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2016年4月12日 (火)

変体仮名の学習法と視覚障害者が触読することに関する報告

 「平成26年度総合文化研究所助成『変体仮名教材作成の研究―文学作品を中心に―』に関する報告」(共立女子大学・共立女子短期大学 総合文化研究所紀要 第22号 2016年、代表者 岡田ひろみ)を読みました。

 この報告書は、初学者が変体仮名を習得する過程を、実践を通して追ったものです。これからの変体仮名の学習指導において、よき手引書となっています。
 併せて、視覚障害者向けの変体仮名学習教材の作成についても、実践報告があります。
 古写本の触読研究に取り組んでいる私にとって、非常にタイムリーなものでした。

 ここでは、変体仮名や絵を読み取る方法として「触読」によっています。その取り組みの苦労は承知の上で、あえて私見を加えるならば、ここに音声を活用することを導入すると、さらに学習効率が向上することでしょう。
 また、指筆による古写本の臨書や模写を取り入れると、変体仮名の習得がさらに確実で迅速になると思われます。
 次には、こうした取り組みもなされることを期待したいと思います。

 本書の冒頭、[研究の目的]で、研究代表者である岡田ひろみ氏は、次のように言っておられます。


 本研究の目的は主に二点、①学生だけでなく、変体仮名を学びたいと考える人々が自主的に学ぶための教材を作成すること、②変体仮名を指導する立場にいる人間が視覚障碍のある人々にも平等に教えることができるような教材を、また、視覚障碍のある人々が変体仮名を学びやすい教材を作成することである。これらの研究成果は、視覚障碍のある人だけでなく、変体仮名を読んでみたいと考えるすべての人々に対しても寄与するものだと考え研究をすすめてきた。(156頁)

 つまり、目が見える見えないを問わず、とにかく誰でもが平等に変体仮名が読めることを願って作成された、変体仮名の教材作成のための成果報告書なのです。

 目次は、次のようになっています。
 この執筆者は、岡田ひろみ 内田保廣 半沢幹一 山本聡美 咲本英恵 五十嵐有紀の各氏です。


平成26年度総合文化研究所助成「変体仮名教材作成の研究-文学作品を中心にー」に関する報告

物語を変体仮名で読むために
 目次
 1 概説—漢字と仮名
 2 概説—いろは歌と変体仮名
 3 概説—仮名文字と仮名文学
 4 概説—平安時代の物語史
 5 概説—平安時代の本
 6 変体仮名を読む—『竹取物語』上巻第一段詞書①
 7 変体仮名を読む—『竹取物語』上巻第一段詞書②
 8 物語の絵画化—テキストとイメージ
 9 変体仮名を読む—『伊勢物語』初段
 10 変体仮名を読む—『伊勢物語』三段
 11 変体仮名を読む—『伊勢物語』五段
 12 変体仮名を読む—『伊勢物語』六段
 13 練習問題
 14 付録
 15 補助教材の使い方

視覚障碍者向け変体仮名学習テキストの作成について

共立女子大学図書館所蔵『竹取物語絵巻』を用いた変体仮名教材作成

共立女子大学図書館所蔵『竹取物語絵巻』トレース図制作に関する報告

 以下、報告書の内容を簡単に紹介します。

 「概説」は、一般の学習者にも有益な、平易でわかりやすい説明がなされています。勉強会において使える、格好の手引書です。

 「変体仮名を読む」は、『竹取物語』と『伊勢物語』を例にした、変体仮名の入門編となっています。【翻字】【語注】【解説】や【現代語訳】が優しく語りかけてきます。

 「付録―校訂本文と比較してみよう」は、変体仮名で書写、印刷された資料と、一般的に読まれている古文との違いから、古典への興味を誘うものです。
 もっともこれは、さらに紙数を費やして説明する価値のある項目だと思いました。

 後半の視覚障害者のための変体仮名学習資料の作成とその実践報告は、私が現在抱えている問題点において、大いに参考になる内容に満ちています。実践を通して生み出された教材とその活用の実体が、障害者に対する文字指導において多くのヒントを与えてくれます。

 「視覚障碍者向け変体仮名学習テキストの作成について」には、次のように記されています。


これはAさんが教えてくれたことだが、変体仮名を学んで嬉しかったのは、見えている人と同じ文字を読めるということだったそうだ。Aさんが日頃読んでいる点字は、盲学校を卒業してしまえば他に読める人を見つけることは難しく、また常に点字を読むAさんは、他の人と同じ文字を読むことはできない。その点、変体仮名を読む時だけは、みんなと同じ文字の世界にいることができる。それが嬉しくて、Aさんは変体仮名を読み続けたいのだという。立体印刷機さえあれば、変体仮名とは、現代においてそれ自体で実は〈平等な〉教材なのかもしれない。変体仮名学習の意味を、思わぬところから気づかされた思いがする。(88 頁)

 目の見えない方と一緒に古写本を読む、という試みは、まだほとんどなされていません。その意味からも、この報告書には貴重な取り組みの事例が提示されているのです。

 冒頭に私見を記したように、今後は「音」を導入し、「筆」でなぞりがきをする、という試みを導入するとどうなるか、というチャレンジに期待したいと思います。

 なお、私が取り組んでいる「挑戦的萌芽研究」の科研「視覚障害者と共に古写本の仮名文字を読み日本古典文化を共有するための挑戦的調査研究」で、科研運用補助員として研究協力をしてもらっている関口祐未さんから、本報告書を読んでのコメントをいただいています。
 以下に引用し、本書の意義の確認にしたいと思います。


 触読に関する報告では、『首書源氏物語 夕顔巻』本文と『竹取物語絵巻』詞書を触常者が変体仮名で学ぶことができるように、変体仮名を立体化するときの工夫と試行錯誤の過程が詳しく述べられていて大変参考になります。
 教材の立体化には残された課題や改善の余地があるということですが、触常者Aさんが変体仮名を読み続けたいと意欲を持ったことや、触常者のために行った工夫の多くが、他の学生の学習にも有益であった点など、触読の研究をする人が目指す到達点が示されています。
 『竹取物語絵巻』の絵を筆とペンでフィルムシートに敷き写す作業では、完成したトレース図は、データ化しモノクロ画像に変換するため、墨の濃淡で表現した線の強弱が消えてしまうとあります。それでも肥痩に差をつけて描いた線の表現が少しでも残り、立体化した教材から絵画表現の豊かさを読み取ってもらえればとの思いで筆を走らせたと書かれています。
 伝わらないかもしれないけれど、でき得るかぎりのことをするという意識は、触読の教材を作る上で大切なことだと教えていただきました。
 変体仮名も、立体コピーすると、墨の濃淡がつぶれ黒一色になってしまいます。文字の形を伝えることの他に、筆文字が持つ線の美しさや個性を伝えていく工夫も、あきらめず考え続けたいと思います。

 
 
 

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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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