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2014年7月16日 (水)

読書雑記(104)中津文彦『塙保己一推理帖 観音参りの女』

 江戸川乱歩賞作家の中津文彦氏が70歳でお亡くなりになったのは、2012年4月24日でした。
 中津氏の作品では、以下の推理物を本ブログの読書雑記で取り上げる予定でした。
 その機会を逸したままだったので、これから順次とりあげます。


(1)『塙保己一推理帖 観音参りの女』
(2)『移り香の秘密 塙保己一推理帖』
(3)『つるべ心中の怪 塙保己一推理帖』
(4)『千利休殺人事件』

 まずは、『書下ろし連作時代小説 塙保己一推理帖 観音参りの女』(2002年8月、光文社。、カッパ・ノベルス)からです。

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■「観音参りの女」
 手際よく、同郷で幼馴染みの保己一と善右衛門のことが紹介されます。
 折しも近所で火事があり、後妻と子供が焼死しました。その状況に疑問を持った保己一は、ことの真相に挑みます。
 江戸市中の組織のことが克明に描かれており、松平定信が『群書類従』を支援したことも、丁寧に語られます。『群書類従』の校訂事業の中で保己一の女性とのことも、しっかりと書いてありました。よく目の行き届いた物語です。
 『群書類従』刊行のありようが、詳細に語られていて、集書と出版に対する意識が高まります。
 後半で、深川が舞台として出てきました。本書を読むのは2度目です。前回は横浜の宿舎にいた頃に読みました。今回は、江戸深川に宿舎を移してから読んだこともあり、住まいの周辺が物語展開の中で出て来ると、イメージが具体的になっておもしろさが格段にあがりました。物語られる舞台に住んでいるとか、あるいは知っているということは、物語を理解する上では大きな影響力があるようです。
 謎解きは、保己一の嗅覚が大事な役割を持っていました。ただし、母親の子への想いに関して、中途半端なままで描ききれなかったように思えます。表題も生きていないようです。【2】
 
 
■「五月雨の香り」
 聖徳太子の十七条憲法が『群書類従』の雑部に入っていることの説明について、興味深く読みました。第2条の「篤く三宝を敬え」とは、実は「三法」のことで、神・儒・仏のことではないかと。その疑念が残るので、律令の部ではなくて雑部に分類しておくのだ、というのです。資料に対する見識の問題です。
 また、お香の話は、最近興味を持っていることなので、おもしろく読みました。推理に関して、話は次第に高まります。いいラストシーンでした。盲目の女性が上手く描かれています。【4】
 
 
■「亥ノ子の誘拐」
 江戸時代の寛政期の市井が、裏面史も含めて活写されています。特に、出版界の事情は、『群書類従』の話にも関連するので、おもしろく読めました。また、学者保己一の話も、よくわかりました。興味深い話に仕上がっています。
 ただし、謎解きのキレが悪くて、説明口調になってしまったのが残念でした。【2】
 
 
 巻末に掲載されていた、EYEマークに注目しました。
 こうしたことは、初めて知ったからです。

「EYEマーク」&「許諾文」

この本をそのまま読むことが困難な方のために、
営利を目的とする場合を除き、「録音図書」「点
字図書」「拡大写本」等の製作をすることを認め
ます。製作の後は出版社まで、ご連絡ください。

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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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