« 江戸漫歩(62)越中島の桜も満開です | メイン | 第2回池田亀鑑賞の募集は今月末が〆切りです »

2013年3月24日 (日)

井上靖卒読(161)白神喜美子『花過ぎ—井上靖覚え書』

 白神喜美子著『花過ぎ—井上靖覚え書』(紅書房、平成5年5月)は、井上靖の作品を読み続ける私にとって、大変参考になる内容が語られていました。
 
 
 
130317_sirakami
 
 
 

 本の帯には、次のように書いてあります。


三十余年の沈黙を破り、いましずかに語る。(背文字部分)
 
文豪のめざましい活躍の陰に、その人のため身を捨てて尽した愛の女性があった。が、ついに別れの日が来て彼女は静かに去る。思い出にひとり涙しつつ彼女は云う。
「私の願う人は無冠の人でした。」可憐な一言を文学そのものに投げて花の向うに彼女は去って行ったのだ。(永瀬清子・詩人)(表紙部分)
 
病床にある身で、
これを書き終え、
このつぎ生まれ変るとしたら
野の花として生きたい。〈著者〉
 
   内容【目次】
第一章 茨木の記
第二章 島津山の記
第三章 洗足の記 (裏表紙部分)

 本書のことは、杉山健二郎氏から本ブログ「井上靖卒読(62)「氷の下」「滝へ降りる道」「伊那の白梅」」(2009年2月10日)に寄せられたコメントで知りました。すぐに入手して、興味深く読みました。

 本書に関しては、杉山氏が「分け入つても分け入つても本の山」で詳しくお書きになっています。

 ここでは、本書を井上靖とその作品を知るための資料の一つとして、後日の参考になると思われる情報を摘記しておきます。

 ただし、本書は井上靖の年譜などを参考にして、事実を確認しながら書かれているようです。思い出の辻褄が合わされているように読めました。
 回想記なので、確かにそうすべきなのでしょう。しかし、私には、筆者の無意識に起因するかと思われる作為という美化を、その裏に感じました。そのことは、今後少しずつ解明していきたいと思っています。

 愛する人のことを語る上では、ありまのの、というよりも多分に美化された所が露出しています。今、どこが、というのではなく、これは私が井上靖を読み進む中で、その作品が生まれた背景に思いを致すときに、フッと立ち現れてくることでしょう。特に、ふみ夫人のことに関してそう思います。
 そんな想いを抱いて、本書を読み終えました。

 本書で取り上げている井上靖の作品は、以下のものです。


明治の月/流転/猟銃/石庭(詩)/高原(詩)/流星(詩)/踊る葬列/ある偽作家の生涯/夜霧(戯曲)/早春の墓参/碧落/闘牛/通夜の客/春の嵐/その人の名は言えない/三ノ宮炎上/星の屑たち/落葉松/比良のシャクナゲ/漆胡樽/七人の紳士/澄賢房覚え書/黒い潮/玉碗記/戦国無頼/北の駅路/薄氷/楼門/青衣の人/貧血と花と爆弾(ただ一回の放送)/白い牙/水溜りの中の瞳/瀧へ降りる道/高原/死と恋と波と/従兄妹/胡桃林/合流点/姨捨/二つの秘密/風のある午後/あした来る人/失われた時間/湖の中の川/美也と六人の恋人/湖岸/俘囚/川の話/淀殿日記/オリーブ地帯/真田軍記/黒い蝶/夏の雲/騎手/初代権兵衛/風林火山/夢見る沼/湖上の兎/射程/霧/氷壁/天平の甍/異域の人/楼蘭/満月/敦煌/兵鼓/蒼き狼

 私が気になった箇所を、メモとして書きとどめておきます。


・昭和21年2月頃、井上は千利休のことを書くため、大阪・茨木の自宅に茶道全集を揃えていました。(10頁)
・昭和21年3月 井上靖はキセルを手にして白神と対応しています。井上の作品にタバコはよくでてきます。しかし、キセルについては注意が向いていませんでした。今後は気をつけてみたいと思います。(7頁)
・昭和21年4月、山崎にある利休ゆかりの妙喜庵へ白神を連れて行きます。しかし、庵には行かずに畑で話します。谷崎潤一郎の『蘆刈』の舞台を指し示しながら。
・以降、井上は自作の詩を読み聞かせます。しだいに小説のことを語り聞かせるようになります。
・二人は愛に包まれた生活の中で、「踊る葬列」の構想を語り聞かせます。井上は、語りながら筋を構成するタイプの作家だったのです。(19頁)
・しだいに白神は、井上に作品を書かせるための後方支援役を受け持つようになります。
・「(井上は)筋を語りながら思考する人で、そういう折には、よい聞き手になるように務めた。」(25頁)
・白神は井上に仕事をさせる存在だったのです。
・「僕は文学に命をかけている。それを君にやる。僕の書く小説が君の子供なのだ。」(41頁)
・白神は童話を書いていました。そのことが井上が童話を書いたことにも影響しているのでしょう。(52頁)
・井上が芥川賞を受賞した後、作家として多忙な日々の中にありました。そんな時、井上が小説の腹案を語るとき、とんちんかんな返事をすると、「怒声と共に、湯呑みが飛ぶこともあった。」のだそうです。(87頁)
・多作の中、「その人の名は言えない」と「黒い潮」の主人公の名前が入れ替わっているのを直すのを、白神は手伝っています。(92頁)
・井上は白神を「仕事の妻」と言ったそうです。(113頁)

 
 
 

コメント

こんにちは

お久しぶりです。
古本ではありますが、『花過ぎ 井上靖 覚え書き』を私も購入して 読ませていただきました。

著者は・・・一般的には無名な方ではありますが、井上靖さんの 数々の著作を読ませていただく際に 大変参考になる 優れた著書だと感じました。

コメントをいただいていることに気付かず大変失礼しました。
『花過ぎ 井上靖 覚え書き』は、井上靖の創作活動の舞台裏を知る上で貴重な話が書かれていますね。ただし、どこまでが事実に近いのか、今後の検討が必要ですね。

コメントを投稿

コメントは記事の投稿者が承認するまで表示されません。

NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

Powered by Six Apart
Member since 07/2008