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2016年2月 2日 (火)

点字による変体仮名版の翻字は可能か(7/to 中野)

 昨日掲載した、中野さんからの点字による翻字に関する意見に関して、私が今思うところを記しておきます。
 
(1)写本の情報をどの程度翻字で再現するのか


 「わざわざ翻字を作成する意味」については、私も真っ正面からは考えていませんでした。
 確かに、「最初から現物やその写真、凸字版を研究に使えばよい」わけですから。
 しかし、写本に書写された文字を読み取り、その意味するところを考えるのは、やはり時間と手間がかかります。しかも、翻字には原本固有の誤写や誤読が存在するので、文字列や字形からいろいろと想像を逞しくするのには、相当のエネルギーが求められます。
 さらには、虫損や落丁や錯簡などなど、写本が抱える状況も翻字に影響を与えます。

 そこで、現行の文字で印字されている翻字資料を横に置いた方が、書かれている内容の判読は格段に正確で早くなります。また、書写状態を考慮することなく、書かれている文字列に集中できます。
 分野を異にする方々も、統一された現行の文字で印字された翻字だと、利用の便が拡大するのも確かです。

 さらには検索に関連して、「検索の利便性のために原文の再現性を犠牲にして、語の表記の統一をめざす翻字の方針もありうるのではないか」という見方は、私が『源氏物語別本集成 全15巻』(伊井・伊藤・小林編、桜楓社・おうふう、1989(平成元)年~2002(平成14)年)と『源氏物語別本集成 続 全15巻』(同編、おうふう、2005(平成17)年〜第7巻まで刊行)に取り組む中で実施していたことでもあります。デジタル化を意識した本文データベースの構築のためには、検索されることを意識して文字を統一した翻字をせざるをえなかったのです。
 つまり、「原文の再現性と検索の利便性の両立」は、相矛盾するものなので今後とも検討課題です。

 とはいえ、もっとも優先すべきことは、翻字対象とする原本の再現性だと思います。
 しかも、変体仮名がユニコードとして登録されると、電子情報としての文字がこれまでの手書きや印刷物とはまったく異なったものとなります。本文データベースの基礎となる文字データの中でも、特に仮名文字がもつ情報の質と量が一大変革をきたします。上記の矛盾点は、文字を操作するプログラムやコーパスによって、意識することなく自由に双方の文字を扱えるようになります。

 その意味からも、原本に立ち戻れる、変体仮名を交えた翻字の意義が重要になるはずです。
 原本に「阿」と書いてあるのに、現在の翻字方式では「あ」としています。これでは、未来永劫に原本の正しい書写状態や表記に戻れないのです。
 中野さんも書いておられる、「出来る限り原文の再現ができる方法」は、この問題に着手する最初に確認しておくべきことだと思います。

 また、目が不自由な方が写本を触読や聴読によって読むにあたり、変体仮名の字母レベルでの区別がつかなけれは、写本を読みだしてもすぐに中断することになります。
 現在の変体仮名は、明治33年以降は、ほとんど教育の現場では扱われなかったのですから、今後とも目が見える見えないに関わらず、学習する環境を整える必要があります。
 その際に、変体仮名を点字でどう表記・表現すべきかが問題となるはずです。
 今私は、この問題に一日も早く着手して、多くの方々の意見を集約する形で、変体仮名の理解と習得をめざすシステム作りが急務だと思っています。


 
(2)変体仮名を点字で表す場合どのようにするか

 中野さんのおっしゃる、「変体仮名に対応する点字そのものを作成する」ことに関して、「点字2字、もしくは3字を組み合わせて変体仮名であるという情報を付与する」ということが、今一番可能性の高い方策かもしれません。
 ただし、その場合にも、国立国語研究所が提示しておられる「学術情報交換用変体仮名セット」の中でいえば、「か」の変体仮名として以下の11文字が掲載されていることが、大きな問題をもたらします。

「佳・加・可・嘉・家・我・歟・賀・閑・香・駕」


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 鎌倉時代の書写になるハーバード大学本「須磨」「蜻蛉」と歴博本「鈴虫」の三冊だけであれば、「か」は「加」と「可」だけで翻字できます。具体的に言えば、各巻には次のような用例数が確認できています(各巻の数値の多寡は今はおきます)。


   須磨/ 鈴虫/ 蜻蛉= 合計
か= 82/ 10/409= 501
可=303/389/626=1318

 しかし、室町時代から江戸時代へと翻字対象となる写本や版本を広げていくと、上記のような11文字種も出現する「か」などは、その対処が大変になります。
 これは、時間をかけて方策を練る必要がありそうです。


 
(3)変体仮名の音声よみあげについて

 ご提案の「音声情報が付与された写本源氏物語コーパスの作成」については、触読研究の科研で研究協力者としてご協力願っている、国語研の高田智和先生のお力にすがることにしましょう。高田先生は「学術情報交換用変体仮名セット」を策定して提案するメンバーのチーフということでもあり、いろいろと示唆に富むアドバイスをいただけることでしょう。
 高田先生、勝手に頼りにしています。ご寛恕のほどを。

 
 
 

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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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