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2014年11月25日 (火)

読書雑記(114)三宮麻由子『目を閉じて心開いて』と『源氏物語』

 三宮麻由子著『目を閉じて心開いて—ほんとうの幸せって何だろう』(岩波ジュニア新書、2002年6月)を読みました。


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 4歳で失明した著者が、成長する中で周りの人々との交流で直面する心の揺らぎを綴っています。その語り口が明るくて前向きなので、ジュニア向けとしてお薦めできる本です。

 著者の周囲に対する遠慮が、文章のそこここに感じられました。視覚に障害を持つ方の意識のありようについて、学ぶことの多い内容です。

 気になったこともあります。理屈が勝った行文で語られているために、著者が身に纏う鎧が見え隠れしています。情をコントロールしようとしているせいでしょう。これは、フランス文学を学問という視点で考察された経緯があることから滲み出てくるものかもしれません。
 また、幸せを大上段に語られると少し照れ臭く思うのは、私が歳を取ったせいでしょうか。
 しかし、これがジュニアには、説得力を持つものとなるとも言えます。

 全体を通して、会話をすることの大切さと、長編小説を読んで「しじま」を感じることの意義が印象に残りました。
 私が注目した文章を、以下に引きます。特に、『源氏物語』に関しては、貴重な記録となります。


■「点字一四冊の『随想録』読破で熱くなった指も冷めやらぬころ、私はまたしても、別の興味から『アラビアン・ナイト』を読みはじめてしまった。こちらは、点字にして九九冊あった。三重県の図書館に、地域の点訳サークルの人たちが、一点一点手で打ち込んで作った本があると聞いて、さっそく貸出しをお願いしたのである。私は、そこから二冊ずつ借りては読み、読んでは返す日々を過ごした。(中略)
 不思議な魅力に取り懸かれるままに、私はゆっくりと読書できる時間を少しずつ作っては、急ぐことなく物語を味わっていった。そんなふうに読みふけるうちに、私は大学院の勉強も終えて就職し、全巻を読み終えたときには、かれこれ一〇年の歳月が過ぎていたのだった。」(60~61頁)
 
■「いま私は、人生で三つめの超大作、『源氏物語』とともに夜のしじまを過ごしている。「月のくまなく照り」などの有名な描写はもちろん、この物語から、私は植物の擦れる幽かな音と、浦に寄せる静かな波の音を聞いているような気がする。平安のころの日本は、家の中にまで竹が生えていたり、茅葺き屋根からたくさんの草が生えて、今でいつ屋上緑化みたいなことになっていたりと、現代からは想像もつかないくらい植物が近くにあったようだ。源氏と女性たちのつややかな関係もさることながら、彼らの歌の中に、いつも植物や海が歌い込まれていることがそれを物語っている気がするのだ。
 たとえば、有名な「若紫」には、こんな歌のやりとりがある。源氏の君が若紫を訪ねたときに、道すがらの家の「女」と交わす歌だったと思う。

  朝ぼらけ霧り立つ空のまよひにも行き過ぎがたきいもが門かな
  立ちとまり霧のまがきの過ぎうくは草の戸ざしにさはりしもせじ

 霧の空、垣根、草、そんなものに閉ざされた静かな家と外で、源氏の熱い恋心と女性たちの微妙な気持ちが交錯する。そんななかで、植物の小さな葉擦れの音のなかで交わされる和紙の音。これが源氏世界の音なのではなかったろうか。私は、この物語の筋はもとより、そこから聞こえてくる古の音に、絶えず耳を傾けているらしい。
 この本がお手元に届くころ、おそらく私は源氏を読み終えていることだろう。そのときに、いったいどんな思いに包まれているか、私自身楽しみである。
 なぜ私が、並み居る名著の中からこうして長編だけを選んでお話ししたのか。それは、これらの長編は私に、一つの大切なものの存在と、その大いなる価値を教えてくれたからである。長編がくれた大切なもの、それはこの『源氏物語』に象徴されるような「しじま」であった。」(62~64頁)

 著者は、すでに『源氏物語』を読み終えられたことでしょう。どのような本を手にされ、どのようにして読み進められたのか、その感性を基にした読書体験を伺いたいと思っています。
 
 【追記】
 いろいろと資料を探していたら、次の情報があることがわかりました。
 確認したら、また報告します。


(1)「「源氏物語」の香りをたずねて」三宮麻由子
 (『オール讀物』2008年10月号)
 
(2)「私はというと、本を読んでいると香りや音を感じることがよくあります。
 源氏物語では、日本がいかにも海洋国家だったことを伝えるように、さまざまな浦の波音や船の櫓、笹や竹が軒先に揺れるささやかな音がきこえてきました。」
 (三宮麻由子著「きっとあなたを励ます「勇気の練習帳」」PHP 86~87頁)

 
 
 

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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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