« 「きずなづくり大賞 2015」受賞の関場理華さんと「百星の会」 | メイン | 『源氏物語』の翻訳本に関する情報を求めています »

2016年2月 4日 (木)

読書雑記(154)山本兼一『火天の城』

 あの織田信長が、新たな視座から描き出されました。安土での築城を中核に据えて、山本兼一ならではの、豊かな発想が魅力的な信長像の出現です。

 今回は、文庫本(文春文庫、2007年6月)で読みました。


151211_katennosiro


 実は、単行本を手にする前に、映画化されたものを先に観たのです。英国ケンブリッジ大学行く飛行機の中でした。
 そして、その主人公を演じた役者の演技が鼻についたので、直木賞の候補にあがり、松本清張賞を取った作品と騒がれていても、この作品名にいい印象を持っていませんでした。

 その後で本を手にしても、映画の場面がじゃまをして、途中で投げ出していたのです。

 それでも、山本兼一は好きな作家だったので、10年も経ったこともあり、気分転換に文庫本で読んでみました。
 直木賞を受賞するほどの作品なので、文章はしっかりしていました。ただし、やはり映画が災いしているのか、読後感に何かすっきりしないものを感じています。

 それはさておき。
 築城に当たり、無理難題を投げかける信長の思いつきを、岡部又右衛門は律義に大工として叶えようとします。反発する息子の成長も見ものです。

 イタリアから来た耶蘇会の神父で宣教師のオルガンティーノが、活き活きと独特の味を出して、当時の日本を外から見た視点で評しています。この冷静さが、本作品に奥行きを与えます。

 大仕事になればなったで、大人数で当たることになります。すると、仕事の妨害を意図した間者も紛れ込むことになりのです。棟梁は、全体の指揮をとりながら、雑事にも気を巡らすのでした。

 人を使って物を造る背景が、実におもしろく描かれていきます。

 木曽の檜が、一本折れたままで届きました。それには「ひらがな」ばかりで記されたそま頭の消息があります。職人は仮名文字だけを使っていた、と言うことなのでしょう。
 社会と文化が具体的に伝わってきました。


 おやくそくのひのき もうしわけなくもおれ候 おおいわにあたりて おれ候 まことに まことに もうしわけなきしだいにて めんぼくもこれなく かえすがえすも くちおしくはじいるばかりにぞんじ候 じんべえ(211頁)

 間者や乱波が築城を妨害する動きが、物語の展開を一層おもしろくしています。
 安土に壮麗な天守を建てるために、その作事の背景には壮絶は戦いがあったのです。

 終盤の明智謀反に至る信長の背景に、安土の築城という物造りの匠がいたのです。新たな歴史物語の誕生と言えるでしょう。

 ただし、本作の意義はそうであっても、物語を楽しむ読者の立場からは、頁を繰るのがもどかしいほどの感興は、最後まで沸き上がりませんでした。これは、映画のことだけではなくて、意外性と躍動感が足りなかったからではないか、と勝手に思っています。特に、織田信長をもっと鮮明に描いてほしかったのです。本作が、直木賞の候補にあがりながらも受賞できなかったのは、こうしたことがあるからではないでしょうか。【3】

書下ろし(第11回松本清張賞応募作)
単行本︰2004年6月 文藝春秋社
 
 
 

コメント

コメントを投稿

コメントは記事の投稿者が承認するまで表示されません。

NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

Powered by Six Apart
Member since 07/2008