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2014年6月 4日 (水)

目の不自由な方と写本を読むために(1)

 昨夏、塙保己一史料館・温故学会の斎藤幸一理事長から、本年平成26年のこどもの日に開催される記念大会で何か話をしてもらえないか、という依頼をいただきお引き受けしました。
 この日のことは、「早朝の地震の後、渋谷の温故学会へ」(2014年05月05日)に記した通りです。

 昨秋あたりからだったと思います。目の不自由な方々と、『源氏物語』の古写本を読む楽しみを共有できないだろうか、と強く思うようになったのは……
 これには、自分がいつか目が見えなくなるのでは、という不安が過ぎっているからでもあります。

 例えば、天理図書館蔵の池田本やハーバード大学蔵本をテキストにして、指や肘や鼻や頬や舌や耳朶などを使って、墨で書かれた古写本の変体仮名が読めるようにできないものか、等々。
 あれこれとその方策を思案していました。

 このことに関連して、以前に本ブログで『源氏物語』の点訳本のことに触れたことがあります。

「点字本『源氏物語』(その後)」(2009/9/9)

「【復元】点字本『源氏物語』(全3冊)」(2009/9/10)

 ここでは点訳本のことしか思いが及んでいません。しかし、今はそれだけではなくて、変体仮名そのものを目の不自由な方々と一緒に読めないか、ということを考えているのです。
 何か方法があるはずだ、と思いながら月日が経っていました。なかなかいい情報に出会えていませんでした。

 今年の5月5日に、塙保己一史料館で『群書類従』のお話しをした後の懇談会で、思い切って、目の不自由な方も墨で書かれた古写本が一緒に読める環境を作れないかと考えている、ということを話題にしました。
 会場にいらっしゃった何名かの方から、いろいろと有意義なアドバイスをいただきました。

 『群書類従』は、全盲の塙保己一が膨大な文献を編纂したものです。目が見えない、ということと、墨で書かれた文献を理解することに垣根はありません。しかも、人に読んでもらって理解するのではなくて、書かれた文字を自分自身の身体を使って確認しながら読み進む行為は、どこかでその障碍は超えられるはずです。

 変体仮名は、現行の50音の平仮名を知っていても、古写本に書かれている日本語は読めませんし、理解できません。点字のように1字1音ではないからです。
 今の平仮名の「あ」は、「安」を字母とする文字一つだけです。しかし、かつて日本人が読み書きに使っていた変体仮名では、それ以外に次のようにいくつもの字母を異にした表記がなされていました。

【阿】【愛】【亜】【悪】

 このハードルを超えるためには、目の不自由な方々のための変体仮名の字書が必要でしょう。

 その用意は、少しずつしていました。
 昨秋刊行した『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」』(新典社、2013年)から、書かれている文字を切り出して編集しだしたところです。
 今週末には、その続編である『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「蜻蛉」』(新典社、2014年)も刊行されます。ここに書かれている文字も、字書に登録したいと思います。

 まず、この変体仮名と言われるたくさんの平仮名の形を、感覚として覚えてもらわないと、古写本を自分で読む、ということは実現しません。

 ハーバード大学本に書かれた墨の文字を、指か手のひら等を使って、一文字ずつ認識してもらうことで、今まで想像だにし得なかった古写本で記された『源氏物語』の世界へと、目の不自由な方々をお誘いできるのです。
 3Dプリンターも普及し出したことでもあり、自宅で手軽に体験や参加ができるのではないでしょうか。

 まずは、触れて覚える変体仮名の字書を作り、少し古典文学の勉強をしていただいてからでないと、このことは実現しないと思います。しかし、目の不自由な方々は鋭い感覚をお持ちでしょうから、困難なことではないと思っています。
 指や頬や鼻などの感触で文字の認識ができるようになると、800年前の日本の古典籍を実感を伴って読むことができるようになるのです。目の見えない方々も、このことが日本文化をさらに深く理解できるきっかけになるのではないでしょうか。

 とはいいながら、私の身の回りには目の不自由な方が皆無なので、なかなか行動に移せないでいました。
 何人かの仲間には、この計画の全体像を伝えています。
 壷坂寺のある奈良は、こうした仕掛けをスタートさせるにはいいのでは、と思っています。
 しかし、人口の多い東京の方が始めやすいかもしれません。

 こんな新たなチャレンジを始め出したところ、ちょうど東京都人権プラザ(台東区橋場1丁目)で、目の不自由な方が本をどうやって読んでいるのかを知る「企画展「読む権利」」が始まっていることを知りました。
(明日に続く)
 
 
 

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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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