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2010年11月19日 (金)

教科書に見る平安朝・小学校—国語(5)教育出版(その2)

 教育出版が作成した、小学校国語科教科書134冊について、この「教育出版(その2)」では、小学4年生と5年生の教科書をとりあげます。小学6年生は、次の「教育出版(その3)」でまとめます。

 これまでの経緯と報告は、次の記事をご覧ください。

「教科書に見る平安朝・小学校—国語(1)」(2010年10月31日)

「教科書に見る平安朝・小学校—国語(2)中京出版・大日本図書・二葉図書」(2010年11月 8日)

「教科書に見る平安朝・小学校—国語(3)学校図書」(2010年11月 9日)

「教科書に見る平安朝・小学校—国語(4)教育出版(その1)」(2010年11月11日)


【教育出版】(134冊中、小学4年生と5年生分)

 昭和29年度用


5年下 『源氏物語』に言及し写本の影印(「桐壺」)


※この年度は、藤村作が編集者です。この5年生用「五の下」の「ことばと文字の話」という教材の2箇所に、『源氏物語』への言及があります。

・「あの有名な『源氏物語』(ふりがな「げんじものがたり」)や『枕の草子』(ふりがな「まくら そうし」)などは、この平がなによって書かれた作品なのです。」(65頁)
・「『源氏物語』や『枕の草子』などのように」(67頁)

そして、『源氏物語』「桐壺」巻の写本の影印も添えてあります。
 
 
 
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 この写真は少しずれています。また、「源氏物語」というキャプションも手書き風です。どのような事情があってのものなのでしょうか。やや稚拙な編集のように思えます。
 今回、京都府立図書館で閲覧した教科書は、教科書センター用見本です。したがって、実際に印刷された教科書は、さらに編集の手が加わったものかもしれません。この点は、専門家に伺うしかありません。今は、私見を記すことに留めます。
 また、この影印は「桐壺」の巻頭部分です。ただし、手元に資料がないので、この『源氏物語』がどこの所蔵本なのか、今はわかりません。お分かりの方からのご教示をいただけると助かります。いずれにして、次期昭和33年度用教科書の監修者となる池田亀鑑が、この画像の提供者だと思われます。
 なお、この五年生用は『改訂 国語 五の下』となっています。改訂前にも『源氏物語』の影印があったのか、その内容を知りたいのですが、京都府立図書館所蔵の教科書の範囲で調査した結果をまとめている現段階では、今後の課題の一つとしておきます。


 
 
 昭和33年度用

5年上 『源氏物語』の写本の影印、「はくがのふえ」


※この年度は、池田亀鑑と坪田譲治の2人が監修者です。
 
 
 
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 そして、「文字の話」という単元で『源氏物語』の影印画像が掲示されています。
 
 
 
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 この頁では表音文字と表意文字、そしてかなの説明があります。次の頁に移ると「有名な『源氏物語』(ふりがな「げんじものがたり」)や『枕草子』(ふりがな「まくらのそうし」)などの作品は、このひらがなが作りだされていたからこそ、できたともいえましょう。」(56頁)とあります。
 これは、前回の藤村作の編集になる教科書での説明文に酷似しています。おそらく、共に池田亀鑑の手になる文章だと思われます。
 さらに、ここに使われた『源氏物語』の写本の影印は、昭和29年度版とはまったく異なる写本です。そして、さらに驚くことは、この写本が現在どこに所蔵されているものなのか、まったく不明な本なのです。
 これは、『源氏物語』54巻の中の第49巻「宿木」の後半部分です。
 この影印の3行目に「ほのめかしたり」とあります。そして、「し」と「た」の間の右横に、小さく「申」という漢字が書き添えてあります。このことを『源氏物語大成』(1762頁12行目)と『源氏物語別本集成』(497509文節目)で確認すると、すべての写本が「ほのめかし申したり」となっています。このように「申」を欠き、その「申」を補入する写本が見あたらないのです。
 また、6行目の「ひたちにくたり」とある箇所についても、『源氏物語大成』(同14行目)も『源氏物語別本集成』(497524文節目)も、「ひたちになりてくたり」と「なりて」のある写本ばかりです。この教科書に掲載された影印のような本文が、今私が確認できる資料の中に見つからないのです。
 なぜ、池田亀鑑はこの巻のこの箇所を教科書に掲載したのでしょうか。今の私にとっては、大きな疑問です。普通に考えれば、池田亀鑑が『源氏物語』の最善本とした大島本の影印が掲載されていそうです。しかし、そうなっていないのです。
 なお、この単元について、教科書の巻末にある「解説」では、5月に教えるものとして、次のように記されています。


目標
○文字についての知的理解を深めて、使い方を一層合理的にする。
○経験と結びつけて説明文を読む。
指導上の留意点
○四年上「研究発表」—かん字の使い方—の発展として扱う。四年では漢字に限定して理解を深めたが、ここでは文字全体について説明している。
○既習の文字を無意識に使用していた今までの学習を反省しながら扱う。
○文字を集めたり、例を拾い出したりして、この文章に述べている内容を理解し、使用に直結させる。

 それにしても、この影印には池田亀鑑の拘りがあるように思えます。ただし、なぜこの「宿木」巻なのかは謎です。
 参考までに、この教科書の奥付を掲載しておきます。
 
 
 
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 昭和36年度用


4年下(欠本)
5年上 「はくがのふえ」
5年下 『源氏物語』の写本の影印


※この年度の監修者は、坪田譲治1人となります。池田亀鑑は昭和31年12月に亡くなっています。
 ここでも、「文字の話」という単元はあります。しかし、説明文にあった『源氏物語』と『枕草子』の作品名が消え、挿絵としての『源氏物語』の影印のキャプションが、「源氏物語」とあるだけだった前回から「ひらがなで書かれた『源氏物語』」と変更になります。昭和33年度と同じ影印なのは、池田亀鑑の使ったものをそのまま転用したからです。
 なお、この頁の前には、漢字の音訓に関する説明で「漢字ばかりで書かれた『万葉集』」というキャプション付きで『万葉集』の版本の影印が掲載されています。

 
 
 昭和40年度用

5年下 『源氏物語』の写本の影印、「はくがのふえ」


※この年度から、監修者は坪田譲治、亀井勝一郎、池田弥三郎の3名となります。そして、「日本の文字」という単元では、昭和36年とほぼ同じ説明がくりかえされています。また、影印もまったく同じです。この『源氏物語』の写本について、池田亀鑑の配慮がそのまま継承されているのです。

 
 
 昭和43年度用

5年上 『源氏物語』の写本の影印
5年下 「はくがのふえ」


※『源氏物語』の写本の影印の取扱は、前回の昭和40年とまったく同じです。影印だけで、説明文の中には『源氏物語』も『枕草子』も出てきません。

 
 
 昭和46年度用

5年下 『源氏物語』の写本の影印ナシ


※この年度から、監修者は西尾実となります。そして、「日本の文字」という単元から『源氏物語』の写本の影印がなくなります。以降、昭和49年度、昭和52年度ともに、この『源氏物語』の写本の影印は復活しません。

 
 
 昭和49年度用

※特にコメントすべきことはありません。

 
 
 昭和52年度用

※特にコメントすべきことはありません。

 
 
 昭和55年度用

※特にコメントすべきことはありません。

 
 
 昭和61年度用

5年上(欠本)

 
 
 昭和64年度用

5年下(欠本)

 
 
 平成4年度用

5年(欠本)

 
 
 教育出版の小学4年生と5年生用の教科書を通覧して、昭和29年度用と昭和33年度用の教科書に、平安時代の香りが顕著に確認できました。それも、『源氏物語』の影響です。
 『源氏物語』の写本の影印を小学生が使う教科書に採用するのは、池田亀鑑だからこそできたとも言えます。
 以降、教科書から平安時代の雰囲気はまったく排除されていきます。残念です。
 
 
 

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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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