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2014年8月 7日 (木)

転居(8)「源氏物語余情」1996年8月分

 「転居(7)」を受けての、〈旧・源氏物語電子資料館〉の記事「源氏物語余情」の引っ越しです。

 今回は、1996年8月分です。
 今から18年前の『源氏物語』に関する情報を、ここに記録として留めておきます。

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◎(34)96.8.3 『源氏物語 上・下巻』(総監修/秋山虔・監修/小山利彦、1996.8、富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ、各6000円)が発売されました。私なりの感想を以下に記します。
 『源氏物語』がマルチメディアに対応したCD-ROMの形式で市販され、楽しく・気軽に享受されることが可能となったことは、研究史上とにかく画期的なことです。まだまだスライドショー的なものではありますが、それはパソコンの現在の能力と、媒体としてのCD-ROMというものの限界を考えれば、致し方ないところでしょう。出版文化の次の世代を担うものとして、今後の進展を大いに期待させてくれます。
 マルチメディアタイトルを作成するソフトである〈Director〉(本壁新聞(28)で紹介)を活用した、大変な力作となっています。制作に携わった方々のご苦労が随所に感じられると共に、今回のノウハウが次の作品にどのように発展するのかも楽しみです。
 この『源氏物語』は、とにかく盛りだくさんの内容です。メニューの項目をあげましょう。
 上巻〈源氏物語五十四帖〉〈源氏物語名文集〉〈平安貴族の生活〉〈六条院探訪〉〈源氏物語絵巻〉〈源氏物語事典〉
 下巻〈源氏物語五十四帖〉〈源氏物語名文集〉〈宮廷行事〉〈紫式部の紹介〉〈ゆかりの地めぐり〉〈源氏物語絵巻〉〈源氏物語事典〉
 上下で重複する項目は、上巻が第1巻「桐壷」から第33巻「藤裏葉」までを、下巻が第34巻「若菜上」から第54巻「夢浮橋」までを扱っています。
 私が一番お薦めするのは、〈六条院探訪〉です。コンピュータグラフィックを駆使して作成した六条院の中を、そろそろと歩けるのです。バーチャルリアルティの一端を体験できます。古典文学作品の中に自分を投入できるというこの感動は、作品を読む行為に多大な影響を及ぼすことでしょう。まったく新しい、古典文学の享受方法の出現です。古典が身近になることでしょう。
 もっとも、あまりスムーズに操作ができず、私などはイライラしました。現代人の感覚で六条院の中を歩いてはいけない、ということでしょうか。
 『HybridCD-ROM ローム君の「京都博物日記」サウンドスケープリポート編』(1995.3、ローム株式会社)というのをご存じですか。ローム株式会社が無料で配布しているCD-ROMです。この中に、「鴬張り廊下」というものがあり、二条城の中を歩けるようになっています。実写ビデオを使ったもので、素晴らしい出来上がりです。これを知っている方は、今回の『源氏物語』の六条院を見て、少しガッカリされるかもしれません。
 しかし、物語世界を再現するのですから、その完成度は今しばらく措きましょう。とにかく、第一歩を踏み出したのです。
 〈以下、続く〉
 
◎(35)96.8.3 CD-ROM版『源氏物語』について(承前)
 このCD-ROMは、たくさんの美しい写真が次々と画面に表示されます。楽しみながら画集の頁をめくっていくと、スピーカーから朗読やバックグランドミュージックを聞くことができます。マウスをクリックするだけで、あの『源氏物語』の世界に浸れるのです。
 大変よくできたCD-ROMであることを認めた上で、以下では、今後のよりよいCDにするための私見を、いくつか列挙してみます。

・写真が多用されていますが、それぞれに短い説明文(キャプション)を添えると、もっと思いやりのある仕上がりになったのではないでしょうか。

・盛りだくさんの情報の提示の仕方が、その苦労が推察できる割には単調でした。制作者の気持ちになって好意的に見たはずの私でも、正直言って飽きました。マルチメディア的な仕上がりですが、マルチメディアらしくない感じを漂わせているのは、スライドショーの域を抜け出せなかったからかもしれません。

・声による解説(ナレーション)は、落ちついていて格調の高さを感じますが、あまりにもNHKのテレビ講座調になりすぎたようです。若手の明るい声の方が、古典を現代に再生する場合に有効だと思いました。

・終始、マウスを持つ私は、鑑賞者の一人でしかありませんでした。一つのマルチメディアタイトルとしての作品を、ありがたく見せていただく、という利用形態が想定されています。六条院は、唯一自分の意志で方向を指示できますが、それも直線的でおきまりのコースを歩かされている、という感を拭い切れません。視聴者参加番組ではないですが、もっと利用者が足跡を残せたら、自分用のファイルを作って記録などを記せたら、このソフトの性格はさらにワンランクアップしたことでしょう。具体的には、栞機能やメモ用紙の用意などです。

・ヒューマンインターフェースの部分が欠落しています。上記の栞やメモ以外にも、ボリュームボタンを付けてほしいし、ディスプレイの背景を隠すことによって、もっとすっきりした画面で集中できるような配慮も大切だと思います。また、解説文が、薄い色彩をバックにした白抜き文字になっています。これは、非常に読み取りにくいし、目に疲労を感じます。色のバランスに一工夫をお願いしたいところです。

・「個人が育てて行けるデータベース」というのが、私のデータベースについての持論です。その意味からは、このCD-ROM版『源氏物語』は、見せることに徹した従来の出版をデジタル化しただけかもしれません。学習便覧の域を乗り越えて、更なる展開を期待したいと思います。

・英語表示のモードは、異文化を理解しようとする人には重宝するものだと思います。ただし、私のホームページがそうですが、『源氏物語』に興味を持つ海外の方の多くは、すくなからず日本語を理解できる人です。また、第二外国語としての英語を通して、日本文化を理解しようとする人も多いのです。そうした現況を思うと、英語モードでも、画面の下部に英文を表示する必要性は高いと思います。クローズドキャプション方式です。世界中のハンディキャップ・ユーザーへの配慮も、ここですべきことかもしれません。また、日本語と英語の切り替えを、いちいちメインメニューに戻らなくても出来るようにしてほしいものです。英文字が小さくて読みにくいし、英語のナレーションももう少しゆっくりしないと、馴染みのない言葉の連続なので、説明についていくのが大変なのです。英語モードは、ネイティブスピーカーだけが利用するものではないのですから。

・〈源氏物語名文集〉は、巻物仕立てのレイアウト上に各巻の原文を抄出したものとなっています。しかし、この巻物を利用したために、画面展開がおかしくなっています。本来、巻物は右から左へと進んでいきます。ところが、このCDでは、画面表示が巻物の進行方向とは逆に、各巻の内容が表示されていきます。ボタンである矢印アイコンの位置もややこしいところにあります。矢印方向へ引っ張るボタンのように思われますが、画面展開は予想を裏切ります。実は、ある図書館の画像データベースで、絵巻物を扱ったものがありました。小さな画像(サムネイル)が左から右へ、上から下へと展開しているのですが、中身は右から左へと展開する絵巻物なので、利用者が自分の頭の中でイメージを再構築するのが大変です。日本古来のものとコンピュータ文化の違いなのでしょうか。縦書きと横書きの問題に通じるもののように思います。

・同じことは、源氏物語年立の画面展開でも感じました。ボタンである矢印アイコンは左右の形なのに、実際の画面は上下にスクロールしていく形式でデータが表示されます。右矢印を押すと、データは上から下へ表示されるのです。こうしたことは、系図の表示にもありました。表示する系図の巻の進行順序は、左から右へとなっています。利用者が混乱しかねないので、このあたりは統一した巻の追い方にしてほしいところです。

・動画像が少ないと感じました。監修者である小山利彦先生は、膨大な量の年中行事や祭礼のビデオ映像をお持ちです。今回、そのいくつかが収録されていますが、この映像が本CD-ROMの最大の特色となるものだったように思っています。諸権利の問題もあろうかと推察しています。しかし、ぜひ続刊では、我々の『源氏物語』理解を深める上で有効な映像を、それこそふんだんに流していただきたいものです。

 雑多なことを書き連ねてしまいました。監修者および制作スタッフの方々への非礼は、ご寛恕のほどをおねがいします。不備の指摘とは受け取らないでください。あくまでも、発展途上のこの分野がさらに順調に多大の成果を残していくことを願い、今後の課題や要望をまとめてみました。制作者の苦労は、次の作品に継承されます。私の的外れな異見も多々あるかもしれませんが、そこは大目に見てください。
 
◎(36)96.8.4 『第1回 シンポジウム コンピュータ国文学 講演集』(国文学研究資料館、平成8年7月31日)が発行されました。
 本壁新聞(6)で紹介した昨年10月6日のシンポジウムの内容が活字になっています。〈源氏物語電子資料館〉をたたき台にしての、国文学研究とインターネットの問題が討論されたものです。
 司会を担当した私が言うのも何ですが、いろいろな問題点を提示できたシンポジウムだったと思います。
 なお、第2回目の本年は、10月17日(木)・18日(金)の二日間、東京タワー下の機械振興会館で行われます。
 
◎(37)96.8.15 第6回紫式部文学賞は、田中澄江氏の『夫の始末』に決まりました(朝日新聞96.8.15)。
 昨年度は、吉本ばなな氏の『アムリタ』でした。
 この文学賞は、京都府宇治市が女性作家に贈られるものです。


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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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