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2016年2月 6日 (土)

日比谷図書文化館のみなさまと鎌倉期源氏写本を見る

 日比谷図書文化館で『源氏物語』の翻字の勉強をなさっている方の内の有志9人が、国文学研究資料館所蔵で鎌倉時代に書写された『源氏物語』(榊原本、16冊)を閲覧するためにいらっしゃいました。

 正面玄関前には、まだ先月の雪が少しだけ残っています。


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 閲覧場所は、1階グループ閲覧室を使用しました。
 ちょうど土曜日開館ということもあり、司書の方々をはじめとしてあまりご迷惑をおかけすることなく、じっくりと閲覧していただくことができました。

 みなさま好奇心の旺盛な方々なので、2時間たっぷり熱心に、700年前に書写された『源氏物語』に見入っておられました。

 この榊原本は、影印本『源氏物語 榊原本』(国文学研究資料館編、勉誠出版、平成24年)として刊行されているので、写真版でご覧になれます。
 また、ネットでも詳細な画像が確認できます。
 「榊原本『源氏物語』」
 
 問われるままに、いろいろとお話をし、お答えしていました。
 その中で、特に興味深かったことを記しておきます。

 第4巻「夕顔」の最終見開き丁で、「人」という文字が3行にもわたって大きく書かれていたことです(1016コマ目)。


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 これまでに私が見た大きな文字は、陽明文庫本『源氏物語』(重文)の第3巻「空蝉」のあばれた文字で書写されたものがあります。
 その様子は、『千年のかがやき』(国文学研究資料館編、思文閣出版、平成20年、91頁)の「7 陽明本『源氏物語』」の項目に写真を掲載しましたので、その写真をご覧いただければ一目瞭然です。この写真は、陽明文庫の名和修先生に特にお願いして撮影していただいたものです。2008年に国文学研究資料館で開催した特別展でも、この丁を開いて見ていただきました。

 さて、この榊原本では、「人」という文字だけが、上の写真で見られる通りに大胆なのです。
 3行にもわたる文字を見ていると、書写のための道具としての糸罫には、糸を張らずに用いたものを考えたくなります。
 これまで私は、隣の行にまではみ出した大きな文字については、縦に張られた糸を跨ぐ際に小指で少し押してずらして書いていた、と説明してきました。
 しかし、この榊原本の「人」を見ていると、糸が張られていない、木枠に上下の行を誘導する印だけを刻印したものもあったのではないか、と思えてきます。
 行末がきれいに揃っているので、木枠を使用したことは間違いないと思っています。

 糸罫については、『千年のかがやき』の103頁に写真が掲載されていますので、その形を確認してください。

 この推測も含めて、こうした大きな文字を書写していた実態について、ご存知の方がいらっしゃいましたらご教示をお願いします。

 写真版の複製本などを見ていては伝わってこない、墨で書かれた文字が持つ迫力が、こうして原本を間近に見ると圧倒されるほど響いてきます。
 原本をご覧になると、写本というものが持つ、時間の流れの奥に潜む書写者の気迫も伝わってきます。
 その意味からも、可能な限り原本を見るようにしていると、翻字をしていても実感を伴って文字が読めてきます。

 こんな700年前もの写本を、実際に手にして読めるのですから、和紙に墨書された写本の魅力は尽きないものがあります。
 
 
 
 

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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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