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2016年6月 2日 (木)

変体仮名の字母─「天」と「弖」は見分けられるか

 立川駅の構内に、「北天の炎 阿弖流為」という「ねぶた」(青森県立青森工業高等学校 制作)が飾られています。これは、昨年もこの時期にありました。昨年の写真と見比べたところ、まったく同じものでした。
 この「ねぶた」は立川駅に保管してあるのでしょうか、それとも、毎年東北から持ち込まれているのでしょうか。


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 「阿弖流為」については、「ウィキペディア」に次の説明がありました。


アテルイ(? - 延暦21年8月13日(802年9月17日))は、平安時代初期の蝦夷の軍事指導者。789年(延暦8年)に胆沢(現在の岩手県奥州市)に侵攻した朝廷軍を撃退したが、坂上田村麻呂に敗れて処刑された。

 京都清水寺の境内に「アテルイ・モレ顕彰碑」があります。平安遷都1200年を記念した平成6年に建立されたものだとか。「阿弖流為」という名前は、この碑で知っていました。

 さて、アテルイの「弖」という変体仮名についてです。この「弖」と、一般的に使われる「て(天)」の崩し字は、実に紛らわしい形なのです。
 『古典かなの知識と読みかた』(駒井鵞静、東京美術選書39、昭和59年10月)から〈「て」の字母は「弖」か「天」か〉という項目にある例示を引きます(120〜121頁)。
 これを通覧して、第一図の一と三は「て」だと言えます。しかし、それ以外は「弖」としたいところです。第三図の三と四は、「天」でもいいし「弖」でもいいという、このあたりが線引きの分かれ目のようです。また、この字体が非常によく出てくるのです。


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 このことを、今日の日比谷図書文化館での翻字講座で話題にしました。

 夏を迎える日比谷公園は、陽の落ちるのも遅くなり、鶴の噴水も緑に包まれてきれいです。とても18時を過ぎているとは思えない明るさです。


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 日比谷公会堂は、老朽化と耐久化のために、本年4月1日より改修工事となっています。しばらくは休館です。


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 そんな公園の中で、熱心に変体仮名の勉強をなさるみなさまと一緒に、『国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」』(伊藤鉄也・阿部江美子・淺川槙子 編著、新典社、2015年10月)をテキストとして、仮名文字の字母を確認しながら読み進めています。

 今日話題にした「天」と「弖」に関しては、第4丁オモテの8行目と9行目の行末部分にみられる2つの「て」を切り出しておきます。


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 右下の仮名の字母は「弖」でもよさそうです。しかし、これを「弖」として認めると、これに類する膨大な文字の字母の修正が発生します。
 左上の「て」の字母は「天」でいいと思います。

 上記の『古典かなの知識と読みかた』で駒井氏は、次のような見解を示しておられます。


 ひらがな(女手)の「て」は、古くから使用してきた「弖」を母体とし、「天」の草書と合流させて、生み出したものではないでしょうか。
 「て」の字母は「弖」としても「天」としても、妨げないと思うのですが、本書では通説に従い、「天」といたしました。(121〜122頁)

 私も、歴博本「鈴虫」、ハーバード大学本「須磨」、同「蜻蛉」で、「弖」を字母とするものは一例も採りませんでした。「弖」にしてもいいかと思うものが多いのは確かです。しかし、「天」との線引きが難しいので、「天」にしておいたにすぎません。今後とも、鎌倉時代の古写本をさらに精査して、この見極めができるような指針を見つけられないかと思っています。
 
 
 

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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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