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2017年1月 9日 (月)

読書雑記(189)白川紺子『下鴨アンティーク 祖母の恋文』

 白川紺子『下鴨アンティーク 祖母の恋文』(2015年12月、集英社オレンジ文庫)を読みました。


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 帯に「京都を舞台におくる アンティーク・ミステリー」とあるので、つい手に取ってしまいました。
 この作者の作品を読むのは初めてです。作意をまったく感じさせない文章でした。テンポよく、女子高生が着物をめぐる不可解なことを、素人らしく解き明かしていきます。慧という男の存在が、さまざまな味付けをしています。

■「金魚が空を飛ぶ頃に」
 『風にのってきたメアリー・ポピンズ』のメアリーのことば「だれにだって、じぶんだけのおとぎの国があるんですよ!」が、主人公である鹿乃の心の中にあります。
 親友の祖父である満寿が、かつて少し暮らした女性が残して去っていった「羽衣」という不思議な金魚を描いた着物が話題となります。
 最後近くにこんな表現があります。
「皿に残ったすみれの砂糖漬けをつまんで、口にほうりこむ。しゃり、と砂糖が歯にあたり、花の香りが鼻に抜けた。」(87頁)
 メルヘンのように展開する、楽しい物語の始まりです。【5】
 
■「祖母の恋文」
 鹿乃の祖母である芙二子が懇意にしていた骨董店北窓堂の店主が、祖母の恋文を持ち込んで来ました。
 話は、杜若柄の男物の着物にまつわる話へと展開します。
 さらには、うなり声が聞こえるという帯。北野の天神市の骨董屋から買ったというのですから、京都の実態が踏まえられています。
 登場人物が多彩で個性的です。そして、女性の京ことばが自然できれいです。
 祇園の芸妓豊葉を浮気相手として問い詰める場面で、次の描写に印を付けました。
「うふふ、と豊葉はえくぼを浮かべて笑った。どこか得意そうな笑みに芙二子は顔がひきつりそうになった。そうですか、と笑みを返して、芙二子は置屋をあとにした。」(108頁)
 ここでの「ほほえみ返し」は、微妙な腹の内を見せていると思います。
 着物を着て、色や柄で遊びたくなります。しかし、男物では興醒めです。文化的にも、風俗的にも、これは女性の楽しみのようです。京の街中では、レンタル着物が花盛りです。しかし、やはりと言うべきか、男着物はほんの少数です。ここに私は、見せ物と化した日本文化の一面を垣間見ています。
 さて、本作で帯の柄から万葉仮名の謎解きに転ずるところは、やや強引かもしれません。もっとひねったらと、さらなる遊びの世界を楽しみにしてしまいました。【4】
 
■「山滴る」
 春秋柄の羽織の話です。そこに万葉仮名でかかれていた大和三山歌が話題となります。さらに話は絵に、花に。もう少し、羽織に集中してもよかったのでは。黒谷の金戒光明寺から白川通りが、いい雰囲気を醸し出しています。和洋折衷の味がする仕上がりです。【3】
 
■「真夜中のカンパニュラ」
 寺町二条から蹴上へと、物語の導線が変わります。作者の、多彩な語り口だと思います。
 白い絽に風鈴草の柄の着物を着た薄幸の女性が残像となります。この女性と、血で書かれた和泉式部の和歌の接点を、もっと興味深く描いていったら、と思いました。
 この物語にも、手紙が出てきます。好きな人に文字を通して自分の気持ちを伝える手紙という文化を、今の若い読者と共有できるのかと、新たに興味を持ちました。あらためて、手紙が見直される時代になるかもしれません。
 本作は、薄気味悪さもブレンドされていて、おもしろい仕上がりです。【4】
 
※ 読後感を一口で言うと、お茶に例えれば、抹茶よりも煎茶を飲んだ後の感じでしょうか。
 本書に収録されている物語は、色と形で美しさを連想させる言葉でつづられる4つの作品集です。
 登場する大学の先生が学問的な匂いをほとんどさせないので、それが物語の味を守っています。
 これ以外のシリーズ作も、読んでみたくなりました。
 
 
 

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NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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