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2009年11月14日 (土)

【復元】古都散策(2)唐招提寺

 かつて、「たたみこも平群の里から」と題するブログから、さまざまな情報発信をしていました。しかし、契約していたサーバーがクラッシュし、そのすべてがなくなってしまいました。
 いろいろと多彩な記事があったこともあり、折を見て手元の控えをもとに復元して再掲載します。これも、その一つです。

 この記事は、「初夏の散策(2)唐招提寺」として、2006年5月4日に公開したものです。「鑑真ゆかりの瓊花(けいか)咲く」という副題がついていました。

 過日、落慶法要の日に行った時、入口で受け取った小さな案内記は、3年半前と同じものでした。末尾が少し違うだけのものでした。懐かしい想いで、目を通しました。その理由は、以下に記してある事情によるものです。

********************** 以下、復元掲載 **********************

 唐招提寺といえば、井上靖の『天平の甍』が有名でしょうか。しかし、私がこの寺ですぐに思い至るのは、松本清張の『球形の荒野』です。西の京を訪ねた芦村節子が唐招提寺で、今は亡き叔父の筆跡を芳名帳に見かけたことから、この物語は始まります。国際外交を背景にした異色推理物語です。奈良が、京都が、物語の舞台として巧みに配されています。冒頭の唐招提寺は、特に印象に残っています。この物語を読んでいて、井上靖の作品のような気にさせられた記憶があります。いつもの清張とは違う、古都奈良に対する愛情が感じられた作品に仕上がっていたように思われます。

 さて、この唐招提寺は我が家から車で30分です。今回は、唐招提寺のお向かいにある薬師寺は門前を素通りさせてもらうだけにしました。

 唐招提寺は、平成12年より金堂の大修理に入っています。金堂をスッポリと覆う工事の大屋根は、拝観を躊躇させます。
 
 
 
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 しかし、入口の案内に「瓊花」が咲いているとあったので、入ることにしました。受付で拝観券と一緒にもらった小さな案内記は、写真も何もない、表に伽藍配置図のイラストがあるだけの簡素なものでした。B5版を2つに折ったもので、大半の方は読まずに思い出の品物の1つとなるだけのものでしょう。
 
 
 
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 しかし、その中に記された文章は、とても味わい深いものでした。

「ここは奈良市五条町。奈良の郊外といった感じだが、都が奈良にあった千二百年前は平城京右京五条二坊に当り、いわば首都の中心街区であった。」

と始まります。格調高くお寺を紹介した後、終わりの方では読む人への心配りが記されています。

「以上は拝観者のみなさんの比較的たやすく目に触れ得るものについて概説した。それも近来の旅行形態に鑑み、当山内での所要時間を一、二時間と見込んでの案内であってみれば、もとより委曲をつくすこともできぬのはけだし止むを得ぬ。」

 なかなかいい文章です。唐招提寺にお越しになった折には、文字だけのペラペラの紙1枚ですが、受付で受け取っても読まずにそのまま、というのではなくて、丁寧にお読みになることをお勧めします。これは、どなたがお書きになったのでしょうか。心の籠った温かい解説がなされていて、感心しました。
 そこで、何事もつい調べたくなる癖が、翌日、電話を取らせました。唐招提寺の寺務所にお電話をして、このリーフレットのことをお尋ねしたところ、すぐに「松本楢重さんですわ。」という答えが返ってきました。「お寺の現状と違うことも書かれていますが……」という電話口の方の言い訳は、この文章のことで何か苦情を言ってきたのか、と勘違いされたのかもしれません。「いい文章なので、どなたがお書きになったものなのか知りたくなりまして……」というと、安心されたのか「ありがとうございます」と言って、少し詳しく話してくださいました。
 松本さんはもうお亡くなりになっているそうです。奈良のことをよく調べておられ、歴史的なものについてよく書いておられたとのことでした。唐招提寺とは特に縁のある方ではないそうです。
 突然の電話にもかかわらず、すぐにこの文章を書いた方の名前を教えてくださるとは、このことがよく質問されるのか、寺内ではよく知られたことなのか、いずれにしても素晴らしいことだと感嘆しきりのできごとでした。

 さて、唐招提寺の入口である南大門を入った正面、修理中の金堂の中でビデオを見た後、境内を散策し、お目当ての瓊花を堪能しました。
 
 
 
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 花の番人らしき方の話では、今年は、花の咲くのが例年よりも遅いのだそうです。貴重なものを見る機会を得たことに感謝しました。

 奥まったところにある鑑真和上御廟の前にも、瓊花が植えてありました。これは、その横の石碑に「中華人民共和国首相 趙紫陽首相閣下手植瓊花」(王+京)とありました。
 
 
 
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 日中友好のための話題として、記憶に留めたいと思いました。

 新宝蔵では、贅沢なまでの国宝や重要文化財を見ました。特に、金堂の屋根にあがっていた2体の鴟尾は圧巻でした。まさに、天平の甍を実感させてくれます。西方にあったものは1200年前の創建当時の奈良時代のもので、東方のものは鎌倉時代のものだそうです。東方の鴟尾には、文章が刻まれていました。その文字が今でも読めることに感動しました。

 唐招提寺を出てすぐの、西の京駅に隣接する「がんこ一徹長屋」にも立ち寄りました。こだわりの職人が作る逸品を手にして見、買うこともできます。しかし、この一角に脚を踏み入れるのに入場料が500円とは、何か勘違いをしておられるように思われます。これでは、人は入口で引き返しますし、入った私もスッキリしません。ただし、敷地内の「墨の資料館」の入館料も含むとのことなので、それならと思いますが、それならいっそのこと別にすべきでしょう。「墨の資料館」で、奈良の伝統的な墨が出来る工程を見られたことは、いい勉強になりました。実演もありましたが、長屋も資料館も、来訪者への思いやりがありません。建物は綺麗なのですが、片づけられていません。説明が不親切です。もったいない施設だと思いました。匠の頑固さはいいのですが、来た人は何となく不満を抱いて帰ることになるのではないでしょうか。
 唐招提寺での充実した時を持ち込んでの感想ではなくて、ごくあたり前に再訪を抱かせる場所となるように工夫し、努力してほしいものです。

 春の連休が長いせいでもあるのでしょうか、この日の人出は非常に少ないように感じられました。
 連休の最初のせいか、交通情報でも渋滞は少ないようでした。四月末日の穏やかな半日となりました。

********************** 以上、復元掲載 **********************
 
 
 

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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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