 二七五上
宇治への手引をする薫、匂宮の匂いに気を使う
総角10 三八二下
匂宮、えもいえぬ匂いと共に現れる
総角10 四一六上
死んだ姫宮の髪に、いつもの香が
総角10 五一一上

○ 追い風
光源氏の追い風に女方は気を使う
若紫2 五四上
明石御方の入り口の戸を開けると、香のにおいが風に乗ってくる
初音5 一七三下
秋好中宮の芳香が風に乗って匂ってくる
野分5 四六五下
春風が梅の香るを運び婦人方夕霧などの一緒になる
わかな下7 三四五下

○ 体臭
薫の体臭の香りの高さ
匂宮9 二二五・二二六上・二二八上
薫は幼児の時、体臭を持ってない
匂い宮9 二二六上
薫の体臭が彼の行動を束縛するので品行方正にならざるをえない
匂宮9 二二七上・宿木11 二七二上
薫り高き木草も薫るがさらわればさらによい香りになるという
匂宮9 二二七下
姫君訪問の際の薫の芳香り
橋姫10 一〇一下
薫の[この世のほかのにほひにや]と思われるかおり
橋姫10 一〇三上
薫、いつもは体臭だけだが、今日は念入りに焚き染める
宿木11 一七三上
薫の匂いを田舎人はききわけられない
宿木11 二九八上
薫の香りはすばらしいと浮舟母
東屋11 三四七下
薫の香りを姫は言わず女房がさわぐ
東屋11 三七五下
湿気で強くなった香りに、弁は薫ときずく
東屋11 四四八上
薫の香り[やみはあやなし]
浮舟12 一〇一上
匂い宮、薫の体臭に似せた香りをつける
浮舟12 一〇六下

○ 扇の香り
扇に香りをたきしめたため色ずいている
夕顔1 三四六3
扇にたきしめた香り
夕顔1 三五五上

○ 手紙に香りをたきしめる
大夫監、玉喝へのラブレターによい香りをたきしめる
玉葛5 四二上
玉葛へのラブレター
胡蝶5 二五〇下・蛍5 三一六上
薫から浮雲への手紙にたきしめられた香
  浮夢12  五八〇上

○ 匂いのちがい
薫の天然の体臭と、人工の極致の匂い宮の香り
匂い宮9 二三九上
浮舟は薫と匂い宮の匂いの違いを知らない
東屋11 三八八下
薫と匂い宮の香りは自ずから匂いがちがうはず
浮舟12 五九上・手習12 五一九下

○ 移り香り
父宮、源氏の移り香りと知らず姫の香りをほめる
若紫2 一三五下
源氏の衣の香りがたとう紙に移る
澪標3 三二八下
男の形見の衣の移り香り
明石3 二四三下
琴に落ち葉宮の移り香
横笛8 一八五下
匂宮の移り香りが若君にしみる
紅梅9 二八〇上
姉宮に移る香りに琴を察する中の宮
総角10 三四二下
上■の移り香
橋姫10 一二二上
中の宮、匂宮の移り香を楽しむ 総角10 425上
薫の移り香が中の宮の衣についていたのを匂宮不審に思う 宿木11 189上
匂宮のにおいが浮舟にまだ匂う 東屋11 431下

○ そらだきもの
僧都の僧房にそらだきものが漂う 若紫2 52(8)
そらだきものがけむたく香る右大臣邸 花宴2 357(4)
玉葛の部屋に匂う 蛍5 295(7)
女三宮方の女房、富士の煙よりもひどく空薫物をたく 鈴虫8 230上
 いろいろの香 梅枝6 313上
えびの香 末摘2 198(3)・199上・初音5 174下
荷葉、花散里 梅枝6 331上
からのたき物 行幸6 101(2)・102上
薫衣香 絵合4 20(5)・鈴虫8 225上
黒方 賢木2 593下・梅枝6 327上
侍従 初音5 174上・梅枝6 329上
浅香 絵合4 50(9)・わかな上7 84(3)・わかな下7 312(2)
梅花・紫上 梅枝6 329上
百歩香 絵合4 20(6)・匂宮9 225(3)・橋姫10 81下
丁子香 鈴虫8 236上
沈香 絵合4 47(6)・わかな下7 312(2)
名香 賢木2 593(3)・下、鈴虫8 224(2)
牛頭旃檀の香 中の宮の女房、薫をいう 東屋11 375上
 香の製法 梅枝6 308上・310(5)・314下・326上

○ 香壷 
賜り物には普通一箱に四壷入れる 蓬生3 411上
合わせた香物は香壷に入れる 梅枝6 314 上
香壷の箱は厨子の置き物の一つ 梅枝6 314下



 折を見て、これらの内容を確認をしたいと思っていますが、なかなか叶いません。

 さて、京都の松栄堂で聞香の会があったので、初めての体験をしてきました。
 人気のあるイベントのようで、第二希望の日で予約が取れました。
 場所は、松栄堂の京都本店にある香席「弄清」でした。ここは、銀閣寺の弄清亭を写して作られたものです。
 2階にある香席は、10畳の部屋に赤い毛氈が敷いてあります。


Uigltarr_s香席



 奥に座る方は、少しは自信があるからでしょうか。開始を待つ間の落ち着いた様子でわかりました。
 その日の亭主は、書籍や雑誌などでよく見かける畑正高社長でした。

 事前に配られた紙には、こう書かれていました。




 香 道
  ―香で表現された世界を鑑賞する―

香道は一定の作法のもとに香木を炷き、たちのぼる香気の異同によって
古典的な詩歌や故事・情景を鑑賞する、文学性・精神性の高い芸道です。
茶道と華道と共に日本三芸道と呼ばれ、それぞれに深く影響しあっています。
香道では香りを「かぐ」といわず「聞く」と表現します。
現代の香道は、和歌や物語文学の世界を主題にした〈組香〉が主流です。
そこでは、いくつかの香木が炷かれ、香りを聞き分けあいますが
優劣を競うものでなく、あくまで、香りで表現された主題を鑑賞し、
その世界に遊ぶのが目的です。
他の香りや風をきらうなど独特のことわりのもと、
雅な雰囲気のうちにすすめられます。




 まずは、聞香について、畑社長の丁寧な説明がありました。
 これも、あらかじめ配られた紙には、こう書かれていました。




 志野流香席組香解説書

 ○宇治山香(内十組)

香五種
 我庵は として二包 有試
 都のたつみ として 右同断
 しかそすむ として 右同断
 世を宇治山と として 右同断
 人はいふなり として 右同断

出香は、五包を打ち交ぜ
内一包を取り出し、香りを聞きます

我庵は都のたつみしかそすむ
   世を宇治山と人はいふなり
       (古今集 喜撰法師)

と き 平成二十年四月十二日
ところ 香老舗 松栄堂 弄清席




 要は、喜撰法師の歌を利用した遊びです。
 この「宇治山香」は、季節感なく5種類が楽しめるものなので、よく行われるそうです。

 参加者一人一人の前に、硯と墨と筆が入った硯箱が回されました。
 そして、回って来た記紙をその箱の中に置きます。

 2人の方が入って来られました。
 1人は記録係の男性でした。もう1人の女性は、お香を出す役です。
 「ごあんざ」と言う張りつめた声で始まりました。
 この言葉を、皆が隣の人に順次伝えて行きます。茶道のように、前の人に挨拶はしません。
 5種類の香が、次々と回って来ます。
 湯飲茶碗のような形をした聞香炉の灰の中には、香炭団が埋められています。山形の灰の上に、雲母の板である銀葉が乗っています。その上に、小さく割られた香木が乗っています。その聞香炉を水平に持ち、手のひらで覆って香りを聞きます。

 松栄堂のパンフレットから、聞香の様子を引きます。


Mvkrrnil_sパンフから



 最後に、「出香」と言って出される香が、それまでに出された何番目のものと同じかを当てるのです。
 1つ目が来ると、次の方へは「我庵は」と言って2人の間に置きます。
 2つ目が来ると、次の方へは「都のたつみ」と言って間に置きます。
 そして、最後の5つ目が来ると、次の方へは「人はいふなり」と言って間に置きます。

 5つが回り出すと、「しゅっこう」と言って、問題となる香が回されます。これが、それまでの5つの内のどれと同じ香りかを当てるのです。

 シッカリと香りを嗅ぐと、手元の硯箱の墨を擦り、最初に配られた和紙に名前を書きます。この記紙は、4つに折られていて、上が少し折り曲げてあります。
 名前の書き方にも作法があり、男性は漢字で、女性はひらがなで書きます。ただし、濁点と「子」は省きます。
 つまり、「順子」さんの場合は「しゅん」、「太郎」さんの場合は「太郎」となります。
 答えの書き方にも作法があります。4つに折られた記紙を開き、右から三列目に答えを書くのです。

 この日の参加者は16名でした。
 みなさん、首を傾げながら思案しておられました。
 私は、最初か最後の香りが答えだと思いました。そして、最初の香りはみんなが忘れているのはずなので、初心者相手の香席ということから、最後である5番目の「人はいふなり」と筆で書きました。

 やがて正解が披露され、私の答えが正しかったことがわかりました。
 正解者は、16人中3人でした。初心者では私だけでした。
 記録は、上座の方が貰えるとのことでした。上には経験豊富な方がおいででした。その記録は、次のようなものでした。


Bwak8kal_s聞香記録



 もう1組のグループがありましたが、そこからは正解者は出ませんでした。

 その後、社長からいろいろな話が聞けました。
 私たちは午後の席でしたが、午前中の席の答えも、五番目の「人はいふなり」だったとか。社長は、2度も同じ答えになることに迷いが生じたが、あれこれと考えずに、とにかく最初に感じたもので答えた、とおっしゃっていました。
 これは、レベルの高い遊びです。日本ならではのものなので、何とかして多くの方に体験していただきたいと思いました。
 ヨーロッパで、香水を用いたこうした遊びがあるのでしょうか。
 気をつけてみたいと思います。

 とにかく、楽しい聞香の会でした。 




トラックバック

このページのトラックバックURL:
http://app.blog.eonet.jp/t/trackback/350595/14409111

『源氏物語』のお香と、初めての聞香を参照しているブログ:

コメント

コメントを投稿

コメントは記事の投稿者が承認するまで表示されません。

NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

Powered by Six Apart
Member since 07/2008