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2013年1月 7日 (月)

読書雑記(58)山本兼一『利休にたずねよ』

 山本兼一の『利休にたずねよ』(PHP文芸文庫、2010.10.29)は、第140回直木賞の受賞作です。そして、今回読んだのは、2008年11月にPHP研究所から刊行されたものを文庫化したものです。

 茶道に関する話題で展開します。しかし、その柱は、利休の恋心にあります。よく歴史と人物が調べてあります。利休が抱いていた美学が、読み進む内にこちらに伝わって来ます。

 利休の切腹をめぐり、時間軸を操作する手法で語られていきます。ただし、私はこの手法に、最後まで馴染めませんでした。作者にとっては創意工夫の産物なのでしょう。しかし、これまでにない利休像を浮き彫りにするために、作者は懲りすぎているように思えるのです。個人的には、もっとシンプルに、ストレートに物語を進めていった方がよかったのでは、と思っています。利休の内面を掘り下げたこのテーマだけで、充分に完成した形を成していると判断できるからです。
 利休がなぜ死んだのか。それに加えて、利休の恋。そのことに絞りきれたら、ここまで複雑な構成にしなくてもよかったのでは、と一読者としては思います。

 この小説では、絵巻物が過ぎ去りし日へと巻き戻されていきます。人の心の静寂と騒擾とが、巧みに描かれています。心臓がドクドクとする音と、無音の世界が耳に届いてきます。描写がうまい、と思いました。

 インドのことが少し書かれています(文庫版、157頁)。秀吉の統一のことが、インドまで伝わっていると。インドとなると、すぐに反応してしまいます。一応、念のためにメモとして残しておきましょう。

 ポルトガルの宣教師ウァリニャーノロドリゲスと伊東マンショが秀吉に案内されたお茶室での話は、日本文化の特質がよく描かれています。おもしろく読めました。
 また、お茶を点てる利休と宣教師のやりとりが見物ともなっています。

 本作の中では、「うたたね」の章が秀逸でした。娘の死に臨んで、お茶を点てる利休がみごとに描かれています。

 利休が、何度もお茶を点てるシーンがあります。自分が習い覚えた動きが描写されていると、映像としてイメージが膨らみます。流れるような利休の作法が、目の前に浮かびあがります。

 時間が遡るにつれて、利休と秀吉の間の緊張感が薄れているのに気づきました。読み進むうちに薄らぐ、人と人の確執が、かえって前半のピンと張った雰囲気を懐かしく思うようにさせます。

 最終章の「恋」は、力作となっています。作者も、相当気合いを入れていることが伝わってきます。丹念に、与四郎(後の利休)と高麗の女の道行きとなっているのです。物語のおもしろさを堪能しました。

 そして、振り返って、利休に何をたずねましょうか。やはり、一番好きな女性はだれでしたか、と。それに利休は何と応えるでしょうか。
 文庫本の解説を担当された宮部みゆき氏は、「利休さん、あなたがもっとも深く愛した女性は、やっぱり宗恩ですね」と言われます。しかし、私はそうではなくて、高麗の女の方だったと思います。利休は、最後まで夢と憧れを心に抱いて死んで行ったと思うからです。

 この作品は、木槿の花が印象的でした。【4】
 
 
 

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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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