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2014年2月 6日 (木)

藤田宜永通読(18)『ライフ・アンド・デス』

 藤田宜永の『ライフ・アンド・デス』(2012年11月、角川書店)を読みました。

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 歯切れのいい文章で、場面と人物が軽快に描かれていきます。街の様子や季節も、事細かに語られています。これは、藤田宜永の読みやすい時の作品の語り口です。

 恋愛ものの時の、あの粘ついた抑制を利かせすぎた文章を、私はあまり好みません。その点からも、本作は気持ちよく読めます。

 物語る内容が充実しているせいか、524頁の作品が予想以上に長く感じられました。読み進む醍醐味があります。ただし、人間の洞察に深みが欠けているようにも思えました。非日常的な世界でもあり、このあたりは読者と理解を共有する接点の狭さや、話題の特殊性に起因するものなのかもしれません。

 かつての軽快なテンポが感じられなくなった分、人物描写はうまくなったようです。

 この方向転換は、今後さらに藤田宜永に期待すべきことに繋がると思いました。もっとも、あの、ふにゃふにゃした藤田の純愛小説から完全に脱するには、まだもう少し時間がかかりそうですが。

 初期のように、手に汗握る、そして紙面から目が離せない展開ではありません。しかし、ゆったりとした語り口の中に、読者をしっかりと捕まえて話を進める手腕には、新たな藤田の手法を、手応えとして感じ取りました。

 頁をめくるスピードが落ちたのは、それだけ読ませる部分が増えたためだと思われます。
 冴子という女性の存在が物語の展開の中に置けたことは、作者にとっても読者にしても、よかったと思います。これまでにない女性の扱いです。抑制の利いた手法で、話を惹き付けていくのに効果的でした。

 また、男たちの動きにしても、ドタバタに留まらず、男の側の論理と思考を重ねて行動するタイプの群像として描かれています。人間の心理劇も楽しめました。物語の終わり方もおしゃれです。ゆったりとした流れの中で、安心して読み終えることができました。

 最後に一言付け加えるなら、男たちの話が2つの流れに分かれており、そのバランスの中途半端な点に、読み進みながら落ち着かない思いを持ちました。クライマックスへ持って行くところなど、相変わらずへただな、と思わせます。

 一気に1冊を読めなかったせいか、話にばらばら感が残りました。作者の意図的な構成もあるのでしょう。しかし、この作品は、出版社側の売りであるような〈サスペンス〉として読まない方が、かえって楽しく読めると思います。【4】
 
 
※『デジタル野性時代』(2011年第3号〜2012年7月号)に「魔都の殺人者」として連載。
 本書は、それを加筆・修正・改題したもの。
 
 

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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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