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2017年2月25日 (土)

「点字付百人一首」の全国大会ができないか

 前回の「高田馬場で「百星の会」の新年会と点字百人一首のカルタ会」(2017年01月14日)に続き、今月の集まりにも参加してきました。

 高田馬場の社会福祉協議会は、今日は外壁の工事中でした。


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 今日は、広島大学3年生のAさんと一緒に行きました。Aさんは午前中に国文学研究資料館で調べ物をしてから、高田馬場へ来てくれたのです。自己紹介で日本文学の勉強をしていると言った時には、参加者から励ましのことばが飛び交いました。

 今回は、これまでとは少し違って、カルタ取りに集中する会でした。これもまた楽しい体験を共にできました。視覚障害者交流コーナーでは、熱気に包まれた3時間があっという間に過ぎていきました。

 今回は、初めてのカルタ台で対戦した方が多かったので、ルールについてさまざまな意見や感想が寄せられました。この「点字付百人一首~百星の会」の活動は、まだまだ揺籃期です。そして、大きく発展する可能性を包み込んでいます。

 「点字付百人一首」といっても、さまざまなカルタが開発されています。上の句だけで取れるカルタもあります。初心者が参加しやすいことへの配慮が行き届いています。


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 いつもは読み手としてカルタ取りの指導にあたっておられる方は、自分で初めて真剣にカルタ取りをやった後で、日頃子どもたちにこんなむちゃなことをやらせていたのか、ということを実感した、とおっしゃっていました。どっと疲れたとのことで、こんなにハードなことをやらせていたんだ、としみじみと語っておられたのが印象的でした。

 新しい遊び方の提案がなされ、いろいろなことが試されました。
 「五色百人一首」の緑と橙の札を使ってグループで取り合うやり方は、私にはまだよく理解できていません。

 緑の札の20枚を10枚ずつに分け、お互いが並べたセットを相手側に置くというのは、少し手を加えただけでおもしろさが増したようです。自分が並べたものを相手側に置き、相手が並べたものを手前に置いて5分間で覚えてスタートする、というものも楽しそうです。

 ルールを少し変えるだけでまったく違うゲームになるので、さらに検討を進めると、多くの方が参加できるようになることでしょう。日々創意工夫がなされている百星の会の「点字付百人一首」です。これからがますます楽しみです。

 今日は、さまざまな札の取り方やテクニックを見ることができました。
 以下、バリエーションに富んだ手の動きがわかる写真を並べます。


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 広島から来たAさんが、この「点字付百人一首」の楽しさをすぐに理解したようです。そこで、「点字付百人一首」ではクイーンとでも言うべき理生さんと対戦してみないかと勧めたところ、快く引き受けてくれました。古典文学好きな心を刺激するものがあったのでしょう。
 このようなことになるとは思わず、何も準備をしていない上に、上の句に関する情報が何もないので、目が見えるという一点以外は不利な条件の中で、対戦に臨みました。

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 前半から中盤にかけては、見えない理生さんが有利に試合を進めていました。しかし、後半になると、見えるAさんが挽回してきました。札が少なくなってくると、限られた札の位置を目で追えるので有利になるようです。


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 結果は10対8という、わずかの差でした。
 どちらが勝ったのかは、ご想像にお任せします。
 すばらしい試合を見せてもらいました。

 福島県立盲学校の渡邊さんと話しているうちに、全国大会をしたらいいと思うようになりました。それも、個人戦だけではなくて、晴眼者との対戦や、全盲・弱視・晴眼者の組み合わせによるダブルスなども考えました。組み方によってはいろいろな対戦が可能です。しかも、全国から参加者を募るのです。初心者や上級者などのクラス別けも楽しいことでしょう。

 私の流儀である「とにかくやってみる」、ということでこの提案をしたいと思います。

 東京の関場さん、大阪の畑中さんたちによって、いろいろな趣向で楽しい「点字付百人一首~百星の会」の運営がなされています。その中に、「点字付百人一首」の全国大会をスタートすることを検討していただけないか、と思うようになりました。いろいろと検討すべきルールや実施要領などを詰める必要があるかと思います。その検討も、楽しく取り組めば、さらに活動への理解は拡がることでしょう。
 今日の思いつきながら、ご検討のほどをよろしくお願いします。

 そんな全国大会のことを、最後の挨拶の中で言いました。今回の進行役であった理生さんからは、いつも夢のある話をありがとうございます、と言ってもらえたので、これは実現に向けて動いていくように思いました。
 この件でのご意見を、本ブログのコメント欄などを通してお寄せいただけると幸いです。

 なお、次回の「点字付百人一首~百星の会」は、来月3月18日(土)午後1時より、今日と同じ高田馬場の社会福祉協議会の中にある視覚障害者交流コーナーで開催されます。
 
 
 

2017年2月 7日 (火)

科研の触読サイトから『立体〈ひらがな〉字典(第2版)』を公開

 科研費「挑戦的萌芽研究」による研究成果を公開している「古写本『源氏物語』の触読研究」のホームページで、「触読通信」のコーナーから、「『立体〈ひらがな〉字典』の第2版」をアップしました。

 これは、2016年2月7日の初版から、大幅にバージョンアップしたものです。
 前回同様に、科研運用補助員の関口祐未さんの労作です。
 内容は、「凡例」「索引」「ひらがな文字の説明文・五十音順」で構成しています。
 その「凡例」の冒頭を引用します。


 ひらがな文字の形を、触常者が触って学習することができるように、画用紙を用いて、ひらがなの形に切りとった凸文字を作成しました。「厚紙凸字」と呼ぶことにします。

 「厚紙凸字」を触りながら、ひらがなの形が、より明確にイメージできるように、文字の形を説明した『立体〈ひらがな〉字典』を作成しました。2016年2月7日に、初版を公開しました。その後、凡例と説明文を見直し、表現を改め、第2版として2017年2月4日に更新しました。
 
2.厚紙凸字とは
 
 厚紙凸字は、ひらがな五十音を、一文字ずつその文字の形に画用紙から切りとり、文字の線が凸型に突き出た形に作った道具です。
 厚紙凸字の字体は、丸ゴシック体です。一文字の大きさは約5センチ、線の幅(太さ)は3ミリから4ミリです。
 ひらがなの凸文字は、正方形の台紙に貼りつけ固定しました。台紙は、一辺が6センチの正方形です。文字の正しい向きが触ってわかるように、台紙の右上角を1センチ切り落としています。
 ひらがなの凸文字には、筆順に従って線に段差をつけました。1画目の線を一番高くし、一画進むごとに、線の高さが一枚(一段)ずつ低くなる仕組みです。段差をつけることによって、筆順を示すとともに、書き始めとなる1画目の線や、線同士の区別がしやすいようにしました。

 実際の厚紙凸字は、つぎのような形をしています。


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 この字典の「あ」の項目では、次のような説明文があります。


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 これは、目が見えない人に言葉で説明することを想定した文章です。

 説明文を作成するにあたったは、伊藤の科研の研究協力者である福島県立盲学校の渡邊寛子先生に、説明文を一つ一つ確認していただき、ご教示いただきました。ありがとうございました。

 関口さんの話では、懸案だったひらがな「つ」「ち」「わ」などの大きな曲線部分が、渡邊先生のご指導のおかげでうまく表現できたので、それが一番うれしかった、ということです。

 これはまだまだ試作段階です。今後とも、弛まぬ調査・研究を続けることで、よりよいものに仕上げていきたいと思います。

 この字典を通してお気付きの点がございましたら、いつでもお知らせいただけると幸いです。
 
 
 

2017年2月 4日 (土)

奈良で始まった「さわって楽しむ体感展示」

 今日から12日(日)までの9日間、「第32回国民文化祭・なら2017」と「第17回全国障害者芸術・文化祭なら大会」の一体開催という試みのプレイベントである、「奈良県障害者芸術祭 HAPPY SPOT NARA」が始まったので行ってきました。

 近鉄奈良駅前の行基菩薩像が建つ「行基広場」には、横断幕があります。
 ちょうど、2人の托鉢僧がいらっしゃいました。


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 会場となっている奈良県文化会館は奈良県庁の裏手にあり、右手に若草山がかすかに望めます。


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 奈良で子育てをした20年間に、この周辺はしばしば子供たちを遊ばせるために訪れました。秘密の駐車場に車を停めて、子供を奈良公園や東大寺や春日大社などの境内に放し飼いにしました。奈良公園・平城京跡地・唐招提寺と薬師寺・法隆寺・三室山と竜田川・馬見丘陵公園・石上神宮から山野辺の道・信貴山は、子供たちの遊び場にしていました。30年前のことです。

 奈良県文化会館は、母を連れて都はるみのコンサートに一度だけ来たことがあります。

 さて、今回のイベントでは、2階E展示室で行なわれている「さわって楽しむ体感展示」を見るために来ました。これは、“見る”鑑賞ではなく、“さわる”鑑賞を中心とした展覧会です。国立民族学博物館の広瀬浩二郎先生が関わっているとのことだったので来ました。

 この展覧会の紹介は、「奈良で開催される「さわって楽しむ体感展示」のお知らせ」(2017年01月24日)に、広瀬先生の文章を引いて詳しく書きましたので、ご参照ください。

 2階の会場へ行くまでに、道案内がないので戸惑います。館内の方に聞きながら行った方がいいと思います。奥まったところが会場なので、けっこう辿り着くまでに不安になります。

 キャッチフレーズに「カタチをさわって、奈良をさわって、新たな発見をしてみませんか」とあるように、触るということがコンセプトとしてあります。

 カーテンを押し開いて中に入ると、右のモニタに広瀬先生のビデオ解説が流れていました。展示物を触る上でのマナーなどが語られています。まずは、手を消毒してから触りましょう、などなど。


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 今回の展示概要として、次のことが謳われています。


・触ることで再発見を楽しめる「触る絵画」や立体作品
・歴史を肌で感じられる、奈良にまつわる品など

 私は、「さわった本物をあててみよう!」がおもしろいと思いました。3問とも当たりました。手触りの微妙さを、今回初めて体感しました。


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 展示されていた彫刻や絵画には、あまり新鮮さを感じませんでした。ただし、興福寺銅像仏頭(旧東金堂本尊、模造)は、日頃触ることのない仏様なので、心ときめくものがありました。
 その点から言えば、「奈良」というテーマがうまく活かされていません。歴史と地理をどのようにして感じてもらうかは、さらなる検討が必要だと思います。

 また、今回の展示は、緊張感に欠けるようにも思えました。もっと意外性を体感できる仕掛けがほしいところです。ごめんなさい。私は学芸員の一人として、展示のプロの役割という視点で見た感想でもあります。

 関係者の方お2人にお話を伺ったところ、今回のイベントを担当した県庁の担当部署には、障害者のことを専門とする方はいらっしゃらないとのことでした。触読について伺いたかったことがたくさんあったので残念でした。
 広瀬先生や奈良県立盲学校の美術の先生のアドバイスやアイデアや機材に助けられて開催に漕ぎつけられたようです。専門家に任せた生温い安心感が、この部屋には満ちています。それが、今回の展覧会における、思い遣りと思い入れと情熱と感じてほしいという熱意が欠けていた原因のように思われます。

 展示室の各所に、詰め切れないままに漠然と置かれた物や、導線から伝わるストーリーの不整合性を感じたのは、親身になっての取り組みにならなかったことがあるのではないでしょうか。
 中盤から私は、展示物を触る楽しみを感じなくなっていました。仏頭以外は。
 2周しました。しかし、もう1周してみようとは思いませんでした。もう1回、と思わせる味付けがあれば、楽しさが倍増することでしょう。

 出口でアンケートを書きました。そのテーブルに、展示物の配置を立体コピーにした会場案内図があります。A4版のカプセルベーパーに立体コピーしたものです。
 お尋ねしたところ、私が使っているビアフの機器と同じものを奈良県立盲学校から借りて来て、県庁内で作成したとのことです。そうであれば、この立体コピーは、展示を見て触って楽しんでもらうために、もっと有効利用ができるはずです。これでは、あまりにももったいない、立体コピーによる略図の資料に留まっています。
 「触読の研究をしている私たちの成果」を、いつかこうした展覧会とタイアップして盛り上げたいと思うようにりなりました。

 視覚障害者に関する慣れないイベントのため、担当なさったみなさまがご苦労なさったことは理解できます。そのことを忖度しながらも、非礼を承知で思いつくままに記しました。勝手な偉そうな無責任な放言は、ご寛恕のほどをお願いいたします。

 これは秋のためのプレイベントだとのことです。秋の本番では、展示内容の吟味と説明の工夫、そして来場者がもっと楽しめるものにしてくださることでしょう。
 さらなる発展と展開を楽しみにしています。
 
 
 

2017年1月30日 (月)

読書雑記(191)『触楽入門 はじめて世界に触れるときのように』

 『触楽入門 はじめて世界に触れるときのように』(テクタイル[仲谷正史、筧康明、三原聡一郎、南澤孝太]、朝日出版社、2016年1月)を読みました。


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 私は、日常的に物に触って生活をしています。本書を読み進めるうちに、その毎日の行為にあらためて気付かされることが多く、感覚というものを見直すことになりました。


 赤ちゃんの五感の中で発達が早いのは、なんといっても触覚です。触覚については、妊娠10週の頃から自分の身体や子宮壁に触れるという行動が見られ、学習が始まっていると考えられています。生まれたばかりの赤ちゃんは好奇心いっぱいで、なんにでも触れたがります。赤ちゃんにとっては触ること、舐めることの方が、見る/聞くことより、確かな情報を得られるからです。小さい頃は、だれもが触覚的な存在だったのです。
 記録されているかぎり最初に触覚に言及したのは哲学者のアリストテレスですが、彼は五感の中でも触覚に特別な地位を与え、触覚は「感覚のうちの第一のものとしてすべての動物にそなわる」と述べています。栄養摂取という生存行動のためには、触覚が必要不可欠だというのです。アリストテレスの言う通り、赤ん坊は指を、唇を、舌を駆使してお母さんのお乳を探し、栄養を摂ります。「触れる」ことによって、私たちは自分自身と世界との関係を学習し、生き延びてきました。
 このことは、脳科学によっても裏づけられています。これまで新生児の脳活動を測定することは難しかったのですが、京都大学の研究グループは、「近赤外光脳機能イメージング」と呼ばれる手法で生後数日の赤ちゃんの脳活動を計測することに成功しました。(26~27頁)


 17世紀に哲学的な論争呼んだ問題で、「モリヌークス問題」というものがあります。ごく単純化して言えば、生まれつき眼の見えない人がいて、もしも成人してから手術で眼が見えるようになったとしたら、(それまで触ることによってわかっていたものを)眼で見ただけで認識できるだろうか、という問題です。この問いには、実際に開眼手術を行うことが技術的に可能になったことによって、答えが出ました。答えは「認識できない」です。突然眼が見えるようになっても、ただ光にあふれた光景が広がるだけで、モノの形や距離感を捉えることはできません。術後しばらく時間が経っても、立方体を観察しながら「上の面が菱形みたいになっていてわかりにくい」と言ったり、猫の前脚やしっぽ、耳が見えても、全体を見て
猫だと判断できなかったりするようです。これは、触ったものと見たものの情報が統合されていないからです。
 赤ちゃんは一度も体験したことのない新しいモノを見ると、長く見つめる性質があります。この性質を使って、フランス、パリ第五大学のアルレット・ストレリ博士らは、赤ちゃんは少なくとも月齢2ヵ月のときにはすでに、一度触れたことのあるものは目で見ても「覚えがある」と認識しているようだ、と報告しています(生後2日程度から連携がはじまっているという報告さえあります)。特に、形そのものよりも、ゴツゴツがあるかないかといったテクスチャの情報に対して、最初に触覚と視覚の対応を取り始めるようです。
 先ほどの赤ちゃん脳の研究でも、触覚刺激によって視覚野や聴覚野の脳活動が見られることが示されていました。こういった感覚統合が生後わずか数日から始まるおかげで、人はだんだんと、触れることなく、見ただけで物事を把握できるようになってゆくのです。
 成長するにつれて、視聴覚的な記憶は、圧倒的な量をもって触覚の記憶を塗りつぶしてゆきます。そして大人になると、もはや触覚を意識的経験の中心に据えてすごすことはほとんどなくなってしまうのです。(28〜29頁)

 特に、目が触感を補っている具体例には、納得しました。視覚と想像力が、触った感じを補正して増幅しているようです。

 また、触感が人の判断に影響していることも興味深い事例です。


 判断に影響を与えるのは、温度だけではありません。ある実験によると、相手を座らせて交渉をするときは、硬い椅子よりもやわらかいソファに座ってもらったほうが、こちらの要求をすんなりと通すことができます。どうやら、やわらかい感触は、相手の態度を「軟化」させるようです。
 また別の実験では、実験参加者に面接官の役割をしてもらうのですが、このとき、履歴書を挟むクリップボードを、重いものと軽いもの、2種類用意しました。すると、重いクリップボードを手にしたグループのほうが、求職者をより重要な人物だと判断したのです。
 身体が受けている、あたたかさ、やわらかさ、重さといった触感は、つねに意識されているわけではありません。それなのに私たちは、しらずしらずのうちに、触感に促されて意思決定をしているようです。身体性認知科学と呼ばれるこのような研究分野は、近年、さかんに研究が行われています。(40〜41頁)

 男女差については、もっと調査をしてほしいと思いました。現在、私が進めている古写本の触読に関しては、今のところ女性2人だけが変体仮名を読んでくださっているので、男性の触読について、点字ではなくて仮名文字での傾向を知りたいと思っているところです。


 その後、先ほども言った通り、女性の方が触感に優れている傾向があるらしいことがわかってきました。皮膚科学者の傳田光洋さんは、ポリイミド板による毛髪モデルを研究室の男女それぞれ10人ずつに触ってもらって、どちらを不快に感じるか答えてもらいました。すると、男性では意見が分かれた一方で、女性では10人とも②の不規則なパターンの板を不快だと答えたのです。(64頁)

 見えなかったらこれがどう感じられるのか等々、その違いに興味を持ちました。これは、おもしろいことです。

 出版社のホームページを見ると、本書で紹介されている音声を聞くことができます。

「どちらが水でどちらがお湯か、わかりますか?」(p.119、音の触感)

 触感を取り入れた身体表現に、楽しい未来を感じ取ることができたことが一番の収穫です。


 どのような形になるのかはわかりませんが、触れることを主軸としたアートが生まれるのも、もうまもなくのことではないかと私たちは思っています。それをサポートする、触感を表現するためのテクノロジーがいよいよ普及してきたからです。比較的廉価なレーザーカッターや3Dプリンタが登場し、だれもが気軽にものづくりに手が出せる環境が整ってきました。(223頁)

 まだ解明されていないことの多い分野だとのことです。今後にますます期待したいところです。【4】
 
 
 

2017年1月24日 (火)

奈良で開催される「さわって楽しむ体感展示」のお知らせ

 国立民族学博物館の広瀬浩二郎先生より、2月4日(土)〜12日(日)に奈良県文化会館で行われるイベント、「さわって楽しむ体感展示」の案内をいただきました。
 〔6日(月)は休館、開館時間は9時〜18時〕

 得難い体験ができそうなので、いただいた連絡を転記します。


 今年最初のお知らせ(宣伝)は、奈良で開かれる「さわって楽しむ体感展示」についてです。

 毎年、国民文化祭、障害者芸術・文化祭が各都道府県の回り持ちで開催されています。
 これまではオリンピックとパラリンピックのように、国民文化祭が行われた後、障害者芸術・文化祭が開かれてきました。
 この形だと、どうしても障害者芸術・文化祭は「後の祭」という印象で、あまり盛り上がりませんでした。
 今年から国民文化祭と障害者芸術・文化祭は同時開催されることになり、その初回担当が奈良県です。

 国民文化祭、障害者芸術・文化祭の一体開催という試みがうまくいけば、来年度以降、各県でこのイベントが続くことになります。
 障害の有無に関係なく、誰もが楽しめるユニバーサル・ミュージアムをめざす僕にとって、国民文化祭、障害者芸術・文化祭の同時開催はたいへん嬉しい企画です。

 このイベントは9月〜11月に大々的に実施されます。
 本番を前に、プレイベントとして2月4日〜12日に奈良県文化会館で「さわって楽しむ体感展示」が行われることになりました。
 プレイベントなので期間は短いし、小規模な展示です。
 しかし、このプレイベントが成功すれば、秋の本番でも「さわって楽しむ体感展示」が拡大実施されることになります。

 プレイベントの展示について、僕はアドバイザーという形で昨年から関わっています。
 昨年の夏から断続的に奈良県庁の担当者と打ち合わせを重ねてきました。
 いろいろとクリアすべき課題もありましたが、展示準備は順調に進んでいます。

 先日、会場入口で流すビデオを作りました。
 興福寺仏頭(国宝)のレプリカに僕がじっくりさわっている場面を「手」のアップを中心に撮影しました(顔のアップではありません、念のため)。
 さわる展示なのに、観客を集めるためにビデオを使うということに少し矛盾を感じますが、おもしろいビデオができたのではないかと自己満足しています。
 レプリカとはいえ、国宝にじっくりさわっているシーンはかなりインパクトがあります。

 このビデオを見た後、もちろん来場者は実際に仏頭のレプリカにさわることができます。
 来場者の反応が楽しみです。

 その他、奈良から出土した土器などの考古遺物、天平衣装、アート作品などにも触れることができます。

 また、「平城京のさわる地図を作ろう!」というコーナーでは、川、道路、山などを表す素材を手触りで選んでいただき、投票してもらいます。
 この結果を元に、秋の本番では「さわる平城京地図」を制作・展示する予定です。

 僕も会期中に、何度か会場に行くつもりです。
 奈良県文化会館は近鉄の奈良駅から徒歩で行けます。
 ぜひ多くのみなさんに「さわって楽しむ体感展示」を味わっていただき、いい形で秋の本番につなげたいと願っております。
 本メールの転送・転載を歓迎します。
 ご支援・ご協力のほど、よろしくお願いいたします。

                    広瀬浩二郎


 
 
 

2017年1月18日 (水)

『葛原勾当日記』の製作再現映像を試験公開します

 全盲の琴師だった葛原勾当は、天保8年(1837)から明治14年(1881)まで45年の長きにわたり、自分で開発した木製のひらがな活字を駆使して、日々の日記を自分の手で印字していました。

 一昨日、本郷三丁目で開催された研究会で、この葛原勾当のご子孫である葛原眞氏の講演を伺う機会を得ました。その後の話を通して、貴重なレプリカによる再現映像を実験的に研究者や興味をもたれる方々のために公開し、こうした事実や問題の調査研究への協力をお願いしました。葛原眞氏は私のこの申し出に理解を示され、快く映像をお貸しくださいました。

「葛原勾当のひらがな日記について」(2017年01月15日)

 早速、映像を試験公開するための準備を、研究協力者である加々良さんにお願いしたところ、本日突貫工事の末にその実現が叶いました。
 さまざまな人の力が結集して、無事に試験公開にいたったのです。ありがたいことです。

 葛原勾当に関する調査は、一昨年の秋より問題意識を深めつつありました。広島県に調査に行く計画をしました。しかし、実現しないままに来ました。
 しばらくは遅々として進捗を見なかったテーマが、先週から突然動き出し、今日の願ってもない貴重な映像の公開となりました。葛原眞氏との幸運な出会いをはじめとして、周りのみなさまに感謝いたします。

 今回公開した映像は、次の手順で見られるようになります。
 ご覧いただいてのご意見などをおよせいただくと、今後の励みになります。
 また、関連する情報などをお寄せいただけると幸いです。

 この撮影は、葛原眞氏がご東京大学史料編纂所のご理解のもとに、自分の手でレプリカをもとにして撮影なさったものであり、あくまでも実態を記録するために作製されたものです。今回、研究に資するものになれば、というご理解をいただいたことで、試験的に公開することになりました。
 公の場で利用なさる場合には、このコメント欄を活用するなどして、あらかじめ了解を得てからにしていただくよう、お願いいたします。

 今回の公開にあたっては、念のために、パスワードなどで閲覧者の確認をしています。これで、簡略ながらも諸権利の保護にはなるかと思います。煩わしい一手間をおかけして恐縮します。公開の趣旨をご理解いただき、ご協力のほどをよろしくお願いいたします。
 
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【映像 葛原勾当日記・印刷用具の使い方】

(1)「ホームページ「古写本『源氏物語』の触読研究」」に移動


(2)「新着情報」の中の「2017年1月18日 NEW 葛原勾当日記について」をクリック

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(3)「[パスワード請求]へ」をクリックして、「名前」「メールアドレス」「視聴目的」を入力

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(4)確認メッセージが表示された後、「送信する」をクリック

(5)画面にパスワードが表示される

(6)「こちらから」をクリックして、パスワードの入力画面で(5)のパスワードを入力

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(7)映像が見られる画面が表示される
 (上下の枠内で説明文をスクロールさせてご覧ください)

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2017年1月16日 (月)

点字百人一首の様子をラジオ日本「小鳩の愛〜eye〜」で放送すること

 一昨日の記事「【追記】高田馬場で「百星の会」の新年会と点字百人一首のカルタ会」(2017年01月14日)で、ラジオ放送の取材があったことを次のように記しました。


ラジオ日本の「小鳩の愛」のスタッフの方が取材に入っておられました。今日の様子やインタビューが、2月に放送されるそうです。

 そのディレクターである宮島佑果さん(アール・エフ・ラジオ日本)から、先日の「百星の会」の様子が以下の日程で放送されることを教えていただきました。
 私は「百星の会」の活動を広報する立場でもあるので、ここで宣伝しておきます。
 何年もラジオを聴いていません。これを機会に、楽しみに放送を待ちたいと思っています。


【番組名】 「小鳩の愛〜eye〜」(こばとのあい)
 http://www.jorf.co.jp/?program=kobato
視覚障害者の方がより暮らしやすい社会を目指して、視覚障害者、晴眼者にとって役立つ情報をお届けする番組です。
 
【放送局】 ラジオ日本 1422kHz  毎週日曜朝 7時5分〜7時20分
      北日本放送 738kHz   毎週日曜朝 7時30分〜7時45分
※スマートフォンアプリ「radiko」でもお聴きいただけます。
 
【放送日】 2017年2月5日(日)、12日(日)、19日(日)
 3週に渡って特集予定です。

 
 
 

2017年1月15日 (日)

葛原勾当のひらがな日記について

 本郷三丁目であった、日本のローマ字社(代表 木村一郎)のイベントに参加してきました。
 ホームページには、次の案内文があります。


新年の集い 2017

とき: 2017ネン 1ガツ 15ニチ, 14:00〜
ところ: NRS ジムショ
おはなし: 幕末を生き抜いた盲目の琴師
       葛原勾当のひらがな日記を読む
はなして: くずはら・まこと (葛原 眞)さん
きどせん: 500エン(NRS カイイン わ ただ)

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Sinnen no Tudoi 2017

toki: 2017 nen 1 gatu 15 niti, 14:00-
tokoro: NRS zimusyo
ohanasi: Bakumatu o ikinuita mômoku no kotosi
     Kuzuhara-Kôtô no hiragana nikki o yomu
hanasite: Kuzuhara-Makoto (葛原 眞) san
kidosen: 500 En(NRS kaiin wa tada)

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 かねてより、葛原勾当について興味を持っていたので、聞きに行ってきました。

 江戸時代から明治時代にかけて、盲人ながらも現代のタイプライターとでも言うべき、木活字を駆使して40年間も日記を書き(スタンプ印刷し)続けた人です。
 『葛原勾当日記』(小倉豊文、緑地社、1980)や『日本語発掘図鑑』(紀田純一郎、ジャストシステム、1995)で、この日記のおおよそのことは知っていました。


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(『日本語発掘図鑑』13頁)

 「遊び棒」と呼ばれる印字位置を示す一本の黒っぽい棒が、今のパソコンで言うとスペースやカーソルに当たるものです。

 しかし、実際に葛原勾当の直系の縁者である方からお話を聞くことで、具体的に盲人と文字というものについて再度考えるきっかけをいただくことができました。

 現在、私が科研で取り組んでいる「古写本『源氏物語』の触読研究」の連携研究者として一緒に勉強している中野眞樹さんが、昨春ここで研究報告をしていたことを知りました。そのことをまったく知らずに来たのですから、これも縁なのでしょう。中野さんは、今日はセンター試験の監督があるとのことでお休みだとのことでした。

 葛原勾当の木活字による携帯用の印字道具は、東大の史料編纂所がレプリカを作っていました。それを使って、葛原眞氏が実際に文字の印刷をテストする実験映像を拝見しました。これを見ると、この木活字を使った印刷の過程がよくわかります。ぜひとも公開していただけるようにお願いしました。いずれ、実現すると思います。

 葛原勾当について、すこしおさらいをしておきます。
 3歳頃に天然痘で両目を失明。14歳で座頭。その後、検校にはならなかったのは、当道座の階位を得るのには多額の金銭が求められたからだそうです。
 16歳で備忘録としての代筆日記をつけさせます。
 22歳の時に勾当になったことで上京。1ヶ月京都に滞在。この時に木活字を入手したようです。
 25歳で結婚。26歳から木活字を使って自ら印字して日記を付け始めます。
 明治15年に71歳で亡くなります。

 勾当日記に出てくる文字は、次のものが基本です。


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 これを通覧して気付くのは、明治33年に制定された現行ひらがなの字体がほとんどであることです。
 4行目の「於」の字形に留意したいことと、5行目の「江」、7行目の「志」が変体仮名となっていることが特徴です。ここには、「え」がありません。今の「お」に近い字体が別にあるので、こうしたことにも注意しておくべきでしょう。

 葛原勾当が木活字を用いて残した日記は、次のようなものです。


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 活字は何度か作り直していたようです。濁音の判子は別に作っていました。
 上の写真の3行目で「十四日よる」とある「よ」は、その下に不明の文字が一文字捺されていることがわかります。「日(ひ)」とあれば、次の行の「日る」と並んでいいのですが、どう見ても「日」ではないので思案中です。
 こうした印字の間違いは、その行を終える前であれば、すぐに直していることがわかります。その後の間違いは、もう直しようがなかったようで、いくつもそうした例が見られます。

 この勾当日記には、112箇所の間違いがあり、前後左右の間違いは92箇所あるそうです。文字を進める時や、行が移る時にケアレスミスがあるようです。

 この葛原勾当日記については、またわかりしだいに報告します。
 
 
 

2017年1月14日 (土)

【追記】高田馬場で「百星の会」の新年会と点字百人一首のカルタ会

 百星の会の新年会が、高田馬場の社会福祉協議会の中にある視覚障害者交流コーナーで行なわれました


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 40人ほどが集まり、今回も大盛会でした。参加者は回を重ねる毎に増えています。

 今回も全日本かるた協会の松川英夫会長がお越しになっていました。
 嵐山と京都ライトハウスでご一緒した、畑中ご夫妻も新しいカルタ台と新ルールを持って大阪から参加です。
 福島からの渡邊先生は、今回は息子さんが付き添いです。
 「科学でジャンプ」でお世話になった廣田先生からも、元気な声が飛んでいました。
 さらには、ラジオ日本の「小鳩の愛」のスタッフの方が取材に入っておられました。今日の様子やインタビューが、2月に放送されるそうです。

 この「百星の会」のイベントは、来るたびにレベルがアップしていきます。

 今回は、光孝天皇のカルタ「きみがためはるののにいでてわかなつむ〜」にちなんだ寸劇が、「百星の会」の有志によって披露されました。ミャージカル仕立ての、凝ったものです。
 この歌の解説を、福島県立盲学校で国語を教えておられる渡邊先生が、わかりやすく説明してくださいました。歌の背景にある平安時代の若菜摘みの行事や、『源氏物語』の「若菜」巻にも触れるという、熱のこもったものでした。渡邊先生の本領発揮です。興味深い話に、みんなが引き込まれます。

 その後、新年会らしく七草をみんなで触ろう、ということになりました。


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 多くの方が、香りが懐かしいとおっしゃっていました。
 年配の方は、七草の歌なども自然と口ずさんでおられます。
 この七草を、駆けずり回って用意なさった事務局長の関場さんやサポートの方々も、毎度のことながら大変だったことでしょう。

 そして意表を突く、青汁での乾杯です。七草を一緒に食べた気分に浸ります。

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 大阪のカルタ会では「まゆみさんの和歌講座」をしているとのことです。そこで、専門書に書かれている解説を、畑中さんが読みあげてくださいました。詳細な光孝天皇の歌の解釈に、うなずいたり感心したりと、これも中身の濃い時間をみんなで共有することとなりました。

 この「百星の会」では、行くたびに新しい点字かるたの台が開発されています。
 今回も、まだ東京と大阪に1セットずつしかないという、畑中さんの開発による、5列5行に札を並べる新台で、上級者の試合が行なわれました。1人が25枚なので、50枚を取る競技です。こうなると、目が見えるとか見えないということは、まったく問題ではなくなります。
 新しく考えられたルールでは、15分で札を並べ、覚えるのに5分というのが原則なのだそうです。ただし、まだ出来たばかりなので、今後ともさらなる改良がなされるようです。

 今回の新しい競技は、いきなり何の歌かわからないものが読まれます。そのためにも、100首をすべて暗誦することになります。
 今日も、緊張感の中で上級者の試合を観ました。勝負は瞬時に決まります。


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 札は、手前から持ち上げるようにして取ります。左側のケースにある相手の札も取れます。相手から取ると2ポイント。残り1枚を残して、合計ポイントで競います。この台では、相手に札を送ることはありません。
 新たなルールが、いろいろと決められています。

 ちはや台という、横に13枚が2段あるものでも試合が行なわれました。
 烈しい鍔迫り合いや、力技もあります。札が少なくなると、指の隙間が勝敗を分けることも……
 最後まで試合をすると、1試合に1時間以上かかるとのことでした。


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 ここで使われている取り札には、点字が最低7文字は貼ってあります。濁音が多いと点が増えます。そのため、無理やり押し込んでいるそうです。
 札には、表と裏に、上下から読めるように点字が貼られているのです。この点字をたよりに、試合直前まで触読をして、どの歌がどこにあるのかを覚えます。記憶力と反射神経の勝負です。


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 見物は、真ん中で見るよりもどちらかの取り手の側から見た方が、臨場感たっぷりで迫力が伝わってきておもしろいのです。

 初心者や初級者は、それぞれのレベルに合ったカルタと台を使います。
 その方の状況を配慮した道具が用意がしてあり、多くの方々が参加できるようになっています。


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 さらには、実践向けに新たな台というよりも、シートも開発されています。
 次のシートは、取り札を指で摘んで取り合う競技向けではなくて、札を飛ばすことを想定してのものです。点字百人一首は、日々進化をしているのです。


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 途中、外では雪が舞っていました。そんな中でも、かるた会場は熱気に満ちています。
 初めて参加なさった方が多かったので、この会の活動は、今後がますます楽しみです。

 次回は2月25日(土)に、今日と同じ高田馬場で行なわれます。
 興味をお持ちの方は、参加してみませんか。
 こんなすばらしい仲間との世界があることを、ひとりでも多くの方に知ってもらいたくて、今日もこうして長々と報告を記しています。

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※追記 「百星の会」や「点字百人一首」については、以下の記事も併せてご笑覧いただけると幸いです。
 
「「点字付百人一首〜百星の会」に初参加の感想など」(2016年07月17日)

「お香体験の後にカルタが飛ぶ「点字付百人一首 〜百星の会」」(2016年07月16日)

「「点字付き百人一首」とお香のワークショップのご案内」(2016年07月14日)

「「きずなづくり大賞 2015」受賞の関場理華さんと「百星の会」」(2016年02月03日)

「体験型学習会で点字付百人一首のお手伝い」(2015年12月06日)

「書道家にお願いした触読用の『百人一首』」(2015年12月01日)

「五感を使って江戸時代の百人一首カルタにチャレンジ」(2015年11月23日)

「京都ライトハウスでの点字百人一首体験会に参加」(2015年11月07日)

「「点字付百人一首〜百星の会」の紹介と活動内容」(2015年09月01日)

「京洛逍遥(375)嵯峨野で「点字付百人一首」を楽しんだ後は時雨殿へ」(2015年08月31日)

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2016年12月20日 (火)

「古写本『源氏物語』の触読研究」の情報を更新しました

 科研の「挑戦的萌芽研究」で取り組んでいる「視覚障害者と共に古写本の仮名文字を読み日本古典文化を共有するための挑戦的調査研究」(課題番号︰15K13257)のホームページ「古写本『源氏物語』の触読研究」で、情報の更新をしましたのでお知らせします。担当者は科研運用補助員の関口祐未さんです。

 トップページの「新着情報」の最初にある「2016年12月20日 NEW 第4回研究会報告」をクリックしていただくと、「第4回「古写本『源氏物語』の触読研究会」」の研究会報告が読めるようになっています。
 先々週の12月9日(金)に、国立民族学博物館で開催した第4回の記録です。

 私が本ブログに書いた「民博で古写本『源氏物語』の触読研究会」(2016年12月10日)より、ずっと詳細な報告です。

 着実に活動が進展しています。
 成果も、見えるようになりました。
 今後とも、ご理解とご支援を、よろしくお願いします。
 
 
 

2016年12月12日 (月)

総研大文化フォーラム(第1日目)で触読研究の成果を発表して

 無事にポスター発表を終えました。
 今年は、発表者に1分間の自己ピーアールの時間が与えられ、ストップウォッチに急かされるように、ショートスピーチをさせられました。

 私は、3年連続で触読研究の成果を報告していることと、音声のアシストで展開するようになったことに加え、昨日は国立民族学博物館で「古写本『源氏物語』の触読研究会をやってきたことをお話しました。

 ポスターセッションでは、30分の発表の間に、いろいろな方からお声掛けをいただきました。


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 みなさん、目が見えない方が本当に読めるのかなー、という問いかけから始まります。

 立体コピーのサンプルと、科研の三つ折りのチラシをお渡ししました。

 それぞれに課題と問題意識をお持ちの先生方や大学院生の集まりなので、ご自分のテーマとの接点を求めての質問が多かったように思います。

 『立体文字触読字典』と連綿のサンプルを、上記写真にもあるように、ポスターの右横に貼り付けて、自由に触っていただきました。みなさん、興味を示しておられました。

 懇親会でも、いろいろな角度からの質問や感想がありました。
 理科系の方々とお話をしていると、さまざまな刺激をいただけます。
 さらなるバージョンアップにチャレンジしていきます。

 みなさま、拙い話をお聞きいただき、ありがとうございました。
 
 
 
 

2016年12月10日 (土)

民博で古写本『源氏物語』の触読研究会

 昨年度からスタートした科研費による「挑戦的萌芽研究」に関する報告です。

 現在取り組んでいる、「視覚障害者と共に古写本の仮名文字を読み日本古典文化を共有するための挑戦的調査研究」(研究代表者:伊藤鉄也/課題番号︰15K13257)というテーマでの、第4回目となる研究会を、大阪にある国立民族学博物館で開催しました。

 東京から私と一緒に参加する4人(内、全盲お2人)とは、金曜日の早朝9時に東京駅構内の東海道新幹線八重洲南乗り換え口で待ち合わせをしました。
 尾崎さんは、お母さんが東京駅まで付き添って来られ、乗り換え口で引き継ぎました。

 福島県からお越しの渡邊先生は、駅職員の方の介助を得て、東北新幹線から乗り継いで東海道新幹線17番線ホームに来られました。駅員さんは、非常に親切な対応でした。
 出迎えと見送りに来た妻も、お2人との再会を喜んでいました。

 新大阪駅までの車中では、触読の実験をしました。
 まず、私が翌10日の総合研究大学院大学文化フォーラムで発表する、「i-Pen」という音声ペンを活用した触読と読み上げのテストです。


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 お2人からは、「i-Pen」による音声ガイドの説明がわかりやすくて、変体仮名を読みとるのに助かる、との感想をいただきました。
 ただし、改良の余地も多いこともわかりました。さらなる進歩をお楽しみに。

 また、触読字典の試作版も、実際に使ってもらい、意見をいただきました。これについても、改良点をたくさんもらいました。
 やはり、直接触っての意見をいただくと、改善すべき点がよくわかります。


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 新大阪駅に降り立って早々に、全盲の2人はホームで、点字ブロックのことを放送していることに感心したそうです。東京や福島では聞いたことがないと。

 新大阪駅から千里中央駅へは、北大阪急行を使いました。地下鉄の自動券売機には、「福祉」と書いたボタンがありました。これも、東京では見かけません。


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 ここでは、江坂駅までしか切符が買えません。その先へは乗り換えることになります。一気に行けないのは不便です。

 千里中央駅を出るとき、江坂駅からの清算をする必要があります。改札に駅員さんがおられなかったので、自動改札の横にあったインターホンで、障害者同伴の乗り越し清算の仕方を訊ねました。すると、障害者証明書を確認するので、ボックスに差し込んでほしい、とのことです。そのボックスがどこにあるのか、見回してもわからないのです。また、見つかってからも、どうしたらカメラで確認してもらえるのかも、さっぱりわかりません。

 相手の駅員さんは、モニタで遠隔対応です。目が見えない2人共に困惑しておられます。
 なんとか、2人分の証明書を小さな空間に差し入れて、モニタで確認してもらいました。晴眼者がいなかったら、手も足も出せず立ち往生です。いても、こんなに手間も時間もかかるのですから、これはあまりにも時代遅れの感覚ではないでしょうか。

 さらに、確認後はその後ろにある精算機の操作をさせられます。割引乗車券のボタンを押し、不足金額を投入します。ここでも、ボタンのアイコンと文章は「車椅子」なのです。視覚・聴覚障害の方は対象外なのでしょう。


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 そして、この車椅子ボタンの下には、「係員がまいります」と書かれています。しかし、係員は来られることはありませんでした。すべて、さらにその下にあるスピーカーの小穴から聞こえる係員と対応するのです。徹底した非人間的な対応です。

 北大阪急行がどのような会社なのかは知りません。しかし、今回の対処は、大いに問題だと思いました。この鉄道会社は、まじめに意識改革することが必要です。

 乗り替えとなった大阪モノレールの千里中央駅の自動券売機には、車椅子マークのボタンがありました。


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 これを押すと駅員の方が小窓から顔を覗かせて、窓口へ行くように指示されます。そして窓口で割引の処置をしてもらいました。今度はスムーズです。北大阪急行の酷い対応とは大違いです。

 ホームで、東京から一人でお出でになった高村先生と合流しました。高村先生は、一般の乗客の方に介助を受けながら、エスカレーターで上がって来られました。お節介だと言われている大阪のおばちゃんは、とても親切なのです。

 万博記念公園駅で、広島からお越しの田中さんと合流して、国立民俗学博物館へ歩いて移動しました。

 まず、国立民俗学博物館の広瀬浩二郎先生と、MMP(みんぱくミュージアムパートナーズ)の方々の案内により、「さわる展示」を体験しました。
 触ることで自分なりの理解が深まることに加えて、解説員の方の説明でさらに興味が広がります。

 これは、今回私が総研大の文化フォーラムで報告する、古写本『源氏物語』を触読する上で、耳から入る説明の役割を体感することになりました。目が見えない方にとって、耳を通しての音の情報は貴重です。

 見学中に、公務を終えてから来阪の大内先生も合流されました。
 今回は、韓国とオセアニアの展示をMMPの方の説明でしっかりと触り、拝見しました。

 展示室からセミナールームに移り、「第4回 古写本『源氏物語』の触読研究会」となりました。

 これまでとこれからの科研の取り組みから始まりました。

(1)「2016年6月から12月までの活動報告」
 科研運用補助員の関口さんから、本年の報告をしてもらいました。

(2)来年3月で一旦終わるこの研究会の今後について、私から現在わかっている範囲でお話しました。
 早速、大内先生から来夏の第5回研究会の会場として、高田馬場にある研究所を提供できる旨の申し出をいただきました。ありがたいことです。
 ということで、科研での取り組みが終わった後も、研究会と電子ジャーナルは発行し続けることの確認をしました。

 その後、私から次の報告をしました。

(3)研究報告「i-Penを活用した触読資料」と「立体文字触読字典」の取り組みについて。
 これは、関口さんと研究協力者である間城さんの協力によって、具体的な形を見せているものです。
 まだ熟していないプロジェクトについて、貴重な意見をたくさんいただきました。特に、「誰のためのものか」ということと、「広く興味を持ってもらえるものを目指すべきではないか」という点でのアドバイスをいただきました。これは、前回の研究会でも指摘された問題点です。今後とも、心して取り組んでいきます。

(4)研究発表「絵巻の触読と触察に関する実践報告―共立女子大学図書館所蔵「竹取物語絵巻」―」(尾崎栞)
 学習と研究を区別する必要がある、という視点から、これから研究者になろうとする若者に、叱咤激励のアドバイスがありました。
 サポートが得られなくなっても続けられる、自立した研究を心掛けること。おもしろみを自分で見つけることが大事だということ、見ることの代用を触ることではできないので、その意味からも、触ることでオリジナルなことが出せないか、ということを考えたらどうかという意見が出されました。
 テーマによっては、共同研究か独自の研究かの見極めも大事だと、期待を込めた発言に終始しました。ありがたい指導の場となったことは、仲立ちとなった私も、ずっしりと重い課題をいただくこととなりました。

(5)研究発表「『群書類従』所収「竹取物語」冒頭触読レポート―弱視生徒の目をかりて」(渡邊寛子)
 変体仮名を取り入れた、弱視者を対象とした高校古典の実践報告でした。
 板書の実演も、本当に目が見えないとは思えない感動が伝わるものでした。


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 また、授業の録音を流しながら、熱く語りかける先生と生徒との、丁々発止のやりとりが、実にすばらしいと思いました。
 ただし、長年教職にある先生からは、ご自分の体験を振り返りながらも、自分が見えないものを黒板に書くのは邪道である、という考え方があることも述べられました。これもまた真実です。
 教える、ということの根源を問う問題提起でもあります。
 いろいろと考えさせられる時間を共有する機会を得ることができました。

(6)研究発表「浮舟巻の「つゝみふみ」と『花鳥余情』勘物―古註釈書に伝わる薫物の贈答様式について―」(田中圭子)
 『紫式部日記』にある「黒方をまろがして、ふつゝかにしりさきて、白き紙一かさねに、立文にしたり。」という部分から派生したワークショップとなりました。
 黒方によく似たものを立文にする、という課題のもとに、香の実演と解説がなされました。
 今回のものは「稲妻」だそうです。これに麝香をいれたら黒方になります。立文に包んだ練り香を、参加者みんなが、ありがたくいただきました。


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 食べてもいいとのことだったので、広瀬先生に倣って私も少し口にしました。蜜で練ってあるだけに、おいしいのです。しばらくして、お腹がホコホコと温かくなりました。

(7)研究発表「手でみる絵画の作成の基礎・基本——「手でみる新しい絵画を作ろう」の取組から」(大内進)
 展覧会情報を中心とした発表でした。
 一枚のポスターが、北斎の「神奈川沖浪裏」になるのです。しかも、立体的なものです。形はデフォルメしないと立体の認識に至らないのだと。
 時間が来たので、大内先生の発表の続きは次の懇親会場で、場所を変えて行なうことになりました。

 研究会終了後、民博から懇親会会場までは、タクシーで移動しました。

 大内先生の引き続いての発表の後も、懇親会は大いに盛り上がりました。みなさんが喋り足りない思いもあったため、ホテルにチェックインしてから、また近くで語り合いました。
 日付が替わる頃まで、全盲の3人と見える3人が、熱っぽく日頃の思いの丈を語りました。

 昨年度採択された科研「挑戦的萌芽研究」としては、今回が最後の研究会です。しかし、今後につながる、充実した時間を共有することができました。
 来夏、さまざまな問題を持ち寄って、また討議を重ねたいと思います。
 
 
 

2016年12月 9日 (金)

総研大文化フォーラム-2016 で触読研究の成果を発表します

 今日の第4回「古写本『源氏物語』の触読研究会」の後、明日12月10(土)と11日(日)は2日間にわたり、京都にある国際日本文化研究センターで、総合研究大学院大学文化科学研究科が主催する「総研大文化フォーラム 2016」が開催されます。

 本年度は「異文化へ旅する、異分野を旅する ―文化科学からの招待状―」と題するテーマが設定されています。

 私は、第1日目(12月10日)の、Aグループ発表(16:00 ~ 16:30)となっており、会場はセミナー室1横です。

 今年の題目は、「指と耳で700年前の古写本『源氏物語』を読み書きする —視覚障害者と文化を共有するために—」としました。


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 これまでに、本文化フォーラムでは、以下の通り2回のポスター発表をしてきました。

■2014年 「視覚障害者と共に古写本『源氏物語』を読むための試み」
「視覚障害者と共に古写本を読むためのポスター発表をする」(2014年12月20日)

2015年 「指で読めた鎌倉期の写本『源氏物語』 ─視覚障害者と文化を共有する─」
「「学術交流フォーラム 2015」でポスター発表をする」(2015年11月21日)

 回を重ねるたびに、少しずつバージョンアップしています。
 総合研究大学院大学は多彩な分野の研究者や大学院生が集まっておられます。
 今年も、異分野からのアドバイスを楽しみにして参加し、発表してきます。
 
 
 

2016年11月30日 (水)

古写本『源氏物語』の触読研究会を開催します

 来週、古写本『源氏物語』の触読研究会を開催しますので、関係者のみなさまのご参加をお待ちしています。
 今回は、大阪の万博公園の中にある、国立民族学博物館をお借りして行ないます。


科学研究費補助金 挑戦的萌芽研究
「視覚障害者と共に古写本の仮名文字を読み日本古典文化を共有するための挑戦的調査研究」(15K13257)代表者:伊藤鉄也
 
2016年度第2回研究会プログラム

 日時:2016年12月9日(金)
 場所:国立民族学博物館

Ⅰ.民博のさわる展示の学習会(14時〜15時半)

 民博のさわる展示をMMP(みんぱくミュージアムパートナーズ)によるガイドでめぐり、触察の仕方や説明方法などの情報収集をする
 
Ⅱ.古写本『源氏物語』の触読研究会(15時半〜18時)

(1)挨拶(伊藤鉄也)

(2)2016年6月から12月までの活動報告(関口祐未)

(3)研究報告「i-Penを活用した触読資料」(伊藤鉄也)

(4)研究発表「絵巻の触読と触察に関する実践報告
   ―共立女子大学図書館所蔵「竹取物語絵巻」―」(尾崎栞)

〜休憩〜

(5)研究発表「『群書類従』所収「竹取物語」冒頭触読レポート
   ―弱視生徒の目をかりて」(渡邊寛子)

(6)研究発表「浮舟巻の「つゝみふみ」と『花鳥余情』勘物
   ―古註釈書に伝わる薫物の贈答様式について―」(田中圭子)

(7)共同討議(質疑応答・用語確認と実験方法など、参加者全員)

(8)連絡事項(関口祐未)


 
 
 

2016年10月22日 (土)

第5回・日本盲教育史研究会に参加して

 日本盲教育史研究会の第5回総会・研究会に参加してきました。
 会場は、筑波大学東京キャンパス文京校舎で、放送大学があるところです。


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 日本盲教育史研究会は創立5年目、会員約180名です。
 昨年は札幌と京都、今年は北九州で研修会や研究会があり、いずれも参加しました。

 今日の午前の第一番は、土居由知氏(静岡県視覚障害支援センター)と岩崎洋二氏(元筑波大学附属視覚特別支援学校)の「『むつぼしのひかり 墨字訳 第一集』出版とそこからわかること」でした。
 『むつぼしのひかり 墨字訳 第一集』は、「視覚障害者の歴史資料集1」として、東京盲学校の同窓生による会報(明治36年第1号〜37年第10号)を10年がかりで編集したものです。
 今年2月に刊行されたばかりの本書を、先般の九州でのミニ研修会の折にいただきました。ただし、まだすべてを読んでいません。


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 「むつぼしのひかり」は、昭和18年の第473号までが発行されました。『点字毎日』が刊行される前は、唯一の点字ジャーナルだったのです。

 続いて、村山佳寿子氏(お茶の水女子大学大学院・筑波大学附属視覚特別支援学校小学部課外箏指導)の「昭和初期における箏曲の点字記譜法の特徴 筑波大学附属視覚特別支援学校資料室蔵「宮城道雄作曲集」を例として」という報告がありました。わかりやすい発表でした。6点で記述する点字楽譜の実態を考察したものです。
 邦楽を点字で記す「手法記号」は、大正3年に始まります。西洋音楽の手法記号を箏曲に代用しているようです。実際に譜面をもとにして演奏も流れたので、説明がよくわかりました。
 後の質問に、山田流と生田流の違いは? というのがありました。これは、私も気になったことです。
 東京は山田流が主で先生を採用したそうです。宮城道雄の関係で、昭和6年からは、生田流を東京盲学校でも教えるようになったのだとか。
 恥ずかしながら、私は学生時代に少しだけお琴を教えていただいていました。しかも、山田流でした。歌いながら弾くのです。東京だったからで、これが関西で教わっていたら生田流だった可能性が高かったのです。

 閉会後の懇親会で、隣におられた村山氏に、山田流と生田流の話を詳しく伺うことができました。また、『源氏物語』に出てくる琴の音は、今の流派とは異なる中国から来たものだそうです。
 それにしても、まだまだ研究課題が多いことを知りました。

 記念講演は、岩波新書で『瞽女うた』を書いておられる山梨大学大学院のジェラルド・グローマー教授でした。この本については、本ブログの「読書雑記(119)ジェラルド・グローマー『瞽女うた』を読んで」(2015年03月16日)で紹介しましたので、ご参照いただければ幸いです。

 本日の演題は「瞽女(ごぜ)・旅芸人の歴史と芸能」です。

 ついメモをしたことは、三条西実隆の周辺に瞽女が来て演奏をしていた、という話です。また、男は当道の組織を持っており、女は高田や長岡で演奏をして生きていた、ということも興味を持ちました。瞽女組織は、総合的な組織であり、関八州と静岡などに文化圏を持っていたそうです。1970年代までは、瞽女が門付けをしていたのです。
 伝統芸能の復活は無理です、という言葉には力強い確信が満ちていました。今、個人的な個性は認められない、みんな同じ形をよしとする文化になっている、とも。

 講演後の質問に、宗教に関連したものがありました。それに対して、瞽女の歌の旋律には宗教がないそうです。そして、聞く側の気持ちに宗教があったかどうかは、よくわからないとのことでした。
 これに対して、時間が迫っていたので私は手はあげなかったものの、瞽女縁起や院宣に「下賀茂大明神」と出てくることの説明はどうなるか、という疑問と問題意識を持ちました。上賀茂神社は賀茂別雷が祭神なので、雷との関係で盲人との関係は想像できます。しかし、その親である下鴨神社とはどのような関係があるのか、わからなかったのです。今度ゆっくりと調べてみます。

 また、ウクライナに日本のような瞽女歌があったそうです。世界中にあったのではないか、とも。海外での瞽女の存在が知りたくなりました。

 続いて、香取俊光氏(群馬県立盲学校)の「江戸から近代への理療の発展 群馬県の事例を中心に」という報告がありました。
 盲人の教育システムを構築した杉山和一とその弟子を通して、鍼灸が職業たして成立する過程を話されました。また、理療と点字の指導に当たった瀬間福一郎の紹介もありました。

 最後の山口崇氏(筑波大学附属視覚特別支援学校)は、「楽善会と凸字聖書」と題する報告でした。
 明治初期に、日本には盲人が多かったことが報告されました。明治8年から11年にかけての、盲唖教育の実態もよくわかりました。さらに、明治9年の凸字聖書は、日本カタカナではなくて、ヘボン式ローマ字だったことが明らかにされました。
 京都高田盲学校には、カタカナ版の凸字聖書があるそうです。いつか見てみたいと思います。

 今日伺った内容は、明治から昭和初年の時間の流れの中でのことがたくさんありました。この時期に興味をもっている私は、一言も聞き漏らすまいとの心意気でしっかりと聞きました。

 最後の総括で、現在も元気な方から、盲教育に関する聞き取りを研究会として取り組むべきだ、との提言がありました。これについては、文献とともに今後はその調査にも着手するとの回答がありました。

 今回のまとめをなさった岸先生が、近世から近代へと移るつなぎ目の格闘が問題として意識できるようになった、とおっしゃっていました。明治・大正から昭和への移り変わりに興味を持つ私は、このテーマにさらなる魅力を感じる研究会となりました。

 今回の参会者は、90名を超えていたそうです。今後がますます楽しみな会となることを実感しました。

 閉会後は、駅前に場所を移して懇親会がありました。
 今回も、多くの方とさまざまな話題で盛り上がりました。
 いろろいな方とお話ができました。
 みなさま、刺激的な出会いを、ありがとうございました。
 
 
 

2016年10月16日 (日)

最適な4輪式キャリーバッグとの出会いと点字ブロックの今後

 移動が多い私は、その時々に持ち歩くバッグをいくつか持っています。しかし、なかなかピッタリのものがありません。特に、中くらいの大きさと分量の時のバッグが、微妙に合っていないと思っていました。

 最近探し求めていたのは、A4より一回り大きいノートパソコンがちょうど入り、キャリーバッグのキャスターにロックがかかるものです。
 こうした用途のための、最適なキャリーバッグを一つ持っていました。しかし、それが10年前の物だったので、角々が痛んできています。

 今日は帰洛のために東京駅へ出たついでに、ふらりとカバン屋さんに立ち寄りました。幸運なことに、地下街に3軒続きのカバン屋さんがあり、その一つでちょうどいい物と出会えました。それでも、色が好みのものと微妙に違うのです。

 同じ系列の店が、隣の有楽町駅の前にもあることがわかりました。思い立った時にと意を決し、行ってみることにしました。

 専門店だけあって、思い通りの最適な物と出会えました。
 ちょうどいい大きさに加え、従来よりも深さがあります。しかも、取っ手がお洒落です。入荷したばかりの最新デザインだそうです。

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 早速、手にしていた荷物を詰め替えて、新しいキャリーバッグで西に向かいました。このキャスターをロックするシステムは、なかなか快適です。

 これまでに、旅行客の4輪のキャリーバッグがバスの中の狭い通路を勝手に滑走したり、急ブレーキで前に飛んでいく場面に出くわしました。ホームから、コロコロと転がって線路に落ちる所も目撃しました。
 とにかく、4輪で手押し式のキャリーバッグは、勝手にあちこちと動き回るので危険です。

 傾けて引っ張る形の2輪式は、後ろに長く引きずるので、人ごみの中では邪魔者扱いをされます。しかし、バスやホームでは、安定して立つので安心です。
 一長一短がある中で、今回見つけた、キャスターをロックできるバッグは、4輪の中では安全で便利なものです。

 キャリーバッグは、駅や商店街では、点字ブロックの凸凹がキャスターをガタガタさせるので、嫌われがちのようです。スピードを落とさせるために、鉄球が埋め込まれた交差点がありました。そこを自動車が通過する時には、スピードを落とすのには有効な仕掛けでした。しかし、車内への振動が不評だったこともあり、今では国内ではほとんどなくなったようです。

 しかし、街中や駅のホームなどでの点字ブロックは、視覚障害者には必須です。そうは言っても、キャリーバッグを引く旅行者が不快に思う点字ブロックの敷設は、その凹凸の形状を含めて再考されるのかもしれません。今後は、この共存がさらに検討されることでしょう。
 
 
 

2016年10月 4日 (火)

京洛逍遥(376)京都府立盲学校で木刻文字の調査

 京都府立盲学校の入り口には、「日本最初盲唖院」と刻まれた石碑と古河先生の胸像が建っています。


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 学校の中にある資料室は、盲史研究の宝庫です。
 その貴重な品々の保存と管理、そして研究をなさっている岸博実先生の説明を伺いながら、楽しく有意義な調査をすることができました。

 岸先生とお話をしていると、次から次へと疑問が生まれます。その理由と解決策を考えている内に、自分の中に新たな課題がどんどんふくらむのです。整理しきなれない程の課題を抱えて、帰りの道々、先生のおっしゃったことを思い返します。すると、消えては生まれ、生まれた疑問が課題と結びついたり離れたりします。頭の中は大忙しです。

 今日も、そんな楽しい時間を、先生からいただきました。
 資料の整理でお忙しい中を、時間を割いていただきました。ありがたいことです。

 今回じっくりと見せていただいたのは、仮名文字を木片に刻んだもので学習するための、触読用の教材です。私は、盲教育史はわからないことだらけなので、岸先生に対して質問攻めの状態となるなど、中身の濃い時間を共有させていただきました。

 この日のテーマは、木刻凸字が作られた明治という時代と、その凸字の実態の解明です。それを、岸先生にストレートにぶつけることとなりました。
 いつも慎重にことばを選びながら、わかりやすく話してくださいます。わからないことは、そのままわからない、とおっしゃいます。それだけに、わかることとわからないことの間が見えてくると、その先が課題として投げかけられます。
 禅問答のようなやりとりもありました。それが、次のステップへのヒントとなります。

 以下、私が抱いた疑問と課題を整理しておきます。

 今回拝見した木刻凸字の平仮名群は、明治12年に京都盲唖院が発注したものでした。
 いろいろに分類されて、紙に包まれた状態で出てきました。この夏に整理されたものです。
 先生が探し出して見せてくださった明治12年の記録文書綴りの中に、「盲人教授用品」という項目があり、そこには「指頭触感木刻」という文字が記されていました。

 明治13年の『著書草稿 盲唖院』には、「盲生」という節に「捫字感覚」という項目があり、詳細な説明もありました。
 また別の綴りの「京都府盲唖院(学業)器械一覧表」の中に、「凸字木刻」と「七十二例法木刻」という文字が、「器械名」の段にありました。これらは、明治11年から14年までは所有され使用されていたことがわかります。

 さらに、「蝋盤」も文字を学ぶ時に使用されたことがわかります。これについては、機会をあらためて考えます。

 現在、『変体仮名触読字典』の編集を進めています。
 現在試作してもらっている最新版の版下を、木刻凸字の5cm タイプと比較してみしょう。


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 立体コピー版と較べてみても、文字の大きさも、浮き上がり具合も、明治12年の木製と遜色のないものになっていると思います。

 また、持参した立体文字も並べてみました。


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 下段の文字は、紙製で筆順がわかるようになっているものです。

 いろいろと試行錯誤をする中で、明治初期の平仮名に関する触読用の教材を実際に拝見し、また新たな閃きと課題解決のための手掛かりをいただきました。

 現代の視覚障害者が平仮名を触読によって自由に読み、そしてさらには書けるような学習システムを構築したいと考えています。

 前が見えない道を、手探り状態で進んでいるところです。
 さまざまな立場の方からの、この取り組みへのご教示をいただけると幸いです。

 明日から関西には、台風18号の影響が出るようです。
 交通網が混乱しない内にと、急いで新幹線で上京することにしました。
 自転車で京都府立盲学校へ行ったので、帰りには賀茂川を少しサイクリングしました。
 北大路橋の下で休む鴨や鷺は、いつものように少し暑い秋を楽しんでいます。


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 その4時間後。
 夜の東京は、京都よりも涼しい風を感じました。
 宿舎の前の清澄通りから月島方面のマンション群を望みました。


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 この左側の豊洲の市場一帯は、これからさらに揉め事が報じられることでしょう。
 東西の違いを、こうして肌身に感じる日々の中にいます。
 
 
 

2016年9月14日 (水)

聞いてわかる科研の研究計画調書を公開

 昨年度より取り組んでいる科研「挑戦的萌芽研究」で公開しているホームページ「古写本『源氏物語』の触読研究」(http://genjiito.sakura.ne.jp/touchread/)で、新たな見出し項目を追加しました。

 これまでの項目に「聞いてわかる研究計画調書」が増えましたので、この場を借りて報告します。


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 これで、ホームページの見出しタイトルは、以下の通り6項目となりました。
 さらに詳しい目次は、「サイトマップ」をご覧ください。


「古写本『源氏物語』の触読研究」(トップページ)
「計画」
「聞いてわかる研究計画調書」(新設)
「触読通信」
「研究会報告」
「サイトマップ」

 この「聞いてわかる研究計画調書」は、目に障害がある方がパソコンのスクリーンに表示された文章を読み上げさせることで、本科研の研究計画を耳で理解していただくために作成したものです。

 ウインドウズのユーザーは、OSに標準でインストールされている「ナレーター」というスクリーンリーダーで聞くことができます(私はマックユーザーなので、できるそうです、と言っておきます)。ただし、これはあまり完成度が高くないようで、「NVDA」や「PC Talker」を使っておられる方が多いかもしれません。「PC Talker」は私も使ってみました。多機能で使い勝手がいいと思いました。ただし、4万円もするので思案なさっている方が多いのではないでしょうか。

 マックをお使いの方は、アクセシビリティには長年の蓄積があるので「VoiceOver」で十分です。私はこの「VoiceOver」で確認しました。
 しかし、文章に手を入れて、わかりやすいものに改善すべき点は、まだまだあります。

 ウインドウズとマックには関係なく、聞いてみての感想を、本ブログのコメント欄を通してお寄せいただけると幸いです。

 なお、この取り組みは、科研運用補助員の関口祐未さんの労作です。
 今後とも、本科研のホームページの利用者のために、さらなる工夫を盛り込んでいくつもりです。

 変わらぬご支援のほどを、よろしくお願いいたします。
 
 
 

2016年8月23日 (火)

《仮名文字検定》の公式サイト(仮)公開

 先月下旬に、「《仮名文字検定》2018年夏より実施のお知らせ」(2016年07月22日)を、本ブログに掲載しました。

 その《仮名文字検定》の公式サイトを、まだ完成型ではないものの、新たに公開しました。
 アドレスは、本ブログの「お知らせ」に記したものと、今後とも変更はありません。
 以下の通りですので、ブックマークやリーダーなどに登録していただけると幸いです。

  《http://www.kanakentei.com/》

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 多くの方々に「設立趣旨」や「検定概要」などを確認していただけるようにとの思いから、仮バージョンではあるものの公式サイトの立ち上げを急ぎました。

 今後は、「受付ページ」や「申込みページ」等の作り込みと共に、スマートフォン対応のページも用意します。

 お知り合いの方々に、《仮名文字検定》が動き出しているということを、ニュースとしてお知らせいただけると幸いです。

 公式テキストは、2017年12月末にできます。

 まずは、鎌倉時代に書写された仮名写本(『源氏物語』等)を使って、変体仮名を読むことから受験の準備をなさってはいかがでしょうか。
 その時には、仮名文字の字母に注意していただくと、着実に変体仮名を読む力がつくはずです。さらに注意していただきたいのは、変体仮名の「阿」を「あ(安)」に、「可」を「か(加)」にというように、変体仮名を現行の平仮名に置き換えて翻字しないで、字母のままに翻字する練習をしてください。それが、本検定試験の受験対策につながる近道となることでしょう。

 みなさまが《仮名文字検定》を受験するための準備として自習なさる際には、私が科研(A)の成果として公開しているホームページ「海外源氏情報」の中にある、「『源氏物語』原本データベース」が、有益な情報源の一つになるかと思います。


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 そこでは、『源氏物語』の写本の画像が閲覧できるサイトを、50件以上も紹介しています。
 また、刊行されている『源氏物語』の影印本についても、30件以上を紹介しています。
 これは『源氏物語』に限定してのものです(現在では入手困難な書籍も含んでいます)。
 こうした情報も、《仮名文字検定》を受験するための学習資料の一部として活用していただければ幸いです。

 なお、《仮名文字検定》の特徴の一つとして、視覚障害者が触読で受験することも可能としています。
 もし興味をお持ちの方がいらっしゃいましたら、本ブログのコメント欄を活用してお問い合わせください。
 立体コピーによる写本の触読に関して、現在お手伝いできることをお知らせします。

 変体仮名を触読することに関する情報源としては、私が科研の「挑戦的萌芽研究」で取り組んでいるホームページ「古写本『源氏物語』の触読研究」も、お役に立つかと思います。


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 古写本の触読については、その中の「触読通信」の記事が、具体的で実践的な参考情報となっています。ここもご覧いただいて、《仮名文字検定》を触読で受験する対策の一つとしてお役立てください。
 
 
 

2016年8月20日 (土)

駅のホームドア設置と「ホーム縁端警告ブロック」

 一昨日は、日比谷図書文化館から尾崎さんと一緒に、地下鉄三田線で途中まで帰りました。
 先日の、地下鉄ホームから転落した方の悲劇を思い出し、そのことを話題にしました。白杖を持った尾崎さんと一緒に駅の構内を歩いていると、こちらも五官が研ぎ澄まされ、あたりにアンテナを張り廻らす自分を意識しました。

 尾崎さんも中学生の時、電車から降りたところを前から来た人に押されて、ホームから線路に転落したことがあるそうです。何人かの方に引き上げてもらったとか。

 これまでに私が出会った多くの全盲の方々は、そのすべての方がと言ってもいいほどに、ホームからの転落を経験しておられました。それが、民博の広瀬浩二郎さんの言葉を借りれば「通過儀礼」であるかのように、みなさんがその怖さを語ってくださいます。
 新聞やテレビなどでは、ホームからの転落は「37パーセント」としています。しかし、現実にはもっと多いと思われます。

 一昨日の三田線大手町駅のホームには、電車との接触や転落を防止するために、両開きのホームドアがありました。


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 宿舎に帰ってから見た毎日新聞(平成28年8月18日(木)朝刊14版)には、1面、3面、28面の都合4箇所で、この問題を大きく取り上げていました。電子版で見たところ、関西版も大きく扱っていました。


 既存の地下鉄駅で、全国で初めて可動式のホーム柵(ホームドア)が設置され運用が始まったのは2000年。東京都営地下鉄三田線の高島平駅(東京都板橋区)だった。毎日新聞が視覚障害者向けに発行する点字毎日の紙面は、当時「落ちない駅が実現」と紹介した。それから16年。ホームドアは着実に増えているとはいえ、まだ不十分だ。(3面、「クローズアップ2016 視覚障害者ホーム転落 周囲の声掛け命綱」)

 設置や補強費用のことと共に、列車のドアの数や位置が現状ではまちまちなので、その対処策と問題点は単純ではないようです。しかし、バーが上下する「昇降式ホーム柵」などの改良を進め、一駅でも多くのホームにドアや柵を設置してほしいと思います。

 また、点字ブロックについて、同紙には私がまったく知らなかった説明があったので以下に引いておきます。それは、次の図版の右側にある「ホーム縁端警告ブロック」に関するものです(3面より)。


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 点字ブロックについては、「警告ブロック」(図版左側)と「誘導ブロック」(図版中央)があることは知っていました。「社会福祉法人日本盲人会連合」のホームページでも、「点字ブロックについて」という項目にはこの2種類だけが取り上げられています。

 「ホーム縁端警告ブロック」というのは駅のホームにだけ使われているためか、その他のホームページでも「点字ブロック」の説明には見当たりません。「ウィキペディア」でもそうなので、このあたりの説明には、手を入れる必要があるのではないか、と思われます。
 この「ホーム縁端警告ブロック」については、次の2つの報告書が参考になります。ユニバーサルデザインの分野の問題でもあります。

「視覚障害者誘導用ブロックを効果的に配置する」(大野央人、鉄道総合技術研究所、RRR Vol.71 No.7 2014.7 16~19頁)

「鉄道技術来し方行く末 発展の系譜と今後の展望 第38回 視覚障害者誘導用ブロック」(大野央人、鉄道総合技術研究所、RRR Vol.72 No.6 2015.6 28〜31頁)

 点字ブロックは日本が開発したものであり、平成24年に国際規格として定められ、今や世界130カ国以上で採用されているそうです。

 インドでも、「警告ブロック」と「誘導ブロック」が使われていました。もっとも、その使われ方には疑問を抱きましたが。

「インド・デリーの点字ブロックなどには要注意」(2016年02月25日)

 日本でも、駅のホームにある柱との位置関係をどうするかには、課題があります。上記ブログで写真を掲載したように、インドで樹木やマンホールの蓋を避けて点字ブロックをカクカクと回り込ませているのは、どう見ても無理があります。

 「ホーム縁端警告ブロック」について、上記毎日新聞の説明では続けて次のように記されています。


 国土交通省によると、青山一丁目駅のホームで品田さんが転落した場所にあったのは、歩く方向を示す「誘導ブロック」ではなく、ホームの端が近くて危険だと示す「ホーム縁端警告ブロック」だった。
(中略)
 品田さんは両ブロックの接続する地点から離れた場所で転落した。同省担当者は「縁端警告ブロックの上を歩くことを想定していない」と指摘する。だが、混雑時には一般利用客が点字ブロックをふさぎ、機能しているとは言い難い状況も生まれる。実際、警告ブロックを頼りに移動する視覚障害者は少なくない。青山一丁目駅では、縁端警告ブロックの列を柱が遮るように建っている。
 国交省の指針ではホームに縁端警告ブロックを敷設する場合、途中に構造物があっても連続させるよう求めている。遠回りするよう敷くとかえって方向や位置が分からなくなるという視覚障害者の意見を反映させており、青山一丁目駅はこの指針に沿っている。

 点字ブロックに関して、検討すべき課題はいろいろとあるのです。
 これまでは、ブロックの上に立つ人や置かれた荷物に、注意喚起がなされていました。今は、スマートフォンのながら歩きが、目が見える見えないに関わらず問題になっています。

 尾崎さんに、歩きスマホの人とぶつかったことがあるかを聞きました。彼女の答えは、人にぶつかることは多いので、その相手が歩きスマホかかどうかは見えないのでわからない、とのことでした。
 目が見えない方々の実情を私がまだよく理解していないため、それが愚問であったことを教えられました。

 また、回りの方からの「大丈夫ですか?」という声掛けについても聞きました。
 彼女の返答は、通学などでよく通う道は熟知しているので、声を掛けていただくのはありがたいけれども、あまり続くといちいち対応するのに苛々することがある、とのことでした。ただし、通学路以外では、助かることが多いしありがたいと思うそうです。
 この件も、声掛けする方としては親切心からなので、相手のことを慮っての対応が微妙なこともあるようです。それはそれとして、やはり基本的には、押し付けにならない程度に声を掛けるのが自然なことだと思います。
 危険と隣り合わせの方には、原則として声をかける、という心構えを持ち続けたいと思います。
 
 
 

2016年8月19日 (金)

尾崎さんからすぐに届いた『源氏物語 鈴虫』を触読した感想文

 昨日、日比谷図書文化館で歴博本「鈴虫」を読んだ記事をアップした後、すぐに参加していた共立女子大学の尾崎さんから感想文が届きました。
 メールには、こんな言葉が添えてあります。


1年前に比べたら自分でも驚くほど読める文字が増えていて、だてに毎日変体仮名を読んでいないなとうれしくなりました。

 一人の若者が、ひたすら前を見て歩んでいることを実感させてくれる文章なので、ここに紹介します。
 目が見えない方でも、鎌倉時代に写された『源氏物語』などの古写本をこれから読んでみようと思われた方や、そうした方が身近にいらっしゃる方は、遠慮なくこのブログのコメント欄を使って連絡をください。
 
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「講座を終えて ~触読できる文字が増えた今 思うこと~」

 私は今回、伊藤先生にメールで送っていただいたデータを大学の助手さんに立体化していただき、それを持参して講座に参加させていただきました。
 助手さんの配慮で、私が触読しやすいようにと、変体仮名を拡大してから立体コピーしてくださったので、A3サイズの大きな紙で触読しました。

 卒業論文執筆のため、ここ最近は頻繁に変体仮名を触読していたせいか、講座には問題なくついていくことができました。分からない文字があった時は、お隣の席の受講者の方や、同行してくださった助手さんに、指を持って一緒に文字をなぞっていただき、形を把握しました。
 その後、書写できる文字は持参していたノートにサインペンで書き取り、形を記録しました。

 やはり、漢字は読めないものが多くありました。「侍」や「六条院」の「条院」などは字が細かいのか、完全に形を把握することができませんでした。

 触読のスタイルは、右手で紙を抑え、左手で先生の読みに合わせて文字を触読しました。私は主に左手で点字を読むので、そのせいか、変体仮名も左手が中心に触読しているようです。ただ、右手で触読することもあるので、左手でなければ読めないということではありません。
 左右で触読のスピードに差があるのか、今後検討していきたいと思います。

 昨年度の夏に、初めてハーバード本「須磨」と「蜻蛉」を触読した時は、これまで読んできた江戸時代の変体仮名と形が異なる文字が多いため、ほとんど触読することができませんでした。
 しかし、いま振り返ってみると、書かれた時代によって、字形が異なるとは言え、あの時は単に勉強不足で、変体仮名の字形の一部しか把握していなかったため、読めなかったのだと思います。

 見える見えないに関係なく、字形を知らなければ文字が読めないのは当たり前だと思います。触読以前に、いかに字形を記憶しているかが大きな焦点となるはずです。
 文字の記憶方法も、伊藤先生がおっしゃっていましたが、通常目から入ってくる形が、触読の場合指から入って来るだけで、形を記憶する大本のメカニズムのようなものは、目で読むのも触読するのも変わらないと思います。どちらも勉強すれば読めると言うことなのでしょう。

 また今回、書き癖を把握することで、スムーズに読めると言うことも実感しました。
 同じ文字でも、書き手によって若干異なります。始めのうちは戸惑っていた文字も、
「これがこの人の【な】なんだ」
「これがこの人の【ふ】なんだ」
というように、読みながら覚えていくことで、書き癖を把握できるだけでなく、読むスピードは上がるのだということを、あらためて実感しました。

 点字には版があり、フリーハンドで書くことはできません。そのため、書き手の癖のようなものが反映されることもありません。読みやすい文字を書くことはできますが、どうしても形は一定になってしまいます。

 それが変体仮名だと、書き癖をもろに感じることができるだけでなく、字母が何種類かあるので、その中からどの字母の文字なのかということも知ることができます。これは変体仮名の魅力だと思います。
 変体仮名を触読することで、書き手はもちろん、書かれた時代の文化にも触れることができます。

 今回の講座で変体仮名を触読したことによって、『源氏物語』の本体に触れられたようで、大変うれしく思います。伊藤先生やご参加のすべてのみなさまに、心より感謝もうしあげます。

 触読によって変体仮名を読むことで、目が見えなくても日本の文化や物語に直接触れることができるということを、多くの人々に広めるべく、伊藤先生と共に触読の方法をより確かなものにしていきたいと思っています。
 
 
 

2016年8月18日 (木)

日比谷図書文化館で歴博本「鈴虫」を読む

 朝からの大雨が、夕方には止んでいました。
 日比谷図書文化館の前では、今日も多くの方が「ポケモン・ゴー」に熱中しておられます。


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 今日読んだ歴博本「鈴虫」で、読みにくかった箇所の確認をしておきます。

 「御さ可りの」(13丁オ5行目)では、「さ可り」から「の」へと、流れるように筆が走っています。


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 この部分だけを見ていては、「さ可り」の「可」にあたる箇所が何という文字なのかがよくわかりません。ここは、文意を意識して見ていかないと、「さ八りの」とか「さとりの」あるいは「さ尓の」などと読んでしまいかねません。

 次は、行末の例です。
 古写本では、行末や丁末においては、書写者の意識が次の行や次の頁に向いているので、ケアレスミスが多発します。


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 これは、「やを」ではなくて、「やう/\」と読むところです。しかし、「う」は読みにくい字形をしている上に、その位置も左にずれています。前後の文意を考えないと判読に苦しみます。親本通りに書写しようとして、行末が詰まってしまった例です。

 こうした行や丁の末尾における判読が困難な文字は、書写者の集中力が途切れる場所であることを意識しておくと、さまざまな読みの可能性に思いを巡らしながら、候補となる文字が絞り込みやすくなるものです。

 今日は、大学生で全盲の尾崎さんにも参加してもらい、実際に講座に参加されている方々と一緒に、歴博本「鈴虫」を読んでもらいました。立体コピーを活用して、自由に触読の訓練をしてもらったのです。そして、尾崎さんが読み取りにくい文字は、みなさんが翻字をなさる時にも有効なポイントとなります。

 変体仮名を読むのが大好きだという尾崎さんは、今日も多くの文字を追いかけ、読み取っていました。漢字や線の多い変体仮名などには手を焼いていたようです。しかし、それでも持ち前の勘を働かせて、少しずつ仮名文字のパターンを習得していました。

 日頃は一人で翻字などをしているそうなので、もっと仲間と一緒に写本を触読する環境を整えてあげると、迷うことも少なくなり、早く読み取れるようになることでしょう。
 今後がますます楽しみになってきました。人間の可能性の豊かさを実感しています。
 今日の感想を文章にして送ってくれるとのことなので、明日には紹介できると思います。
 
 
 

2016年8月 6日 (土)

読書雑記(175)ウンベルト・エーコ『薔薇の名前』

 以前から気になっていた、記号論学者ウンベルト・エーコの『薔薇の名前 上・下』(東京創元社、1990.1)を、行きつ戻りつしながら読み終えました。本年2月19日にウンベルト・エーコ氏が亡くなり、手元に置きながらいつかはと思いつつそのままになっていたこの本のことを思い出したのです。


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 まず、「初めに言葉があった。」と始まります。

 プロローグで、「若き日に立ち会った驚くべき数奇な事件の証言をこの羊皮紙の上に書きとめよう」(上、22頁)と言っているように、僧院での異常な体験を語っています。それは、西暦1327年に、ある僧院で起こった一連の事件が書き残されるのです。

 最後は、次のように結ばれます。

「写字室のなかは冷えきっていて、親指が痛む。この手記を残そうとはしているが、誰のためになるのかわからないし、何をめぐって書いているのかも、私にはもうわからない。〈過ギニシ薔薇ハタダ名前ノミ、虚シキソノ名ガ今ニ残レリ〉。」(下、383頁)

 常に読者がいることを意識した語り口です。

 この小説を読むのは2度目です。世界各国で大ベストセラーとなりました。
 映画も観ました。ショーン・コネリーが主演した映画としても有名です。
 しかし、まったくその内容を覚えていません。修道院で聖書を書写する姿しか、思い出せません。
 どうも気になり、再読に挑戦したのです。読み終わって、今回は盲目の老僧の姿と、最後の火事場の迫力が強く記憶に刻まれました。

 それにしても、再読しながらもあまり心に響くものがないのです。僧院での宗教話が、私に伝わって来ないからだと思われます。

 それでも、私が興味を持ったのは、写字室での様子です。聖書がどのような環境で、どのようにして書写されているかがわかるからです。


最も明るい仕事机は、古文書学僧・熟練の装飾画家・写本装飾家・写字生などに充てられていた。どの机にも細密画や筆写のために必要な道具類が備えつけてあった。角製のインク壺、薄い刃で削りながら使う細い羽根ペン、羊皮紙を滑らかにするために使う軽石、文字を揃えて書くために引く基線用の定規などである。写字生が腰をおろして向かう机の面は傾斜していて、そのはずれに書見台があり、筆写すべき原本が立てかけられて、開いたページには筆写中の行だけを示す仮面枠が乗せてあった。写字生たちのなかには金色のインクやその他さまざまな色彩のインクを使う者がいた。また、古文書を黙読しているだけの者や、自分たちのノートや小板にメモを記している者がいた。(上、121頁)


当時の私は、まだ人生のわずかな部分しか写字室で過ごしたことがなかったけれども、その後になって多くの時を過ごして写字室の事情に通じるようになったいまでは、かじかんだ指先にペンを握りしめながら冬の長い時間を机に向かって過ごすことが、どれほどの苦痛を写字生や写本装飾家や学僧たちに強いるものであるかを、充分に承知している(通常の気温のときでさえ、六時間も書きつづければ、手に恐ろしい書痙が生じて、まるで踏みつけられたみたいに親指が痛みだすのだ)。だからこそ、写本の余白などに、写字生が忍耐(および焦燥)の証に記した落書をしばしば見出すことがある。たとえば〈ありがたや、もうすぐ暗くなる〉とか、〈おお、せめて一杯の葡萄酒があったならば!〉とか、さらには〈今日は底冷えがする、明りが乏しい、この羊皮紙は毛が多くて、どうもうまく書けない〉とか。昔から諺に言うように、ペンを握っているのは三本の指だが、全身で働いているのだ。そして全身で苦しんでいるのだ。(上、204頁)


この翻訳の写本を二部作って、一部を依頼主に納め、一部をわたしたちの文書館に収蔵する予定でした(上、206頁)

 ここには、聖書の写本を作成するのに、分業制で、書写のための枠などの道具を使い、落書きをしたり、副本を作っている様子がわかります。これは、日本で写本を書写する時の様子と対比するとおもしろいと思いました。

 物語を読み進むうちに、年老いた盲人の老修道僧の存在が気になりました。


大いなる老人は、喘ぎながら、言葉を途切らせた。盲目になってから、もう何年も経つはずなのに、いま話しているように彫像の卑猥さをはっきりと覚えているのだから、その記憶力には驚嘆させられた。あれほど情熱をこめていまだに語るくらいだから、視力のあったころにはよほど彫像の魅惑に取り憑かれていたのではないか、と私は思わず疑ってしまった。(上、134頁)

 第二日の話に入ってから、ようやく話がおもしろくなりました。2人の死をめぐってウィリアムとこの物語の書き手であるアドソは、審問官として調査をはじめます。僧院の写字室の実態が明らかになっていくのです。

 盲人に関する描写に関して、あまりにも差別的な視点なので、原文はどうなのか知りたくなりました(上、197頁等)。

 殺人事件については、総院長への疑念がますます大きくなっていきます。

 読み進んでいて、日本語訳の一文が長いので文意を理解するのが大変でした。翻訳物によくあることです。原文がそうなのでしょうか。日本語としては、この訳はよくないと思いました。あまりにも原文に忠実なのでしょう。もっとわかりやすい日本語の文章にする工夫があってもいいのではないでしょうか。
 原作者の文章の尊重と、言語を移し換える上でのわかりやすさの匙加減かもしれませんが。

 さらに、多用されている挿入句は、丸カッコ付きで入れ込まれています。それでなくても長い文章が、さらに鰻の寝床状態となって、訳が分からなくなります。

 中盤になり、聖職者とは、異端者とは、そして修道会や修道士とは何かということが、だんだんわからなくなりました。私がキリスト教に疎いからなのでしょう。それにしても、前が見えにくい物語展開です。

 上巻末尾で、ミケーレ修道士が火炙りの刑に処せられます。この場面の筆は活きています。キリスト教における罪というものや咎とは何かを考えさせられます。

 一巻の秘密の書物をめぐる犯罪は、しだいに謎を深めていきます。しかし、物語の成り行きが時々見通せなくなるので、目次にもどり、詳細な小見出しの列記を確認して、また読み進みました。

 キリストの清貧についての論争がなされるくだりがあります。これなどは、日頃からこうした宗教論議に立ち会うことのない私には、各人の発言の意図や背景がよく見えません。物語を理解するための基礎的な知識の不足を痛感しました。それが要求されるのは、異文化圏での宗教論議が内容の大半を占めていることと関係するかもしれません。
 これは、読者が作品に近づこうと努力する必要があるのか、作者が配慮すべきことなのか、考えてしまいました。特に、本作品は読者を強く意識した語り口なので、余計に思ったことです。

 下巻の中盤以降で、盲目の修道僧であるホルヘ・ダ・ブルゴスが説教を任されます。
 私は、この人物に注目していたので、このくだり以降は特に興味深く読みました。歳は80を越え、目が見えなくなって40年以上。記憶力に優れ、博識なのです。

 物語は凄惨な場面の後、神聖な写本の存在意義を考えさせます。これまでに起こった、いくつもの殺人事件はいったい何だったのか、もっと語ってほしいと思います。寂しさが残る読後感を持ちました。

 それにしても、本書は物語の中に物語が仕組まれているようです。その重層性の一端でも読み解けたら、また別の読書の楽しみが待っていそうです。そんなゆとりのないままに、急ぎ足で読むしかない自分の読書環境を残念に思います。いつかまた、3度目に挑戦するかもしれません。【2】

 本書には、巻末に翻訳者の解説がついています。その中に記された、翻訳にあたっての興味深いコメントを引きます。


 今回の訳出にさいしては、ボンピアーニ社、一九八〇年十月刊の第二版を底本とし、その後に加えられた訂正や変更を一九八六年三月刊のペーパーバック第十一版と照合し、念のため一九八九年一月の同第二十五版も座右に備えて異同を検討した。訳出の事業を引き受けてまもないころ、出版社を介して、ウンベルト・エーコから原文の訂正箇所の分厚いコピーを受け取り、それらは直ちに底本との照合を済ませたが、同時に受け取ったタイプライター印刷コピーによる「『薔薇の名前』翻訳のためのメモ」と題した、数葉の文書のほうは、もちろん、読まないことに決めた。翻訳という営為は訳者が原文と対峙して、それ以外のどこにも助けを求められないと観念したときに出発点に立つのであって、もしも他に支援を求めたり抜け道を探したりするようになれば、訳者の立場は基盤から崩れてしまい、収拾のつかないものになるであろう。(下、389頁)

 この文章を読み、あらためて翻訳とは何かを考えるきっかけを得ました。何をどう訳すか。今、私は本書の翻訳姿勢とその完成度に、大いに疑念を抱きました。このことが、日本語として読みにくい訳になっている原因ではないかと思われます。
 ドイツ語訳、フランス語訳、スペイン語訳、イギリス語訳など、多くの外国語訳ではどのように読まれているのでしょうか。また、引かれているラテン語は、どのように理解されているのでしょうか。
 再度、訳者河島氏の解説文から引きます。


 英語版は、それに比べて、非常な熱意をこめて翻訳にあたったことが窺われた。たぶん、そういう熱意の一つの現われであろう。誤訳はお互いさまとして、あまりにも多い省略箇所が目立った。編集部にざっと計算していただいただけでも、日本語版に換算すれば全篇の長さが二十ページ分は少なくなっているという。もっと少なくなるのではないか、と私は感じていた。プロローグだけでも、原文で五行、六行と脱けていたから。長いところでは、連続して二十五行、三十行という省略箇所もある。スペイン語版の出来映えは、どの程度のものか判断しかねたが、例の黄道十二宮の謎の記号(上巻、二六三ページ)が逆さに印刷されていることを編集部に教えられた。(408頁)

 翻訳における省略という、私が抱える問題が、ここからも浮上してくるのです。
 翻訳は文化の移し替えだと思っています。その意味からも、本書はさまざまな問題を投げかけています。
 そして、この『薔薇の名前』というものが、記号論のための小説だと言われている意味を、記号論をもっと勉強してから考えるとおもしろくなりそうな予感がし出しました。

 解説によると、さらに興味深いことが記されています。


 この小説は第六日を削減され、第七日はさらに削減された。
(中略)
 この小説には読み解かれたくない物語、つまり削除された物語も存在する。この作品が孕む不均衡は、何よりもそのことを窺わせる。
(中略)
 これは文学の本筋からは逸れることになるが、推理小説好きの読者のために、途絶えた糸を復活させ、試みに記しておこう。訳者の想定によれば、削除された物語の中心テーマは、僧院の覇権をめぐる争い。そのために生ずる死者は、修道僧たちのあいだからのみ出て、その数は少なくとも三名である。(415〜417頁)

 おそらく、本書に関しては多くの研究が公開されていることでしょう。このような物語の成立に関わる問題は、今後とも気をつけて見ていきたいと思います。
 
 
 

2016年8月 4日 (木)

江戸漫歩(139)有明豊洲地域を見て五輪とマンションを想う

 ギプスをはめているために歩けなくても、身体は動かすようにしています。
 近在のオリンピック施設の工事現場を、車窓から眺めました。

 有明コロシアムの周辺は、まだ手付かずです。
 正面を上下に分かつように通るのが、首都高速湾岸線です。


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 湾岸線と交差するように、東京臨海新交通臨海線が走っています。
 ちょうど上りと下りが擦れ違うところでした。
 その高架越しに、有明コロシアムの屋根が見えます。


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 ダンプカーが出入りする先には、東雲運河越しに晴海のマンション群が見えます。


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 もうすぐ、築地市場がこの豊洲地区に移転して来ます。
 今秋11月7日が、豊洲市場の開場日となっています。
 写真の右側が、着々と開場の準備が進む豊洲市場です。


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 この地域の土壌汚染の問題は未解決で、移転反対の動きも解決していません。
 さて、新都知事の小池さんは、この問題にどう対処されるのでしょうか。

 近在のマンションは、近隣の海外の人たちに投機目的で買い占められているとか。
 これから建設されるマンションも、その標的となっているのでしょう。もっとも、バブルも弾けたので、すでに売りに出されているのかもしれません。

 今このあたりでマンションを購入している人の多くは、ここに住む気はないのですから、東京五輪が終わると放出され、スラム化するというのです。

 昨夏、『2020年マンション大崩壊』(牧野知弘、文春新書、2015.8)という本を読みました。


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 そのすぐ後に、横浜のマンションで杭打ち施工に問題があり建物が傾いたことが表面化しました。
 私の知人の多くがマンション住まいなので、この『2020年マンション大崩壊』という本を、私のブログの「読書雑記」で取り上げるのは見送ることにしました。私はマンション住まいの経験がないので、余計に本書の内容を話題にしないように気を遣っています。

 参考までに、ネットによる本書の紹介文を引いて、個人的なコメントは控えます。


内容 東京五輪を前にマンション価格は上昇中。
 だがその裏で管理費や修繕積立金の滞納、相続権の拡散など多くの問題が生まれつつある。
 空室急増でスラム化する大規模マンション、高齢化で多発する孤独死、中国人に牛耳られる理事会…
 全国600万戸時代を迎えたマンションに未来はあるのか。
(「BOOK」データベースより)

 さて数年後に、東京五輪の会場となるこの有明・豊洲地域は、今後ともますます注目されることでしょう。そしてさらに数年後には、この宴の後のことも、マスコミが取り上げると思われます。

 予想できることには、今から手を打つべきなのでしょう。しかし、それ以外のことで問題が山積みなので、先のことまで考えてはいられない、というのが実情のようです。
 東京五輪の後のことを想像しながら、明日5日から始まるリオの五輪をいろいろな角度から観たいと思っています。


(注記)私は、五輪を「オリンピック」と「パラリンピック」に区分けするのは問題だと思っています。
 五輪では開催時期もずらされており、パラリンピックは9月7日から19日までの12日間です。
 わざわざ区別せずに、同じ競技場を同じ時期に使い、可能な限りプログラムの工夫をして、障害の有無にかかわらず一人でも多くの観客に応援してもらう中で競技をすればいいと思っています。
 障害の有無で選手と観客を切り離すのは、よくないことです。性差があっても、男女は同じ空間を共有し、男女が一緒に競技をしています。それなのに、なぜ障害の差は区別し、切り離されるのでしょうか。
 このことは、いつかまとめて書くつもりなので、今は措きます。

 
 
 

2016年7月22日 (金)

《仮名文字検定》2018年夏より実施のお知らせ

 一昨年より検討を重ねていた《仮名文字検定》について、検定試験の準備が整いましたのでその実施概要を公表します。

 今から2年後(2018年)の夏に第1回を実施します。
 近日中に公開するホームページを、おりおりにご確認ください。
 
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■《仮名文字検定》実施概要■

         (2016.7.22 公表)

◎主催
 仮名文字検定委員会

◎協力
 株式会社 新典社
 NPO法人〈源氏物語電子資料館〉

◎仮名文字検定 事務局
 〒101-0051東京都千代田区神田神保町 1-44-11 新典社ビル
 Tel 03-3233-8054(10:00〜12:00 および 13:00~17:00、土・日・祝日を除く)
 ・問い合わせ用メールアドレス:
    info@kanakentei.com
 ・公式ホームページ(近日公開):
    http://www.kanakentei.com/

◎検定趣旨
 《仮名文字検定》は、平安時代から伝わる平仮名を幅広く学び、その運用能力を高め、日本の古典文化を継承する中で、日本語の読解と表現世界を豊かにすることを目的として実施するものです。
 日本古典文学における中古・中世の時代に普及していた数多くの仮名文字が、広く一般的にその習得の意義を再評価されるようになりました。日本文化の理解を深め、文化資源としてさらに身近なものにするためにも、《仮名文字検定》の必要性が求められる時代が来たといえるでしょう。
 現在私たちが使っている平仮名「あいうえお〜」は、明治33年に1書体に制限され統制されてからのものです。それまでは、多くの仮名文字が使われていました。現行の「平仮名」以外を「変体仮名」と呼び、昭和初期までは普通に流通していたものです。
 日本の古典籍や古い印刷物には、さまざまな書体の仮名文字を用いた文章が記されています。今でも、博物館や資料館のみならず、街中の書道展や看板などでも、変体仮名をよく見かけます。
 明治時代後半から使わなくなってきた変体仮名が、日本文化の見直しと再発見の中で、新たに注目を集めるようになりました。「国際文字コード規格」(ユニコード化)に登録するために「学術情報交換用変体仮名」が提案され、国際的な場で承認に向けて審議が進んでいることは、変体仮名の再認識を促し新たな活用が期待できるものだといえます。
 多彩な文字をちりばめて表現された、見た目にも美しい仮名文を読んで理解する能力を高めませんか。変体仮名を使った楽しい遊びの空間に身を置くこともできます。時代を超えて情報と気持ちを交わす技術を習得する上で、この《仮名文字検定》を豊かな日本文化の理解と継承の鍛錬道場として活用していただくことを望んでいます。
 なお、《仮名文字検定》では、点字と立体文字が触読できる視覚障害者も受験できる体制を用意しています。

◎検定内容
 仮名文字に関する知識と読解力を問う

◎検定開催年月日
 年1回8月末開催
 第1回は2018年8月末
 (第8回 日本文学検定と同時開催)

◎開催場所
 東京・京都

◎受験料(個人受験・団体受験・学割・再受験)
 4,900円(学割・再受験 4,600円)(税込)

◎受験資格
 学歴・年齢その他制限なく、どなたでも受験できます。
 ※ 視覚障害者は、点字と仮名文字の触読による受験ができます。

◎受験時間
 60分

◎合格基準
 新人級:60%以上の正解
 玄人級:70%以上の正解
 達人級:90%以上の正解
 ※ 試験で獲得した点数により、各級が決定される方式。

◎問題形式
 全50問筆記

◎公式テキスト
 『仮名文字の達人』
  (A5判・192頁・本体1500円・新典社発行・2017年12月末)
 〈目次〉(案)
   1 仮名の歴史と書道史(高城弘一)
   2 仮名の字母の基礎知識(伊藤鉄也)
   3 読み・書き・連綿の知識(田代圭一)
   4 未来の仮名文字活用法(高田智和)
   5 視覚障害者の触読実践(渡邊寛子)

◎申込み方法
 クレジット(公式ホ一ムページ)
 郵便振替(リーフレット付載)

◎関係者(敬称略、50音順)
・監修者:高城弘一(大東文化大学)
     高田智和(国立国語研究所)
     田代圭ー(宮内庁)
     渡邊寛子(福島県立盲学校)
・協力者:淺川槙子(国文学研究資料館)
     須藤圭(立命館大学)
     畠山大二郎(愛知文教大学)
・企画運営総括:伊藤鉄也(国文学研究資料館)
 
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2016年7月17日 (日)

「点字付百人一首〜百星の会」に初参加の感想など

 昨日の、「点字付百人一首 〜百星の会」による「香りのワークショップ&かるた会」に関する続きです。

 初参加の田中圭子さんと尾崎栞さんから、今回のイベントの感想をいただきました。
 多くの方に「点字付百人一首~百星の会」の活動を知っていただき、また目が見えない、あるいは弱視の方々へ参加のお誘いの意味も込めて、ここに紹介します。
 
 田中さんから。


百星の会では、百人一首を通じて多くの方が古典文学の世界や古代史に関心をお寄せになっていらして、素敵だなあと感じました。
年齢や性別に関わらず、誰もが夢中になれる道具とルールを考案なさったのは本当にすごい。
お互いに一枚の札を争うような段階になれば、相当白熱するでしょうね。
ルールやテクニックが今後ますます洗練されて、高度かつ白熱した対戦が可能になる頃には、皆さん、空手などの試合で使用する防具(マスクや手指のサポーター等)を使用なさっていらっしゃるかしれません。
それは美的によろしくなさそうですが、一層の御精進をお祈り致しております。

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 尾崎さんから。


田中先生のお話、大変興味深く、印象に残っております。
お香をこねるという大変貴重な体験をさせていただき、大感激です。
機会がありましたら、もっと詳しいお話を伺いたいです。
百人一首かるたも人生初体験でした。
点字のかるたがあるなんて、すてきだと思います。
かるたを触ってみると、会員のみなさまが一丸となって試行錯誤しながら作られたご様子が伺えました。

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 田中さん、尾崎さん、ありがとうございました。
 かるた会にお誘いした甲斐がありました。

 「点字付百人一首」の札を取り合っておられる場に身を置くと、日本の伝統的な文化が思いがけないところで、意外なかたちで共有されていることに気付かされます。
 『百人一首』を通して、これまでつながりのなかった方々とお話もできるのです。
 文化の共有というと、何やら難しく思われることでしょう。
 目が見えない方々と一緒に、和歌のことや、古代の人々のことや、競技の歴史のことを話すことは、日本社会の背景にある物や文化を実感することにつながります。
 もっと楽しさを分かち合える集まりにしようと奮闘努力なさっている関場理華さんたちの、ますますの創意工夫と活躍が楽しみです。

 社会に対して、あまりお役に立たっていないと言われる日本文学の中でも、古典文学はさらに魅力を訴える必要性があることを感じています。
 「百星の会」の活動を知り、渡邊寛子さんや尾崎栞さんと一緒に立体文字の変体仮名を読み進める中で、お役に立つ国文学があることに遅ればせながら気付きだしました。
 自分の問題としては、科研やNPO活動を通して、日本の古典文学を触読する環境作りを進めていきたいと思います。具体的には、指と耳で『源氏物語』の古写本を読むことへのチャレンジです。
 さまざまな困難な状況に身を置いておられる方々と、古人が書き記した文字を一緒に楽しもうという活動を、牛歩ながらも続けていくつもりです。
 
 
 

2016年7月16日 (土)

お香体験の後にカルタが飛ぶ「点字付百人一首 〜百星の会」

 先日お知らせした通り新宿区社会福祉協議会で、「点字付百人一首 〜百星の会」が主催する「香りのワークショップ&かるた会」が盛会の内に開催されました。60名が集う、賑やかで和やかな中にも熱気溢れる会でした。


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 会場に入るなり、運営しておられる関場さんから新しい道具を見せていただきました。「視覚障害者用(音声ペン i-Pen)」というものです。


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 これは、まず音声を録音してドットシールというものを作成します。そして、それをカルタに貼って、そのシールを i-Pen でなぞると、録音した音声がスピーカーから流れる、というものです。これは、『百人一首』を覚えたり、どのカルタがどこに並んでいるかを知るのに重宝します。

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 私はすぐに、『源氏物語』の写本を立体コピーで触読する時に、手助けしてくれる道具として活用できることに思い至りました。障害者でなくても1万円ほどで入手できるそうなので、後日手に入れ次第に実験してみます。

 さて、お香のワークショップの前に、百星の会の有志によって、本日のテーマであるお香の名手藤原公任の理解を深める寸劇が披露されました。点字の台本やブレイルメモなどを手にしての熱演でした。
 完成度が高いものだったので、これは全国公演ができます。関係者のみなさま、実現に向けて検討してください。

 田中圭子さんの薫物のワークショップは、その語りの当意即妙と言うべき軽妙さもあって、みなさんも興味を深めておられました。質問も多く、関心を抱かれたことがよくわかりました。
 事前に公開した難しい説明は、以下の記事にゆずります。

「「点字付き百人一首」とお香のワークショップのご案内」(2016年07月14日)

 また、田中さんの研究内容は、ご著書『薫集類抄の研究』(三弥井書店)をお目通しいただければさらに理解が深まると思います。


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 福島県立盲学校の渡邊寛子さんが、田中さんのアシスタントをしてくださいました。
 田中さんは広島県から、渡邊さんは福島県からと、北と西から遠来のお客人も集っての、これ以上にないすばらしいパフォーマンスが展開したのです。

 各テーブルに配られた「紅梅」「黒方」「梅花」の粉末を嗅ぎ、それぞれの香りの違いを体験しました。


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 私は、妻と共立女子大学の尾崎さんと一緒に参加しました。今日はお客人として大いに楽しませていただきました。
 また、日比谷図書文化館で翻字者育成講座に参加なさっている方も参加なさっていました。以前、デージー教材の仕事をしていたとのことで、意外なつながりに嬉しくなりました。

 実際にお香に蜜を混ぜたものを練って、正露丸のような玉を各自が作りました。自分の手で黒い玉を丸めたことの感動が忘れられない、と後でみなさんがおっしゃっていました。目が見えないからこそ、なおさらのことだったようです。

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 そして、丸めた練り香を実際に焚くことで、また違う香りの世界に誘われました。


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 すばらしい感動的な時間を、みなさんと共有できたことは、参加者全員がすばらしい思い出となったようです。田中さん、すばらしいパフォーマンスをありがとうございました。

 引き続き、「点字付百人一首」によるカルタ取りとなりました。
 今回は、本邦初となる新開発の「決まり字相対台」と「ちはやふる台」という、まだ仮称ながらも画期的なカルタ取りの手法が試行されました。

 次の写真は、左上がこれまでの点字付きのカルタです。そして右下が「決まり字相対台」と呼ぼうとなさっているものです。これは、弱視の方や前出の「視覚障害者用(音声ペン iPen)」を活用した対戦を想定してのものです。
 カルタには、大きな文字で『百人一首』の決まり字までの数文字が書かれており、それに対応する点字が貼り付けられています。


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 さらに「ちはやふる台」というのは、上級者がカルタを飛ばすことを想定してのものです。映画「ちはやふる」が大いに影響しています。
 今日は、2人の達人が対戦し、みごとにカルタを左右に飛ばして取っておられました。その迫力たるや、本当に目が見えないのかと不思議に思うほどの早業でした。

 次の写真は順に、(1)男性が手前の札を取るところ、(2)女性が瞬きをする間もなくカルタを飛ばすところ、(3)同時に手を飛ばしたところです。

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 (3)の同時に手が飛んでいる勝負は、女性の方の勝ちでした。早さから言えば男性の方が早かったのです。しかし、距離を勘違いされ、1段下の札を飛ばされたのです。女性は正確に正しい札を飛ばしておられます。
 目にもとまらぬ早業とは、まさにこのことをいうのです。しかも、全盲の方が……

 後で上級者は、本当に札が飛んでいるのか不安で、何回も机を叩いたとおっしゃっていました。しかし、実際には特別な布が敷かれているので、強く叩くと逆に飛ばないのです。優しく飛ばす、という高度な技術が求められる上級者の試合でした。

 今回は、全日本かるた協会の松川英夫会長(永世名人)が会場にお越しになっていて、最後にあいさつをなさいました。

 さまざまな方々のご理解とご協力の中で、この「点字付百人一首」が続いています。百星の会の運営をなさっている関場さん、ますますの盛会となることをお祈りしています。私も、今後ともお手伝いをさせていただきます。
 参加される人数が増えると、さらに楽しいことができるのでうれしくなります。
 大いに盛り上げていきましょう。
 8月末の栃木県での夏季合宿も、多くの方に声掛けをしてみます。
 
 
 

2016年7月14日 (木)

「点字付き百人一首」とお香のワークショップのご案内

 開催直前の案内となりました。
 以下の通り、「点字付百人一首 ~百星の会」が主催する「香りのワークショップ&かるた会」が開催されます。

 会員ではない方で参加を希望される場合は、「点字付き百人一首 〜百星の会」の事務局を運営なさっている関場理華さん(r-sekiba@tenpitsu.com)に連絡をとってください。

 また、目が不自由な方やお知り合いの方でこのことに興味をお持ちの方がいらっしゃいましたら、こんなイベントがあることをお知らせいただけると幸いです。
 貴重な体験の場を共有できると思います。

 なお、あらかじめ連絡がとれないままにお越しいただいた場合には、会場にいる私にお声掛けいただければ、人数によってはご覧いただけることも可能かと思います。
 


日時:7月16日(土)午後1時より
場所:新宿区社会福祉協議会 交流コーナー
ワークショップ:「香り名人の百人一首の歌人・藤原公任の香りを再現する」
講師:田中圭子(広島女学院大学総合研究所・客員研究員)
内容:以下に引用する文章を参照願います。
   読みにくい固有名詞などには、読みがなが付いています。
   パソコンの読み上げ機能でお聞きいただけます。

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「点字付き(てんじつき)百人一首 〜百星の会(ひゃくぼしのかい)」でのイベントにおける薫物(たきもの)のワークショップについて


 
    田中(たなか) 圭子(けいこ)
   (広島女学院大学総合研究所・客員研究員)
 
■ 概 要 ■

 平安中期に活躍した公卿(くぎょう)・藤原公任(ふじわらのきんとう)は、清慎公(せいしんこう)実頼(さねより)二男廉義公(れんぎこう)関白太政大臣頼忠(よりただ)と中務卿代明親王(よあきらしんのう)女(じょ)厳子(げんし)女王の一男として誕生。
 同母姉妹に円融院太皇太后四条宮遵子(しじょうのみやじゅんし)と花山院女御諟子(しし)があります。名家の嫡子として将来を嘱望されながら、人臣の位を極めることは叶いませんでしたが、学問芸道の分野において幅広く活躍して優れた成果を残し、高く評価され続けています。

 公任集(きんとうしゅう)の和歌や詞書によれば、公任父(きんとうちち)頼忠(よりただ)は薫物(たきもの)梅花(ばいか)を調合しており、知友との私的な交わりの中で珍重されたようです。公任(きんとう)自身も薫物(たきもの)を調合し、それにちなんだ和歌とともに贈答に及んだとされるほか、姉妹とともに調合や賞翫を楽しんだり、姉妹に献上したりすることもあったとされます。
 事実であるとすれば、頼忠家(よりただけ)では、薫物(たきもの)に関する父の嗜好と手法が子息子女にも受け継がれ、趣味として共有された可能性が伺えます。

 公任(きんとう)ゆかりと伝わる薫物(たきもの)の伝承は、平安後期以降の類纂と伝わる薫集類抄(くんしゅうるいしょう)を始めとして、鎌倉時代の初期から後期にかけて増補加筆の行われたとされる源氏物語古注釈書原中最秘抄(げんちゅうさいひしょう)、南北朝期の年号による跋文をとどめて鷹司家や壬生家に伝来した薫物(たきもの)秘伝書の薫物方(たきもののほう)に散見します。
 また、近年の調査において、京都大学附属図書館菊亭(きくてい)文庫の薫物(たきもの)秘伝書の薫物秘蔵抄(たきものひぞうしょう)一巻に、後徳大寺左府書(のちのとくだいじさふしょ)逸文として公任(きんとう)卿方こと公任(きんとう)ゆかりの薫物(たきもの)の処方七点の載録されることも確認しています。

 後徳大寺左府書(のちのとくだいじさふしょ)逸文の内、一部の薫物(たきもの)方は薫集類抄(くんしゅうるいしょう)載録の公任(きんとう)方と同じ種類であり、処方の内容もおおむね一致します。後徳大寺左府(のちのとくだいじさふしょ)こと藤原実定の所持した文書であったとすれば、既存の資料に確認できる公任(きんとう)方の中で最も古いと目される薫集類抄(くんしゅうるいしょう)載録方と、同時代に読まれていた可能性があります。

 今回は、新出資料である後徳大寺左府書(のちのとくだいじさふしょ)逸文に公任(きんとう)ゆかりの品として伝わる6種類・7点の薫物方(たきもののほう)の内、公任(きんとう)と小野宮家(おののみやけ)の薫物(たきもの)の真髄をくみ取るにはふさわしい種類と考えられます黒方(くろぼう)及び梅花(ばいか)の2種類・2点の薫物方(たきもののほう)を、この分野の専門家であられる鳩居堂製造株式会社社長(きゅうきょどうせいぞうかぶしきかいしゃしゃちょう)熊谷直久(くまがいなおひさ)氏と同社の皆さまのお力により調合、復元してお持ちしました。

 また、この逸文の冒頭脚欄の余白において記載されている、室町時代以降に隆盛した新作薫物(しんさくたきもの)の一種であります紅梅(こうばい)の処方も復元いただきました。

 会場では、粉末にした香料を和合した中に蜜を混ぜて練り合わせ、少量を手にとって丸がして(まろがして)いただいた後に、香炉に入れてたき匂わせる(たきにおわせる)予定です。

 公任(きんとう)が自ら工夫した可能性のある薫物(たきもの)と、後世の人々が公任(きんとう)という稀代の才人に寄せて継承、賞玩したかもしれない新作薫物(しんさくたきもの)それぞれの香りや手ざわりをご鑑賞いただきながら、公任(きんとう)その人の歌と心に思いをはせるひと時を共有できましたら、何よりありがたく存じております。

■薫物のレシピ■

 ワークショップで使用する薫物(たきもの)の処方(レシピ)をグラムに換算してご紹介します。
 
1 黒方(くろぼう)
薫陸(くんろく) 3.1
麝香(じゃこう) 6.2
白檀(びゃくだん) 3.1
甲香(かいこう) 12.5
丁子(ちょうじ) 25
沈香(じんこう) 50
 
2 梅花(ばいか)
沈香(じんこう) 53.1
甲香(かいこう) 18.7
甘松(かんしょう) 1.0
白檀(びゃくだん) 4.35
丁子(ちょうじ) 21.6
薫陸(くんろく) 1.5
 
3 紅梅
沈香(じんこう) 37.5
丁子(ちょうじ) 15.6
白檀(びゃくだん) 19.7
甘松(かんしょう) 7.2
霍香 3.1
甲香(かいこう) 12.5
龍脳(りゅうのう) 0.5
麝香(じゃこう) 9.3


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2016年6月21日 (火)

エレベータの開閉ボタンは今のままでいいのか?

 エレベータでのことです。

 後から急いで乗り込んで来られる方がいらっしゃった時、とっさにドアの開閉ボタン【開く】を押したつもりが、うっかり【閉まる】を押したことが何度もあります。これは、私はもとより、妻もよくやるので、少なくとも我々2人に関しては、あのボタンに付いている開閉マークは視認性が低く、混乱するだけのものだと思っています。瞬時に意味がわかるアイコンになっていないという点では、問題があるのではないでしょうか。再検討すべきです。

 ユニバーサルデザインである以前に、記号として不適当なデザイン画だと思っています。あの絵の意味するものが、すぐに共有できないのですから。
 ただし、今も全国で使われているので、それなりの役にはたっているのでしょう。
 いまさら変えられない、ということもあるのでしょう。
 そもそも、平仮名を添えないといけない状態にある、ということからして不完全なアイコンなのです。平仮名は、海外からお越しの方々への配慮なのでしょうか。日本人にもアイコンが視認され難いことが明らかになったことから、平仮名を添えることになったと思われます。
 以下に列挙する開閉ボタンの写真が、そうした実体を物語っています。

 あのボタンに付いている絵文字は、人間の感覚を錯乱させるものではないのか、との思いから、これまで折々に写真に収めてきました。
 そこで、撮り溜めて来た数百枚の写真から、ここにそのいくつかを例として揚げて、別の絵文字のアイコンに変更すべきであることを問題提起したいと思います。
 併せて、表記や表示場所の統一に関しても、判断材料を提供していきます。

 まず、手元に集まっているエレベータの開閉ボタンの写真を、いくつかに仕分けをして整理してみました。
 これは、あくまでも私が歩いた範囲で集めた開閉ボタンです。
 また、エレベータの中は狭い空間なので、写真が取り難いことが多いのです。ピンボケとなっているものが何枚もあります。点字などは、1つの点が2つに見える例がありますので、ご注意願います。

 以下の走り書きのコメントも、時間があれば丁寧に記したいと思っています。
 取り急ぎの中間報告であり、当座のメモとして記したものです。
 ご意見や情報、そして写真の提供などをいただけると幸いです。


   【現時点での、エレベータの開閉ボタンに関するまとめ】
(1)「漢字」か「平仮名」か「絵文字」かの統一が必要
(2)「漢字」の「開 閉」は共に門構えの文字なので、とっさの視認性が悪い
(3)「平仮名」の表記は、「ひらく とじる」か「ひらく しまる」のどちらかに統一を
(4)「絵文字」のデザインは、統一か刷新が必要
(5)「点字」を開閉ボタンの上下左右のどこに添えるかは、早急に統一を
(6)「点字」表記は、「ひらく とじる」「ひらく しまる」「あけ しめ」のいずれかに統一を
(7)応急処置である「アルミ印字プレート」や「ラミネート印字テープ」は剥がれやすい
(8)ボタンの背景の色分けは、「ひらく」は緑色、「とじる(しまる)」は黒色が一般的

 
 

(1)絵文字だけ(日本語も点字もない)


 

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 古いエレベータによくある押し間違えやすいタイプです。
 
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 この絵柄が圧倒的に多かった旧タイプです。
 
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 人物を加えて視認性の悪さを軽減させようとした少数派の絵柄です。
 
 
 

(2)漢字だけ


 

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 丸型ボタン
 
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 角型ボタン
 
 
 

(3)平仮名だけ

 未確認
 
 
 

(4)絵文字と平仮名

 未確認
 
 
 

(5)絵文字と点字


 

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 点字(「あけ」「しめ」)が上にあります。
 
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 点字(「あけ」「しめ」)が絵文字の左右にあります。
 
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 点字(「あけ」「しめ」)が絵文字の左側にあります。
 
 
 

(6)絵文字・平仮名・点字の3種類


 

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 点字(「あけ」「しめ」)がボタンの左右にあり、平仮名(「ひらく」「とじる」)が絵文字ボタンの上にあります。
 
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 点字(「あけ」「しめ」)がボタンの左側にあり、平仮名(「ひらく」「とじる」)が絵文字ボタンの下にあります。
 
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 点字(「あけ」「しめ」)が絵文字ボタンの左側にあり、平仮名(「ひらく」「しまる」)が絵文字ボタンの上にあります。「開延長」(点字は「ひらき つづく」)というボタンは役立つものだと思います。
 
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 この2枚の写真は、同じエレベータ内のものです。点字(「あけ」「しめ」)が絵文字ボタンの上か左にあります。点字を貼る位置は統一してほしいところでした。平仮名で「ひらく」だけが絵文字ボタンの下に貼られています。閉まるボタンにシールが貼られていないのは、前例の開くだけの使用を意識したものでしょう。
 
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 点字(「あけ」「しめ」)が絵文字ボタンの左側にあり、平仮名(「ひらく」「とじる」)が絵文字ボタンの下にあります。
 
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 点字(「あけ」「しめ」)が上に貼り付けてあり、平仮名(「ひらく」「しまる」)が絵文字ボタンの中の下にあります。
 
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 点字(「あけ」「しめ」)が絵文字ボタンの上にあり、平仮名(「ひらく」「しまる」)が絵文字ボタンの下にあります。
 
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 点字(「あけ」「しめ」)が絵文字ボタンの左横下にあり、平仮名(「ひらく」「しまる」)が絵文字ボタンの左横上にあります。
 
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 点字(「あけ」「しめ」)が上に貼り付けてあり、平仮名(「ひらく」「とじる」)が絵文字ボタンの中の下にあります。このエレベータには、さまざまな工夫が施されていました。
 ボタンを押しやすくするために手を支えるアルミの小さなプレートがあり、さらには聴覚障害者のためのボタン「耳マーク」もあります。本年4月より施行された障害者差別解消法を強く意識したものかと思われます。
 
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 点字(「あけ」「しめ」)が上にあり、平仮名(「ひらく」「とじる」)が絵文字ボタンの中の下にあり、さらに浮き出た絵文字がボタンの左上に付いています。
 
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 点字(「ひらく」「しまる」)が絵文字ボタンの上にあり、平仮名(「ひらく」「しまる」)が絵文字ボタンの中の下にあります。点字と平仮名が同一語となっているのです。これが一番自然な表現ではないでしょうか。

 
 
 

(7)漢字とひらがな

 未確認
 
 
 

(8)漢字と点字


 

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 点字(「ひらく」「とじる」)が下にあります。
 
 
 

(9)漢字とひらがなと点字

 未確認
 
 
 

(10)たまたま海外で見かけたもの


 

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・スペイン:マドリッドのホテルで見かけました。【開】の意味の絵文字ボタンだけで、【閉】のボタンはありません。これは、近年日本でもよく見かけます。下部のシンドラー社名の両側に、ネジの頭が潰れたものが写っています。プラスとマイナスのネジなので、おもしろいと思いました。同じネジがなかったのでしょうか。
 
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・インド:ニューデリーの地下鉄で見かけました。【開・閉】の絵文字が浮き出ていて点字付きです。点字がぼやけていて、二重に見えます。点字は英語で「close」「op?」。開閉ボタンが日本とは左右逆です。インドの自動車は、イギリスや日本と同じ右ハンドルです。どなたか、イギリスのエレベータの開閉ボタンの写真をお持ちではないでしょうか。)
 
 
 

2016年6月18日 (土)

刺激的だった「第3回 古写本『源氏物語』の触読研究会」

 今日は、私が主宰する2つの研究会を、同じ会場で午前と午後に分けて開催しました。


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 プログラムは、予告したように以下の通りです。


(1)挨拶(伊藤鉄也)
(2)2015年度の研究報告(伊藤鉄也)
(3)2015年11月から2016年6月までの活動報告(関口祐未)
(4)研究発表「視覚障碍者による絵巻研究の方法」(尾崎栞)
(5)研究発表「日本語漢字不可欠論再検討
    〜漢字がないと同音異義語でこまるのか?〜」(中野真樹)
(6)研究発表「触文化研究の課題と展望
    ―「無視覚流」の極意を求めて」(広瀬浩二郎)
(7)共同討議(質疑応答、用語確認と実験方法など、参加者全員)
(8)連絡事項(関口祐未)

 全体の内容等については、後日ホームページ(「古写本『源氏物語』の触読研究」の「研究会報告」でお知らせします。今少しお待ちください。

 さて、本日の研究会も、刺激的な内容に満ちた2時間となりました。昼食を兼ねた懇親会を含めると4時間もの長きにわたり、みんなで語り合いました。

 研究会が始まる前から、触読の話で盛り上がっていました。

 右利きと左利きで、点字を読む効率に差があるのか、とか、人間の人差し指は脳の神経支配と関連していること。
 変体仮名が読めているかどうかを判断するのには、資料を模写してもらうとよい、ということでした。この指摘は、現在進行している調査と実験実証において、さっそく実際に取り入れたいと思います。

 4人の全盲の方が参加されていたこともあり、ご自身の実体験を踏まえた具体的な事例を元にした情報交換会となったので、貴重な勉強の場となりました。


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 私は、点字を読むことと墨字を読むことの意義について、あらためて考えさせられました。
 また、文章を解釈する上で、目が見える人と見えない人で違いがあるとしたら、どのような解釈の違いが認められるか、というテーマにも挑戦すべきです。
 作者が言いたいこと、伝えたいことの核心を、見えない人がより的確に読み取ることもあるように思われます。この、思われます、という点を検証する必要がある、と思いました。

 触読に関する調査研究は、まだまだ可能性があります。
 今後の成果を楽しみにしてください。
 
 
 

2016年6月13日 (月)

今週末の触読研究会での尾崎さんの報告内容を公開

 今週18日(土)に開催される第3回「古写本『源氏物語』の触読研究会」(2016年06月10日)に関連するお知らせです。

 発表者の一人である尾崎栞さんの発表原稿である「視覚障碍者による絵巻研究の方法」を、当該科研のホームページ「古写本『源氏物語』の触読研究」の「研究報告」からPDFで公開しました。

 尾崎さんが報告する内容は、目が見えない方や関係する方々に、一日も早くお知らせする価値があると思ったことからの対処です。障害をお持ちの方々と一緒に、元気や希望や夢を共有する上で、意義深いものだと思います。
 さらには、私が推進する【古写本の触読研究】に広く興味を持っていただきたい、との思いを後押しするものとなっています。

 尾崎さんは共立女子大学の学生さんなので、発表することから報告内容の公開までは、指導に当たっておられる先生のご理解をいただいています。多くの視覚障害者に刺激を与えることができる報告だとの思いを共有する中で、この内容を公開することに至りました。

 なお、インターネットに接続する環境はさまざまです。
 上記科研のホームページからはPDFで公開しました。
 しかし、それはA4版2段組みなので、スマートフォンはもとより携帯電話では読み難いかと思われます。そのことを考慮して、以下、ここではテキストで引用しています。
 PDFでご覧いただける方は、まったく同じ内容なので、以下はパスしていただいて結構です。
 



視覚障碍者による絵巻の学習方法

  共立女子大学文芸学部 文芸学科       
  日本語・日本文学コース(四年生) 尾崎 栞


    はじめに

 現在、視覚障碍者が日本美術史や古典文学を研究しようとした時、その方法は確立されているとは言い難い。視覚的な情報を一切得る事ができない中で、美術史や古典文学をどのように学び、研究していくべきなのか。私は大学入学直後から常に考えてきた。視覚的な部分を補う方法を模索し続けた結果、触察が有効であるという事が徐々に分かってきた。というのも、ふだん点字を使っている私は指先で何かを触る行為に非常に慣れており、何より点字は指で読んでいるから、それを応用する形で文字や絵を触察する事も可能だと考えたのである。

 触察と言う方法を用い、大学の先生や助手さんのご協力の元、一年次から目標としていた絵巻研究に、四年生になった今本格的に取り組んでいる。その方法を確立してきた過程を、当事者の視点から記録として記しておきたい。

 なお、絵巻の詞書や絵を立体化するまでの記録は、『平成26年度総合文化研究所助成「変体仮名教材作成の研究︱文学作品を中心に︱」に関する報告』(共立女子大学・共立女子短期大学 総合文化研究所紀要 第22号2016年、代表者 岡田ひろみ)を参考とした。

    一 絵巻研究をしようと思った経緯

 まず、私がなぜ絵巻に興味を持ったのか、そのきっかけを簡単に記しておきたい。

 私は大学に入学して初めて、日本美術史と言う学問領域がある事を知った。仏像や寺院、絵巻や曼荼羅など、制作された時代背景、作者、作品の特徴に至るまで、まだ分かっていないものはあるとはいえ詳細に研究されており、初めて知る事ばかりだった。そのような中で、どうしたら作品の形を覚える事ができるのか、という問題が生じた。美術史を勉強しようとするとき、作品の名前を覚える事は必須であり、作品を見て作品名と一致しなければ話にならない。もちろん作品名だけでなく制作年代も覚える。しかし私の場合、作品名や制作年代を覚える事はできても、肝心の作品の姿形が把握できないので、なかなか学習方法を?めずにいた。

 そんな時、授業中に先生がパワーポイントに映し出した作品を、スクリーンを引き出す棒でなぞってくださった。私はその音を聞いて、持っていた紙に作品の形を書き写した。授業後に先生に見ていただくと、ほぼ正確に作品の形を書き取れている事が分かり、この方法で作品の形を把握していく事にした。自分なりの勉強方法が分かった事で、日本美術史に対する興味は徐々に高まって行った。

 そして絵巻と出会ったのである。元々私は、日本の古典文学が好きだった。そこに絵が付属する絵巻物を初めて見た時の衝撃は、すさまじいものがあった。その時は「源氏物語絵巻」の画像とレプリカを見たのだけれども、文字だけでは表せないような世界観が絵によって一気に広がったように感じたのである。実際は見えていないにもかかわらず、絵巻の持つ強大な世界観に魅了されたのである。卒業論文では絵巻を取り上げたいと考えるきっかけとなった出来事だった。今となって思えば、自分が実際に目で見る事ができないからこそ、中身が気になり、いったい何がどのように描かれているのか明らかにしたいと考えたのであろう。

 とにかく、この出来事がきっかけとなり、絵巻研究がしたいという思いが生まれ、実現に向けて研究方法を模索する事になったのである。

    二 変体仮名の触読

 二年次の授業で、私は変体仮名の触読に取り組むこととなった。『首書源氏物語 夕顔巻』(和泉書院)をテキストとし、変体仮名を読めるようになるべく晴眼者の学生と共に、触読に挑戦したのである。この授業は私が所属する日本語・日本文学コースの必修科目であり、当時は絵巻研究をやりたい気持ちはあったものの、具体的なイメージが?めなかった。そのため、絵巻研究がしたいから変体仮名の触読に挑戦したというより、所属コースの必修科目に変体仮名を読む授業があったから挑戦したという方が正しい。私は変体仮名について知らなかった。つまりまったくの初心者だったのである。

 そのことを考慮した上での変体仮名の触読教材が、日本語・日本文学研究室で制作されていた。以下に教材制作に関して詳細に記した咲本英恵先生の「視覚障碍者向け変体仮名学習テキストの作成について」を引用する。

 テキスト作りの第一の問題は、文字の大きさであった。授業では、和泉書院が出版しているA5版の『首書源氏物語』を用いたが、この作品は、前述のように上下を半分に分け、上半分に古注釈本文、下半分に『源氏物語』本文が載る。本文部分には12行×18文字、およそ216文字の変体仮名が詰め込まれていて、頭注はさらに文字が細かい。そのまま立体印刷しても、文字が小さすぎて指が文字を判断できないから、拡大コピーをする必要がある。どれだけ拡大すればよいのかも見当がつかなかったから、ともかくまずは本文の半分の分量にあたる6行を、A3版に収まるくらいに拡大した。また、テキストの膨大化を避けて、授業で最低限必要な本文部分のみを立体化することにした。

 作業は試行錯誤である。本文の半分の分量にあたる6行をきりとり、倍率を変えて何パターンか拡大コピーする。採用したのは、6行を倍率400%、A4サイズに拡大コピーし、そのA4サイズの本文を、さらにA3サイズに拡大したものである。また、本文の翻刻は10.5ポイントで作り、同じく6行を倍率200%でB4サイズにし、それをさらに倍率150%に拡大、さらにA3版に拡大した。

 次の問題は、文字の触読のしやすさにあった。小さい文字を拡大すれば、文字の輪郭はがたがたになり、直線はぼやけてしまう。それが「あ」や「ま」「め」など、交差する箇所の多い文字の触読を特に困難にさせた。また、コピー台が汚れていたために紙に無駄な点や線や影がカプセルペーパーに印刷され、立体印刷機によって浮かび上がったそれらが触読の邪魔をした。そこでカプセルペーパーに印刷する以前の拡大版テキストの文字を、輪郭を太ペンでなぞりあるいは修正液でけずることでなめらかな直線や曲線を持つ字に変え、文字のほかに余計な黒点や線がついていれば、それも修正液で消した。コピー機の印刷台の汚れもふき取った。(90〜91頁)

 このような手順で制作された教材を用い触読をした。授業中はTAの方がつきサポートをしていただいた。例えば、書き順は指を持って文字をなぞり教えていただいた。仮名字典を引く際もサポートをしていただいた。だが、そう簡単には読めるようにはならなかった。私は一五歳の時に失明したいわゆる中途失明者なので、もともと平仮名や漢字を読み書きしていた素養がある。そのため、平仮名に形が似ている「ひ」や「し」「の」などはなんとか読むことができた。しかし、その他の文字についてはなかなか触読することができなかった。また、仮名字典から該当する文字を探す事も困難であった。その問題は字母である漢字の下に「阿部のア」などと書いた点字シールを貼り、瞬時にその漢字が何であるかを分かるようにした。また、文字ごとにテープを貼り簡易的な枠組みを作り、文字を探しやすいようにする工夫をした。この工夫はとても効果的で、仮名字典から該当する文字が探しやすくなったので、触読の効率が飛躍的に上がった。

 しかし、やはり授業を一人で受ける事は最後までできなかった。他の受講生は読みながら、その場で翻刻をしていく。しかし私の場合、触読する事に精一杯でその場で翻刻して書き取ることはできなかったため、授業後にTAの方にメールで送ってもらっていた。その際は漢字の部分は「 」で囲い、点字で書いた時に分かりやすいようにしてもらっていた。このような工夫をしながら、私は半年間講義を受講した。

 授業の回を重ねる毎に触読に慣れ、読める文字が増えてきた。私の場合、一つの文字を空書きできるようになるまで繰り返し触る事で、文字の形を覚えていった。もちろん多くの時間を費やすことにはなった。しかし、読めたときの喜びは大きかった。その喜びは単に変体仮名が読めたことだけではなく、目の見える晴眼者の学生と同じ文字が読めたことに対するものだった。

 点字は視覚障碍者にとって大変画期的で便利な文字である。しかし、一般に普及しているとは言えず、盲学校を卒業すると読める人に出会う事は少ないのが現状であろう。もちろん私の通う大学には点字を読める人は一人もいない。そのため、私は孤独を感じていた。自分が書いた文字も誰にも読んでもらえないことはもちろん、配付される資料もその場では読む事ができない。そんな状況下で、変体仮名を立体印刷することで、晴眼者と同じ文字を読むことが可能になった。咲本先生も先のレポートで述べておられるように、立体化した変体仮名はそういった観点から見ると、ある意味で〔平等〕な教材なのではないだろうか。

    三 視覚障碍者による絵巻の学習方法

 以上のように、私は江戸時代に使われていた変体仮名をほぼ触読できるようになった。これを応用する形で、三年次には共立女子大学図書館所蔵「竹取物語絵巻」を取り上げた授業を履修し、共立女子大学図書館所蔵「竹取物語絵巻」の学習を始めた。

 絵巻の詞書は咲本先生が行っておられた方法で立体化し、触読できていた。しかし、絵をどうするかという問題があった。そこで、授業を担当していただいていた山本聡美先生の提案で、東京藝術大学大学院の五十嵐有紀先生を中心に協力を依頼し、絵巻の書き起こしを制作していただき、それを立体印刷する方法を用いることとなった。書き起こしの詳細については、五十嵐有紀先生の「共立女子大学大学図書館所蔵「竹取物語絵巻」トレース図制作に関する報告」(『総合文化研究所紀要 第22号』二〇一六年二月)を参照していただきたい。

 絵巻の絵の触察に際しては、線が多すぎると内容を把握できないということがわかった。絵巻の絵を模写して立体印刷機にかけても、線が多すぎて建物と人物の区別がつかなかったり、絵の全体像をつかむことができなかった。そこで、絵の内容を把握するのには不要だと思われる線を削除して、絵を単純なものにしていただいた。そうして触察しやすいように改良を重ね、絵巻の絵を把握していった。

 また、かなりのレアケースとして、実物を触らせていただいたことも、絵の内容を理解する上で、大きな助けとなった。実際に絵に触れ、絵の具の感触を感じる事で、翁や嫗の位置、かぐや姫の顔や着物の色、屋敷の様子まで、詳細に知る事ができた。また、二月の初旬に参加させていただいた日本画の色彩に関するワークショップで、絵の具の色と感触について学ぶ機会があり、緑青は緑色であることを知り、色に関しても触察することで把握できるようになった。

 ただし、私には立体化された教材や実物を触る前の段階として、絵巻の内容、例えば第一段の絵は、翁と媼に挟まれてかぐや姫が入った箱が置いてあるというように、絵の内容に関する知識があったことを書き添えておきたい。なおこの知識は授業中の先生の解説によってついたものである。内容を把握していることで、絵巻の絵を触察した際瞬時にその内容を把握できた。ただやみくもに絵巻を触察して内容を把握するより、あらかじめ内容を把握した上で触察した方が効率的だと考えられる。

    おわりに

 視覚障碍者が絵巻の内容を学習する場合、触読、触察が有効であった。絵巻の内容を立体化する際には、触読、あるいは触察のしやすさを重視する必要がある。それにより、変体仮名の場合は書き順など、把握できる情報が限られる問題点もあった。しかし、詞書を読む、あるいは絵を見る際には、今回の場合大きな問題となることはなかった。ただし、変体仮名や絵を立体化したものは、大変かさばり持ち運びに不便であった。実際私は、長期休み中に自宅で勉強したいと思った時、あまりの量の多さに持ち帰る事を躊躇したことがあった。この点に関しては、現在教材の軽量化を図るための方法を検討している。

 また、私は中途失明者ということで、ひらがなや漢字の素養があった。これが点字以外の文字を全く知らない人の場合、変体仮名の触読はより困難であろう。変体仮名の触読に関しては、文字を知っているかどうかが大きな焦点になることが推測される。

 絵巻の学習を通して、私は触読、触察の可能性について考えるようになった。目で見るはずの絵巻を、その内容を立体化するという方法を用い、全盲である私でも学習できるようになった。視覚障碍者が敬遠しがちな日本文学や日本美術史の分野に、文字や絵の立体化という方法が確立しつつあることで、視覚障碍者の可能性は大いに広がるであろう。

 さらに文字の立体化によって、視力の有無に関わらず同じ文字空間にいられることは、点字という固有の文字を使用している視覚障碍者にとって、大きな喜びに繋がるだろう。変体仮名のように点字では書き表せない文字を視覚障碍者が学習しようとする時、立体プリンターを用いた教材の立体化は有効である。今後他の分野にも応用していきたい。


[参考文献]
『平成26年度総合文化研究所助成「変体仮名教材作成の研究︱文学作品を中心に︱」に関する報告』(共立女子大学・共立女子短期大学 総合文化研究所紀要 第22号2016年)に所収の左記三論文
・咲本英恵「視覚障碍者向け変体仮名学習テキストの作成について」
・五十嵐有紀「共立女子大学大学図書館所蔵「竹取物語絵巻」トレース図制作に関する報告」
・山本聡美「共立女子大学図書館所蔵「竹取物語絵巻」を用いた変体仮名教材制作」


 
 
 

2016年6月10日 (金)

第3回「古写本『源氏物語』の触読研究会」のご案内

 来週6月18日(土)午前に、以下の通り科研「挑戦的萌芽研究」の研究会を開催します。
 これは、昨年度から取り組んでいる科研「視覚障害者と共に古写本の仮名文字を読み日本古典文化を共有するための挑戦的調査研究」の成果と、今後の課題を考え話し合う会です。
 小さな研究会ながら、最新の情報が行き交う集まりです。

 本科研の活動内容については、本科研のホームページ「古写本『源氏物語』の触読研究」をご覧ください。

 こうしたテーマに興味と関心をお持ちの方がいらっしゃいましたら、本ブログ下部にあるコメント欄から参加希望の旨を2日前の16日(木)までに連絡していただければ、資料を用意してご来場をお待ちいたします。

 なお、今回も4名の視覚障害者が参加なさいます。
 研究会当日は、地下鉄銀座線京橋駅の6番出口に近い改札口で【9時30分に集合】し、みなさんと一緒に会場に向かいます。
 目が不自由な方および付き添いの方も、安心して参加していただけます。
 
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日時:2016年6月18日(土) 午前9時30分集合。
研究会:10時から12時。
場所:京橋区民館 3号室
・住所:東京都中央区 京橋2丁目6番7号
・アクセス
(1)東京メトロ銀座線京橋駅下車6番出口 徒歩2分
(2)都営地下鉄浅草線宝町駅A5・A6番出口 徒歩2分
(3)中央区コミュニティバス(江戸バス)
  [北循環]八重洲通り西5番 10分程
「会場周辺地図」
「京橋区民館のホームページ」

 
〈内容〉
第3回「古写本『源氏物語』の触読研究会」
(1)挨拶(伊藤鉄也)
(2)2015年度の研究報告(伊藤鉄也)
(3)2015年11月から2016年6月までの活動報告(関口祐未)
(4)研究発表「視覚障碍者による絵巻研究の方法」(尾崎栞)
(5)研究発表「日本語漢字不可欠論再検討
    〜漢字がないと同音異義語でこまるのか?〜」(中野真樹)
(6)研究発表「触文化研究の課題と展望
    ―「無視覚流」の極意を求めて」(広瀬浩二郎)
(7)共同討議(質疑応答、用語確認と実験方法など、参加者全員)
(8)連絡事項(関口祐未)

 なお、研究会終了後に懇親会を予定しています。
 日時:2016年6月18日(土) 午後12時から13時30分
 会場:東京駅周辺を予定。


 
 
 

2016年6月 7日 (火)

立体コピーによる触読の問題点と平仮名文字の説明文

 北九州で実施した、『変体仮名触読字典』のための触読シート「あ」(立体コピー試作2版)による調査と意見交換については、一昨日の「触読調査の後は小倉の松本清張記念館へ」(2016年06月05日)の冒頭で簡単に報告した通りです。
 そして、以下の2点を今後の課題としておきました。


(1)シートの角に切り欠きをつけることで、文字の上下を判別
(2)紙面に配置されている文字の説明注記を点字で添える

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 この触読シートに関しては、科研の研究協力者である福島県立盲学校の渡邊さんと共立女子大学の尾崎さんから、お手元にお送りした立体コピーを触読しての感想を寄せていただきました。
 お2人のコメントを整理して、以下にまとめます。


・文字は大きい方が線がはっきりしていて触読しやすい
・文字が小さいと字母の漢字が把握できない
・文字が小さいと全体的に線がごちゃごちゃして触りにくい
・個々人の指の大きさが異なるので適切な文字の大きさは難しい
・導線となる枠と文字との距離が近すぎるのでかなり窮屈
・空白が少ないので一つの文字をイメージしにくい
・どういう向きで触読するのか迷う
・右上に何らかの指示があるとよい
・ただし点字の「あ」は点が1個なのでわかりにくい
・点字の数字なら前に数符がつくのでわかる
・点字のアルファベットも前に外字符がつくのでわかる
・変体仮名による連綿の例は最初の一文字が読めないと先へ進めない
・すっきりと読み下せないと気になる

 こうした感想や指摘を踏まえて、今は次のような対処と方針で取り組みたいと思っています。


・サイズの大きい方で検討を進める
・字母などを細い線で囲うのはやめる
・文字を囲う枠は文字と離す
・空白をもっと活かした文字の割り振りを心がける
・新しく認定される国際標準のためのユニコードの番号を付加情報として添える
・「愛」と「惡」の変体仮名を採択するかどうか再検討
 (これは、変体仮名としては使用例も少なく、『変体仮名触読字典』に取り上げる必要はないと思います。ただし、ユニコード化にあたって候補として入っているので、一応新ユニコードに対応した字典ということで取り上げています。近世の文書には出てくるので、外すことをためらっています。ただし、仮名を中心として書かれた文学作品を読むという用途に限定した字典を目指すのであるならば、使用頻度の低いこうした「愛」や「惡」という変体仮名は取り上げない、ということも検討すべきかも知れません。)
・付すインデックスとしてのは、点字とアルファベットに関して、さらに検討中
・上部にインデックスとして付す指示文字も検討中
 (点字で「あ」を、その横にアルファベットの「A」と「a」を添えることを考えています。ここで、「あ(字母は「安」)」という、明治33年に一つに統制された文字をインデックスにしなかったのは、4種類の平仮名「安・阿・愛・惡」はいずれも対等の関係であり、現在使われている「あ」だけが唯一のひらがなではなくなる次世代を意識したものです。)
・変体仮名の連綿例に、活字で「平仮名」と「字母」を併記した理由
 (目が見える方にも、そして介助者にもこの字典を使っていただけるようにとの配慮から、変体仮名の連綿例には、活字で「平仮名」と「字母」を併記しました。この列がそうした意図を持ったものであることを、何かの記号を使って明示して、触読のための情報ではないことを明示する必要があります。この振り仮名(読み仮名)の部分だけは立体コピーにしない、という対処もあります。しかし、そうすると立体コピーと混在して印刷が面倒なことになるので、まだ思案中です。)

※2段目の、国語研が公開しているフリーの変体仮名フォント以外は、すべて新典社版の『実用変体がな』から採字したものです。

 なお、一連の触読をサポートするものとして、音声による説明や解説を併用できる環境作りにも取り組んでいます。
 以下に、科研運用補助員の関口祐未さんが作成を進めている、立体平仮名文字「あ」の部の説明文を紹介します。


【平仮名文字の説明文について】
・平仮名文字の説明文は、凸字を触りながら、平仮名の形がより明確にイメージできるように作成しました。
・平仮名文字の説明文は、平仮名を書くときの筆順に従って考えました。短く簡潔で、平易な表現を心がけました。
・曲線の形については、線の形がイメージしやすいように、次のような工夫をしました。
 例1 「弓形」といった場合→半円の曲線を表す。
 例2 「上へ向かって9時から3時までの曲線」といった場合→アナログ時計の文字盤をイメージし、時計回りに9時の位置から12時を回って3時の位置に至る半円の曲線を表す。
 例3 「下へ向かって9時から3時までの曲線」といった場合→アナログ時計の文字盤をイメージし、反時計回りに9時の位置から6時を回って3時の位置に至る半円の曲線を表す。
・説明文は、より分かりやすい文章に仕上げていくために、皆様のご意見を反映しながら更新していく予定です。

■「あ」の説明■

1画目。中央・上の位置。左から右へ横線。
2画目。1画目横線の真ん中を通って、縦に下がる長い線。
3画目。1画目横線の終わり・下の位置。左へななめに、2画目縦線の終わりを通って下がり、上へ向かって8時から5時までの曲線。
 このとき2画目縦線の真ん中と3画目線の始めを通る。
 説明文終わり。

 この他の平仮名については、科研のホームページである「古写本『源氏物語』の触読研究」に掲載している『立体〈ひらがな〉字典』の項目をご覧ください。

 また、この説明文が読み上げられるような仕掛けを、触読の対象となる文字に設定することによって、学習が効果的におこなわれるようにできないか、ということも検討中です。
 これには、タッチパネルの導入が考えられます。
 この「タッチパネルによる古写本触読システム」については、「宇治の街歩きと〈運読〉のワークショップ開催」(2015年12月05日)の後半で、2枚の写真を交えて紹介していますので、参照していただけると実際の触読のための道具をイメージしていただけるかと思います。

 まだまだ、試行錯誤を繰り返している段階です。
 ご教示をいただく中で、よりよい触読環境を作り上げて行きたいと思います。
 また、そのためにも『変体仮名触読字典』を早急に形にして、実際に使っていただく中で改訂をしていく予定です。

 思いつきで結構です。
 ご意見やご提案をお待ちしています。
 
 
 

2016年6月 5日 (日)

触読調査の後は小倉の松本清張記念館へ

 昨日から福岡では小雨が降り続いています。
 九州は梅雨に入ったようです。

 今朝は、触読研究に関して5人の研究協力者の参加を得て、『変体仮名触読字典』のための触読シート「あ」(立体コピー試作2版)へのチャレンジをしていただきました。


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(1)【文字の上下がわからないとのこと】
  これは、シートの角に切り欠きをつけることで解決します。

(2)【何がどのような順番で紙面に配置されているか】
  上から、次の4種類の仮名が掲出されています。
   A.字母の活字体
   B.ユニコード登録予定の字体
   C.古写本に出現する代表的な2つの字体
  左枠外には、各字母を使用した語句2例を掲出
  その右側には、介助者用の読み仮名として、現行の活字体の平仮名と字母を併記
 こうした説明注記を、点字で添えるといいようです。

 まだまだ改良の余地があります。
 この試行錯誤を今後とも繰り返すことで、実用に耐え得る『変体仮名触読字典』を目指したいと思います。明日も、触読シートによる調査と意見交換を予定しています。
 
 昨日の懇親会で、この黒崎からは小倉が近いので「松本清張記念館」へ行くことを勧められましたし、すでに行って来たということでした。かねてより、私は清張に強い問題意識を持っていました。それに加えて、鳥取の日南町に文学碑があることや、松本清張の家系の謎を綴った『白い系譜』のこともあり、私も行ってみることにしました。

 清張の父と母については、次のブログの記事に詳細に書いています。

「松本清張の家系の謎『白い系譜』(1)」(2014年08月08日)

「松本清張の家系の謎『白い系譜』(2)」(2014年08月09日)

「松本清張の家系の謎『白い系譜』(3)」(2014年08月10日)

 黒崎駅から15分で西小倉駅です。そこから松本清張記念館へは歩いて5分。


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 清張の生涯が、実物と映像を駆使して展示されています。
 別室で『日本の黒い霧─遙かな照射』というドキュメンタリー映画を見ました。
 その中で、『黒地の絵』に関連する話として、小倉聾学校に脱走した黒人米兵が侵入したことが取り上げられていたのです。昨日来、さまざまな障害に関する研究発表などを聞いた後ということもあり、このことに強く反応しました。

 さらに、特別企画展「世界文学と清張文学」が開催されていました。
 清張の作品が世界中で読まれていることがわかりました。
 海外における『源氏物語』について問題意識を持っているので、清張の海外での情報には大いに興味があります。
 展示図録(2016.1.16)は、貴重な情報が満載です。清張は意外と英語がうまかったようです。


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 黒崎駅に戻り、また黒崎神社のおみくじロボットで占いを、と思ったところ、今日は「調整中」とのことでお休みでした。


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2016年6月 4日 (土)

日本盲教育史研究会第4回ミニ研修会 in 九州

 昨年、北海道の札幌で「日本盲教育史研究会 第3回ミニ研修会」がありました。

「日本盲教育史研究会 第3回ミニ研修会(in札幌)」(2015年05月30日)

 今年は、一気に南下して九州です。

 会場は、博多から電車で小倉に向かって1時間ほどの、黒崎というところにある北九州市立西部障害者福祉会館です。私は、この施設の一角にあるホテルに滞在し、情報収集と打ち合わせ等を続けています。

 今日の研究会は、長崎大学の平田勝政教授による、「日本盲教育史研究の成果と課題」と題する講演から始まりました。この題目は壮大なものです。副題の「1920年代における川本宇之介と希望社運動の検討」が今回の内容でした。
 川本という先人のことや、希望社という存在を知り、いろいろと刺激を受けました。これまでまったく知らなかった世界が、社会運動や政治活動を背景にして炙り出されました。時間が足りなくなり、盲教育と癩病根絶運動との接点までは話が及ばなかったのが残念でした。
 配布された資料は貴重なものが多いので、後で読み通すことを楽しみにします。

 続いて研究報告となりました。
 
1 明治期盲唖学校と支援組織―九州地方を中心に―
 〔長崎県立諫早特別支援学校・菅達也氏〕
 九州における盲学校を支援した組織の実態が、数字を示しながらわかりやすく語られました。
 
2 九州と盲唖教育
 〔日本社会事業大学・木下知威氏〕
 手話による発表なので、通訳の方の説明とスライドで聞きました。明治・大正期の開化を目指す熊本を取りあげたものです。手話通訳を交えた質疑応答の難しさも体験できました。目が見えない、耳が聞こえないという方がいらっしゃる集まりなので、意志の疎通をはかるのは大変です。手話通訳の方々のお力に負うところが多いのです。なお、配布された「九州と盲唖教育・年譜」は、丹念に資料を相互検討した貴重な意義深いものとなっています。
 
3 地方盲学校、聾学校の専門的教員の養成と補充 ―昭和初期から昭和30年代の熊本県―
 〔九州ルーテル学院大学・佐々木順二氏〕
 熊本の盲・聾学校の教職員の教育歴と保有免許状を、丹念に分析したものでした。

4 史料紹介
・「福岡県の盲教育の歴史」〔福岡点字図書館・吉松政春氏〕
 柳河盲学校の校歌は北原白秋と山田耕筰が作ったものです。ウィキペディアには、このペアで50校ほど掲載されているそうです。しかし、柳河盲学校は取り上げていない、とのことでした。

・「九州と京都盲唖院」〔京都府立盲学校・岸博実氏〕
 今後の研究に資するところ大の、貴重な資料15点を提供してくださいました。いずれも、京都府立盲学校が所蔵するものです。歴史を確認し掘り下げる上で、大いに活用されることでしょう。

◆意見交換での主な発言
・障害がある当事者が自分たちの仲間のために、という思いを大切にしたい。
・歴史研究と現状を踏まえた研究をお願いしたい。
・お互いがわかり合える社会にしよう。
・盲教育史は調査研究されていない課題が多い。

 今回の参加者は70名でした。予想外の多さに、運営側のみなさまも嬉しい悲鳴をあげておられました。
 多彩な意見がやりとりされ、充実した研究会でした。
 その後の懇親会では、今回も貴重な情報をいただきました。
 熊本からお出での方から、先般の地震で益城町におられた視覚障害の知人の家が全壊した折の話を伺いました。たまたま目が見える娘さんが来ておられたので、なんとか夜中に避難所までたどり着けたそうです。一般の方々と一緒に体育館での避難生活は大変で、まもなく開設された福祉避難所に移られたそうです。こうした障害をお持ちの方々も、被災されているのです。マスコミは、どの程度こうした情報を収集しているのでしょうか。今後のためにも、実態を掌握しておく必要があるように思いました。
 
 

2016年6月 3日 (金)

慌ただしく羽田-福岡-博多-黒崎へ

 JALで羽田から福岡に飛んで来ました。
 飛行機の国内線を使うことは滅多にないので、エコノミークラスも機内の環境がよくなっていることに感激です。

 無線のインターネットが、15分なら無料で使えるようになっていました。私は iPhone やパソコンでメールのチェックをするのが中心なので、これだけで満足です。有料のオプションに切り替えても500円なので、ヨーロッパへ行く時などは重宝しそうです。

 座席の目の前にモニタがなかったので、国内線はそうだったのかな、と思っていました。すると、前のポケットに、機内Wi-Fiサービスとしてドラマ等が手持ちの電子機器で観られる説明書が入っているのを見かけました。ドラマやバラエティー番組などが、自分が使い慣れた電子文具で観られるようになっていたのです。

 手持ちの電子デバイス(パソコンやスマートフォン)がないと、こうしたサービスを受けられないので、まだ差別的で不便だとも言えます。しかし、持っていると、国内線に乗っている時間は短いので、15分でもこれはこれでありがたいことです。

 30年近くコンピュータや通信に関わって来た者の一人として、こうしたサービスを目の当たりにし、隔世の感を堪能しています。
 これまでは、飛行機というと富裕層だけへの差別的サービスを展開していた航空機業界でした。ファーストクラスやビジネスクラスとは無縁の者にとっては、自分のシートに居ながらにしてインターネットにつながるとは、思いの外に業界の対処が速かったことに驚いています。

 福岡空港に降り立ってからは、地下鉄空港線で博多駅に出、JR鹿児島本線に乗り換えて1時間弱の黒崎駅まで移動しました。
 改札口前に、「黒崎神社 おみくじロボット」がありました。安川電機が、去年の8月からサービスをしているものです。


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 これは、7軸垂直多関節ロボットが小さなボールをレーンに転がし、「おみくじ」を上手に運んでくれるものです。今日の運勢を占ってくれるのです。
 私は「中吉」でした。一番中途半端な運勢です。まあまあ、そこそこ、ということにしておきましょう。


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 明日のイベント会場がある施設にチェックインし、目が見えない方々にお目にかかり、科研の「挑戦的萌芽研究」の説明と実験実証に関する打ち合わせをしました。
 黒崎という町が予想外に賑やかなので、これまた驚いています。きれいで、便利な町です。

 今回の旅の主目的については、明日詳しく書きます。
 
 
 

2016年5月21日 (土)

埼玉県本庄市で『群書類従』の話をする

 今日と明日は、中古文学会春季大会が早稲田大学である日です。
 しかし、頼まれ事があったために、都心を離れて埼玉県本庄市へ行きました。

 目的地である本庄駅と岡部駅との間で車輛トラブルがありました。行きたい本庄駅の一つ手前の岡部駅で、しばらく安全確認のために電車が止まっていました。私にはよくあることなので、これくらいでは動じません。今日お話しする内容の確認をして、復旧を待ちました。

 駅では、「金鑽神社」の宮司である金鑚(かなさな)俊樹さんの出迎えを受けました。金鑚さんとは、初期のパソコン通信が縁で20年来の仲間です。大学の後輩でもあり、衣紋道に精通している関係から、奈良の春日大社で祭礼があった時に、神官への着装場所に入れてもらい間近で金鑚さんの装束の着付けを拝見しました。東京の大井町であった雅楽にも一緒に行ったりと、貴重な勉強をさせていただいている間柄です。
 今日は、私が行く会場が金鑽神社の近くということもあり、送迎を兼ねて周辺の案内もしていただきました。

 今日の打ち合わせを、総検校塙保己一先生遺徳顕彰会事務局の方とすることになっていました。
 本庄市教育委員会生涯学習課がある市庁舎に、金鑽さんの車で連れて行ってもらいました。しかし、私がよく確認しないままだったために、本日の会場である本庄市児玉文化会館(セルディ)に移動することになりました。

 時間の余裕があったので、金鑽さんの案内で本庄宿にある方の金鑽神社に案内してもらいました。そして、詳しく本庄市の歴史などの説明を聞きました。
 私はただでは帰りません。境内に、変体仮名を刻んだ石を見つけました。「割烹 根起志」とあります。


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 また、琴平神社の御垣の石に刻まれた名前に、江戸時代の女性の名前が変体仮名で刻まれていました。「古登女」「み徒」と読めます。


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 おしゃれなレストランで食事をしてから、本日の会場へ打ち合わせに行きました。

 本日使われる舞台上で、パソコンか iPhone のどちらを使うかをテストしました。
 私は、スクリーンに映像を写してお話をすることはあまりありません。あくまでも、プリントでお話をします。これは、機器のトラブルを何度も経験しているからです。

 今日の場合は、パソコンからスクリーンに映像が出ませんでした。しかし、iPhone からは写し出せたので、パソコンは使わずに、iPhone でプレゼンテーションを行うことにしました。

 また、私はプレゼン用のソフトウェアであるパワーポイントは、使ったことがありません。パワポと言われているこのアプリを使った発表は、あくまでも自己満足のための発表だと思っているので、聞く必要がない、という立場を何十年も取っています。

 私が人前で話す時、スクリーンに画像を写す必要がある場合は、写真やPDFを表示する専用のプレビューソフトか、エバーノートのスライドショーを使います。

 今日は、パソコンが使えない環境であることがテスト段階でわかったので、iPhone のエバーノートでスライドショーとして写真を写しながら、話を展開することに即決しました。

 まだ時間があったので、塙保己一の生家に案内してもらいました。藁葺きのしっかりした家でした。


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 その裏手に、保己一のお墓があります。
 町の偉人として定着しています。

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 金鑚さんが宮司をしておられる金鑚神社にも行きました。


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 ご神体は、拝殿の奥に聳える御室山です。三輪山と同じく、お山がご神体なのです。古代の神奈備山の祭祀を伝え、『延喜式』の「神名帳」には「金佐奈神社」と記されている官幣中社です。
 ここの拝殿で、神職の方が正式で厳かなご祈祷をしてくださいました。久しぶりに榊を捧げ、お神酒までもいただき、身を浄めていただきました。


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 今日の私の出番は3時からだったので、ゆっくりと会場に入ることができました。

 今日のお話のタイトルは「世界中だれでも読める『群書類従』」です。
 すでに『温故叢誌』という冊子に報告した内容に加えて、現在取り組んでいる目の不自由な方々と一緒に変体仮名を読む取り組みを話しました。
 手話通訳の方が横についていてくださいました。


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 あらかじめ、8頁のレジメと、『群書類従』に収録されている「竹取翁物語」の版本の立体コピー、そして、三つ折りチラシ2種「古写本『源氏物語』の触読研究」と「海外源氏情報」を配布して進めました。


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 お話した内容については、いつか印刷することになるはずです。今ここでは、その小見出しだけを揚げて、内容は省略します。


一、『群書類従』が英国ケンブリッジ大学に収蔵された経緯
二、米国バージニア大学から『群書類従』のDBを公開
三、電子化された『群書類従』の利用環境
四、国文学研究資料館の平成の大事業は『(新)群書類従』
五、『群書類従』の版本(変体仮名)を触読する

 終わってから、保己一記念館に立ち寄りました。閉館時間間際だったにも関わらず、質問を含めて丁寧に説明してくださいました。ありがとうございます。
 入口前広場は『群書類従』にならい、400字詰め原稿用紙をイメージしたデザインだそうです。

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 ここの展示で参考になる点を、記録として残しておきます。

 ガラスケースの前に、説明文を板に刻んだものがありました。平仮名を浮き出させて彫ったものです。文字の角が処理されていないので、指を滑らせるとチクチクします。触読には向いていません。しかし、これは今後の触読テストの参考になります。音声でも説明してもらえます。


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 外には、保己一の大きなった座像がありました。
 ヘレン・ケラーも尊敬する保己一像を感動的に触ったという、塙保己一史料館・温故学会にある首を傾げた姿とは違います。


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 自動販売機のイラストも気に入りました。


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 新幹線の本庄早稲田駅前の広場には、今年の3月12日に建ったばかりの、江戸へ旅立つ保己一の像がありました。

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 江戸に向かって歩み出すところです。
 新しい世界を切り開こうとする強い意志が伝わってきます。

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 今日は、長時間にわたり、送迎やら案内やらと、金鑚さんには本当にお世話になりました。お陰さまで充実した一日となりました。
 金鑚神社の拝殿で厳粛なご祈祷を受けたことが一番印象に残っています。
 また、いつかご一緒できる日を楽しみにしています。
 
 
 

2016年5月11日 (水)

来週末に埼玉県本庄市で『群書類従』のお話をします

 以下の通り、『群書類従』に関するお話を、塙保己一ゆかりの地でいたします。
 これは、「古写本の触読研究に取り組むきっかけとなった講演録」(2015年11月16日)に記した『温故叢誌』という冊子から派生したものです。
 総検校塙保己一先生遺徳顕彰会事務局と、本庄市教育委員会生涯学習課の方々のお世話になります。どうぞよろしくお願いいたします。

 今回の話は、上記冊子にまとめたことに加えて、古写本や『群書類従』を目の不自由な方々と一緒に読める環境作りに取り組んでいることを、具体的な事例を交えてお話をする予定でいます。塙検校が当日の会場にいらっしゃることを想定して、検校に語りかけるような内容に組み立てているところです。

 また、目が不自由な方々にも聞いていただきたいと思っています。
 『群書類従』の版本の一部を立体コピーしたものを、当日の会場でお一人ずつに配布する予定です。実際に触読体験をしていただきますので、後で感想をお聞かせいただけると幸いです。

 『広報ほんじょう5 2016 No.124』(編集/本庄市役所企画財政部秘書広報課)には、次の予告がなされていますので、併せて紹介しておきます。


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総検校塙保己一先生遺徳顕彰会総会の記念講演

         記

1.開催日時 平成28年5月21日(土)
   受 付 午後1時30分から
   開 式 午後2時から
      ※記念講演は午後3時からの予定
2.会  場 本庄市児玉文化会館(セルディ)ホール
       所在地:本庄市児玉町金屋782-2
       電 話:0495-72-8851
3.演  題 「世界中だれでも読める『群書類従』」
   講 師   総合研究大学院大学
         国文学研究資料館 伊藤鉄也


 
 
 

2016年4月12日 (火)

変体仮名の学習法と視覚障害者が触読することに関する報告

 「平成26年度総合文化研究所助成『変体仮名教材作成の研究―文学作品を中心に―』に関する報告」(共立女子大学・共立女子短期大学 総合文化研究所紀要 第22号 2016年、代表者 岡田ひろみ)を読みました。

 この報告書は、初学者が変体仮名を習得する過程を、実践を通して追ったものです。これからの変体仮名の学習指導において、よき手引書となっています。
 併せて、視覚障害者向けの変体仮名学習教材の作成についても、実践報告があります。
 古写本の触読研究に取り組んでいる私にとって、非常にタイムリーなものでした。

 ここでは、変体仮名や絵を読み取る方法として「触読」によっています。その取り組みの苦労は承知の上で、あえて私見を加えるならば、ここに音声を活用することを導入すると、さらに学習効率が向上することでしょう。
 また、指筆による古写本の臨書や模写を取り入れると、変体仮名の習得がさらに確実で迅速になると思われます。
 次には、こうした取り組みもなされることを期待したいと思います。

 本書の冒頭、[研究の目的]で、研究代表者である岡田ひろみ氏は、次のように言っておられます。


 本研究の目的は主に二点、①学生だけでなく、変体仮名を学びたいと考える人々が自主的に学ぶための教材を作成すること、②変体仮名を指導する立場にいる人間が視覚障碍のある人々にも平等に教えることができるような教材を、また、視覚障碍のある人々が変体仮名を学びやすい教材を作成することである。これらの研究成果は、視覚障碍のある人だけでなく、変体仮名を読んでみたいと考えるすべての人々に対しても寄与するものだと考え研究をすすめてきた。(156頁)

 つまり、目が見える見えないを問わず、とにかく誰でもが平等に変体仮名が読めることを願って作成された、変体仮名の教材作成のための成果報告書なのです。

 目次は、次のようになっています。
 この執筆者は、岡田ひろみ 内田保廣 半沢幹一 山本聡美 咲本英恵 五十嵐有紀の各氏です。


平成26年度総合文化研究所助成「変体仮名教材作成の研究-文学作品を中心にー」に関する報告

物語を変体仮名で読むために
 目次
 1 概説—漢字と仮名
 2 概説—いろは歌と変体仮名
 3 概説—仮名文字と仮名文学
 4 概説—平安時代の物語史
 5 概説—平安時代の本
 6 変体仮名を読む—『竹取物語』上巻第一段詞書①
 7 変体仮名を読む—『竹取物語』上巻第一段詞書②
 8 物語の絵画化—テキストとイメージ
 9 変体仮名を読む—『伊勢物語』初段
 10 変体仮名を読む—『伊勢物語』三段
 11 変体仮名を読む—『伊勢物語』五段
 12 変体仮名を読む—『伊勢物語』六段
 13 練習問題
 14 付録
 15 補助教材の使い方

視覚障碍者向け変体仮名学習テキストの作成について

共立女子大学図書館所蔵『竹取物語絵巻』を用いた変体仮名教材作成

共立女子大学図書館所蔵『竹取物語絵巻』トレース図制作に関する報告

 以下、報告書の内容を簡単に紹介します。

 「概説」は、一般の学習者にも有益な、平易でわかりやすい説明がなされています。勉強会において使える、格好の手引書です。

 「変体仮名を読む」は、『竹取物語』と『伊勢物語』を例にした、変体仮名の入門編となっています。【翻字】【語注】【解説】や【現代語訳】が優しく語りかけてきます。

 「付録―校訂本文と比較してみよう」は、変体仮名で書写、印刷された資料と、一般的に読まれている古文との違いから、古典への興味を誘うものです。
 もっともこれは、さらに紙数を費やして説明する価値のある項目だと思いました。

 後半の視覚障害者のための変体仮名学習資料の作成とその実践報告は、私が現在抱えている問題点において、大いに参考になる内容に満ちています。実践を通して生み出された教材とその活用の実体が、障害者に対する文字指導において多くのヒントを与えてくれます。

 「視覚障碍者向け変体仮名学習テキストの作成について」には、次のように記されています。


これはAさんが教えてくれたことだが、変体仮名を学んで嬉しかったのは、見えている人と同じ文字を読めるということだったそうだ。Aさんが日頃読んでいる点字は、盲学校を卒業してしまえば他に読める人を見つけることは難しく、また常に点字を読むAさんは、他の人と同じ文字を読むことはできない。その点、変体仮名を読む時だけは、みんなと同じ文字の世界にいることができる。それが嬉しくて、Aさんは変体仮名を読み続けたいのだという。立体印刷機さえあれば、変体仮名とは、現代においてそれ自体で実は〈平等な〉教材なのかもしれない。変体仮名学習の意味を、思わぬところから気づかされた思いがする。(88 頁)

 目の見えない方と一緒に古写本を読む、という試みは、まだほとんどなされていません。その意味からも、この報告書には貴重な取り組みの事例が提示されているのです。

 冒頭に私見を記したように、今後は「音」を導入し、「筆」でなぞりがきをする、という試みを導入するとどうなるか、というチャレンジに期待したいと思います。

 なお、私が取り組んでいる「挑戦的萌芽研究」の科研「視覚障害者と共に古写本の仮名文字を読み日本古典文化を共有するための挑戦的調査研究」で、科研運用補助員として研究協力をしてもらっている関口祐未さんから、本報告書を読んでのコメントをいただいています。
 以下に引用し、本書の意義の確認にしたいと思います。


 触読に関する報告では、『首書源氏物語 夕顔巻』本文と『竹取物語絵巻』詞書を触常者が変体仮名で学ぶことができるように、変体仮名を立体化するときの工夫と試行錯誤の過程が詳しく述べられていて大変参考になります。
 教材の立体化には残された課題や改善の余地があるということですが、触常者Aさんが変体仮名を読み続けたいと意欲を持ったことや、触常者のために行った工夫の多くが、他の学生の学習にも有益であった点など、触読の研究をする人が目指す到達点が示されています。
 『竹取物語絵巻』の絵を筆とペンでフィルムシートに敷き写す作業では、完成したトレース図は、データ化しモノクロ画像に変換するため、墨の濃淡で表現した線の強弱が消えてしまうとあります。それでも肥痩に差をつけて描いた線の表現が少しでも残り、立体化した教材から絵画表現の豊かさを読み取ってもらえればとの思いで筆を走らせたと書かれています。
 伝わらないかもしれないけれど、でき得るかぎりのことをするという意識は、触読の教材を作る上で大切なことだと教えていただきました。
 変体仮名も、立体コピーすると、墨の濃淡がつぶれ黒一色になってしまいます。文字の形を伝えることの他に、筆文字が持つ線の美しさや個性を伝えていく工夫も、あきらめず考え続けたいと思います。

 
 
 

2016年3月23日 (水)

オンライン版『古写本『源氏物語』触読研究ジャーナル vol.1』を創刊

 昨春より来春までの2年間、日本学術振興会 科学研究費補助金 「挑戦的萌芽研究」による研究として、「視覚障害者と共に古写本の仮名文字を読み日本古典文化を共有するための挑戦的調査研究」(課題番号:15K13257、研究代表者:伊藤鉄也)に取り組むことになりました。

 その成果の一部を、ホームページ「古写本『源氏物語』の触読研究」の中の「研究会報告」→「ジャーナル」からダウンロードできるようにしました。
 今回創刊した『古写本『源氏物語』触読研究ジャーナル』(ISSN:2189−597X)という電子ジャーナルは、どなたにでも自由に読んでいただける形で公開しています。
 また、記事の音声読み上げも、パソコンではマッキントッシュとウインドウズで確認しています。目の不自由な方にも読んでいただけるようにしました。何か不具合がありましたら、コメント欄を通してご教示をお願いします。

 このジャーナルの紹介を兼ねて、創刊号の「表紙」と「はじめに」および「目次」を引用します。


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 近年、コンピュータに端を発した情報文具が、世界中の人々の生活スタイルを変えています。インターネットが、国と国や人と人の関わり方を変えました。スマートフォンも、情報の取り扱い方を一変させました。情報をアウトプットする道具も、ドットからレーザー、そして3Dとめまぐるしく進歩しています。
 そのような中で、視覚に障害がある触常者の読書や書記活動は、情報文具の活用により多様化しています。目の見えない方からの電子メールの返信がリアルタイムに届くのは、そのことを如実に示しています。
 しかし、情報を受容して発信する環境が豊かになったとしても、やはり受動的な待つ姿勢が日常的にあるのではないでしょうか。点字と音声だけでは、先人が残した日本の文化資産を受容するのに限界があります。
 古代から書き継がれてきた墨書きの文字を手掛かりにした、温故知新の知的刺激を実感し実践することには困難が伴うからです。

 一つのことがきっかけとなり、日本の古典文化を目が見えなくても体感できる環境に思いをいたすようになりました。古写本『源氏物語』を素材とした実験に、素人ながらも挑戦することにしたのです。
 一つのこととは、『群書類従』を編纂した塙保己一との出合いです。
 思いがけないことから、目が見えなくても手書きの文字が識別できる世界をイメージできるようになりました。
 墨字の中でもひらがな(変体仮名)で書かれた紙面を、触常者が能動的に読み取れるかどうか。
 その可能性にアタックすることは、私自身にとっても手探りの中でのチャレンジです。

 その方策を、実践的に調査研究し実現することを目指すことにしました。触常者と視覚に障害がない見常者とのコミュニケーションをはかる意義の再認識です。
 日本学術振興会の科学研究費補助金の中に「挑戦的萌芽研究」があることがわかり、早速プロジェクトを組み立てて申請しました。幸運にも、平成26年4月に、申請課題「視覚障害者と共に古写本の仮名文字を読み日本古典文化を共有するための挑戦的調査研究」が採択されました。

 多くの方々のご理解とご協力が得られ、予想外の成果が実感できるようになりました。
 こうした成果を広く公開して共有するために、「古写本『源氏物語』の触読研究」(http://genjiito.sakura.ne.jp/touchread/)というホームページを立ち上げました。
 さらにオンライン版の「古写本『源氏物語』触読研究ジャーナル」(ISSN番号:2189−597X)を発刊することにしました。
 これは、産声を上げたばかりのジャーナルです。大切に育てていきたいと思います。

 本課題では、新たな理念と現実的な方策の獲得に挑戦します。その舞台の一つとして、この電子ジャーナルが有効に働けば幸いです。ご教示や投稿などでの積極的な参加をお待ちしています。

 なお、ホームページと電子ジャーナルにおける情報収集、整理、発信、更新、編集等は、本科研の運用補助員である関口祐未が主体となり、研究協力者である国文学研究資料館プロジェクト研究員の淺川槙子と技術補佐員の加々良恵子が支援を担当しています。
 このメンバーで、さらなる展開と成果の結実を目指していきます。
 ご理解とご協力のほどを、どうかよろしくお願いいたします。 (2016年3月30日)


『古写本『源氏物語』触読研究ジャーナル vol.1』


【目次】
●はじめに
●原稿執筆要綱
●研究論文
 日本語点字による写本翻刻作成のための表記論 中野真樹
   付属資料:『日本点字表記法 2001 年版』より抜粋
 音声触図学習システムの開発と古写本「源氏物語」の触読への利用 森川慧一、細川陽一
●小論文
 明治33 年式棒引きかなづかいの今  淺川槙子
●ディスカッション
 点字による変体仮名版翻字の検討 伊藤鉄也、中野真樹、渡邊寛子、関口祐未
●研究の最前線
 手書き文字についてミッタル先生との討議(インド報告) 伊藤鉄也
●レポート
 2015 年度「古写本『源氏物語』の触読研究会」活動報告 関口祐未
●巻末付録
 基本的な言葉の説明
●執筆者一覧
●編集後記
●研究組織


 無事に創刊号の発行ができたことを受けて、早速第2号の原稿を募集します。
 詳細は、本科研のホームページに掲載している、「『古写本『源氏物語』触読研究ジャーナル』応募執筆要綱」か、創刊号の巻頭に置いた「原稿執筆要綱」をご覧ください。


・原稿の締め切り 2016年9月30日(金)
・刊行予定    2016年10月31日(月)
・注意 原稿執筆者は公開から1年以内に1度だけ、原稿を《改訂版》に差し替えることができます。

 
 
 

2016年2月28日 (日)

「第26回京都視覚障害者文化祭典」でお茶をいただく

 明け方7時前に、比叡山と吉田山の間から朝日が昇るのを、賀茂川散歩の途中で見ることができました。


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 出雲路橋の下では、白鷺が朝食をさがしています。


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 下鴨神社の西の鳥居では、その間からちょうど朝日が顔をのぞかせていました。


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 真っ直ぐ境内を突き抜けると、御手洗川には光琳の梅が咲き掛かっています。


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 気持ちのいい朝です。

 お昼前に、京都ライトハウスで開催中の「第26回 京都視覚障害者文化祭典」に行きました。
 いつも情報収集などでお世話になっている方や、ボランティアの方々からお話をうかがいました。
 「京都ライトハウスで体験三昧」(2015年10月25日)で知り合った方や、「京都ライトハウスでの点字百人一首体験会に参加」(2015年11月07日)で同席した方にも会えました。

 こうした催しは、いろいろな方と得難い出会いの場になります。お元気な姿を見かけると安堵します。


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 音楽は、幅広い人が楽しめるものであることを、あらためて実感しました。
 マトリョミンという楽器は手のひらで操作して音が出せるので、目が見えなくても自由に演奏ができるようです。

 女性部が和室で「お茶席」を設けておられました。
 前回この京都ライトハウスでお茶をいただいたことは、「「第25回京都視覚障害者文化祭典」で弱視の方のお点前をいただく」(2015年03月01日)に記した通りです。
 今回も一服いただきました。
 表千家のお点前です。

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 いつも思います。茶杓の扱いと柄杓でお湯を注ぐことは、目が見えないと大変です。
 先生も、そっと介助をなさっています。
 結構なお点前でした。
 
 
 

2016年2月25日 (木)

インド・デリーの点字ブロックなどには要注意

 例えば、目が見えない方をインドのデリーに案内したとします。
 白杖を持って歩く際に、いろいろと日本とは状況が違うことが歴然としています。

 メトロには、点字板や点字ブロックが設置されています。
 カイラーシュコロニー駅に設置されているエレベータには、こんなボタンがありました。
 点字が添えられています。それも、シールが貼られているのではなくて、ボタン自体に加工が施されています。
 公共交通機関での写真撮影が煩いので、ゆっくりとカメラを構えることができず、ピンボケです。

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 これは、2010年10月3日から14日にかけて、インド・デリーで第19回コモンウェルスゲームズが開催されたことによる成果です。開催地決定の基準の中に、障害者に対する対策が必要事項として入っており、その条件を充たすために急遽対処されたものだそうです。

 ただし、街中はデコボコ道で石やレンガがゴロゴロ転がっています。
 段差や障害物も多いので、白杖があっても、よほど慣れていないと一人では歩けません。
 実際に、このカイラーシュコロニー駅の改札を出ると、もう障害物競走の世界が展開します。
 目が見えていても、段差はもとより、サイクルリキシャや呼び込みのお兄さんなどを避けながら歩くことになります。

 国際交流基金ニューデリー日本文化センターの最寄り駅となる、メトロのムールチャンド駅の改札を出ると、こんな点字ブロックがあります。

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 これでは、点字ブロックを信じて歩いて行くと、壁に突き当たり、柱にぶつかります。

 盲学校である「ザ・ブラインド・レリーフ・アソシエーション」の校門に行くまでには、次の点字ブロックを頼りに歩くことになります。
 これでは、道の状態をあらかじめ熟知していないと、とても危なくて歩けません。

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 目の見えない方に対する街中での配慮はもとより、学校などでの教育も、まだまだ障害のある方に対しては指導が行き届いていないようです。

 地方ではどうでしょうか。
 今回、アラハバードへ行きました。
 ほとんど手付かず、というのが実状のようでした。

 悠久の時間が流れている、と言われるインドです。
 インドの人々は、時間はかかっても、着実に1歩1歩進んで行かれます。
 気長に、教育と施設の整備を待つことになりそうです。
 
 
 

2016年2月22日 (月)

インドの盲学校で手書き文字についてミッタル先生と議論する

 盲学校へ行こうとしてお寺のロビーに降りると、ちょうど寺沢上人がお着きになったところでした。
 私が「ソーナの温泉に連れて行っていただきました」と挨拶をすると、「そうでしたね、ずいぶん前のことですね」と、相変わらず柔和な笑顔で応えてくださいました。
 お元気で活躍なさっているようです。
 世界の平和を日々実践を通して願っておられる姿を、私は畏敬の念で見上げています。人間の盾となって紛争阻止の行動を起こしておられるお姿は、日本の報道でも紹介されていました。

「【日本の実力】第8部 草の根平和運動③紛争地で平和祈る僧(半沢隆実 共同通信記者)」(2010年8月27日)

 これから私は日本に帰るところです。寺沢上人は明日日本に行かれるそうです。ご一緒できなくて残念です。日本での滞在先をうかがったので、可能であれば日本でもお目にかかりたいと思っています。
 寺沢上人からは、挫けない気持ちを保つ心構えを、ぜひとも伝授していただきたいと願っています。
 慌ただしく外出なさる直前のことながら、一緒に記念撮影に応じてくださいました。
 優しいお気持ちは、上人のお顔に滲み出ています。ありがとうございました。


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 盲学校では、クマール君が待っていてくれました。デリー市内の渋滞に巻き込まれ、私は少し遅れて盲学校に着きました。
 先日お話をうかがったパンディ先生に加えて、仲立ちをしてくださった日本語教育担当のナンディ先生もご一緒です。ナンディ先生は日本人です。クマール君をネルー大学で教えた先生であり、タリク君も教えていたことがわかりました。人と人とのつながりは、不思議な糸で結ばれていることを実感します。

 まず確認したことは、インドでは先天盲の方と後天盲の方の比率です。これは、だいたい半々ではないか、とのことでした。日本では先天盲の方は1割位ではないか、と言われています。つまり、9割方が中途失明であることが、点字習得者は1割だろうといわれる理由でもあります。後天盲の方は、かつて文字が読み書きでき、その文字のイメージがあるので、点字を学習して習得するモチベーションが低いのです。点字が読めたとしても、書くまでには至らないと言われています。
 このインドと日本の先天盲の比率の違いは、今回私が課題として来た問題に大きな影響を与える一つとなりそうな感触を得ました。

 話始めてから、文字の専門家である A.K.ミッタル先生も参加してくださいました。ミッタル先生は最初から目が見えなかった方で、世界盲人連合(World Blind Union)のインド代表という立場の先生です。
 こうして、盲教育を牽引する3人の先生方という、豪華なメンバーで話し合いをすることになりました。(写真は右から、パンディ先生、ナンディ先生、ミッタル先生、私です。)


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 ミッタル先生は、私の説明を聞いてすぐに、それは点字の歴史に逆行するものである、点字ができる前の時代の動きをやろうとしている、と厳しく指摘されました。また、立体コピーについては、本が厚くなるだけなので、実践的ではない、義務教育で使えるだろうか?とも。イメージ全体を理解できるとは思えないからだそうです。
 それでも、中途失明者、後天盲の人には役にたつかもしれない、という理解はいただけました。

 こうした反応には馴れているので、今取り組んでいることは、おっしゃるように100年前の版木に文字を彫ったものの復活ではなくて、最新の技術と機器を活用した道具で、新たにスタートするものであることを説明しました。環境が変わったことを中心にした説明です。

 ミッタル先生から、彫った文字を読むことは失敗だったということを前提にして、点字にまさるものはないという論理が、日本に留まらずインドでも出てきたのには少なからず意外でした。

 この考え方の行き違いについては、私が長々と説明した後で最後には了解していただけました。そのためには、絵や図形の認識の必要性を間に挟むことで、手書きの文字の認識に理解をつなげることを力説したのです。
 日本でも同じ論法で、これまで積み上げてきた点字の功績を否定するものとして理解されることが多いのです。
 そうではなくて、点字で表記できないものや、過去の手書き資料や文書を読むことの意義を強調しました。先天盲の方には文字の姿形がインプットされていないことを前提にした、フォントのイメージを持ってもらう手段を模索していることも伝えました。

 このレベルの話に展開した後、ミッタル先生は4日前に IIT(インド工科大学)で開催されたイメージをテーマとする会議でワークショップをなさった話も、詳細に話してくださいました。目が見えない人に、形をイメージとしてどう活かすかを議論したそうです。
 その流れで、イメージのありかたについても、ミッタル先生とお互いの意見交換をしました。私は、あくまでも、変体仮名のような形をイメージできるようになる教育方法を模索している立場からです。先生は、図形の認識の視点からお話をしてくださいました。この点では、意見は噛み合ったので安心しました。ただし、先生は実践を重視なさるので、簡単な図形を触ることの重要性を強調なさいました。私が言う仮名文字は、先生にとっては複雑すぎるとおっしゃいます。「シェイプ」ということばを頻繁に使って説明してくださいました。この「シェイプ」ということばが、ミッタル先生とお話をする際にはキーワードになるのです。


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 私は、イメージとして図形を認識することについて、あくまでも日本の変体仮名を例にして説明しました。もちろん、地図や彫刻を触る広瀬浩二郎さんの手法も話題にしました。これについては、通訳をしてくださった先生とクマール君の理解に届かないものだったのか、先生の表情からお察しするに、うまく伝わらなかったかもしれません。私の言うことは、サインには使えるだろう、とおっしゃったので、そのように感じました。

 次回、機会があれば、このことについて先生とお話をしたいと思います。きっとわかってくださるという確信は得られましたので。

 その時の私の説明で、例えば、700年前の鎌倉時代に書かれた『源氏物語』の写本を読むためには、点字だけでは対応できないことを伝えようとしました。そこで、変体仮名という手書き文字の図形認識が必要になります。そして、これが現在の日本では可能になっていることを、渡邊さんや尾崎さんとの取り組みを通して、具体例を上げて詳細にお話しました。

 そんなものを目の見えない者が読む必要があるのか、との反論を、ミッタル先生からいただきました。これについては、指で触読する可能性と文化理解の問題である、という観点から説明しました。特に、手書きの文字が読めることは、コミュニケーションの広がりと、書き継がれてきた文字の文化を理解するスタート地点に立つことになります。その、先人によって書き継がれてきたものを触読して継承することは、温故知新の文化理解につながります、と。

 この手書き文字を読む、という展開になったときに、驚くべきインドの事情を知らされました。
 それは今、インドでは、ヒンディー語で使用するテーバナーガリー文字を手で書くことはほとんどない、ということなのです。すべて、印刷された文字である活字として読まれていて、書ける人は少ないそうです。書くとしたら、英語なら、とも。

 日本の書道の例をあげると、わかっていただけました。文字に美を読むからです。文字の美しさを感じることは大切だという点では、お互いに納得しました。しかし、ヒンディー語ではそれは求められていないのでした。
 ただし、ウルドゥー語には、日本で言う書道があるそうです。これは、先日行ったウルドゥー語の祭典の会場で見かけました。あの時は、日本や中国でよく見かける、いろいろな色を使ったグラフィク文字としか見ていなかったからです。ウルドゥー語の新聞がこの装飾的な文字を取り上げていたことと、石版によるリトグラフの話にも発展しました。

 そこから、アルファベットなどの装飾文字としての花文字の話にもなりました。
 ただし、ヒンディー文字に関しては、この文字に美を感じるという説明が通用しない現実を知らされました。
 私が言わんとすることはわかった。納得できた。しかし、今インドでは、手書き文字の読み書きは必要ない社会になっている、地方なら話は別だ、と言われると、私としては絶句するしかない状況に置かれました。衝撃的な内容だったのです。文字を手で書き、さらにそこに美しさを求めるということは、社会的な取り組みも今後ともなされないだろう、とおっしゃいました。

 ヒンディー語の立体コピーも持参していたので、それを触っていただいた時でした。ヒンディー語を触読する意味はない、と断言なさいました。もっとも、古い文献を読む時には役立つかもしれないが、とも。これは、サンスクリット文字のことになります。ヒンディー語で使うテーバナーガリー文字は、音声的な文字です。そのことから、インドでは英語のアルファベットの方が触読の意味はありそうだ、ということになりました。また、触読のテストをしてのデータは集めやすいだろう、とのことです。
 アルファベットのABCを使った立体コピーは用意して来ませんでした。世界的に意味があるのであれば、今秋インドに来る時に持ってくることにしましょう。

 また、日本点字図書館の理事長である田中徹二先生が、今回持参した古写本『源氏物語 須磨』の数文字を、北海道でお目にかかった時に触読なさったことをお話すると、私の説明を聞く姿勢が心なしか変わったように思えました。それは、ミッタル先生が田中先生をご存知だったからです。

 この変体仮名というイメージを、最初から目が見えない私などにどう植え付けようと考えているのか、という質問になりました。これは、理解を示してくださったからこその質問です。私は、今、書写という文字をなぞる練習をする中で可能だと思っていることをお伝えしました。左手で立体コピーを触読し、右手には「ゆび筆」という物をはめて同じ文字を書くことで、イメージとして文字を覚えることができるようになるはずだ、と説明したのです。すると、筆とはどんな物かと聞かれたので、これはパンディ先生とナンディ先生が詳しく説明してくださいました。

 また、名古屋工業大学の森川慧一君が開発したタッチパネルを触って、古写本に書かれている文字を音として聞き、説明も聞けるシステムの話もしました。すると、さらに耳をそばだてて質問が続きました。一通り説明してから、今秋またデリーに来るので、その時に開発したタッチパネルを持参する約束をしました。これはおもしろくなりました。もっと話を聞いてくださることになったのですから。
 とにかく、音でサポートすることに関しては、共通理解を得られることになりました。ヒンディー語では、この音を使った支援は重要だと痛感しました。もっとも、このタッチパネルで文字の説明をする時には、英語でしてくれ、との注文を受けました。これは大変な課題です。

 さらに、ヒンディー語ではコンピュータで文字を読み取ってテキストにするOCR技術は、まだ対応できていない文字があるので課題が残っているそうです。この点も、目が見えない方にとっては問題点として残っているようです。

 とにかく、パンディ先生、ナンディ先生、クマール君に代わる代わる通訳していただいたこともあり、ミッタル先生に私がやっていることとその考え方が、どの程度伝わったのかよくわかりません。
 しかし、日本から目が不自由な方々のことでインドを訪問したことに感謝のことばをいただきました。これまでになかったことだから、と。
 このお礼のことばを聞いて、こちらの考えがおおよそ伝わったことを感じました。
 そして私からは、こちらこそ、ざっくばらんな話ができたことに、感謝の気持ちを伝えました。

 今あの時間を思い出そうとしても、なかなか再構成できません。必死になって対応したからでしょう。しかし、お互いに前向きに理解しあえたことは確かです。

 インドを代表する世界盲人連合(World Blind Union)のメンバーであるミッタル先生と、お話から議論へと展開する機会を得て、この問題ではずぶの素人ながらも現在推進していることをお伝えできたことは幸いでした。突然に設定された話し合いの場だったのですから。
 ミッタル先生にとっても新鮮だったようです。この若造(?)が、と思いながら対応してくださったことでしょう。しかし、今取り組んでいることを具体的に示せる私にとって、怖じ気づくことなく先生に真っ正面から体当たりしたつもりです。インドにとって大きな存在の先生なので、私などが遠慮することはかえって失礼です。知らないことの強み、と言えるかもしれません。

 日本に帰った直後でもあり、通信事情が悪かったインドでは調べる余裕もなかったので、「世界盲人連合」について、「ウィキペディア」で調べてみました。以下のような組織だったのです。まだ記述が始まったばかりのようです。今後、この項目もさらに詳細になっていくことでしょう。関係者のみなさま、この項目の充実も忘れずに進めてください。


世界盲人連合(World Blind Union)は、盲人の権利を守る目的で1984年に国際盲人連盟(International Federation of the Blind)と世界盲人福祉協議会(World Council for Welfare of the Blind)が提唱してサウジアラビアのリヤドでの設立総会で合併して設立された世界盲人運動団体である。4年ごとに役員改選が行われ、理事会が開催される。現在、約170カ国の全国盲人団体が加盟しており、アフリカ、アジア、アジア太平洋、ヨーロッパ、南アメリカ、北アメリカ・カリブ海に地域事務局が置かれている。
運動団体として世界各国で点字を使う盲人の権利を推進している。会議言語として英語の音声と英語の点字を使うこととなっている。
日本からは日本盲人福祉委員会が設立当初から加盟している。

 ミッタル先生に対しては、話の展開の中では、大変失礼なことも申し上げたかと思います。しかし、終始話を真剣に聴き入ってくださっている表情から、すれすれの所で許してくださっていたからこそ、上記のような話の展開になったかと思います。先生が私にくださったご批判は、今後の活動の中で活かしていくつもりです。
 今後ともよきアドバイスを、どうかよろしくお願いいたします。
 今秋、11月にまたお目にかかれたら幸いです。
 
 
 

2016年2月18日 (木)

デリーの盲学校で立体コピーに挑戦してもらう

 国際交流基金からオートリキシャを飛ばし、オベロイホテルの近くにある盲学校「ザ・ブラインド・レリーフ・アソシエーション」を訪問しました。

 この学校については、インドに来てから得られた幸運な情報によって、偶然に訪問が実現したものです。

 インドに来る前から、視覚障害者の施設について、知り合いに問い合わせていました。しかし、何も情報が得られないままに来ることとなり、今回は諦めていたことです。

 それが、デリー日本人会の大野さんを紹介していただき、そこから盲学校で日本語ボランティアとして先生をしておられるナンディさんに電話をし、さらにザ・ブラインド・レリーフ・アソシエーションのCEOをなさっているカイラシ・チャンドラ・パンディ先生へと、芋づる式に電話をリレーして面談に漕ぎ着けたのです。まさに、奇跡とでも言うしかない、連係プレーのなせる技だったのです。

 学校の入り口で、白杖を持った生徒さんが下校されるところに出くわしました。


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 狭い舗道なのに、慣れた手つきで白杖を使って歩いて行かれます。ここに敷かれた点字ブロックが理解できない敷設となっていることは、また後日、デリーの障害者対策としてまとめる予定です。

 パンディ先生は、少し遅くなった私と村上さんを、わざわざ外に出て待っていてくださいました。ありがたいことです。
 パンディ先生は1961年から日本大使館に勤務しておられ、その後ここにお出でになった方です。流暢な日本語を話されます。

 グラウンドでは、生徒達がクリケットを楽しんでいました。インドでは、野球ではなくてクリケットが国民的なスポーツなのです。見えないことが信じられないほど、早い球を遠くまで飛ばしていました。


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 柔道着を着た生徒や、競歩のように歩く3人連れなど、みんな寮から出てきて運動をしていました。

 パンディ先生とはあいさつもそこそこに、学校の中を詳しく説明していただきました。まずは、トレーニングセンターの中から。


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 最初の部屋では、コンピュータの習得を目指して、キーボードに向かうみなさんの様子を拝見しました。写真は自由に撮影させていただき、私のブログでも紹介していいとのお許しをいただきました。ブログで紹介する場合など、文字よりも写真の方が理解と共感が得やすいのは確かです。

 入ってすぐのコンピュータの前では、キー入力の基礎を若い先生の指導のもとに必死に覚えようとする少女がいました。


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 一番奥には、消えたモニタの前で、スピーカーの音を頼りにキーを叩く生徒がいます。


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 全盲の彼女にとって、モニタは何の役にもたたず、スピーカーから流れる音声だけが、入力した文字や書かれた文字の確認に必要不可欠な情報源なのです。この、真っ黒いモニタの前に座ってキーを無心に叩いている姿には、いろいろな思いが私の心の中に去来します。

 私が基盤むき出しのコンピュータであるマイコンキット「NEC〈TK-80〉」に触ったのは1980年なので、今から36年前になります。その頃は、モニタはまだなくて、電卓のように数字だけが表示されるセグメントが8個ならんでいるものがありました。コンピュータに入出力した情報を小さな窓で確認するのです。それでも、8個の数字を見ながらの操作でした。
 この目の前の少女は、何も見えない中で、墨字か点字を思い浮かべて文字列をイメージしているのです。瞑想という言葉を思い出しました。

 その手前では、ヒンディー語を入力するために、テーバナーガリー文字を扱っているところでした。複雑な文字の構成を、彼も音を頼りにして考えながらキーを叩いています。


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 後ろのテーブルには、点字ライターが数台あります。


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 これについては、19日に再訪することになっているので、その折にうかがうつもりです。

 録音室も完備していました。


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 学生たちが授業を受けたりする教室は、机の形が日本と違います。


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 一通り案内していただいた後は、パンディ先生のCEO室で、勉強の終わった生徒に来てもらい、立体文字を読む体験をしました。
 みんな、行儀良く挨拶をして入ってきます。躾が徹底しているようです。

 まず、ヒンディー語とひらがなの立体コピー文字にチャレンジしてくれたのは、18歳で高校1年生(10年級)のシュエーブアリー君です。パンディ先生に励まされながら、真剣勝負の触読です。


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 彼は先天盲です。しかし、ほんの少しだけ、夕方には見えていたそうです。母と兄が黒板に書いてくれた文字を見た記憶があるとのこと。
 ヒンディー語の点字で書かれた、ガンディーの「金の鉛筆のかけら」という文章を、目の前でスラスラと読んでくれました。確かに点字は自由自在に読めることがわかります。しかし、ヒンディー文字は学んでいないので、私が持参した立体コピーを触っても、ヒンディー文字の字形はわからないそうです。お父さんが木工細工で文字を作ってくれたので、英語のアルファベットなら自信があるようです。
 木工細工ということばを聞いて、今、科研運用補助員の関口祐未さんが作成中の厚紙凸字のひらがなをとり出して、それを触ってもらいました。


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 この日は、このひらがなについての感想は聞けませんでした。しかし、日本語検定試験のために、ひらがなを音として点字で勉強しているそうです。今後はひらがなの字形を覚えてみることも、日本語学習には効果的なものとなる可能性があります。
 外国語としてのひらがなの字形を習得する方法として、立体コピーや厚紙凸字を活用した研究を、さらに続けていきたいと思います。
 触読による文字認識の可能性が、今回の盲学校訪問で広がったようです。
 また、次回はアルファベットの立体コピーでの実験をしてみましょう。

 シュエーブアリー君は、鎌倉時代に書写されたハーバード本「須磨」の冒頭部分の触読にも果敢にチャレンジしてくれました。


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 今のところ彼は、ひらがなについては音だけでの習得に留まっています。それには、ローマ字を使った勉強のようです。
 この墨で書かれた変体仮名については、その多彩な字形を覚えるところから始まるので、彼にふさわしい教育方法を考えてみたいと思います。

 もう一人、昨夏日本に行ったという、サミエル・カーン君も挑戦してくれました。
 彼は17歳で、全盲ではなくて少しだけ見えるようです。彼も、英語の立体コピーなら読めると言い切りました。昨夏より日本語にも興味を持ち、以来勉強を始めたところです。今回試みたヒンディー語とひらがなの触読は、村上さんが少し介助をしたのですが、まったく読めませんでした。


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 彼も、これからに期待しましょう。
 今回は、突然のことでもあり、持参した立体コピーではシュエーブアリー君が数字の「2」だけを読みました。これは、世界共通なので当たり前のことです。しかし、触読できた、ということは、これからの展開の可能性を見せてくれた、ということでもあります。

 この盲学校については、『ノーマライゼーション』(2015年4月号)の巻頭に、「チャレンジ 将来を担って点字で日本語も習得」という写真を多用した記事で、詳しく紹介されています。パンディ先生も登場しておられます。
 
 
 

2016年2月14日 (日)

ウルドゥ語の祭典のオープニングイベントに参加

 12日から14日まで開催されている「ウルドゥー語の祭典」「Jashn-e Rekhta」の会場は、Indira Gandhi National Centre for the Arts, Delhiです。

 あらかじめウエブで参加登録をしており、メールで情報はもらっていたので、スムーズに入ることができました。すべて、村上さんのおかげなのですが。


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 本のブースで、コーランをなぞると読み上げてくれるペンを見つけました。「デジタルペン コーラン」というものです。


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 これは、昨夏に本ブログで紹介した「しゃべるペン(音筆)で絵本の中の漢字と遊ぶ」(2015年08月25日)と同じ仕組みのようです。
 ボタンで言語の切り替えができます。ペンはドバイ製で、値段は1万円弱でした。

 サヒタヤアカデミーは何も並べていないので残念でした。
 オープニングの日なので、明日からの本番で展示なさるのでしょう。


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 一緒に行った村上さんが持っていた特別招待券の効果があり、メインイベントの会場では前の方のエリアの良い席に座れました。
 会場の一番後ろから舞台を見ました。用意された椅子は2500です。その周りに多くの方が立って見ておられたので、3000人は集っておられたと思われます。


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 開会にあたってのウルドゥ語のスピーチを聞いていて、まったくわからないながらも、柔らかい音で優しい感じのする言葉だと思いました。ただし、男性の方が滑らかで、女性の発音はややきついと思われる抑揚が気になりました。これは、スピーカーの個性なのでしょうが。

 この日の朗読は、村上さんが『想い出の小路』として日本語訳を出版している原本をもとにしたものです。


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 仲間が日本語に翻訳した原本が舞台で読まれているので、男性と女性が交互に朗読されるのを聞く方も、格別の思いで聴き入りました。


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 登壇の朗読者は、インドでは本格的な女優として有名なシャバーナー・アーズミーさん、男性の詩人がジャーヴェード・アフタルさんです。ジャーヴェードさんが作品の父親役を、シャバーナーさんが娘役をなさっていました。これ以上にない、特別に豪華な配役とのことです。そのせいもあって、こんなに人が集まるのです。

 舞台の右手前には、学問の神様へお祈りする聖なる火が灯されています。
 これは、かつてサヒタヤアカデミーで開催した「第1回 インド国際日本文学研究集会」(2004年10月29日)でも会場に置かれており、私も蝋燭を献灯させていただきました。下の写真右端が当時の在インド日本国大使の榎泰邦氏、その左横にS.B.バルマ博士、そしてその後ろに私、左下がアニタ・カンナ先生です。

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 この日のメインとなる朗読劇は、言葉はわからなくても、その音の流れと強弱がリズミカルで、楽しく聞くことができました。朗読の合間に演奏される音楽も程よいコラボレーションとなっていました。有名な曲が流れると、会場が大いに湧きます。映画音楽は、みなさん良くご存じなのです。


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 交互に二人が語りあい、佳境に入ったのか会場は沸きに沸きました。
 みなさん、話の内容をよくご存じの方が多いようです。笑いあり拍手ありの、言葉と音楽の総合劇です。後半の笑いの渦は一転して静かになりました。
 朗読がこんなに人々の心をつかむことに感動しました。

 終盤に、舞台の上に三日月が顔を出しました。


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 演者のみなさんが総出で並ばれると、観客の人々がどっと前に押し寄せて来られました。


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 女優のシャバーナー・アーズミーさんと村上さんは出版時にやりとりがあり、今回もメールを交換していたそうです。そして、舞台上で2人が大勢の人垣の中で挨拶する場面を撮影することができました。写真右端に、村上さんが刊行した青色の表紙の本が見えます。


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 ジャーヴェードさんの人気は絶大で、日本で言えば吉永小百合に相当するとおっしゃる方もいらっしゃいました。

 この後、村上さんにとって願ってもない僥倖と言える、奇跡的な展開があります。しかし、そのことは今は置いておきましょう。

 6時半に始まったイベントも、9時を過ぎるとお腹も空きました。
 会場には屋台がたくさん出ていました。


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 私はビリヤニとマトンのハンバーグをいただきました。しかし、辛くてほとんど食べることができませんでした。日頃はインドでも香辛料の少ない食事をしているので、こんな時には口にするものがありません。


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 途中で食料を仕入れてから、宿に帰りました。
 
 
 

2016年2月 9日 (火)

〈ひらがな〉と〈変体仮名〉をめぐる試行錯誤

 本ブログで「点字による変体仮名版の翻字は可能か」という連載をしています。

 それと平行して、、「古写本『源氏物語』の触読研究」という科研「挑戦的萌芽研究」のホームページでは、『立体〈ひらがな〉字典』という項目のもとに、具体的な文字の説明文を提示して試行錯誤を続けています。

 この「点字による変体仮名版の翻字」と『立体〈ひらがな〉字典』に関して、それを実際に確認してくださっている渡邊寛子さんからのご意見をもとに、今後の新たな展開を期待してここに取り上げてみました。

 この問題に関して、幅広くご意見をいただけると幸いです。
 
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160209_渡邊「点字による変体仮名版の翻字」について
 
 1月28日で取り上げていただいた私の点字の翻字の例ですが、できるだけ点字のマス数を抑えて本文がわかりにくくならないようにしています。
 点字は表音文字ですので以下、ひらがなで書き表します。


こ(古) こぶんのこ(7マス) ふるい(3マス)
しん(新) しんぶんのしん(9マス) あたらしい(5マス)
し(志) しがんするのし(10マス) こころざし(6マス)
す(寿) じゅみょうのじゅ(9マス) ことぶき(5マス)
す(春) しゅんぶんのしゅん(10マス) はる(2マス)
た(堂) どうどうたるのどう(13マス) どう(3マス)
た(多) たしょうのた(7マス) おおい(3マス)
ら(羅) もうらするのら(9マス) らしょうもん(6マス)
ら(良) りょうこうなのりょう(11マス) よい(2マス)

 それでは以下に「須磨」の冒頭を2パターンで示します。


〈本文〉
よの【中】・いと・わ徒らしく・は新堂な
き・ことの三・ま佐れ八・せ免て・志ら須可
本尓て・あ里へむも・これよ里・八志多那支・
 

よの【中】・いと・わつ(せいとのと)らしく・はし(しんぶんのしん)た(どうどうたるのどう)な
き・ことのみ(かんすうじのさん)・まさ(さとうのさ)れば(かんすうじのはち)・せめ(めんきょのめん)て・し(しがんするのし)らず(ひっすかもくのす)か(かのうせいのか)
ほ(ほんばこのほん)に(じごのじ なんじのぞくじ)て・あり(きょうりのり さと)へむも・これより(きょうりのり さと)・は(かんすうじのはちし(しがんするのし)た(たしょうのた)な(なはしのな)き(しじするのし ささえる)・
 
 

よの【中】・いと・わつ(せいと)らしく・はし(あたらしい)た(どう)な
き・ことのみ(数符3)・まさ(さとう)れば(数符8)・せめ(めんきょ)て・し(ここ
ろざし)らず(すま)か(かのう)
ほ(ほん)に(なんじ)て・あり(さと)へむも・これより(さと)・は(数符8)し(こころざし)た(おおい)な(なは)き(ささえる)・

 ②で短く触る方が本文のつながりを妨げませんが、私が変体仮名を知っている、漢字の字形を覚えていることに由来します。

 関口さんのご指摘ご提案のように、使用されている変体仮名の一覧をつけた方がよいのかもしれません。必要な情報を選べるように。


 
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160208_渡邊『立体〈ひらがな〉字典』について
 
立体に触りながらなら、わかりやすい表現の数々です。
特にカーブするところ、
「か」「ち」「と」「や」「ら」「を」など
触ればわかる丸みというか、角度ですが、「右へ曲がる」などは音声のみで理解するには形を知っていることが前提になりそうです。
 
 
160208_関口
 
ご教示いただいたカーブするところは、例えば「か」でしたら、
「1画目。左・上の位置から書き始めます。右へ横線、左へななめに下がる長い線。」
としました。
横線から、左へななめに下がる、だけでは、確かにどれぐらいの曲がり方をしているのか漠然としています。
ご指摘の「ち」「や」「ら」のカーブはどう言い表してよいか最後まで悩みました。
カーブは難しいです・・・。
やはり何かの形に例えた言い方のほうがよいのでは、と思っております。
このカーブをうまく表現できたらよいのですが。
角度やカーブの形といった、文字の形の特徴となる部分は、もう少し詳しく、具体的に伝わるように考えたいと思います。
 
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2016年2月 8日 (月)

点字による変体仮名版の翻字は可能か(8/from 関口)

 1月21日から2月2日までの7回にわたるやりとりを拝読しました。
 点字に関しては初心者ながら、点字によって変体仮名を翻字することは可能なのでは、と感じました。

 変体仮名、つまり漢字を、点字によってどのように再現するかという問題は、1月28日の記事で、渡邊先生が、翻字データをご自身で点訳し、変体仮名のメモを作って実際に活用されている事例が参考になります。

 例えば、単純ですが、変体仮名の情報を、翻字本文のなかに丸括弧でくくるなどして直接組み入れる方法を考えてみました。写本の「なつ古ろ」でしたら、「なつこ(こぶんのこ)ろ」のようになります。あるいは、欄外に注のような形で、「なつころ」の「こ」は「こぶんのこ」である、という情報を添える方法も考えられます。

 現実的かどうかはわかりませんが、翻字本文は易しく読みやすいほうがよいと思いました。

 変体仮名に対応する点字を新たに作ることも一案かと思います。
 しかし、翻字本文が複雑になりますし、研究開発のコストが必要になることなどもこれまでのやりとりのなかで挙がっています。
 まずは、点字の古文を読むのと変わらずに、気軽に翻字本文を読むことができるように工夫をこらすほうがよいのではと思いました。

 しかし、「こ」は「こぶんのこ」という情報も、「古」という漢字を知らなければ「こぶんのこ」を想起することはできません。「古」という漢字をどのように伝えればよいかという問題があります。

 翻字本文とは別に、変体仮名を学ぶための点字資料を用意する必要があると思いました。

 1月31日の記事では、ハーバード本『源氏物語』「須磨」「蜻蛉」と歴博本「鈴虫」の翻字に必要な変体仮名は57種ということでしたので、57種を習得するための点字資料を作成します。加えて、変体仮名の形を詳しく説明する場合には、音声を使えば多くの情報を伝えることができます。翻字本文にあたる前に、点字版・音声版の両方で変体仮名の情報を得ることができれば、翻字本文がさらに読みやすくなるのではないでしょうか。

 音声読み上げによって『源氏物語』本文を読むときは、中野先生の2月1日のご意見で、音のみが読み上げられる場合と、変体仮名の情報が読み上げられる場合を、読み手が時と場合によって自在に選択できるようにするのが一番よいとあります。
 読み手の目的や興味に応じて、情報を選べる、得られる仕組みや環境を整えることも大切だと思いました。
 
(科研運用補助員の関口祐未さんからのメールを、本ブログ用に整形して掲載しました。)
 
 
 

2016年2月 7日 (日)

『立体〈ひらがな〉字典』を公開しました

 平成27年4月に採択された科研「挑戦的萌芽研究」では、目の不自由な方々と一緒に古写本『源氏物語』が読めないか、というテーマに取り組んでいます。

 関係者のみなさまのお陰で予想以上の成果があがり、科研のホームページ:「古写本『源氏物語』の触読研究」で多くの情報と報告を発信しています。

 今回、その中に『立体〈ひらがな〉字典』という項目を追加しました。

 これは、ひらがなの字形がより明確にイメージできるように、ひらがなの形をことばで説明した『字典』です。

 初めて取り組むものであり、問題も多々散見するかと思われます。
 実際には、手作りの厚紙凸字を触りながら、ひらがなの字形を確認するための説明文です。


160206_rittaihiragana



 ただし、上の写真のような触読用の厚紙凸字を、ネットでは体感していただけません。そのため、当座は文字による説明文でどこまでイメージを構築していただけるか、ということに留まるものです。今後は、3Dプリンタの活用など、さまざまな可能性を模索していくつもりです。

 暫定版であっても『立体〈ひらがな〉字典』を広く公開することで、異種他分野や障害をお持ちの方々からのご教示をいただけることを期待しています。
 少しずつ改良の手を加えて、便利な『字典』になるように育てていきたいと思っています。

 今回公開した『立体〈ひらがな〉字典』は、「挑戦的萌芽研究」において科研運用補助員として奮闘している関口祐未さんの試行版です。

 感想なども含めて、ご意見やアドバイスをいただけると幸いです。
 
 
 
 

2016年2月 3日 (水)

「きずなづくり大賞 2015」受賞の関場理華さんと「百星の会」

 「点字付き百人一首〜百星の会」の事務局を運営なさっている関場理華さんから、正月23日に、非常に嬉しい知らせが届きました。

 精力的に続けておられる「点字付き百人一首」の活動が、東京都社会福祉協議会の「きづなづくり大賞 2015」の中でももっとも輝かしい「都知事賞」を受賞した、とのことです。

 関場さんとは、昨夏8月末の暑い日に、京都嵯峨野で初めてお目にかかりました。その時のことは、「京洛逍遥(375)嵯峨野で「点字付百人一首」を楽しんだ後は時雨殿へ」(2015年08月31日)に書いた通りです。

 昨年11月には、東京駅構内の一角で長時間にわたって打ち合わせをしました。それは、12月6日(日)に東京・護国寺の筑波大学附属視覚特別支援学校で開催される「科学へジャンプ! イン東京」というイベントで、「五感を使って感じられる百人一首」というワークショップを関場さんがなさることに協力することになり、その詳細を話し合うものでした。
「五感を使って江戸時代の百人一首カルタにチャレンジ」(2015年11月23日)

 関場さんが書かれた文章「かるたを通したコミュニケーション」が掲載された雑誌の紹介も、「視覚障害をテーマとする3本の記事の紹介」(2015年12月02日)の中でしました。

 そして、筑波大学附属視覚特別支援学校で開催されたイベントの日に、関場さんのお手伝いをさせていただいたことは、「体験型学習会で点字付百人一首のお手伝い」(2015年12月06日)で報告した通りです。

 この3度のお付き合いだけでも、関場さんの誠意と情熱を肌身に感じ取ることができました。ありがたい、嬉しい出会いでした。

 そこへ、今回の受賞です。わが事のように嬉しくてなりません。

 関場さんから受賞の知らせを教えていただき、すぐにネットでその詳細を確認しようとしました。しかし、関場さんの名前が見あたりません。
 「2015 きずなづくり大賞」のホームページを見ても、いつまでたっても昨年の情報のままです。
 主催団体である「東京都社会福祉協議会」のホームページにも、この件での情報はアップされていません。

 公式発表が遅れている中で、関場さんは取る物も取り敢えず、いち早く私に朗報を知らせてくださったのだろうと思いました。そこで、関場さんのお気持ちを、私のフライングで迷惑をかけないようにしようと思いました。主催団体のホームページから正式に発表を待って、その確認をしてからこのブログで取り上げ、関場さんへのお祝いにかえよう、と思い留まったのです。

 ところが、待てど暮らせど、主催団体のホームページから公表がなされません。
 2月になったのを機に、もうどこかに公表されているだろうと思い、それこそ八方手を尽くしてネットを探しました。
 上記の「2015 きずなづくり大賞」のホームページは昨年のままであることは今も変わりません。
 そんな中で、「東京ボランティア・市民活動センター」のニュースの中に、「きずなづくり入選作決定 きずなづくり大賞2015入選作決定」という文字を見つけました。やっと受賞の報告にたどり着けたのです。
 そこには、「きずなづくり大賞2015 入選作が決まりました」とあります。
 この記事を、この10日ほど毎日探していたのです。
 もっとも、そのタイトルの下には、



■東京都知事賞
「点字の向こうに笑顔が見える」関根 理華さん

とあります。
 何と、「関場 理華さん」ではなくて「関根 理華さん」となっているのです。
 名前を間違って公表なさっているのです。いろいろとネットで「関場」さんを検索しても、見つからないはずです。
 この記事のタイムスタンプは、「2016-01-23; TVAC」となっているので、関場さんが私に受賞の知らせを届けてくださった、まさにその日なのです。

 へたに気を回さずに、関場さんから教えていただいてすぐに、本ブログでこの記事を書けばよかったのです。
 実に10日間、毎日探し回っていたことは徒労だったのです。しかし、おめでたいことなので、それはそれ、ということにしましょう。
 なお、上記「2015 きずなづくり大賞」のホームページの「※入賞作品が発表になりました。こちらをご覧ください。(2015年1月29日)」とある項目をクリックしても、これはいまだに「きずなづくり大賞'14 入賞作品」という、昨年の受賞報告に行くだけです。

 「2015 きずなづくり大賞」のホームページを担当なさっている方にお願いです。リンクを今年の授賞作品にたどり着けるようにしていただけませんか。
 よろしくお願いします。
 
 
 

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2016年2月 2日 (火)

点字による変体仮名版の翻字は可能か(7/to 中野)

 昨日掲載した、中野さんからの点字による翻字に関する意見に関して、私が今思うところを記しておきます。
 
(1)写本の情報をどの程度翻字で再現するのか


 「わざわざ翻字を作成する意味」については、私も真っ正面からは考えていませんでした。
 確かに、「最初から現物やその写真、凸字版を研究に使えばよい」わけですから。
 しかし、写本に書写された文字を読み取り、その意味するところを考えるのは、やはり時間と手間がかかります。しかも、翻字には原本固有の誤写や誤読が存在するので、文字列や字形からいろいろと想像を逞しくするのには、相当のエネルギーが求められます。
 さらには、虫損や落丁や錯簡などなど、写本が抱える状況も翻字に影響を与えます。

 そこで、現行の文字で印字されている翻字資料を横に置いた方が、書かれている内容の判読は格段に正確で早くなります。また、書写状態を考慮することなく、書かれている文字列に集中できます。
 分野を異にする方々も、統一された現行の文字で印字された翻字だと、利用の便が拡大するのも確かです。

 さらには検索に関連して、「検索の利便性のために原文の再現性を犠牲にして、語の表記の統一をめざす翻字の方針もありうるのではないか」という見方は、私が『源氏物語別本集成 全15巻』(伊井・伊藤・小林編、桜楓社・おうふう、1989(平成元)年~2002(平成14)年)と『源氏物語別本集成 続 全15巻』(同編、おうふう、2005(平成17)年〜第7巻まで刊行)に取り組む中で実施していたことでもあります。デジタル化を意識した本文データベースの構築のためには、検索されることを意識して文字を統一した翻字をせざるをえなかったのです。
 つまり、「原文の再現性と検索の利便性の両立」は、相矛盾するものなので今後とも検討課題です。

 とはいえ、もっとも優先すべきことは、翻字対象とする原本の再現性だと思います。
 しかも、変体仮名がユニコードとして登録されると、電子情報としての文字がこれまでの手書きや印刷物とはまったく異なったものとなります。本文データベースの基礎となる文字データの中でも、特に仮名文字がもつ情報の質と量が一大変革をきたします。上記の矛盾点は、文字を操作するプログラムやコーパスによって、意識することなく自由に双方の文字を扱えるようになります。

 その意味からも、原本に立ち戻れる、変体仮名を交えた翻字の意義が重要になるはずです。
 原本に「阿」と書いてあるのに、現在の翻字方式では「あ」としています。これでは、未来永劫に原本の正しい書写状態や表記に戻れないのです。
 中野さんも書いておられる、「出来る限り原文の再現ができる方法」は、この問題に着手する最初に確認しておくべきことだと思います。

 また、目が不自由な方が写本を触読や聴読によって読むにあたり、変体仮名の字母レベルでの区別がつかなけれは、写本を読みだしてもすぐに中断することになります。
 現在の変体仮名は、明治33年以降は、ほとんど教育の現場では扱われなかったのですから、今後とも目が見える見えないに関わらず、学習する環境を整える必要があります。
 その際に、変体仮名を点字でどう表記・表現すべきかが問題となるはずです。
 今私は、この問題に一日も早く着手して、多くの方々の意見を集約する形で、変体仮名の理解と習得をめざすシステム作りが急務だと思っています。


 
(2)変体仮名を点字で表す場合どのようにするか

 中野さんのおっしゃる、「変体仮名に対応する点字そのものを作成する」ことに関して、「点字2字、もしくは3字を組み合わせて変体仮名であるという情報を付与する」ということが、今一番可能性の高い方策かもしれません。
 ただし、その場合にも、国立国語研究所が提示しておられる「学術情報交換用変体仮名セット」の中でいえば、「か」の変体仮名として以下の11文字が掲載されていることが、大きな問題をもたらします。

「佳・加・可・嘉・家・我・歟・賀・閑・香・駕」


160202_unicodoka


 鎌倉時代の書写になるハーバード大学本「須磨」「蜻蛉」と歴博本「鈴虫」の三冊だけであれば、「か」は「加」と「可」だけで翻字できます。具体的に言えば、各巻には次のような用例数が確認できています(各巻の数値の多寡は今はおきます)。


   須磨/ 鈴虫/ 蜻蛉= 合計
か= 82/ 10/409= 501
可=303/389/626=1318

 しかし、室町時代から江戸時代へと翻字対象となる写本や版本を広げていくと、上記のような11文字種も出現する「か」などは、その対処が大変になります。
 これは、時間をかけて方策を練る必要がありそうです。


 
(3)変体仮名の音声よみあげについて

 ご提案の「音声情報が付与された写本源氏物語コーパスの作成」については、触読研究の科研で研究協力者としてご協力願っている、国語研の高田智和先生のお力にすがることにしましょう。高田先生は「学術情報交換用変体仮名セット」を策定して提案するメンバーのチーフということでもあり、いろいろと示唆に富むアドバイスをいただけることでしょう。
 高田先生、勝手に頼りにしています。ご寛恕のほどを。

 
 
 

NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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