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2015年4月14日 (火)

翻字における「ん」「も」「む」の対処

 「変体仮名混合版」による翻字を進めています。その中で、「ん」の字母に関する問題について、現時点での説明を記しておきます。
 「ん(无)」と見える仮名文字をどう翻字したらいいのか、ということです。
 これは、初めて翻字をなさった方から、必ず受ける質問でもあります。判断に戸惑う例なのです。

 「む」とすべきか「も」とすべきか、文章の意味を考えながら決めていては、現代人の賢しらでの解釈をしてしまった翻字になります。それを避けながら、判断は次の世代に託すこととして、今は見えるままの形の「ん(无)」としています。

 ハーバード大学本「蜻蛉」では、こんな例が確認できます(3オ4行目)。


150415_wonna


 これを、私は「をんな」と翻字しています。「ん」と見える文字の字母を推測すると、「をむな」でもよさそうです。しかし、今は「ん」としているのです。

 これ以外にも、次のような例があります。


「あ【ん】ない」(4オ6行目)(←あ【む】ない)
「事と【ん】」(8オ1行目)(←事と【も】)
「ね【ん】須」(46ウ3行目)(←ね【む】須)
「ひ【ん】可し」(61ウ8行目)(←ひ【む】可し)

 この中で、「事とん」は「事とも」と翻字すべきなのではないか、と思われるかもしれません。


150414_kototon


 崩し字辞典には、「も」の字母として「ん」が挙げられているからです。
 意味を考えると、可能であれば「事とも」としたいところです。しかし、それを認めると「んめ(梅)」とか「んま(馬)」等の場合に、「もめ」とか「もま」と翻字する可能性が出てきて悩むことになります。現代の中途半端な知識で「も」にすることに躊躇して、書かれたままの「ん」にしておくのです。

 この「无」については、京都女子大学の坂本信道先生が最近の成果を論文の形でまとめておられます。これに関連する問題点の詳細は、次の論文をご覧ください。


「写本における「无」文字消長 ─藤原定家自筆本を中心に─」(今西裕一郎編『日本古典籍における【表記情報学】の基盤構築に関する研究』第Ⅱ号、2014年2月)

 まだ結論の出ていない問題なので、翻字を進めておられる方には、かえって混乱させることになったらお許しください。今は、とにかくよくわからない問題があるのだ、ということに留めていただき、どんどん前を見て進んでいただければ、と思います。

 翻字をしていると、日本語はまだまだ調べなければいけないことが多いことに直面させられます。わからないことだらけだ、ということから、いろいろな勉強をすることになります。そして、またさらに疑問が湧いてきます。

 こうした疑問点や問題点は、みんなで共有することで、少しでも有益なデータ作成につなげていきたいと思います。今の浅知恵で拙速にならないように、暫定的なものを残しながら翻字を進めているところです。
 
 
 

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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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