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2008年6月24日 (火)

源氏千年(50)朝日新聞の文化欄に

 本日24日(火)の朝日新聞(朝刊・文化欄)に、「写本研究に新潮流」と題する記事が掲載されています。

 昭和20年代以降に読まれてきた『源氏物語』の本文は、そのすべてが大島本による校訂本文でした。その流れが、今、見直しの時期に入っています。
 物語を読む上での基本となる本文については、『源氏物語』の千年紀というタイミングに、うまく問題提起できたようです。
 これまで、『源氏物語』の本文に関して無関心だった方々が、こうした問題を一緒に考える仲間として参加してくださることが期待できます。
 地味で目立たない世界に、ようやく、こうして光が当たり出しました。これも、行き詰まりを自覚する人が多くなったからでもありましょう。

 遅れに遅れている『源氏物語』の本文の研究も、これからが楽しみです。
 先入観のない若い方々の反応を知りたいと思います。

 今日の記事をまとめられた白石明彦さんは、多様な研究状況の中に混在する問題点を、みごとに切り取って示してくださいました。

 それにしても、このようにして『源氏物語』の本文に関する課題を公開されると、当然のことながら「それでは、どの本文を読めばいいの?」という問い掛けが帰ってくるはずです。

 流布本を見直すという機運が、こんなに早く来るとは思いませんでした。平成元年より、『源氏物語別本集成』の刊行を通して問題提起をしてきた者の一人として、この問題に対処する上での「モノ」を提示する義務があります。
 そこで、現在、3種類の本文が同時に通読できる形式の本を準備しています。『源氏物語別本集成』における巻の配分による第1巻を、10月の中古文学会の時に間に合うように、急ピッチで進めています。
 これには、陽明本(陽明文庫蔵)・池田本(天理図書館蔵)、河内本(天理図書館蔵)の3種類の校訂本文を、見比べて読み進められるようにするものです。また、簡単な語釈も付けます。

 昭和以降に刊行された『源氏物語』の流布本としては、
『定本源氏物語新解』(金子元臣、明治書院、大正14〜昭和5年)
『対校源氏物語新釈』(吉沢義則、平凡社、昭和12〜15年)
があります。
 これは共に、底本としての『湖月抄』を、河内本で校訂したものでした。

 その後、
『日本古典文学大系 源氏物語』(山岸徳平、岩波書店、昭和33〜38年)
は、三条西本を底本としていました。ただし、この新版である
『新 日本古典文学大系 源氏物語』(室伏ほか5名、岩波書店、平成5〜9年)
は、大島本だけで校訂本文を提供しています。

 そして戦後まもなくにもどりますが、
■『日本古典全書 源氏物語』(池田亀鑑、朝日新聞社、昭和21〜30年)
に始まり、
『源氏物語評釈』(玉上琢彌、角川書店、昭和39〜44年)
『日本古典文学全集 源氏物語』(阿部・秋山・今井、小学館、昭和45〜51年)
『新調日本古典集成 源氏物語』(石田穣二・清水好子、新潮社、昭和51〜55年)
が、大島本を中心とした本文で校訂本文を作成しています。
 それが、現在まで続いています。

 ということで、〈いわゆる青表紙本〉としての『湖月抄』や「大島本」以外の本文を校訂本文にして刊行しようという試みは、まさに『源氏物語』の近現代史上はじめて、ということになります。

 とにかく、『源氏物語』の本文がこうして新聞に取り上げられる時代になったことは、研究史上でも特筆すべきことです。
 しばらくは迷走するかもしれません。しかし、地味な分野だけに、時とともに実りある成果が生み出されるにちがいありません。

 思いつきに走らず、さまざまな本文を着実に読み解いていく流れができれば、おのずと確かな手応えが感じられるようになるはずです。

 「写本研究に新潮流」から「本文研究に新潮流」へと展開していくのも、時間の問題となってきました。
 ますます、若者の出番となります。
 元気のいい発言や提案を、期待したいと思います。

 なお、新聞記事の中で「別本系統」という言葉が気になりました。雑多な古写本群を指すものなので、「系統」という分類にはならないからです。しかし、このようなことは、今の流れの中では瑣末なことです。
 それよりも、池田亀鑑の提唱した、〈青表紙本〉〈河内本〉〈別本〉という分類名が不適当な状況において、新しい名称を提案すべきです。
 私は、〈河内本群〉と〈別本群〉という2分別私案を提示しています。ただし、もっといい名称を思案中です。
 先日、室伏信助先生とお話しをしていたら、先生は〈河内本群〉と〈その他群〉にしたら、というアドバイスをもらいました。
 さらによく考えてみます。





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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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