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2010年11月22日 (月)

教科書に見る平安朝・小学校—国語(6)教育出版(その3)

 教育出版が作成した小学校国語科教科書134冊の内、この「教育出版(その3)」では、小学6年生の教科書をとりあげます。

 これまでの経緯と報告は、次の記事をご覧ください。

「教科書に見る平安朝・小学校—国語(1)」(2010年10月31日)

「教科書に見る平安朝・小学校—国語(2)中京出版・大日本図書・二葉図書」(2010年11月 8日)

「教科書に見る平安朝・小学校—国語(3)学校図書」(2010年11月 9日)

「教科書に見る平安朝・小学校—国語(4)教育出版(その1)」(2010年11月11日)

「教科書に見る平安朝・小学校—国語(5)教育出版(その2)」(2010年11月19日)
 
 
 
【教育出版】(134冊中小学6年生分21冊)

 昭和29年度 6年生用


※特にコメントすべきことはありません。

 
 
 昭和33年度用

6年上 『万葉集』『枕草子』『源氏物語』『今昔物語集』「俳句」などの紹介文
6年下(欠本)

 
 
 
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※池田亀鑑と坪田譲治が監修者。「古典の世界」という単元で、『枕草子』とか『源氏物語』を扱う。
 まず、冒頭の「古典とわたしたち」は、次のように始まります。そして、『枕草子』と『源氏物語』に関する文章を引いておきます。「よもぎのつゆ」については、池田亀鑑が書き下ろした文章です。


  三 古典の世界

    古典とわたしたち

 「古典」ということばを、聞いたことがあるでしょう。むかしから伝わってきた古い書物のことです。
 『万葉集』とか『枕草子』とか、『源氏物語』とか、そういう書物のことです。
 そんな古いものは、きっとわかりにくく、親しみにくいものにちがいないと思うかもしれません。なるほど、『枕草子』は、今からおよそ九〇〇年ほどむかしに書かれたものですし、『万葉集』は、だいたい一二〇〇年もむかしにできた書物ですから、そう思うのも無理はありません。試みに、『万葉集』 や『枕草子』を開いてみても、今すぐ、すらすら読むことはむずかしいでしょう。むかしの人のことばは、今のわたしたちのことばとは、かなりちがっています。ことばの使い方も、今のことばの使い方とは、ちがっています。
 けれども、このむかしの人のことばと ことばの使い方とが わかりさえすれば、古典は、ずいぶんおもしろいものです。わたしたちの祖先も、わたしたちと同じようなことを思い、同じようなことを考えていたのだ、ということがよくわかります。古典を読むと、それを書いたむかしの人とわたしたちとは同じ血のつながりにあるということが、しみじみ感じられます。たましいのふるさとというようなものが、ほのぼのと感じられます。

    万葉集

(中略)

    よもぎのつゆ
      (一)
 花が散って、いつの間にか葉ざくらになりました。まだ早いのに、もう雨の日が続きます。あわただしい春の終わりです。ここは京都の町はずれ、ふり続いた雨がやんだので、きれいに仕立てた女車がやって来ました。よもぎが一面にはえて、道の上におおいかぶさっています。その下に、なんとまあきれいな水でしょう。雨水がいっぱいたまっています。牛につきそうお供が、車を、そのよもぎの道に引きこみますと、ぱっととばしりが上がります。車の輪が回るにつれて、おしつぶされたよもぎの かすかなにおいがただよってきます。
 車の中からは、わかい女の人たちが、
「まあ、なんていいにおいでしょう。」
などと言っている声が聞こえます。
 車はずんずん進んで行きます。両側に、うの花のさいているかきねがあります。ふと、車の中から、女の人がそれを見つけて、花のえだを折ろうとします。車が、すうっと進んで、手がはずれます。
「まあ、くやしい。」
と、車の中の人たちは話し合っているようすです。

 この車には、『枕草子』という有名な本を書いた清少納言が、友だちといっしょに乗っていたのでした。五月のころ、清少納言は、みどり一面の郊外に出て、この季節のおもしろさを味わいました。よもぎ、みどり、きれいな水、うの花、なんとわかわかしいこのみでしょう。
 みなさん、大さくなったら、ぜひ、この『枕草子』をよく読んでみてください。きっと、この作品がすきになるにちがいありません。そして、清少納言が、新しく、みなさんの心の中に、生き返ってくるにちがいありません。
      (二)
 春の終わりごろでした。長らくふり続いた雨がやみました。ある日の夕方、きれいな車が、ごくわずかなお供をつれて、京都の町の中を進んで行きます。東山の上に、大きな月が上りました。車は、その月の光に照らされながら、静かに進んで行きます。
 やがて、車は、あれはてた大きなやしきのそばにさしかかりました。へいはこわれ、かべは落ち、人の住むやしきとも思われません。車の中から、わかい男の人の声が聞こえて来ました。
「はてな。見たことのあるやしきだな。」
 すると、車のすだれが動きました。品のいい人の顔が、月の光に照らし出されました。お供の人はかしこまって、
「さようでございます。ここは常陸の宮のおやしきでございます。」
と答えます。
「ああ、そうだったね。ずいぶんごぶさたをしたものだ。たずねてみよう。」
と言って、中の人はおりて来ます。見上げると、まつの立ち木に、何かゆれているものがあります。月の光に照らして見ると、それはふじの花でした。こわれた門の中にはいってみますと、一面によもぎがしげっています。それにつゆがおりて、月の光にきらきらと光っているのです。
「たいへなつゆでございます。わたくしがお先ばらいをいたしましょう。」
と、お供の人は、馬のむちでよもぎのつゆをはらいながら、先に立ちます。しげったこずえから、ぱらぱらとしずくが落ちます。あかりもない、化け物やしきのような住まいです。

 これは、紫式部が書いた『源氏物語』の中の一つの場面です。今、ここをたずねて来たのは、光君という人で、この物語の主人公になっている人です。
 『源氏物語』はほんとうにすばらしい作品です。紫式部も清少納言も、平安時代の中ごろの人です。日本の女流作家が、世界の人々に先がけて、こんなすぐれた作品を残したことを、わたしたちは、大きなほこりとしようではありませんか。

    今昔物語

(中略)

    保昌とはかまだれ

(中略)

    ☆ 文語文と口語文

(『枕草子』を例に、現代語訳と原文をあげる)

    俳句というもの

(中略)

 なお、本教科書の巻末には「解説」があり、そこには各単元の目標や指導上の留意点が記されています。
 この「古典の世界」は5月から6月にかけての教材となっています。


教材
古典とわたしたち
万葉集
よもぎのつゆ(池田亀鑑作)
今昔物語
保昌とはかまだれ
俳句というもの
目標
○古典に対する関心と理解。
○文学精神の育成。
○歌・俳句。物語・説明文など、各種の文章形態の読解力をたかめる。
○万葉集・源氏物語・枕草子・今昔物語・俳句などについて初歩的理解を与える。
指導上の留意点
○古典への関心と親しみをもたせるようにする。
○万葉の短歌・長歌、芭蕉以後の著名俳人の俳句を原文でだし、これに解釈と鑑賞を附して読ませることにより、伝統的な短詩型文学への初歩的理解を図る。
○源氏・枕・今昔の一節を現代語訳したものを読ませ、物語・随筆の面における古典の世界に接近させる。
○上代は万葉、中古は源氏・枕、中世は今昔、近世は俳句と代表的な文芸様式と作品をとりあげている。


 
 
 昭和36年度用

6年下 『万葉集』『源氏物語』「鳥取砂丘の植物」

 
 
 
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※坪田譲治1人の監修者となります。表紙が、いかにも平安朝風です。
 巻頭に「一 古典の世界」が置かれます。ただし、『今昔物語』と「俳句というもの」は削除となりました。文章に一部改変(女車→牛車など)があるので、参考のために引きます。挿絵は同じです。
 また、「鳥取砂丘の植物」が採択されています。池田亀鑑が鳥取出身であり、また鳥取市遷喬小学校校長の稲村謙一がいることから取り上げられたのではないか、と思っています。


  一 古典の世界

    古典とわたしたち

 「古典」ということばを 聞いたことがあるでしょう。むかしから伝わってきた古くてすぐれた書物のことです。
 『万葉集』とか『枕草子』とか、『源氏物語』とか、そういう書物のことです。そんな古いものは、きっとわかりにくく、親しみにくいものにちがいないと思うかもしれません。なるほど、『枕草子』や『源氏物語』は、今からおよそ九〇〇年ほどむかしに書かれたものですし、『万葉集』は、だいたい一二〇〇年もむかしにできた書物ですから、そう思うのもむりはありません。試みに、それらの本を開いてみても、今すぐ、すらすら読むんだり解釈したりすることはむずかしいでしょう。むかしの人のことばは、今のわたしたちのことばとは、かなりちがっています。ことばの使い方も、今のことばの使い方とは、ちがっています。
 けれども、このむかしの人のことばと ことばの使い方とが わかりさえすれば、古典は、ずいぶんおもしろいものです。わたしたちの祖先も、わたしたちと同じようなことを感じ、同じようなことを考えていたのだ、ということがよくわかります。古典を読むと、それを書いたむかしの人とわたしたちとは 同じ血のつながりにあるということが、しみじみ感じられます。たましいのふるさとというようなものが、ほのぼのと感じられます。

    万葉集

(中略)

    よもぎのつゆ
      (一)
 花が散って、いつのにか葉ざくらになりました。まだ早いのに、もう雨の日が続きます。あわただしい春の終わりです。ここは京都の町はずれ、ふり続いた雨がやんだので、きれいにしたてた牛車がやって来ました。よもぎが一面にはえて、道の上におおいかぶさっています。その下に、なんとまあきれいな水でしょう。雨水がいっぱいたまっています。牛につきそうお供が、車を、そのよもぎの道に引きこみますと、ぱっと とばしりが上がります。車の輪が回るにつれて、おしつぶされたよもぎの かすかなにおいがただよってきます。
 車の中からは、わかい女の人たちが、
「まあ、なんていいにおいでしょう。」
などと言っている声が聞こえます。
 車はずんずん進んでいきます。両側に、うの花のさいているかきねがあります。ふと、車の中から、女の人がそれを見つけて、花のえだを折ろうとします。車が、すうっと進んで、手がはずれます。
「まあ、くやしい。」
と、車の中の人たちは話し合っているようすです。

 この車には、『枕草子』という本を書いた清少納言が、友だちといっしょに乗っていたのでした。五月のころ、清少納言は、みどり一面のに出て、この季節のおもしろさを味わいました。よもぎ、きれいな水、うの花、なんとわかわかしいこのみでしょう。
 みなさん、大さくなったら、ぜひ、この『枕草子』をよく読んでみてください。きっと、この作品がすきになるにちがいありません。そして、清少納言が、新しく、みなさんの心の中に、生き返ってくるにちがいありません。
      (二)
 春の終わりごろでした。長らくふり続いた雨がやみました。ある日の夕方、きれいな車が、ごくわずかなお供を連れて、京都の町の中を進んでいきます。東山の上に、大きな月がのぼりました。車は、その月の光に照らされながら、静かに進んでいきます。
 やがて、車は、あれはてた大きなやしきのそばにさしかかりました。へいはこわれ、かべは落ち、人の住むやしきとも思われません。車の中から、わかい男の人の声が聞こえてました。
「はてな見たことのあるやしきだな。」
 すると、車のすだれが動きました。品のいい人の顔が、月の光に照らし出されました。お供の人はかしこまって、
「さようでございます。ここは常陸の宮のおやしきでございます。」
と答えます。
「ああ、そうだったね。ずいぶんごぶさたをしたものだ。たずねてみよう。」
と言って、中の人はおりてます。見あげると、まつの立ち木に、何かゆれているものがあります。月の光に照らして見ると、それはふじの花でした。こわれた門の中に はいってみますと、一面によもぎがしげっています。それにつゆがおりて、月の光にきらきらと光っているのです。
「たいへなつゆでございます。わたくしがお先ばらいをいたしましょう。」
と、お供の人は、馬のむちでよもぎのつゆをはらいながら、先に立ちます。しげったこずえから、ぱらぱらとしずくが落ちます。あかりもない、化け物やしきのような住まいです。

 これは、紫式部が書いた『源氏物語』の中の一つの場面です。今、ここをたずねてたのは、光君という人で、この物語の主人公になっている人です。『源氏物語』はほんとうにすばらしい作品です。
 紫式部も清少納言も、平安時代の中ごろの人です。日本の女流作家世界の人々に先がけて、こんなすぐれた作品を残したことを、わたしたちは、大きなほこりとしようではありませんか。

 なお、本教科書の巻末にも、昭和36年度版と同様に「解説」があり、そこには各単元の指導内容や留意事項が記されています。
 この「古典の世界」は10月の教材となっています。


教材
1古典の世界
(1)古典とわたしたち
(2)万葉集
(3)よもぎのつゆ(池田亀鑑作)
指導内容
○日本の古典について関心をもつ。
○解説文と対照して、『万葉集』を読む。
○『源氏物語』『枕草子』の一節を現代語訳した文章を読み、古典の気分にふれる。
留意事項
○短歌・長歌などの形態にふれ、伝統的な短詩型文学についての初歩的な理解を与える。
○(3)は物語・随筆の面における古典への通路。
○古典の文体は文語体であることに注意する。


 
 
 昭和40年度用

6年上 「鳥取砂丘の植物」(?)


※監修者は、坪田譲治、亀井勝一郎、池田弥三郎です。

 
 
 昭和43年度用

6年上 「鳥取砂丘の植物」
6年下 『万葉集』

 
 
 昭和46年度用

6年上 「鳥取砂丘の植物」
6年下 『万葉集』


※監修者は、西尾実です。

 
 
 昭和49年度用

6年上 「鳥取砂丘の植物」
6年下 『万葉集』

 
 
 昭和52年度用

6年上 「鳥取砂丘の植物」


※「鳥取砂丘の植物」の写真がカラーになります。

 
 
 昭和55年度用

6年上 「鳥取砂丘の植物」


※監修者は、木下順二・松村明・柴田武です。巻頭に、鳥取砂丘と植物のカラー写真があります。

 
 
 昭和58年度用

6年上 「鳥取砂丘の植物」


※昭和55年度用と一緒です。

 
 
 昭和61年度用

※特にコメントすべきことはありません。

 
 
 
 教育出版の6年生用教科書は、昭和33年度用と36年度用で池田亀鑑の影響が顕著に見られます。際立っていると言っていいでしょう。没後にも、大きな影響力を及ぼしてます。
 後に紹介する大阪書籍版の6年生用教科書で、川端康成が編集したときにも『源氏物語』が浮き上がります。監修・編集者の姿勢が、こうしたところにうかがえます。
 
 
 

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