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2008年9月16日 (火)

ヴェネツィアから(9)イタリア本

 今回も、貴重な本を入手しました。

■まずは『源氏物語』から。
 立ち寄った書店で、何も期待せずに、日本の文学作品を翻訳したものがありますか、と下手な英語まがいの言葉で聞きました。何度か聞き返されましたが、諦めることなく、知っている単語を並べていたら、村上春樹などの本があるコーナーに連れて行かれました。

 そこで、意を強くして、日本の古典文学はあるか、と聞きました。
 「クラッシック」という言葉をなかなか理解してもらえない状況の中で、キーン先生が先日講演なった研究集会のポスターが壁に貼ってあったので、そこへ連れて行き「ゲンジモノガタリ」と言うと、「オーケー、チョット、マチナサイ」という言葉が返って来ました。
 別棟の倉庫にあるそうで、そこへ取りに行かれました。

 そうなのです。

「ゲンジモノガタリ、プリーズ」

で、『源氏物語』のイタリア語訳の本がでてくるのです。

 『源氏物語』は、それほど世界文学としてメジャーなのです。

080913genjibook『源氏物語』

 持ってこられた本を見て、これがアドリアナ・モッティが訳した2冊本を1冊にしたものであることが、見てすぐにわかりました。アーサー・ウェイリーの英訳を重訳したものです。

 イタリア語訳の『源氏物語』としては、1928年にキク・ヤマタがフランス語訳したものをもとにして、1942年にドメニキーニがイタリア語に翻訳しました。

 その後、1944年にピエーロ・ジャイエが訳しています。これもアーサー・ウェイリーの重訳です。

 アドリアナ・モッティのイタリア語訳は、1957年に刊行されています。
 これは、1992年に2冊が箱に入って再版されました。

 今日、私が手にしたのは、2006年に出た第3版ということになります。19.8ユーロ(約3,200円)でした。この頁数が初版と同じなので、これは初版の復刻版なのかもしれません。日本に帰ってから、手元にある本と比べてみます。

 10月からの源氏展の海外の翻訳本コーナーに、この本を追加してもいいな、と思っています。いいタイミングで、いい本が見つかりました。

■2冊目は、ネグリ先生が訳された『和泉式部日記』です。

080912izumi_4『和泉式部日記』

 これは、今回ネグリ先生からいただきました。今年刊行されたばかりの本です。

 ネグリ先生は、一昨年に『更級日記』のイタリア語訳の本を刊行されました。
 その時には、付録としての地図の作製を〈NPO法人 源氏物語の会〉が受け持ち、伊井春樹先生の『更級日記』の付録の地図をイタリア語に改訂して収録したものです。

 イタリアには、平安時代の文学研究者として、オルシ先生とネグリ先生のお二人がいらっしゃるのです。心強いことです。


■3冊目は、円地文子の『女面』のイタリア語訳です。

080912enchi女面


 これは、1999年に刊行されたもので、その翻訳者であるグラジアナさんから、今回の研究集会の会場でいただきました。

 初対面の方でしたが、私が発表の枕に海外における『源氏物語』の現状を話したので、そんな奴なら、ということで献呈してくださったようです。

 海外の翻訳本は、なかなか入手できません。このようにして貴重な本をいただけることは、本当にありがたいことです。大いに宣伝をしたいと思います。
 まずは、このブログで。


■最後は、東洋美術館で開催されたばかりの源氏展の図録です。

080912genjizuroku_2源氏図録

 これは、東洋美術館の館長さんからいただきました。
 この中に、今回の収穫だった『源氏物語画帖』が3図ほど掲載されています。
 写真が不鮮明ですが、「末摘花」「須磨」「明石」だと思います。
 写真の下に、モッティさんのイタリア語訳が付されていました。
 今回、東京外国語大学の学生さんで、今ちょうどイタリアに語学の勉強に来ているという2人が参加していましたので、試しにこのイタリア語を日本語に訳し戻してもらいました。

 こんな感じだということでした。

(1)1巻 2部 4章 P.353
 そして、源氏自身が神に祈るために帰っていった。「私たちの周りに、このような景色と騒音があったら、我々の日々の終わりが来たかどうかを自問することはできない。」しかし突然、この祈りの最中に、これまでに聞いたことのないような、より大きな音を聞き、同時に雷が源氏の部屋のすぐ近くの屋根に落ちた。炎がほとばしり、一瞬で家のその周りが灰と化した。
(※伊藤は「須磨」と認定)

(2)1巻 1部 6章 P.177-8
 源氏が二条院に帰ったとき、彼を待っていた紫の上を見つけた。彼女が彼の元へやって来るのを見ながら、彼女の動きの自然な上品さと素朴さが、何よりも彼を喜ばせ、魅了するものであった(思った)。
 その後、彼女は絵を描き、色をつけ始めた。このように二人は時を過ごした。とてもすてきなカップル(?)であった。
(※伊藤は「末摘花」と認定)

(3)1巻 2部 3章 P.338-9
 源氏は入江に面した縁側に出た。夕日と海のきらめき、高くそびえた山々が、異様なほどの輝きを彼に投げかけていた。それは彼を見ていた人にとって、彼が別世界の人物であると思えるほどであった。入江の沖を船の列が通りすぎていた。船をこぐ波の音に、野ガモの鳴き声が合わさって、ほとんど聞き分けられなかった。
(※伊藤は「明石」と認定)

 突然のお願いに、快くその場でサッと訳してくれたお二人に、感謝しています。本当に、サッとでした。驚きました。

 なかなかしっかりとした文章です。しかも、手書きの文字使いもすばらしいものでした。適切な漢字の用字法も、若い子には珍しく正確です。そのレベルの高さに感心しました。
 しっかりとした日本語の理解と表現能力を持っているお二人なので、イタリア語もきっとすばらしい成果をあげて帰国されることでしょう。日本語があやふやな人は、外国語を勉強しても無駄です(私は、外国語をマスターしたくても、センスの問題で習得できないタイプですが……)。
 娘が大学1回生から4年間、イギリスに留学していました。日本の大学は2回生で退学し、結局はイギリスの大学を卒業しました。
 このお二人も大学の2年生を休学してのイタリア留学とのこと。わが娘の姿を見るようでした。
 どうか、収穫の多い留学生活となるよう、祈っています。
 ますますの活躍を、期待したいと思います。


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コメント

最後の旅行と思ってイタリアに一人語学留学(たった一ヶ月)した後,京都で日本の文化に触れて自分の知識不足を思い知った。
イタリア人が京都をお寺ばかりで面白くないと言った意味が分かる。

それで日本語版源氏物語を斜め読みして改めてストリーの面白さと当時の人の人生観,習慣など垣間見ることが出来た。京都の町が生き生きしだした。

イタリア語版源氏物語を取り寄せてみて驚いた。
表紙に載っているのはどう見ても歌舞伎役者,背景は東海道53次風,目を疑った。
たった一ヶ月の語学留学ではこの本を読み通すことなど出来ないが,表紙と言い登場人物の名前の発音といい間違いだらけである。
当時の人々の衣装や建物の図解書や結婚の形態などの解説書を付けるべきだ。

誰か頑張って改訂版に付け足して下さい。

 イタリアに限らず、海外の翻訳書の表紙はおもしろいですね。
 イタリア語訳『源氏物語』もそうですが、インドのタミール語訳『源氏物語』やパンジャビ語訳『源氏物語』、そしてテルグ語訳『源氏物語』の表紙は、さらにその由来を知りたくなる表紙です。

 どうやら、こうした表紙には、江戸時代のイメージで『源氏物語』が受容されていることが伺えそうですね。『源氏物語』に関連する浮世絵が、表紙をデザインした人のネタのようです。『偐紫田舎源氏』の絵の影響もあるようです。

 登場人物の名前の発音は、日本人が外国の方の名前をどう呼ぶか、ということと関連して、おもしろい問題だと思います。

 イタリア語で読まれた感想など、よろしかったらお報せください。

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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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