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2016年6月17日 (金)

読書雑記(168)山本兼一『いっしん虎徹』

 山本兼一『いっしん虎徹』(文春文庫、2009.10.10発行、2011.3.15第4刷)を読みました。
 刀剣を拵えること一徹の男と、夫思いの妻が織り成す、心温まる夫婦の物語です。


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 越前で甲冑を作っていた長曽袮興里(後の虎徹)は、刀鍛冶への転職を心に抱いて出雲へ行きます。たたらを踏んで鋼を造る過程を身をもって学びます。
 その出雲での話は、作り事めいていてやや興醒めでした。特に、仇討ちのドタバタは。
 ただし、越前で殺されて盗まれた刀「行光」の探索は、物語の最後まで伏流していきます。

 なお、現地の人が使う出雲弁が、語尾だけを似せたものなので、出雲出身の私としては気になってしかたがありません。しかるべき人の目が入っていることでしょう。しかし、方言を語らせることは難しいものだ、ということを実感しました。

 興里は、江戸に出て刀鍛冶を目指します。全編、物造りの男の物語です。

 肺結核と眼病を患う妻ゆきも、夫興里と共に上京します。病身を押して、鍛冶場の手伝いをします。単調になりがちな物語の展開を、このゆきが和ませ、彩りを添えます。作者も、このゆきの存在を随所にちりばめてアピールしながら、物語に夫婦の情の世界を取り込んでいきます。

 自分が打った刀が折れた後、ゆきにつらく当たる興里と、それに対するゆきが感動的に描かれています。

 一命を拾い、突然の入道となった興里に与えられた法名は「一心日躰居士 入道虎徹」でした。

 本作一番の読み所は「第四十八節」の、小塚原での仕置き場での処刑場面でしょう。心も目も、釘付けになりました。

 虎徹が自問自答します。
「人はなぜ生き、なぜ死ぬのか。」
「生きる値打ちとはなにか。」

 夫婦の思いやりと励まし合いが、1本の線として貫いています。
 波乱万丈の生きざまが、巧みな筆致で語られ、読者を楽しませてくれます。
 山本兼一ならではの表現で築きあげられた、静かな中にも熱気が伝わる作品となっています。【4】
 
 
 

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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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