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2016年9月29日 (木)

読書雑記(181)船戸与一『灰塵の暦 満州国演義5』

 船戸与一の『灰塵の暦 満州国演義5』(新潮社、2009年1月)を読み終えました。
 本作も書き下ろしで、850枚という分量によって圧倒的な迫力で読ませてくれます。


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 前巻に続く昭和11年、12年の日中戦争、南京事件が物語の中心となります。
 これまで通り、敷島四兄弟のオムニバス形式で語られていきます。ただし、しだいに兄弟の距離が近づき、満州の地での接点が生まれてくるのでした。

 とにかく、想像を絶するスケールの大きな物語です。

 ハルビン郊外の防疫部のことは、かつて読んだ森村誠一の731部隊細菌兵器の話『悪魔の飽食』に記憶が結びつきます。ただし、この森村の本は内容に問題があるとの指摘がなされているものであり、それを作者船戸がどう扱っているかも今回読もうとしました。しかし、森村の虚偽捏造についての船戸の見解は読み解けませんでした。今後、このことがまた出てくれば、その時に再度深読みをしたいと思います。

 また、磯部浅一のことは、最近新聞で読んだ記事と合致します。
 近代史に疎い私は、断片的な知識を本作を読みながらつなぎ合わせて、歴史の躍動感を堪能しています。

 日本の政局と満州の変動が連動し、時局の話の間に食事のことなど細々とした日常生活が点描されます。それらがスムーズにつながっているので、昭和初期の日本と満州での雰囲気が生き生きと伝わって来ました。船戸氏の筆の力だと思います。

 岸信助の動向は、他の歴史的に著名な人々とは違い、この時代の歴史に疎い私にも現実感を持って読むことができました。同時代感を持てる人物かどうかが、読者として作中に入れるかどうかに関係しているのでしょうか。

 私は、学校の日本史で、近現代史を教わることのなかった世代です。そのためもあって、この物語は、歴史的な人物として名前だけ知っている人々が生き生きと活写されていることに惹かれます。
 近衛文麿・東条英機・石原莞爾・川島芳子・蒋介石・林彪などなど、枚挙に暇がありません。

 最終章で、戦場精神学とか戦争神経症への言及があります。興味深い話です。
 また、南京攻略から虐殺に関するくだりは、冷静かつ圧倒的な筆力で描かれ、語られています。作者の怒りに満ちた思いが籠もった一書です。【4】
 
 
 

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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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