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2015年3月12日 (木)

日比谷図書文化館でハーバード本「蜻蛉」を読む(12)

 日比谷図書文化館で開講中の「古文書塾てらこや」では、「特別講座」の1つとして「【翻字者育成講座】ハーバード大学美術館蔵『源氏物語 蜻蛉』を読む」があります。

 昨秋からこの講座を担当し、本年1月から始まった第2期となる全5回が本日無事に終わりました。みなさん熱心で、こちらの方がいい刺激をいただきました。

 今日の内容は、京ことばで『源氏物語』を読んでおられる山下智子さんの朗読会のチラシを配り、参加をお誘いすることから始めました。この朗読会のことは、明日にでも本ブログで詳しく紹介するつもりです。

 続いて、国文学研究資料館のパンフレットを使って宣伝をしました。日本文学に関する研究機関がこのように開かれていることをご紹介し、その存在意義などをお話ししました。国文学に関する情報発信基地となっていることを折々にお話してきたので、後は立川まで足を運んでいただくことに尽きます。

 先週調査で行っていた天理図書館でいただいた、特別本の閲覧規定も確認しました。
 閲覧前には手を洗うことや、筆記具は鉛筆だけで、鉛筆削りや消しゴムの持ち込み不可、資料の取り扱いの注意事項や、メジャーや付箋などにも注意を促す記述があります。
 仮名文字を読む講座なので、実際に原本を見る時の心構えも、最後なので触れることにしました。

 次に、日本語点字の成立事情と仮名遣いについて、中野真樹さんの近著『日本語点字のかなづかいの歴史的研究』(三元社、2015.1)を引いて説明しました。
 このことについては、まだ私も勉強中です。みなさんに伝えたかったのは、現在使っている平仮名がどのような経緯で制定されたのか、ということです。『漢字御廃止之義』を著した前島密が、明治33年4月に国字改良の趣旨から文部省が選んだ8人の国語調査委員会の委員長を務めていたことは、平仮名の制定の背景にある1つの事実として記憶しておきたいと思います。
 明治33年に「小学校令施行規則」が改正され、小学校の教科書に「字音仮名遣い(字音棒引き)」が採用されました。今わたしたちが日常的に使っている平仮名の淵源です。
 この字音仮名遣いと点字の仮名遣いが、時期的に連動しているので、その背景を知ろうと調査を進めているところです。これは、まだまだ問題提起に留まるものであり、さらに勉強してから報告いたします。

 この講座では、わかっていることばかりではなく、わからないことや理解に苦しんでいることなども、ありまののにお話しています。

 また、現在使われている点字にも、字母表というものがあることを知り、その6点点字の表もお配りしました。


150313_tenjijibo
(中野真樹『日本語点字のかなづかいの歴史的研究』13頁より)



 この講座では、平仮名の字母を意識して読むように心がけてきました。それが、点字にも、字母という概念があったことを知り、日本語で意味を伝える文字としての共通性にふれました。

 さらには、点字には独自の仮名遣いがあり、そのなかでも助詞の「は」「へ」「を」については「を」以外は「わ」「え」が用いられていることも、興味深く聞いていただけたようです。
 点字では、「わたしわ まちえ ほんを かいに いきました。」となるのです。

 長音表記のこともお話しました。
 例えば、私の名前をローマ字で書くと「ITO」「ITÔ」「ITOH」「ITOU」などと表記できます。平仮名で書いても、「いとう」「いとー」「いとお」等も正しいかどうかは別の問題として、可能なのです。表記が1つに決まらないのは、日本語で書き表す上でこれでいいのでしょうか。
 私自身で説明できないことを、勉強不足をそのままに提示しました。

 「蜻蛉」の諸本15本を校合した本文校異のブリンも配布しました。
 今日読み進んで確認する中に、つぎのような箇所があります。


めさましかりて[ハ=大平尾麦阿池御正L陽高国]・・・・520740
 めさましかりてともかくもせさせつらんなとうたかふこのうちにさやうのことしりて/前3さ〈改頁〉[保]
 めさましかりてとにかくさせてむと思ひいたらぬくまなくおさましうあやしきまゝにたゝあきれまとふこのうちに[個]

 ここで、諸本が「めさましかりて」とするところを、保坂本と個人蔵本が31字と44字という、長い異文を伝えているのです。このことについても、まだ調査が進んでいないので、この事実を伝え、諸本の翻字を進めると、こうした例がもっと見つかるはずだという話につなげました。

 『源氏物語』は、その読みが深く先行しています。しかし、それは大島本の活字校訂本文が精緻に読まれているだけであって、大島本以外にこうした異文が伝わっていることはまったく手付かずであることの問題点を指摘したのです。
 みんなで1冊でも多くの写本を翻字して、若手研究者に『源氏物語』のことを考えるための資料として渡しませんか、と。古典文学がどうのというのではなくて、写本に何が書かれているのかすらわからないままに、大島本だけが読まれている現在の『源氏物語』の研究への、誰でも参加できるところからの研究協力ともなるのです。

 そんなこんなの話をしているうちに、あっという間に終わってしまいました。

 終了後に、いつものように何人かの方から質問をうけました。

 その中で、ハーバード大学本「蜻蛉」の8丁表1行目にある「事とん」と私が翻字した箇所について、これは「事とも」がいいのではないか、というご指摘を受けました。
 ここで「ん」と翻字したのは、その文字の形が「ん」なので、見たままの形での「ん」としていることを、凡例を踏まえてお答えしました。しかし、崩し字辞典には「も」の中に「ん」があるので、それであれば「事とも」とした方がいいのではないか、という疑問でした。
 あまり時間がなかったこともあり、「んめ(梅)」とか「んま(馬)」等の例を引いて、「ん」の字母をどう判断するかという難しさをご説明したかったのですが、その場ではうまくお伝えできませんでした。申し訳ありません。
 次に機会がありましたら、こうしたことをお話したいと思っています。
 短時間での対応で申し訳なかったので、ここにお詫びかたがた記しておきます。
 
 
 

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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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