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2016年7月15日 (金)

歴博本「鈴虫」巻の気になる変体仮名の表記

 日比谷図書文化館で読み進んでいる歴博本「鈴虫」で、気になる変体仮名の例をあげます。

(1)「遊くれ」(7丁裏3行目)


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 現在私が確認を終えた「鈴虫」巻34本の写本の中では、この箇所は東大本が「夕に」としているだけで、それ以外のすべては「夕暮」か「ゆふくれ」「夕くれ」となっています。国宝の『源氏物語絵巻詞書』の「鈴虫」で、ここは「遊ふくれ」しています。二千円札にも印刷されているところなので、お手元にあれば確認してみてください。
 ここで歴博本が「遊くれ」としているのは、「遊」を漢字と認識して「ゆふ」と読んでのものではなく、あくまでも「ふ」の脱落とすべきものかと思います。
 他本での「遊」の用例を点検したいところです。しかし、これまでの『源氏物語』の翻字がすべて明治33年のひらがなを1つに統制した後の表記でなされている不完全な翻字しかないので、私のもとで進めている「変体仮名翻字版」のデータが集積するのを待つしか、確認の方途はありません。
 『源氏物語』の本文を考えていく上で、『源氏物語』の翻字ですら不正確なものしかないというインフラの整備がなされていない現実を、こんな時に痛感します。ここでは、問題点の1つとして提示しておきます。

(2)「あ弥陀」(8丁表2行目)


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 現在私が確認している「鈴虫」の34本の写本の中では、日大本が「阿みた」であり、それ以外のすべては「阿弥陀」か「あみた」となっています。
 ここで語頭を「あ」とするか「阿」とするかは、何か背景があってのものなのか、今はよくわかりません。この歴博本「鈴虫」が伝称筆者を「伝慈鎮筆」としているように、私もお坊さんかその周辺の文化圏で書写されたものだと思います。とすれば、仏教用語の扱いが漢字に統一されていない表記に、いささか戸惑います。日大本が「阿みた」としているので、この「あ」「阿」の使い分けが、何かあったのかもしれません。
 表記の問題として、しかも仏教語に関するものとして、その一例をここに提示しておきます。

(3)「野へ」(8丁表7行目)


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 現在私が確認している「鈴虫」の34本の写本の中では、陽明本・国文研正徹本・伏見天皇本・国冬本・東大本・国文研俊成本・LC本の7本が「野辺」であり、絵入源氏・湖月抄・尾州家本・高松宮本、為家本、河内大島本、鳳来寺本、明融本の8本が「野へ」で、それ以外の9本は「のへ」となっています。
 ただし、国文研俊成本だけは「野辺」の「辺」に「へ」と傍記があります。
 私が「へ」の字母を問題とするのは、この歴博本「鈴虫」の箇所の翻字を「野部」としたほうがいいのではないか、との思いがあるからです。
 一般的に、「へ」の字母は「部」の旁のオオザトの省略形だとされています。しかし、私はこの見解に違和感を覚えます。私は「辺」の「刀」が「へ」となったのではないか、と思うからです。
 これに関しても、「変体仮名翻字版」による翻字を1本でも多くやり遂げることで、用例を多数集積してから、あらためて考えたいと思います。
 なお、歴博本「鈴虫」に「野」は、もう一例「古野/$【此】」(ミセケチの例)があるだけです。

 
 
 

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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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