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2016年9月 8日 (木)

国文研蔵「橋本本 若紫」のナゾリ〈その1〉

 国文学研究資料館が所蔵する橋本本「若紫」は、鎌倉時代の中期頃に書写された貴重な写本です。この写本の「変体仮名翻字版」を作成中なので、原本の確認をしているところです。
 これには、文字を削ったり、そのまま上からなぞっている箇所が無数に確認できます。
 なぞりの一例を紹介します。

 58丁表の6行目に、「多つねいて・堂万へらん」とあります。
 その「堂万へらん」という箇所は、国文学研究資料館が撮影した写真によると次のようになっています。


160908_tamaheran1


 この「へ」は「ふ」のようにも見えるので、「堂万らん」かとも思われます。
 しかし、私が調査を終えた諸本16本の中に、「ふ」とする写本は一本もありません。
 実際にこの部分を接写して確認すると、次のようになっています。


160908_he


 この拡大写真は許可を得て、本日私が撮影したものです。
 よく見ると、横に引かれた線の「へ」は、その下に見える縦線二本の墨の濃淡とは明らかに差があります。料紙に墨が乗っている状態から見ても、後に書かれたものであり、なぞることによって書写した本文を訂正するものであることがわかります。

 ここは「堂万八ん」と書いた後、「八ん」を刃物等で削って、その上から「へら」とナゾリ、続けて「ん」を書いているのです。

 なお、ここで接写に用いた道具は、藤本孝一先生のご指導の下、大島本(重要文化財)の精細な調査をした時に大活躍した機材です。


160908_nikon


 影印本や写真ではよく見えない箇所でも、実際に原本を見て、さらにこうした道具を活用すると、書かれた文字の実態が明確になり、より正確な翻字ができます。

 今回の調査を通して、さまざまなことがわかりました。
 時間と手間のかかる工程を踏んで書写されている実態を確認するものでもあり、いつでもできることではありません。
 これを機会に、以下、何回かにわけて書かれた文字の状態を紹介します。
 翻字のスキルアップに役立てていただけると幸いです。
 
 
 

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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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