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2015年6月21日 (日)

京都でハーバード本「蜻蛉」と『十帖源氏』を読む(第20回)

 明け方から雷雨に驚かされました。
 御所の南側にあるワックジャパンへ行く途中で、出町柳にある三角州前の飛び石は、水嵩が上がっていたので渡れません。
 親子が残念そうに、川の流れが急なのを呆然と見つめておられました。お父さん渡ろうよ、という子供の声が聞こえそうです。そうでした。今日は父の日でした。


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 今日は、最初は文学や日本語に関する談義で始まりました。
 文学部はいつまで持ちこたえられるのか、日本語はどうなっていくのか等々、この『源氏物語』を読む会は年代がまちまちの方々の集まりなので、おもしろい話に展開していきます。
 自由に自分の考えが言える場は、大変貴重だと思っています。毎回、このフリーディスカッションを楽しみにしています。

 しゃべり疲れた頃に、娘の差し入れである和菓子でティータイムです。


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 今日のお菓子は、「おとぎ草子」という、一寸法師や桃太郎などの昔話をテーマにした、かわいい和菓子です。一休餅で知られる吉廼家という、北大路通り沿いの室町西入ルにある京菓子屋さんの作品です。みんなでいただくには、ちょうどいいミニサイズで、楽しくお話をしながら口にできます。

 写真上の直角三角形の小豆が載った餅は、この時期に関西では馴染みの「みなづき」です。昨日の記事で、桝形商店街の入口にある和菓子屋さんの店頭にも、このお菓子の名前が掲げられているのが写真に写っています。

 この「みなづき」は、関西ではスーパーやコンビニでも売っています。しかし、関東ではデパートなどの大きなお店でないと、中々手に入れられません。
 この時期でいうと、この「みなづき」と共に「鱧」も関東では入手が難しいので困っています。

 一息いれてからは、『十帖源氏』の「明石」巻を読みました。この巻は、今日で最後の1丁が終わりました。最後は和歌が続くので、あっという間に終わったのです。

 京都での『十帖源氏』は、「須磨」と「明石」の2巻を読んで来ました。
 東京が「葵」で一旦休止しているので、京都もこの「須磨」「明石」を終えた所で一時休止とします。

 両都のデータの整備と準備ができたら、また再開します。今しばらくの休業です。
 
 『十帖源氏』を読んだ後は、ハーバード大学本「蜻蛉」の写本の確認をしました。
 京都では、今年になってからは一旦巻頭に戻り、「変体仮名翻字版」としての字母の確認を進めています。翻字の方針が変わったからです。

 それに加えて、今日は異文のことが大きな問題となりました。

 次の画像は、ハーバード本「蜻蛉」の3丁裏と4丁表の両端3行分をカットしたものです。
 ここで、朱の傍線を施した部分を見てください。


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 まず、右端の「个し〈改行〉きみよ」とあるところについてです。

 ここは、諸本のすべてが「けしきみ」としています。つまり、ハーバード本の「よ」は単純なミスによる衍字だと説明されるものです。しかし、ことはそんなに単純ではなくて、次のような本文を持つ写本が伝わっているのです。


けしきみけすはひか事もいふならむいとあやし

 この写本に「けしきみ」とあることから、ハーバード本の「けしきみ」の「よ」は、即座に衍字だと簡単に片づけられないのです。

 「よ(与)」と「に(尓)」は、崩し字の字形が酷似するので、ハーバード本の親本の背後には「けすはひか事もいふならむいとあやし」という異文の存在が想定できます。

 ここを、『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「蜻蛉」』(伊藤鉄也編著、新典社、210頁、2014(平成26)年)では、「よ〈ママ〉」としておきました。問題があるので、さらに諸本の翻字を確認してから確定するように、判断を保留したところなのです。

 さらには、「けすはひか事もいふならむいとあやし」という異文は、実はこの後に出てくる、写真左側の朱の傍線を施した部分「けすはひ可事もいふなりと」にも関連します。この文は、先の「けしきみけすはひか事もいふならむいとあやし」という文を伝える写本には見当たらないものだからです。その本では、「あんないせよ」から後しばらく諸本が持つ文章は伝えていないのです。

 次に、写真の真ん中で朱の傍線を引いた箇所に注目してください。
 このハーバード本では「とこ」に続けて「ろなうさ者可しく」と続いています。この「とこ」に関して、諸本では「ところは」と「ろは」があります。
 ここも『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「蜻蛉」』では「とこ/〈ママ〉」としてあります。

 前記の異本がここを「うつし心なう」としているので、ここでもハーバード本の背後には、今は不伝の本文がありそうです。そのために、ここで「とこ」と中途半端なままの語句が書写されることとなった、と言えるでしょう。単に「ところ」の脱字だとか「ろ」の目移りだけでは済まない箇所なのです。

 さらにもう一点。
 上記写真の後ろから3行目に「しゝうなと尓阿ひて」という文を朱で囲っておきました。ここでも異本には、次のような長文の異文が記されています。


侍従なとにあひてありさまをたにきけとのたまはする御けしきいとしのひうてけるにいとをしうていてたつとてさへあやにくにかきくらしたりかしこには

 これだけ長い文章だと、この鎌倉時代に書写された異本の異文は無視できません。単なる誤写では済まされないからです。

 こうした文章の背後にある別の本の異文のありようは、今はまだ翻字された『源氏物語』の写本が非常に少ないので、比較検討して考察するには基礎資料が少なすぎます。

 『源氏物語』の写本を一冊でも多く翻字すべきことを喫緊の課題として、NPO法人〈源氏物語電子資料館〉が翻字作業を展開しているのは、こうした問題を解決する手だてとしての基礎資料を作成し構築するためです。

 とにかく、翻字された『源氏物語』があまりにも少ないので、ここで取り上げた〈ママ〉とせざるを得なかった箇所や異文についても、これ以上は研究が進められないのが実情です。
 『源氏物語』の本文研究の発展のためにも、「変体仮名翻字版」の作成に、1人でも多くの方のご協力をお願いしているところです。

 もっと「変体仮名翻字版」の翻字作業が進むまで、今はこうした断片的な箇所での本文異同などの問題提起をし続けていくしかありません。
 
 京都のワックジャパンで『源氏物語』を読む会は、次は7月11日(土)の午後1時から3時までです。『十帖源氏』がひとまず終わったので、後半がなくなったために、3時で終わりますのでお気をつけください。

 8月の日程も決まりました。
 8月8日(土)の午後1時から3時までです。
 これも、興味のある方々の参加をお待ちしています。

 自転車で賀茂川を遡っていた帰り道で、急に雨が降り出しました。少し止んだかと思うと大降りです。全身が濡れたついでに、鞍馬口橋の手前から小雨に烟る北山を撮影しました。


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 家に辿り着いた後に、また豪雨となりました。何とも不安定な天気です。今年の夏が思いやられます。
 
 
 

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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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