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2010年4月29日 (木)

【復元】母子の絆の不可思議さ

(※本記事は、平成19年3月に消失したブログの復元です。)

********************** 以下、復元掲載 **********************

2004年09月04「ミクシィ」掲載分より


 八月末日に、中国東北地方(旧満州)から帰ってきました。
 海外での日本文学研究者との情報交換をするための出張です。

 戦後に満州で姿を消した『源氏物語』の従一位麗子本(鎌倉末写)の探索もしてきました。
 これは、北小路健氏が『古文書の面白さ』(新潮選書)で書かれている本です。すでに、渡部栄の名前で『従一位麗子本の研究』が刊行され、その本文の異質さが論じられています。しかし、その本を渡部氏以外は誰も見ていないのです。著書に写真が数枚掲載されているだけです。

 今回、長春において、七十六歳になられる呂元明先生(元東北師範大学教授)がこのことに興味を持ってくださり、ご一緒にそれらしき所を訪ねましたが、今回は手がかりがつかめませんでした。
 ところが、吉林大学の先生方にもこの本の流転の話をしたところ、たくさんの先生が本探しの協力を申し出てくださいました。これまで、まったくこの本のことを、知らなかったそうです。今後は現地の方が意識して動かれるので、おもしろくなります。
 本は、探している者の元に現れる、と言いますから。

 とにかく、収穫の多い旅でした。東北地方はあまり日本人の研究者が訪れないので、今後の情報交換に関して、好意的に接してもらえました。

 ちょうど一週間前のことです。
 呂元明先生とご一緒に、従一位麗子本を探して長春(戦時中の新京)を歩きました。そして、今から六十年前に渡満していた両親が、終戦時に彷徨っていた地域を探訪した時のことです。
 
 
 
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 私がその地域を訪れた、ちょうどそのすぐ後に、今年八十三歳になる母が突然意識不明の危篤となったことを知りました。
 遠く離れていながらも、何か通じるものがあるのでしょうか。私が母の思い出の地・懐かしい跡地や廃屋を訪ねたちょうどその時に、母の呼吸と心臓が十分間も、突然停止したのです。
 英国留学からの一時帰国中の娘と、そして息子たちがちょうど側におり、一生懸命に人工呼吸をしたそうです。しかし、一週間経った今も意識は戻らず、もう回復することはないそうです。
 出発直前に、満州の写真集を母と一緒に見たことが思い起こされます。それが私との最後の会話となりました。私には何も言わず、ただ身体に気を付けろとだけ言って、いつもニコニコしていただけの母親でした。

 帰国後すぐの昨日、入院先の近畿大学奈良病院に駆けつけました。植物状態の母の昏睡の顔には、父と共に過ごした満州での苦楽がかいま見えるように思えます。
 戦後、父はシベリアに抑留され極寒の地での強制労働を、母は生死を彷徨いながら帰国しました。戦後生まれの姉と私は、まかり間違えば、凍死か餓死か中国での残留孤児となるところでした。今回行った両親の想い出の地の一つであるハルビンの写真などもたくさん写してきました。しかし、もう母に見てもらえないのが残念です。

 今週末までは母の様子を見て、来週から私は福岡へ出張で行きます。親子の繋がりというものを、今回の件で初めて体験しています。虫の知らせ、というのでしょうか。遠く離れていても、何か人間には通い合うものがあるのではないでしょうか。今回私が、20代の頃に母がいた地を訪れたことにより、母は自分自身もその地にタイムスリップしてしまったようです。

 これまでは、このようなことは信じなかったのですが、今は有り得ることと思うようになりました。
 一昨日から毎日面会に行き、眠りこけている母を見ると、その思いを強くします。非科学的ですが、あっても不思議ではないと思うようになりました。血縁なのかな、などとも思います。

 再来週からスペインの学会で研究発表をすることになっており、帰国後翌日の9月末は、前田家尊経閣文庫へ定家本『源氏物語』の調査に行くことになっています。10月はインド、11月はトルコ、12月はイギリス、年明けはエジプト…… と、予定はギッシリと組まれています。

 母の件で、こうした予定が大幅な修正を余儀なくされそうです。それもまたいいだろう、と思っています。いつも身を案じてくれていた母ですから。少しノンビリしなさい、と言っているかもしれません。


■いただいたコメントへ■
S王さま
先ほど福岡に着きホテルに入りました。そして、コメントを拝見しました。ありがとうございます。
これから四日間、福岡で仕事です。
ホームページを、少しずつ読ませていただきます。
私の母は、もう意識は戻らないそうです。今日は、手が少し温かかったので、少し安心しました。母の手を握るのは、本当に久しぶりでした。息子としては、やはり照れますね。何とか気持ちが伝われば、と思って握りました。奇跡を信じて、見守ってやりたいと思います。
 
 
 
********************** 以上、復元掲載 **********************
 
 
 

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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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