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2016年11月26日 (土)

岡山の就実大学で「世界中の33言語で読める源氏物語」という話をしました

 岡山の就実大学<表現文化学会>の2016年度公開学術講演会に呼ばれて、海外の『源氏物語』の翻訳状況についてお話してきました。

 大学はきれいで、特にパリのルーブル美術館にあるガラスのピラミッドを模したオブジェが、一際注意を惹きました。下には食堂があるそうです。
 (以下の3枚は帰りに撮ったものです。)


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 さて、今回のテーマの話だけでは印象に残らないと思い、私の翻訳本コレクションから私の手元にしかないと思われる本を中心に31冊を選書して、会場に持参しました。
 終わってから、学生さんを始めとする参会者のみなさまに、実際に翻訳本の現物を触っていただきました。中身がわからなくても、表紙の絵柄や、本の手触りを実感していただくことができたと思います。

 私の話はともかく、一生触ることのない本を通して、異国の地でそれが読まれていることを想像するだけでも、心が世界に拡がるはずです。そして、日本で育った文化の結晶としての『源氏物語』が持つ意義に思いをいたしてもらえたら、それだけで私の役目を果たしたことになります。それが、国際交流の原点となるはずです。

 誇れるものを持つ文化に対する理解を、これを機会に深めてもらえるという感触を、本日の会場みなさまの表情から感じとることができました。
 お集まりのみなさま方が、興味と好奇の心をもって、私の拙い、とりとめもない話を聴いてくださったことに感謝しています。

 今回配布したプリントの冒頭に、次の文章を掲げました。


 『源氏物語』は、33種類の言語で翻訳されています(2016年11月26日現在)。
 本日は、その翻訳本の表紙と中身および収集の来歴を紹介し、そこから見えてくる今後の新しい研究テーマをお話ししたいと思います。
 私がこれまでに確認し、収集した『源氏物語』の翻訳本は、次の通りです。

【『源氏物語』が翻訳されている33種類の言語】
アッサム語・アラビア語・イタリア語・ウルドゥー語・英語・エスペラント・オランダ語・オディア語・クロアチア語・スウェーデン語・スペイン語・スロベニア語・セルビア語・タミール語・チェコ語・中国語(簡体字)・中国語(繁体字)・テルグ語・ドイツ語・トルコ語・現代日本語・ハンガリー語・韓国語・パンジャービー語・ヒンディー語・フィンランド語・フランス語・ベトナム語・ポルトガル語・マラヤーラム語・モンゴル語・リトアニア語・ロシア語

■インドで翻訳を進めている10言語■
【アッサム語・ウルドゥー語・オディア語・タミール語・テルグ 語・パンジャービー語・
 ベンガル語・ヒンディー語・マラーティー語・マラヤーラム語】(カンナダ語)
  (インドの言語は約870種類以上、連邦憲法では22の指定言語、紙幣には17言語)

 本日はこの中から、翻訳本『源氏物語』の表紙デザインの多彩さを楽しんでいただける31冊を選書して持参しました。

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02_books2


 また、最新の翻訳情報をA4版で26ページ分にまとめ、長く手元に置いていただける資料集を配布しました。
 (1)「インド8言語訳『源氏物語』の書誌」
 (2)「就実大学での展示一覧」
 (3)「源氏物語翻訳史年表」
 いつか、何かの折にでも、そういえば『源氏物語』の翻訳が、と思われた時に参考になる、情報満載のプリントにしたつもりです。
 この資料集のデータは、「海外源氏情報」(http://genjiito.org)で公開しているものを中心に編集しました。いつか、何かのお役に立てば幸いです。

 この配布物のうち、(2)「就実大学での展示一覧」は、今回のために選書した翻訳本のリストなので、記録としてその一部の情報を以下に引いておきます。


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アッサム語
Atul chandra Hszarika
(アトゥール・チャンドラ・ハジャリカ)
Genjikonvarar Sadhu
Sahitya Akademi
2005
青地にサヒタヤ・アカデミーのマークがついている。
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アラビア語
Ahmed Mosta FATHY
(アハマド・モスタファ•ファテヒ)
Syrẗ ạlạmyr gẖynjy
(源氏王子の物語)
メリット出版社
2004
アラビア語と日本語の文字
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イタリア語
Adriana Motti
(アドリアナ・モッティ)
STORIA DI GENJI
Giulio Einaudi editore
2006
三代歌川豊国の「風流げんじ須磨」
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イタリア語
Maria Tresa Orsi
(マリア・テレサ・オルシ)
LA STORIA DI GENJI
Giulio Einaudi editore
2012
表紙と箱は国宝『源氏物語絵巻』「鈴虫」・「関屋」巻を、山口伊太郎氏が西陣織にしたもの。作品名は『源氏物語錦織絵巻』作者は山口伊太郎氏。同氏の遺作。
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英語
Arthur Waley
THE TALE OF GENJI
George. Allen & Unwin
1935
表紙は赤い地に、金字で『源氏物語』と書いてある。背表紙も金字。
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英語
Dennis Washburn
The Tale of Genji
W W Norton & Co Inc
2015
五島美術館所蔵 国宝 『源氏物語絵巻』 39帖「夕霧」(刺繍)で、夕霧の手紙をとろうとする雲居雁
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英語
Edward G. Seindensticker
THE TALE OF GENJI
Charles E.Tuttle Company
1979
(3版)
表紙と外箱は、円山応挙『藤花図』(重文・根津美術館蔵、1776年)
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英語
Royall Tyler
THE TALE OF GENJI
Penguin Books
2001
外箱の表は舞楽図『五常楽』裏は右を向いた女性、本の表紙は赤い地に絵巻を参考にした人の顔の輪郭を黒い線で描いている。1巻は男性で、2巻は横向きの女性である。
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英語
末松謙澄
GENJI MONOGATARI
丸屋
(現:丸善)
1894
赤地に金色で源氏香の図が描かれている。薄い紙のカバーがかかっている。
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オランダ語
Jos Vos
(ヨス・フォス)
Het verhaal van Genji
Athenaeum
2013
バーク・コレクションのひとつ、1巻は土佐光起筆『源氏物語画帖』「花宴」
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クロアチア語
Nikica Petrak
(ニキツァ・ペトラク)
Pripovijest o Genjiju
Naklada Ljevak
2004
『源氏物語絵巻』「鈴虫」巻(二)。夕霧が笛を吹いている場面。
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スペイン語(ペルー版)
HIROKO IZUMI SIMONO
(下野泉)•IVAN AUGUSTO PINTO ROMAN
(イヴァン・アウグスト・ピント・ロマン)
EL RELATO DE GENJI
ペルー日系人協会(APJ)
2013
國學院大學蔵「久我家嫁入本『源氏物語』初音」巻
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スロヴェニア語
Silvester SKERL
(シルベスター・スカル)
PRINC IN DVORNE GOSPE
Državna založba
1968
浮世絵(女性の絵)
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タイ語
あさきゆめみし
1980
『あさきゆめみし』
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タミル語
K.Appadurai
(アッパドライ)
Genji Katai
Sahitya Akademi
2002(新版)
金閣寺の前で近世風の男女が並んでいる絵
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中国語
康景成
(kāng jǐng chéng)
源氏物語
陕西师范大学出版社
2012
徳川美術館蔵『源氏物語絵巻』「柏木三」(復元図)で、光源氏が生まれたばかりの薫を抱いている場面。
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中国語
林文月
( LIN Wen Yueh)
源氏物語
訳林出版社
2011
全3冊共に薄い紫色
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ドイツ語
Herbert E. Herlitschka
(ヘルベルト・E・ヘルリチュカ)
DIE GECHICHTE VOM PRINZEN GENJI
Insel Veriag
1995
江戸時代の役者絵
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ハンガリー語
Horvàth Làszlo
(ホルバート・ラースロー)
Gebdzsi szerelmei
Európa Könyvkiadó
2009
1巻の表紙はインディアナ大学美術館蔵『源氏物語図屏風』「若紫」、2巻はフリーア美術館蔵の土佐光吉筆『若菜・帚木図屏風』のうち「若菜上」、3巻は京都国立博物館蔵の伝・土佐光元筆『源氏物語図』「蜻蛉」。
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ハングル
전욤신
(田溶新•チョン•ヨン•ハク)
겐지이야기
(源氏物語)
ZMANZ社
2008
表紙は植村佳菜子画・伊藤鉄也所蔵の源氏絵を無断で改変。
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パンジャービー語
Jagjit Singh Ahand
(ジャジット・シン・アナンド)
Genji dī Kahānī
Sahitya Akademi
2001
一楽亭栄水作『美人五節句・扇屋内さかき わかは』を加工したもの。
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ヒンディ-語
Chavinath Pandey
(C.パンディ)
Genji dī Kahānī
Sahitya Akademi
2000
『枕草子絵詞』第一段で中宮定子と対面する、妹の藤原原子(淑景舎)の姿をモデルに加工したもの。
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フランス語
YAMATA KIKOU
(山田菊)
LE ROMAN DE GENJI
PLON
1952
文字のみ
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ポルトガル語
(1巻)Lígia Malheiro(リヒア・マリェイロ)
(2巻)Elisabete Calha REIA(エリザベート・カーリ・レイア)"
O Romance de Genji
Exodus
2007
立松脩氏デザインの首飾りをしている黒髪の女性の絵
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ポルトガル語
Carlos Correia Monteiro de Oliveira
(カルロス・コレイア・モンテイロ・デ・オリベイラ)
O ROMANCE DO GENJI
Relogio D'agua
2008
1巻の表紙は、月岡芳年『月百姿』のうち『忍岡月 玉淵斎』(1889年)、2巻はハーバード大学美術館蔵の土佐光信筆『源氏物語画帖』「椎本」巻を題材に、どちらもカルロス・セザールがデザインしたものである。
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マラヤラム語
P.K.Eapan
(イッパン)
Genjiyude Katha
Sahitya Akademi
2008
国際聚像館(広島県福山市の坂本デニム株式会社が創設した美術館)が所蔵する、『源氏物語挿絵貼屏風』(六曲一双)「初音」巻と類似した絵
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モンゴル語
ジャルガルサイハン•オチルフー
ГЭНЖИЙН ТУУЛЬС 
ADMON
2009
石山寺蔵 狩野孝信筆『紫式部図』(部分)
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 さて、お話した内容は、多岐にわたるものだったので、それは省略します。
 これまでに海外で出会った『源氏物語』とのエピソードを中心にしました。

 いろいろな体験談を含めてお話した中で、一番興味をもっていただけたのは、イタリアの本屋で「ゲンジモノガタリプリーズ」と言ってイタリア語訳『源氏物語』を手に入れたことだったように思います。
 これは、私のブログの、「ヴェネツィアから(7)イタリア本」(2008/9/14)に書いたことなので、ご笑覧いただければと思います。

 ないはずのウルドゥ語訳『源氏物語』があったこと、しかもそれが偶然に見つかった話にも興味を示されたようです。これも、次の記事を書いています。
 「ウルドゥー語訳『源氏物語』をインドで発見」(2009/3/5)
 「「ウルドゥー語訳『源氏物語』の完本発見」((2016/2/19)
 先年刊行されたオランダ語訳『源氏物語』の、ネット上での本の分類が「horror」(ホラー・恐怖)となっていることは、後で学生さんからの質問にも出たので、意外だったようです。

 『源氏物語』の翻訳本を「訳し戻し」することによって、日本文化が海外にどのように伝わっているのかをみんなで考えよう、というテーマは、これからの若い方々を意識して話題を提供しました。
 「各国語翻訳を日本語に一元化したものを通して、日本文化が変容して伝えられていく諸相と実態を確認し、研究者等との共同研究で考察していきませんか。」という趣旨の、コラボレーションを基にした提案です。

 さて、こうした物の見方が、若い方々にどのように伝わったのか、気になるところです。

 その後の別室での自由討論も、先生方のお人柄も感じられて、温かい雰囲気の中で話が盛り上がりました。
 さらにそれは、外に出ての懇親会でも引き続き楽しい話題が飛び交うこととなりました。
 久しぶりに、こんなに和やかで楽しい会に参加させていただきました。若い先生方のお考えもたくさん伺えたので、すばらしい情報交換となりました。そして、私と同世代の方々とは、若き日々の懐かしいテレビ等の話題で、若返った気持ちになりました。

 今回の仕掛け人は、大学時代に同級生だった岡部由文君です。
 その縁で、就実大学の先生方と気持ちを通わせる機会をいただけました。
 みなさまに、あらためて感謝しています。

 散会した頃には、小雨が降り出していました。

 岡山駅前のホテルに入ったところ、サイドテーブルに『古事記』の現代語訳(竹田恒泰訳、竹田研究財団古事記普及委員会、平成24年1月)が、お決まりの聖書と並んで置いてありました。


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 その巻頭に、次の言葉が印刷されています。


「古事記を全国のホテルに置こう!」プロジェクトについて

本書は『古事記』完成千三百年にあたり、古事記普及委員会が立案した古事記普及事業に基づいて行われた「古事記を全国のホテルに置こう!」プロジェクトにより、ホテル等に無償にて配布されたものです。このプロジェクトは日本の将来を憂う全国の有志の募金によってまかなわれています。プロジェクトへの支援をご希望なさる方は、巻末に記載した「発行所」の古事記普及委員会へご連絡ください。(6頁)

 こうした本を始めて見たので、非常に興味を持ちました。
 これがありなら、日本人のみならず、海外からお越しの方々にも日本の文化理解に資するものとして、『源氏物語』の現代語訳もありでしょう。
 きっと、日本を知っていただくのに、お役に立つはずです。
 NPO法人〈源氏物語電子資料館〉の議題にしてみましょう。

 そんなことを思いながら、岡山の一夜を満喫しています。
 
 
 

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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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