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2014年8月29日 (金)

読書雑記(106)中津文彦『塙保己一推理帖 枕絵の陥し穴』

 中津文彦の『塙保己一推理帖 枕絵の陥し穴』(光文社時代小説文庫、2010年1月)を読みました。
 これは、『移り香の秘密 ー 塙保己一推理帖』(光文社、2006年3月)を改題したものです。

 〈塙保己一推理帖シリーズ〉としては、「読書雑記(104)中津文彦『塙保己一推理帖 観音参りの女』」(2014年07月16日)に次ぐ、第2作目です。なお、第1作の『塙保己一推理帖 観音参りの女』(カッパ・ノベルス、2002年8月)は、『亥ノ子の誘拐 ー 塙保己一推理帖』(光文社時代小説文庫、2009年12月)と改題して刊行されています。
 

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  ■「移り香の秘密」  江戸の大相撲に関して、雷電をめぐる話が展開します。松江藩主松平不昧公のお抱え力士だったのです。  殺されて川に投げられた娘の話は、その事情説明がくどくて、読んでいる途中で飽きてしまいました。話の聞き役が太田南畝という粋人だということに起因するのでしょうか? あるいは、南畝という描かれる人間が持つ魅力だけで語ろうとするせいでしょうか。話の力点が崩れているように思いました。  話の中に、宿舎がある越中島が出てくるので、物語の舞台となる情景に感情移入してしまいます。自分が知っている場所が出てくると、つい身を入れて読み進みます。黒船橋や深川仲町が出ると、身近な今の話のように思うから不思議です。  本話は盛り上がりません。お香がポイントです。しかし、話題に興味を持っても、そこに鋭い切れは感じられませんでした。【2】  


■「三番富の悲劇」
 江戸時代の旅の仕方やお金の価値など、知識編とでも言うべき章になっています。
 伊能忠敬の話が突然出てきました。深川の富岡八幡宮に伊能忠敬の記念碑があるので、物語られる地域に縁の深い人です。しかし、ここまでに話題となった孝行息子の卯吉が磔になったことと、なかなか結びつきません。
 卯吉が父親のことを調べるために伊勢に行ったことが、物語の背景で謎をさらに脹らませます。うまい構成です。ただし、余分な話があまりにも多すぎます。
 主人公である保己一に謎解きをさせないこの終わり方も、それはそれで秀一だと思います。【3】
 

■「枕絵の陥し穴」
 闇夜に展開する人殺しの様が、音だけの世界としてリアルに描き出されます。うまい語り始めです。
 下手人は、温古堂で版木を刻む彫り師の1人です。殺されたのは、地本問屋の夫婦。娘だけは一命を取り留めました。俄然おもしろくなります。
 この時は享和三年。西暦1803年。オランダから西暦が伝わった頃です。そしてこの頃は、多色刷りの木版技術が発達し、色鮮やかな錦絵が広まったのです。枕絵を裏で販売する地本問屋が大儲けをしていたのです。
 浮世絵の話になると、私も知っている名前のオンパレードとなり、楽しくなりました。
 鳥居長清、鈴木春信、喜多川歌麿、蔦屋重三郎、東洲斎写楽、などなど。
 物語は意外な展開をたどります。犯人はすぐにわかります。しかし、そうであっても、うまく話ができていて楽しめました。
 もう一つ、保己一の妻となった三人の女性のありようも、おもしろく点描されています。著者会心の作と言えるでしょう。【5】


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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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