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2016年2月19日 (金)

ウルドゥー語訳『源氏物語』の完本発見

 アラハバード大学図書館の書庫で、ウルドゥー語訳『源氏物語』の完本を、偶然とはいえ司書の方が見つけてくださったのです。

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 あればいいが、との思いで、あてもなくとにかく書庫に入れていただきました。
 書庫内の通路で、村上さんがいつもお世話になっているというレヘマトゥッラー司書が、たまたま前から歩いて来られました。ひょっとして何かご存知ではないかとの思いから、ウルドゥー語訳『源氏物語』の本のことを聞いてもらいました。

 レヘマトゥッラーさんは初めて聞く本の名前だとのことで、何もご存知ではありません。それでも村上さんが食い下がって、ありったけの情報を語り続けると、一つの書棚の列に入られました。そこは、ウルドゥー語に翻訳された外国語のお話のコーナーでした。

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 レヘマトゥッラーさんが、最初に一冊の本の小口に指を掛けて引き出されたものを見て、村上さんが声を上げました。何と、それが探しているウルドゥー語訳『源氏物語』だったのです。レヘマトゥッラーさんも私もびっくりです。


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 偶然とはいえ、一触で『源氏物語』が出てきたのです。
 伊井春樹先生がおっしゃった、本は探し求めている者においでおいでをする、という秘技をまた体験することになりました。

 ネルー大学でウルドゥー語訳『源氏物語』を発見した時のことは、「ウルドゥー語訳『源氏物語』をインドで発見」(2009/3/5)に書いた通りです。あの本は、表紙や奥付などがないものでした。また、東京外国語大学にある本も、一部が欠けています。今回みつかった本は、すべて揃っている完本です。刊行された時のままなのです。経年変化だけの、誰かが開いた形跡もない本です。
 またもや、偶然が現実のものとなりました。

 この本の両隣は別の分野の本です。また、背文字は薄くて読み難い上にめくれていて、ウルドゥー語で「げんじものがたり」と書かれた「じ」の終筆部分からしか読めないのです。この書棚の中からこの本と行き当たったのは、まさに奇跡です。

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 この本は、1971年にサヒタヤアカデミーから刊行された8種類の言語の内の一つです。
 アラハバード大学に収蔵された経緯を調べてもらうことにしました。何と言っても、このウルドゥー語訳をしたのは、1971年当時アラハバード大学で学科長をしていたウルドゥー語の文学批評者だったエヘテシャーム・フセイン教授なのです。
 フセイン教授の献本であれば、もう少し資料がありそうです。

 かつてわたしがネルー大学で見つけた時のように、まず図書カードを調べてもらいました。この本の書誌は、まだ書籍化も電子化もされていないからです。

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 目録カードでは、この本の番号に当たるものが飛んでいました。カードがないのです。勝手にカードを引き抜いて持って行かれることが、よくないことながらよくあるそうです。

 そこで次に、この本の図書番号を、受け入れ図書の登録簿と照合して、基本台帳の情報を見てもらうことにしました。こうした点は、帳簿管理としてシステム化されていることに感心しました。
 手前勝手なお願いにもかかわらず、テキパキと調べてくださいます。司書の方々には、ほんとうにお騒がせしました。


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 台帳保管庫にあったノートに記載されていた図書番号から、受け入れ当時のことがわかりました。1971年にサヒタヤアカデミーから刊行されたこのウルドゥー語訳『源氏物語』の受け入れの事情などについて、いくつかのことが判明したのです。

 サヒタヤアカデミーから刊行された翌年の1972年に、アラハバード大学図書館が6ルピー50ペイサで買い上げたものだったのです。これで、今回見つかった本が初版本の完本であることがわかりました。
 ただし、フセイン先生は1972年にお亡くなりになります。このことは、後でも確認します。
 アラハバード大学図書館に収蔵された御自身の翻訳になるこの本を、フセイン先生が実際に手に取られたかどうかは不明です。

 村上さんがこの本を借り出したいと言うと、全館的に図書の電子登録を進めているところなので、まずはこの本の書誌を優先的に電子情報として登録し、その後に貸出手続きができるようにしてあげよう、ということになりました。
 学生の向学心を最大限に尊重して支援する図書館側の計らいには、あらためて感激しました。ありがたいことです。

 さっそくこの本の書誌をコンピュータに優先的に登録してもらえました。図書の登録作業も見ていてもいいし、撮影もいいとのことです。
 ウルドゥー語訳『源氏物語』の完本が今回初めて見つかり、それをコンピュータに登録した記念に、担当の司書見習いのプリヤーさんが登録するところを記念写真として撮影することになりました。

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 プリヤーさんは、この大学の出身者だそうです。こうしてウルドゥー語訳『源氏物語』がコンピュータにアラハバード大学図書館の蔵書として登録されたことにより、一人でも多くの方がこの本を見ることができるようになったのです。インドの方々が、日本の『源氏物語』に興味をもっていただき、勉強に役立てていただけたら幸いです。ウルドゥー語訳『源氏物語』の研究も、これで進んで行くはずです。とにかく、今は村上さんしかいないのですから。

 プリヤーさんは、司書としてこうした学問的なお手伝いをしていることを自覚なさったようで、共に喜んでくださいました。ますます活躍してほしいと思いました。
 もっとも、まだアラハバード大学の OPACは一般には公開されていません。日本からこの本を検索することはできないのは残念です。

 この大学のキャンパスは、積極的に整備が進められていて、草花が校舎を背景に咲き誇っています。いい環境です。

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 村上さんの指導教授であるノシャバ・シャルダール先生の部屋へ挨拶に行き、今回の成果を報告しました。
 先生は、翻訳者であるエヘテシャーム・フセイン先生に、修士課程1年目に口頭試問を受けたそうです。しかし、『源氏物語』をウルドゥー語訳しておられたことはまったく知らなかった、とのことです。そして、シャルダール先生もサヒタヤアカデミーから刊行されたこの本のことはご存知なくて、村上さんに日本の『源氏物語』のウルドゥー語訳の研究もするといいね、とおっしゃっていました。
 この本が見つかったことで、これから『源氏物語』が研究されることだろう、とおっしゃっていました。

 お茶請けとして出してくださったほうれん草の唐揚げは、パリパリとしてとても美味しくいただきました。

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 学科長のアリ・アフマド・ファトミー先生にも挨拶と報告に行きました。
 ファトミー先生も学生時代にフセイン先生の指導を受けておられました。しかし、文学批評がご専門のフセイン先生が何かを翻訳なさっていたことは知っていたし、論文に翻訳のことが書かれていたように思う、ということです。しかし、それが日本の『源氏物語』だったかどうかはまったくわからないし、資料もお手伝いした人がいたかどうかも不明だそうです。

 次の写真中央右の男性がファトミー学科長、右端の女性がシャルダール先生です。

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 この部屋には、歴代の学科長の写真が掲げられており、フセイン先生の写真もありました。

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 ファトミー先生の席の後ろには、歴代の学科長の名前と在任期間が記されています。

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 第3代がフセイン先生で、在任期間は、1961年から72年までの11年間。フセイン先生は、1972年にお亡くなりになりました。
 第9代と第12代がシャルダール先生、第10代と当第13代がファトミー先生です。

 今回は、フセイン先生が在職中に学生であり、歴代の学科長をそれぞれ2代ずつ務めておられるお2人の先生に、直接お話をうかがいました。しかし、『源氏物語』のウルドゥー語訳に直結することは何も出てきませんでした。

 そもそもが、サヒタヤアカデミーのプロジェクトは、アーサー・ウェイリーの英訳『源氏物語』の第1巻目だけを、インドの8言語で翻訳することでした。ウルドゥー語訳は、サヒタヤアカデミー側からフセイン先生に依頼された、という事情があります。
 日本に対する理解や、『源氏物語』に関する興味や関心がなくても、ウエイリーの英訳をウルドゥー語に翻訳することが、この背景にあることは重要です。
 海外における日本文学について調査するときに、こうしたことは十分に承知して対処すべきことのようです。

 お2人の先生に感謝しつつ、入口近くにあったフセイン先生を顕彰し記念するホールを拝見しました。学生達が授業を待っているところでした。
 (横に書いてあるウルドゥー語については、後日村上さんに訳していただいて追補します。村上さん、よろしくお願いします。)

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 バナラス・ヒンドゥー大学(BHU) の文学部ウルドゥー学科博士課程(Ph.D)で研究中の森山武さんと、アラハバード大学で待ち合わせをしていました。ここに掲載した先生方との写真は、森山さんが撮影してくださったものです。

 街中のコーヒーハウスで、森山さんと積もる話をしました。
 森山さんとは、2009年4月に、私が書いた上記紹介のブログ「ウルドゥー語訳『源氏物語』をインドで発見」の記事を読んでコメントをいただいた時から、デリーで国際集会をする折を見ては、お目にかかれないかと連絡をしていました。

 今回、バナラシからわざわざアラハバードまで片道3時間のところを駆けつけてくださったのです。当初は私がバナラシへ行く予定を組んでいました。しかし、日程などの関係で行けなくなったところを、こうして森山さんから足を運んでくださったのです。ありがたいことです。

 このコーヒーハウスは、かつては文人たちが集って談論風発した所だそうです。
 今回の我々の面談場所として、まさに願ってもないコーヒーハウスです。
 そう思って見回すと、それらしいインテリ風の方がちらほらと見かけられます。


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 夕方4時ころまでお話をして、それから森山さんはまたバラナシへととんぼ返りです。短い時間でしたが、楽しいおもしろい話ができたことは幸いでした。私のブログを読んでくださっていることもあり、ごく普通に翻訳本の話などができました。
 また、秋にお目にかかれるようです。楽しみにしています。
 博士論文の1日も早い完成を心待ちにしています。
 
 
 

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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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