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2012年12月18日 (火)

読書雑記(56)山本兼一『千両花嫁 とびきり屋見立て帖』

 『千両花嫁 とびきり屋見立て帖』(山本兼一、文藝春秋、2008年5月、文春文庫、2010年11月)は、今後のシリーズ化が楽しみな作品集です。

■「千両花嫁」
 文久三年(1863)三月。鴨川の枝垂れ桜が八分咲きの春のことです。三条木屋町で道具屋「とびきり屋」を新たに開店した真之介とゆず夫婦は、ほやほやの新婚です。というよりも、拐かしての略奪婚でしたが。
 場所は三条大橋の袂で、東海道の上がりの地点という恵まれた場所です。
 ゆずは、京で3本の指に入る茶道具屋の愛娘です。真之介は、捨て子からその店で育てられた奉公人でした。当然のこと、娘の父は大反対。物語が始まる早々、楽しい仕掛けがなされています。
 ゆずは開き直り、命を賭けてる夫の道具道楽に付き合うつもりです。
 開店早々にやってきたのが壬生浪の面々、近藤勇の登場です。これからの展開にますます期待が持てます。
 芹沢鴨が盗んだ自分たちの結納金三千両を取り戻すくだりは秀逸です。【5】
 
初出誌:『オール讀物』2004年12月号
 
 
■「金蒔絵の蝶」
 高杉晋作と祇園の妓の話です。ゴム鞠が弾むような第一作と違い、これは創意と工夫とエネルギーが文章から感じられないのが惜しいと思いました。話も陳腐です。【1】
 
初出誌:『オール讀物』2005年4月号
 
 
■「皿ねぶり」
 坂本龍馬の登場です。道具屋とは、という話で、今後のつなぎとなる話題が盛られています。勝海舟を家に預かったところ、侍たちに襲撃されます。命拾いをする立ち回りがおもしろい話に仕上がっています。
 ゆずは、眉を抜きお歯黒をして、やっと嫁らしくなりました。【4】
 
初出誌:『オール讀物』2005年10月号
 
 
■「平蜘蛛の釜」
 一つの釜をめぐって、ゆずの魅力が十二分に発揮された話になっています。夫婦の信頼関係と人間が持つ味が出ています。高杉晋作と坂本龍馬は、贅沢にも背景に置かれているだけです。茶道具の目利きになるのには、とにかくいいものを見ることだとか。いろいろと出歩いて見て回るしかないようです。【3】
 
初出誌:『オール讀物』2006年4月号
 
 
■「今宵の虎徹」
 刀をめぐる話です。いろいろと物を見ることの大切さの勉強ができます。ここでは、近藤勇と土方歳三が出てきます。それも、ピエロ役で。二人は、作者にさんざん弄ばれています。
 最後のゆずの母の話は、綴じ目を盛り上げています。おもしろい話に仕上がっています。【4】
 
初出誌:『オール讀物』2006年10月号
 
 
■「猿ヶ辻の鬼」
 坂本龍馬がお店の二階に寝起きしているという設定がおもしろいところです。龍馬から頼まれた、公家の攘夷を諦めさせるための贈り物を探すゆずがおもしろい展開を引き出していきます。対する夫の真之介は、武市瑞山から、龍馬とは逆に開国を諦めさせるための贈り物を頼まれます。さて二人は何を選ぶのか。
 真之介は、日本が愛おしくなるものとして、「源氏物語絵巻」を持参します。しかし、首を振られます。決まったものの一つは、『源氏物語』に関わりのあるものでした。何とも優雅なものをと、思わず日本文化の継承に思いを及ぼしました。話のオチに、人の心は、物ではなくて心で動かすものだとあります。なるほど、と得心しました。【3】
 
初出誌:『オール讀物』2007年1月号
 
 
■「目利き一万両」
 辻が花の裂は、捨てられた真之介が肌身に付けさせられていたものです。それをめぐる出生の話へと展開します。
 近藤勇が率いる壬生の屯所を舞台にして、結成されたばかりの新撰組が背後に動いています。社会の動きを躍動的に語ります。屯所での対応は、芹沢鴨があたっています。ただし、どうも人間が描けていません。話の綴じ目も、安易なハッピーエンドに作りすぎです。【1】
 
初出誌:『オール讀物』2007年12月号
 
 
 

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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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