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2015年1月21日 (水)

『源氏物語』の翻字本文に関する凡例の改訂(その3)

 『源氏物語』の翻字に関して、「変体仮名混合版」を作成していくための凡例の確認と改訂を進めています。
 今回は、『源氏物語別本集成 続』に掲載した凡例の「E 翻刻本文に対する付加情報について」です。
 ほとんどが、書写状態を示す付加情報に関するものなので、「変体仮名混合版」への移行に伴う補訂は①・⑩・⑱の3箇所のみです。
 特に⑱では、変体仮名を読み取ってデータ化することに関する新規追加部分です。
 ここでは、「/〈漢字〉」という付加情報を示す記号を新設しています。恣意的な解釈や書写状況に応じた判断の揺れが生じないように、これまでの翻字よりも客観的で学問的な資料となるデータベースを指向するものとなりました。

 本ブログで変体仮名を混在させた翻字本文を作成することを明言したことを受けて、いくつかのご教示いただきました。
 仮名ではなくて漢字本来の意味を持たせた文字への対処について、隅付きパーレン(【 】)などで文字を括るのは明快でした。しかし、データの中でも本行本文に該当する部分に記号類は最小限にしたいので、今回は付加情報として対応することにしました。

 この漢字本来の使い方がなされている箇所については、「変体仮名混合版」を作成する中で、また再検討するかもしれません。今は、とにかく「/〈漢字〉」という記号を用いて付加情報の中に明示する、ということで納めておきます。

 この後は、冒頭の総論部分の補訂をすることで、今回の検討は終わりとなります。


 E 翻刻本文に対する付加情報について

① 〈傍書〉がある時は、その本文の後に「/=」を付して示す。該当する文節の文頭部のすぐ横にあるもの以外は、当該傍書部の直近の本行本文の一文字をあげて、その箇所がわかるようにした。本行の本文の左側に傍書がある場合は、〈左傍記〉とする。また、傍書の文字がカタカナの場合は、そのまま表記した。『源氏物語別本集成』の時のように、ひらがなに読むのが通例のカタカナ表記の「ハ」「ミ」「ニ」などを、平仮名に読みかえることはしない。

② 〈補入〉は、「/+」で示す。該当する文節の文頭以外は、挿入される箇所の本行本文の一文字をあげることによって、その次に補入されるものであることを示した。当該字句だけでは意味をなさないが、補入によって一文節が完結するものがある。例えば、「はし/+まと」では、「はし」では意味をなさないが、「まと」を補入することによって「まとはし」と一文節が完成することになる。このような場合は、補入前の姿の語句を無理に前後の文節に付けることはせず、未熟なことばのままではあるが、一文節をなすものとして対校することを原則とする。これとは逆に、「あるとの/る+こ」などでは、補入によって「ある・ことの」と二文節になるが、諸本との対校上の関係で一文節とすることもある。
 「薄雲」の底本陽明文庫本には、長文(二十文節)のカタカナ書きの補入がある。該当部分においては、他の諸本すべてが本行本文として伝えているものであることなどを勘案して、この補入を底本の本行本文に準ずるものとして扱った。ただし、表記については、次のように原本のカタカナ書きのままにした。
  コノ/「コ」カラ補入
  ヲハスメレ/「レ」マデ補入

③ 〈ミセケチ〉による修正は「/$」で示し、傍書の要領で表記する。その際、消された文字は「$」の記号の前にあげ、修正された文字はその後に明示した。「まさり/まさ$をも」という例では、「まさり」の「まさ」をミセケチにして、その右横に「をも」と傍記することによって、「をもり」と読ませようとするものである。「/$」とあって、記号の前にミセケチの対象となる文字の指示がないものは、そこに引く該当文節すべての字句がミセケチになっていることを示す。ミセケチをさらにまたミセケチにしたものは、「奉て/$給ひて$」とした。ミセケチによる削除の場合は、修正文字がなかったものとして扱った(「いとまは/と$」)。ミセケチと補入が同時にある時は、補入扱いで傍書をとった。
 同一文節中に複数ある文字の、その片方に関してミセケチなどの注記が必要な場合は、「かきたたる/前た$」のように、「前」「後」を明示して区別した。ただし、同一文字が三つ以上ある場合には、前からいくつめの何という文字であるかを算用数字を添えて示した。
 長文のミセケチは、「以下」という用語を使用して、次のように対処した。
  たまひけるさるかたのありかたきものにはおもひきこえ給て/前ひ以下$えは[坂]
 これは、三文字目の「ひ」以下「給て」までがミセケチとなっており、傍記が「えは」であることを示す。

④ 削除された文字については、「なりぬるか/か〈削〉」として示した。塗り潰しや削り取ったものがこれにあたる。

⑤ 紙面の一部がくり抜かれたような穴となり、文字が欠落している場合には、「お△かた人の/△〈破損〉」というようにした。

⑥ 〈重ね書き・なぞり書き〉については、書写者が書きたかったであろう〈なぞった〉文字を判読して校異を示し、注記には「&」の記号を用いた。「まいて/して&いて」という場合は、「して」をなぞって「いて」としているものである。重ね書きは見せけちと違い、既に書いたものを全く消してしまおうという意図があるため、校異上ではこのような処置をとった。なお、下の文字が判読できないものは、「物を/△&を」として、不明な文字を「△」で示した。また、当該文節の中になぞった文字と同じ文字がある場合にはミセケチと同様に、「おもひはなつましかりけりと/る&後り」とした。これは、「ける」と書いた後に「る」を「り」になぞったものである。

⑦ 朱書きの文字には〈朱〉という記号をあてた。朱と墨とが使い分けられている場合には、〈墨〉という符号を該当箇所に適宜添えた。「給へり/給へ$まい〈朱〉」の場合は、ミセケチ記号と傍書が共に朱書きである。「かほ/ほ$〈朱〉け歟」では、「け歟」に〈墨〉という記号は付けない。「さしあたりて/あ$〈墨〉シア〈朱〉」の場合には、「あ」を墨でミセケチにした後に、朱書のカタカナで「シア」と傍記していることを示す。
 また、一文字に墨と朱とがある時は、「たくひなき/たくひ$ひま〈墨朱〉」という形で〈墨朱〉という符号を付けた。

⑧ 注記が複数の時は、「色にも/△&に〈判読〉、も&も、も$〈朱〉」と、読点で区切って示した。その注記内にさらに注記がある時は、「傍」と明示して校異をあげた。「そしりをも/も+え、傍え=へ〈朱〉」とある場合は、補入文字の「え」の右横に「へ」と朱書きの文字が傍記されていることを示す。

⑨ 写本に記入された倒置記号について。○印と引き込み線やレ点などを用いて、字句の転倒を正す符号が付された本文箇所は、「とやまも/記号ニヨリとまやも」と注記した。

⑩ 付箋に異文などの記載がある場合は、「あしき/=かなしき〈付箋〉」として傍記扱いとした。また、付箋の内容から判断してどの文節に関するものかが判明する場合は、当該文節に注記する。付箋の内容が二カ所の傍記に対するものであれば、その片方と思われる文節に対して注記を行う。どこに対する付箋かまったくわからない場合は、その付箋に近い文節に注記する。付箋が紙面の上部あるいは下部にあっても、単に〈付箋〉として貼られている場合はその場所を示す必要はない。

⑪ 異本や異文注記が上部余白部分に記されている場合は、「人や/人$我イ〈上空白部〉」として対処した。

⑫ 傍記だったかと思われるものが本行に書写されている場合は、「/本行書写」として対処した。

⑬ 本行本文に割り注がある場合は、「よ/(割注)常陸守取婿(改行)少将たかへす」として、本文に関わる付加情報として注記した。

⑭ 底本の和歌に関して、一首全体が補入となっている場合は、「いせ人の/コノ歌ハ補入」とした。

⑮ 落丁の該当箇所には、「ナシ/落丁」とした。

⑯ 濁点のある箇所には〈濁〉を付す。また、清音で読む事を示す記号が付いている場合は〈清〉を付す。「あつしく/つ〈清〉」は、「つ」に清音で読む事を示す記号が施されている場合である。

⑰ 同じ文節に複数の注記を付す場合、本行本文への注記の次に傍記に関するものを列記する、という順番で読点によって区切る。
  源内侍のすけ/源$藤、傍藤〈朱合点〉、傍藤=これみつかむすめ也
 ただし、データベースとして検索されることを前提としているので、注記の順番は厳密でなくてもよい。

⑱ 漢字本来の意味を持って書写されている文字については、付加情報として「/〈漢字〉」という記号を付し、解釈の入らない翻字を目指す。これは、〈源氏物語翻字文庫〉が「変体仮名混合版」に移行することに伴う対処である。
 例えば、身投げの意味で「身越奈个」と書写されている場合は「身越な个/身〈漢字〉」(従来は「身をなけ」)と翻字し、見ることができない意味で「身衣寸」と書かれていれば「身えす」(従来は「みえす」)とする。
 『源氏物語別本集成 続』から「変体仮名混合版」に移行した後のデータでは、変体仮名の字母を漢字で明記することに加えて、漢字本来の使用例には当該漢字に付加情報「/〈漢字〉」という記号で明示することになる。


 
 
 

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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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