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2016年1月14日 (木)

読書雑記(153)船戸与一『事変の夜 満州国演義2』

 第2巻は昭和5年(1930)以降の話です。


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 日本をめぐるアジアの動静が、事細かに炙り出されていきます。それが非常に具体的に語られていくので、裏面史として興味深く読めます。

 登場人物がくっきりと描かれており、日本人、中国人、朝鮮人、満州人が、その顔立ちから人柄、そして持っている思想に至るまで、リアルに伝わってきました。

 大陸を舞台にして、国民政府、国民革命軍、日本帝国、関東軍の動向が、昭和6年から7年にかけてドラマチックに、しかも具体的に生き生きと語られます。その筆の逞しさに、つい読みふけってしまいました。

 満州事変を前後にして、歴史解説が主になっています。しばし歴史語りの傍観者となる局面が多くなると、読み進んでいてもふっと気が抜けます。事変の意義を読者に伝えようとするあまり、船戸節が影を潜めます。

 そんな中で、敷島三郎が何度も思い出す、峰岸容造の叫び声が耳から離れません。


「見殺しにするんですか、中尉、このおれを! どういうことなんだ、同じ日本人なのに!」(152頁)

 この第2巻で、このシーンが一番印象的でした。

 ビハリー・ボースの考え方の紹介(298頁)には、興味を持ちました。新宿の中村屋のインド・カリーと共に。

 日本山妙法寺の僧侶5人が襲われる場面(366頁)も、政治的な謀略の一つとして記憶に残りました。

 巻末部で、四郎を訪ねてきた、かつての劇団仲間である戸樫栄一が言うことばが印象的です。戦争の真っただ中の時代における物の見方や考え方を知る上で、ポイントを突くことばだと思います。


「人間の本質は理性でも悟性でもねえ」
「何なんです?」
「獣性だよ」
「え?」
「獣性こそが人間の生き抜く力の源だ。(下略)」(384頁)

 その後、四郎には上海において慰安施設を経営する話が降りかかります。
 戦争と人間のありようが、ドラマチックに展開する中で物語は次巻へと引き継がれていくのです。【4】
 
 
 

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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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