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2017年1月 5日 (木)

読書雑記(188)宮部みゆき『初ものがたり』

 今年の読み初めは『初ものがたり』(宮部みゆき、平成11年9月、新潮文庫)にしました。


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 季節感と世相を反映した、江戸深川を舞台とする短い物語6作品を収録した短編集です。
 帯に書かれた次のことばも気を惹きました。


鰹、白魚、柿、桜。「初もの」がらみの難事件、さらりと解けるか茂七親分—八百八町のミヤベ・ワールド!

 東京の深川にある宿舎住まいもあと3ヶ月となり、近辺を舞台とする江戸情緒が語られている作品をもっと読もうと思っての選書です。また、お正月らしさと料理話も期待して。

 しかし、ことごとく叶わない、消化不良の作品でした。私とは相性がよくない作家なのかもしれません。
 これまでにも、宮部作品はいくつか読みました。しかし、わざわざこのブログで取り上げるほどのものとは出会えませんでした。これも同じでした。
 すでに高田郁の「〈みおつくし料理帖〉シリーズ」(2014年08月24日)を読んでいるので、この種のテーマでの作家の力量の違いがあらためてわかりました。この作品が書かれた時間軸と創作の背景を加味して読む作品となっているもの、と言えるでしょう。

 とはいうものの、私が今年最初に読んだ本でもあり、その確認の意味でも、ここに取り上げることにします。宮部みゆきファンの方々には申し訳ないことです。こんな感想を持った者もいる、ということで。

 巻末に、「新潮文庫版のためのあとがき」があります。どうにも収まりのつかない本書への、作者からの言い訳が記されています。この物語の今後の展開に興味を持ったこともあり、その末尾の文章を引用します。


 刊行当時、周囲の先輩作家や友人、編集者の皆さんからも、稲荷寿司屋台の親父の正体は何なのか、日道坊やはどうなるのか、あの連作は続けないのかと、好意的なお訊ねをいくつか受けました。わたくし自身にとっても、茂七親分の活躍する捕物帖は、長いスパンで大切に、愉しみながら書いてゆきたい作品でございます。ですから、そのたびに、「いつか必ず再開します」とお答えしておりました。その気持ちは、現在もまったく変わっておりません。かくも長き中断というのも、読者の皆様には興ざめに感じられることと存じますが、いずれ必ずというお約束をお詫びの言葉にかえさせていただき、ここにお許しを願いあげる次第でございます。
  平成十一年九月吉日
             宮部みゆき

 そういえば、「読書雑記(58)山本兼一『利休にたずねよ』」(2013年01月07日)で、次のように宮部さんとは違う感想を記したことを思い出しました。


 文庫本の解説を担当された宮部みゆき氏は、「利休さん、あなたがもっとも深く愛した女性は、やっぱり宗恩ですね」と言われます。しかし、私はそうではなくて、高麗の女の方だったと思います。利休は、最後まで夢と憧れを心に抱いて死んで行ったと思うからです。

 人それぞれに、思うことはさまざまだ、ということなのでしょう。
 好きなように読み、勝手な印象や感想を持つのが、物語や小説を楽しむことなのですから。
 
 
■「お勢殺し」(1月)
 江戸深川の富岡のお正月で幕が開きます。岡っ引きの茂七が登場し、独特の推理を展開します。
 夜中じゅう稲荷寿司を屋台に並べている親父が作る、味噌汁と蕪汁が殺人事件を解決する手がかりを得るという話です。
 この親父が何者かが、次の話へと引き継がれます。【3】
 
 
■「白魚の目」(2月)
 深川の道端でその日暮らしをする子供たちをどうするかが問題となっていました。その矢先、お稲荷さんへのお供えを盗み食いしていた子供五人が亡くなります。さて、犯人は?
 次の白魚の描写が印象的です。ただし、引用した末尾の「よくそう言いますね。」は余計なことばだと思います。【2】


 茂七の問いに、糸吉は照れて首を振った。
「そんなんじゃありませんよ。あっしはただ、あのちっこい真っ黒な目を見ちまうと食えなくなるってだけです。やつら、点々みたいな目をしてるでしょう。あの目で二杯酢のなかからこっちを見あげられると、箸をつけられなくなっちまう」
 茂七は笑った。「存外、肝っ玉が小さいんだな。あんなのは、生きてる魚を食ってるんじゃねえよ。春を呑んでるんだ」
「よくそう言いますね。けど、あっしは駄目だ。どうしても駄目だなあ」(60頁)

 
 
■「鰹千両」(5月)
 呉服屋の番頭が突然やってきて、鰹を千両で売ってくれと言います。
 その理由から、さまざまな家庭の事情や背景が炙り出されます。
 話の綴じ目は、もっと工夫があればと思いました。【2】
 
 
■「太郎柿次郎柿」(秋)
 物語をシリーズとして展開する中で、つなぐ役を負った小話です。稲荷寿司屋の親父の素性を語るための、前置きのような話です。兄弟がキーワードになっています。【1】
 
 
■「凍る月」(12月)
 台所に置いてあった新巻鮭がなくなります。自分が盗んだという奉公人の女中がいなくなり、その捜索が始まるという展開です。話に内容がなく、人の心の読み解きも薄っぺらです。最後の冴えた月も心ここにあらず、という描写に留まっています。【1】
 
 
■「遺恨の桜」(3月?)
 日道という十歳ばかりの拝み屋の話です。この日道が襲われたことで、話が展開します。
 本話も、キレの悪い終わり方です。【1】
 
 
※初出誌︰1994年『小説歴史街道』、後に休刊、廃刊
  平成7年7月、PHP研究所より刊行
  平成9年3月にPHP文庫に収録
 
 
 

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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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