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2008年5月 2日 (金)

源氏千年(40)朝日「人脈記」9

 第9回のタイトルは、「写本に息づく古人の執念」(関東版)/「2千数百枚 執念の写本」(関西版)です。

 現在一般に読まれている流布本は、大島本と呼ばれる写本をもとにした活字の校訂本文です。これは、室町時代以降の膨大な手が入ったもので、江戸時代にまでわたって加えられた修正の跡をたどって作成されています。『新編日本古典文学全集』(小学館)などがそれです。しかし、この本文はどういうものなのか、今われわれは何を読んでいるのか、ということが問われだしました。

 この大島本に対する評価の再検討が叫ばれている機運を背景に、藤本孝一先生のご指導をいただきながら私と数人のグループで、現在この大島本を精密に調査しています。その実地調査の様子を、本日の記事では写真付きで紹介してもらえました。
 重要文化財である大島本の調査に使用している拡大装置とカメラは、ニコン製のものです。70倍に拡大して、問題箇所をデジタル撮影しています。
 貴重な資料を扱う時には、写本を傷めないようにするために、金属類やボタンなどは身につけません。藤本先生も私も軽装なのは、そのためです。背広のボタンやネクタイや時計などが、資料を傷めるからです。

 今回のように新聞という媒体を通して、少しでも多くの方々に実際に調査研究している現場を見ていただけたのは、本当にいい機会でした。地味な研究分野なので、若い研究者がなかなか育ちません。
 古写本という原典資料を扱う研究は、短時間には成果が見えません。しかし、着実に前に進んでいけます。これからの世代の方々が、こうした分野に一人でも多く参加してもらえることを願っています。

 次にバトンを渡された、私の恩師である伊井春樹先生は、いつも楽しい話で夢を与えてくださいます。初めてお目にかかった時に、今から30年も前のことになりますが、「本は探している者にお出でお出でをしてくれるもの」と話してくださったことを、今でも覚えています。
 自筆の『源氏物語』の話は、いかにもありそうなことです。古筆家による鑑定書は、おもしろいものです。人の鑑定をあてにせずに、自分の目だけで実物を見る目が肝要です。これは、修行を要する世界です。

 続いて登場の豊島秀範先生は、私の先輩であり、学生時代からお世話になってきました。今は、豊島先生の平瀬本の調査のお手伝いをしています。河内本と呼ばれている本なのですが、まだその実態が解明されていません。このグループの研究は、多いに期待できる成果を問うものとなることでしょう。

 この記事をお書きになっている白石さんは、難解な事柄を非常にわかりやすくまとめてくださっています。何かと難しい言葉で説明される専門的な内容を、じっくりとお聞きになりながら、それを理解なさるのは大変だったかと思います。
 緻密で複雑な古写本と物語本文の世界を、このようにやさしく紹介していただき、ありがたく思います。
 最後のことばは、「写本研究者たちの見果てぬ夢だ。」となっています。
 さまざまな問題があることを、十二分に理解なさった上でのこのことばです。
 このメッセージが、これから『源氏物語』を研究しようとする方々に伝わることを願っています。



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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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