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2016年2月 1日 (月)

点字による変体仮名版の翻字は可能か(6/from 中野)

 私が中野さんに投げかけたこと「点字による変体仮名版の翻字は可能か(3/伊藤 to 中野)」(2016年01月26日)に関して、以下の返信をいただいています。
 一昨日(1月30日)にいただいたものです。

 私の文章に触発されて、また新たに気づいた問題点もあるようです。
 お互いが思いついたままにやりとりしている内容を公開するものです。
 問題点や対処及び解決策などについては、このコラボレーションを通して、折々に整理したいと思います。

 いましばらくのお付き合いを願います。
 また、ご意見やご感想などがありましたら、いつでもお寄せください。
 
----- 以下、中野さんからの返信(No.2─1月30日) -----
 
(1)写本の情報をどの程度翻字で再現するのか

しろうとの考えでお恥ずかしいのですが、この際なので聞いてしまいます。
私は写本がスラスラとは読めないので、翻字文の存在は非常にありがたく感じています。それを作成してくださっている方々には日頃から感謝の気持でいっぱいでした。
他方、写本をすらすらとよめる専門家の先生方にとって、翻字の作成とはご自身の研究上のどのような利点があるのだろう、という素朴な疑問が長年ありました。
翻字の際には、どうしても情報量や情報の質が変化するもので、すべての情報をそのまま再現したい、というのはとてもコストのかかる作業となります。それならば、写本を読める方にとっては、最初から現物やその写真、凸字版を研究に使えばよいのであって、わざわざ翻字を作成する意味とはなんなのだろう、というのは前々から不思議におもっておりました。

しろうと考えとして、翻字の意義としましては、
まず、写本をよめる研究の後継者の育成のためにはやはり、翻字されたなるべく原文に近い活字文が用意されることは必要なのかもしれないと思います。いままで活字ばかり読んできて、大学に入学していきなり写本の写真を渡されて読むように言われたときに、やはり翻字文にずいぶん助けられた覚えがあります。

もう一つは、検索の利便性です。
翻字の際には、索引が作成されることが多く、これが研究の際には非常に助けになりました。
また、近年では電子化された翻字文がインターネット上などで公開されることとなりますが、これによりさらに検索の利便性が向上しました。
ただし、このとき、原文の表記の差異を忠実に再現してしまうと、たとえば表記にゆれのある語を、一括で検索する、などということが難しくなります。翻字ならではの特性を利用しよう、という方針があるときには、検索の利便性のために原文の再現性を犠牲にして、語の表記の統一をめざす翻字の方針もありうるのではないか、と考えました。
そして、原文の再現性と検索の利便性の両立を考えるのであれば、翻字文の作成のみならず、言語情報(語彙・品詞・統語・音声・文字表記情報等)が付与された源氏物語コーパスの作成までを考慮に入れる必要もあるでしょう。

いろいろ書いてしまいましたが、まとめますと、原文にある情報を翻字の際にすべて再現するというのは難しく、どの情報を優先して再現するか、という取捨選択がかならず必要になるかと思います。
そのときに、優先すべき情報とはなにか、という議論が必要になるのではないでしょうか。ただし、その優先順位は、研究者の研究目的や専門によってさまざまであるかと思います。そのなかで、多くの研究者がおおむね合意ができそうな翻字文とはどのような形のものなのか、ということに私は興味があります。専門の研究者の方々のご意見をうかがいたいところです。

ただし、今回の点字翻字の場合は、研究目的は置いておいて、「出来る限り原文の再現ができる方法」を検討しておくことも、必要かと思います。まず、点字で翻字はどこまで可能か、というところも未知数ではありますので。
 
(2)変体仮名を点字で表す場合どのようにするか

変体仮名の点字についてですが、ブログの記事で渡邊寛子氏がお示しのとおり、文字そのもので翻字するというより、注釈のような形で補う、というものが一つ、おおきな方法としてあり得るかとおもいます。
また、変体仮名に対応する点字そのものを作成する、ということも考えられるかもしれません。漢字対応点字を利用することも考えられますが、原文の漢字表記も翻字の際に再現するのであれば、それらとの混在が問題になってきます。
まったく新しく作るのであれば、点字2字、もしくは3字を組み合わせて変体仮名であるという情報を付与する、などが考えられるかもしれません。
たとえば点字で「が」をかきあらわす場合、「濁音符+か」で2字で「が」という1音を表しています。同様に、たとえば「変体仮名符+音生情報+字母情報」のような組み合わせで、あらたに点字で変体仮名を作成することも可能かと思います。ただし、まったく新しいこころみとなりますので、研究開発にコストが必要となるかと思います。
 
(3)変体仮名の音声よみあげについて

自動音声よみあげの問題についてですが、作品の読解の際などには、いちいち変体仮名の情報がよみあげられるよりは、音のみがよみあげられたほうが良い場合もあるでしょう。表記の研究をするばあいには変体仮名の情報がよみあげられる方がのぞましいでしょう。どちらか、ではなく両方を、よみてが時と場合によって自在に選択できるようにするのが、一番よいのではないかとおもいます。
(1)ともかかわりがあるのですが、電子化するさいには、翻字文の作成、というよりは、音声情報が付与された写本源氏物語コーパスの作成を目指すことも、音声よみあげのためには有用かもしれないと考えております。
 
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〈この意見交換は、明日の「点字による変体仮名版の翻字は可能か(7/伊藤 to 中野)」へ続く〉
 
 
 

2016年1月31日 (日)

点字による変体仮名版の翻字は可能か(5/私案の提示)

 渡邊寛子さんからの報告を受けて、「点字による変体仮名版の翻字は可能か(4/from 渡邊)」(2016年01月28日)という記事を書きました。そして、具体的な方策をいろいろと考えました。

 暫定的ではあっても、目が不自由な方が変体仮名を扱う上で便利なものとして、一つの私案をここに提示します。

 これは、渡邊さんが「翻字データをパソコンで聴きながら点訳」しておられるということから、それではそのための基礎データを作成しておけばいいのではないか、と思ったことに端を発するものです。
 いわば、「視覚障害者用変体仮名表記表現一覧」とでも言うべきものです。

 国立国語研究所がウェブサイトに「学術情報交換用変体仮名」として公開されているものは、「約293文字の文字画像(字形)」でした。
 ただし、これには現行のひらがなである「て(天)/な(奈)/み(美)/も(毛)/る(留)」に関しては変体仮名が3パターン採録されています。
 その他、変体仮名である「可/佐/数/春/須/所/多/登/那/尓/年/能/盤/者/飛/本/満/井/衛/乎」等のよく使われるものには、2パターンの字形が採録されています。
 そのため、字母別変体仮名の文字数は次の176文字に整理することができます。

 これを、さらに鎌倉時代の『源氏物語』(ハーバード本「須磨・蜻蛉」と歴博本「鈴虫」)の写本に使われる変体仮名だけにしぼってみると、次の赤文字(57種)が点字で書き分けられればいいのです。


悪/愛//意/移/憂/有/雲//盈/縁/要/隠/佳//嘉/家/我/歟/賀/閑/香/駕/喜//木/祈/起/九/供/倶//求//気//期/許/乍//差/散/斜/沙/事//受/寿/数//聲//楚/蘇/處//當/千/地/智/致//津/都/亭/低/傳/帝/弖/轉/土/度/東//砥/等/南/名/菜//難/丹//児//而/耳/努//子//熱/濃//農//半/婆//破//頗//避/非//布/倍/弊//邊/報/奉/寳//萬/麻//微//身/无//牟/舞//面/馬//茂//夜/屋/耶//余/餘//李/梨/理//離/流//類/連/麗/婁/樓//露/倭//遺/衛/乎/尾/緒/

 この赤字以外の変体仮名については、鎌倉時代の写本の変体仮名を点字で翻字した後に、そこから見えてきた問題点を整理する中で、室町時代や江戸時代の版本にまで及ぼして考えればいいのではないか、と思います。

 なお、通信で用いられる「無線局運用規則第十四条 別表第五号 通話表」(「ちょっと便利帳」http://www.benricho.org/symbol/tuwa.html)に掲載されている文字に関しては、その表現を利用しています(※印を付したもの)。

阿=「阿弥陀のア」
伊=「伊勢のイ」
江=「江戸のエ」
可=「可能のカ」
支=「(思案中)」
具=「道具のグ」
个=「一个のケ」
希=「希有のケ」
遣=「遣唐使のケ」
古=「古文のコ」
故=「故郷のコ」
佐=「佐渡のサ」
四=「四国のシ」※
志=「志願のシ」
新=「新聞のシ」※
寿=「寿司のス」
春=「(思案中)」
須=「須磨のス」
勢=「伊勢のセ」
所=「余所のソ」
堂=「(思案中)」
多=「多少のタ」
遅=「遅刻のチ」
徒=「生徒のト」
登=「登山のト」
那=「那智のナ」
二=「数字のニ」
尓=「爾の異体字」
怒=「鬼怒川のヌ」
年=「年号のネ」
能=「能登のノ」
八=「数字のはち」※
盤=「円盤のハ」
者=「(思案中)」
葉=「葉月のハ」
悲=「悲劇のヒ」
日=「日本のニ」※
飛=「飛行機のヒ」※
婦=「婦人のフ」
遍=「遍照のヘ」
本=「本文のホ」
万=「万年のマ」
満=「満月のマ」
三=「三笠のミ」※
見=「見舞のミ」
無=「無線のム」※
免=「免許のメ」
母=「母屋のモ」
裳=「裳着のモ」
遊=「遊山のユ」
羅=「羅生門のラ」
里=「里程のリ」
累=「累積のル」
路=「路上のロ」
王=「(思案中)」
井=「井戸のヰ」※
越=「越度のヲ」
【以上57文字】

 まだ、点字で表記するための表現を決めかねているものがいくつかあります。
 「(思案中)」としたのがそれです。
 「王」については、「王仁のワ」を考えました。しかし、応神天皇の時代に『論語』や『千字文』を伝えた王仁(和邇吉師)は、目が見えない方々に「王」という文字をイメージする喚起力に欠けるように思われます。これらは、追い追い考えることにします。
 まずは、現時点での私案を提示しておきます。

 現行(明治33年に制定)のひらがなに加えて、この57種類の変体仮名だけで、ハーバード大学本「須磨」「蜻蛉」と歴博本「鈴虫」が読めるのです。もちろん、「給」や「御」などの漢字は読み飛ばしてのことです。

 漢字を読み飛ばしても、意味は伝わるので心配はいりません。
 これについては、音声による支援を考えています。
 「名工大で古写本の音声システムが初稼働して感激」(2015年11月09日)
 いろいろな視点から対処していくことで、一人でも多くの方に『源氏物語』の写本というものとの接点を見つけ出していただけるのでは、と思って取り組んでいるところです。

 お気付きの点などをご教示いただけると幸いです。

2016年1月28日 (木)

点字による変体仮名版の翻字は可能か(4/from 渡邊)

 福島県立盲学校の渡邊寛子さんから、目が見えない方がどのようにして変体仮名を使いこなしておられるのかがよくわかる、貴重な報告をいただきました。
 これは、今後とも変体仮名を点字で翻字する上で、参考になる情報なので、ここに紹介します。

 なお、渡邊さんからいただいた文章中の用例に、変体仮名の字母を【 】付きで添えていることをお断わりしておきます。


点字の翻字ですが、
今まで私は、いただいた立体コピーはすべて翻字データをパソコンで聴きながら点訳して紙で持ち歩き、一緒に触って確認しておりました。
ですから、変体仮名は当たり前のように、ひらがなの字母の「以」でなければ、
 
  い(いとうのい)【伊】
  い(いどのい)【井】
 
のようにつけていました。
他には、
 
  に(なんじのぞくじ)【尓】
  ま(よろづ)【万】
  ま(まんいんのまん)【満】
  み(数符3)【三】
  は(数符8)【八】
  な(なは)【那】
  し(こころざし)【志】
  し(あたらしい)【新】
  す(ことぶき)【寿】
  す(はる)【春】
 
かさばりますが、それが私にとってわかりやすいので、音声読み上げの音訓を短くしたような、耳慣れたメモを作っております。

 今後とも、変体仮名を点字で表記する上で、この渡邊さんの事例は大いに参考にしたいと思います。
 さらなる検討を進めていきます。
 思いつきで結構です。
 さまざまな立場や角度からのご教示を、よろしくお願いします。
 
 
 

2016年1月26日 (火)

点字による変体仮名版の翻字は可能か(3/伊藤 to 中野)

 昨日の本ブログで取り上げた通り、早速、中野さんから返信をいただきました。
 今回この標題に関する問題を検討する上で、まずは前提となる「源氏物語写本を日本語点字に翻字する意義と目的」に関する確認が、中野さんからの文章に記されていました。

 おおよそ、以下のことが中野さんから提示されています。

(1)点字翻字は、墨字で写本を現行の活字に翻字するときにも共通する問題でもある。
(2)写本に書き留められている情報をどれだけ再現するのか。
(3)源氏物語の点字翻字は、どのような研究に、どのような方法で使われることを想定しているのか。
(4)写本の翻字を「自動音声読み上げにより耳で聞いて読む」という利用方法があること。
(5)変体仮名がユニコードに対応したとき、視読以外の方法でデジタルテキストを利用している人々のことをどれだけ想定しているのか。

 自分の問題意識を整理するためにも、上記5項目を順番に、私なりの当座の私見を記しておきます。
 
(1)点字翻字は、墨字で写本を現行の活字に翻字するときにも共通する問題でもある。


 これは、従来のように、書写された文字を現行のひらがなに置き換えた、便宜的で不正確な翻字の場合に顕現することです。
 従来の翻字は、写本に「なつろ」と書かれていても、「なつろ」としてきました。字母である「古」が変体仮名であることから、明治33年に統制された一文字のひらがなの「こ」に置き換えていたのです。この翻字方法は、研究的な視点から言っても、いかに非学問的な対処であり続けていたのかは、あらためて言うまでもありません。
 これに対して、私は元の写本に戻れない翻字は後世に伝えるべきではない、との立場から、「変体仮名翻字版」という翻字方式を昨年正月より提唱しています。その成果が、『国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」』(伊藤鉄也・阿部江美子・淺川槙子 編著、新典社、2015年10月)として結実しています。
 今、写本に書写された文字を翻字する際に、現行の50音に配列されたひらがなは、問題なく点字で表記できます。問題は、変体仮名である「古」を点字でどう表記するか、ということです。
 この「古」などの変体仮名を点字で表記する際のルールを、新たに考えるか、代替的な処置を考案する必要に迫られています。

 
(2)写本に書き留められている情報をどれだけ再現するのか。

 これは、上記の問題の根底にあるものです。
 点字によって「変体仮名版」の再現をすることは、資料を正確に翻字することの原点にあたるものです。目が見えない方々にも、基礎資料として正確なものは必要です。これは、研究という視点で資料を考えた時に、目が見える見えないで区別することなく、等しく基本的な資料は整備しておくことが、ものごとの始発点になると思います。
 そのような厳密な資料は必要がない、ということではなく、あくまでも日本の文化の中で培われ、書き写されることで伝承してきた写本を、まずは正確に翻字したいものです。その次に、一般的な用途に向けての、簡略版とでもいえる現行のひらがなによる翻字方針のものがあってもいいでしょう。現在の翻字資料は、あくまでも暫定的なひらがな一文字政策の縛りの中で、禁欲的になされたものなのです。
 まずは、正確な本文の再現を目指す上で必要な、新たな表記文字としての変体仮名を表現できる点字を考えるべきではないか、と思います。それが6点で実現するのか、8点で構成するものとするのかは、今私は判断基準も私案も持っていません。これは、ご教示を受けながら可能性を求めて考えたいと思います。ここに記していることは、当座の意見であることを強調しておきます。
 とにかく、明治33年のひらがな一文字という統制政策の呪縛から、少なくとも翻字という作業では開放されるべきです。いつまでも、不正確な50音のひらがなによる翻字でごまかしていてはいけません。

 
(3)源氏物語の点字翻字は、どのような研究に、どのような方法で使われることを想定しているのか。

 いろいろなケースが想定されます。今思いつく、一例をあげます。
 私は、現在提唱している「変体仮名翻字版」による点字翻字は、今に伝わる『源氏物語』の写本に写されている本文の違いを表記文字レベルで知り、日本人が書写してきた実態と実相を確認して考えながら、平安時代に書かれていたと思われる文章に想いを馳せる手掛かりになれば、と思っています。
 写本の中での変体仮名の使われ方は、まだその実態が解明されていません。「あ」として使っているひらがなについて言えば、今の「あ」の字母「安」と異なる「阿」という変体仮名は、一体どのような場合に使われる傾向があったのか、などなど、多くの未解決の課題を解決することにつながっていくものと予想しています。
 その点では、想像力豊かな方々の文字に対する感覚を啓発する意味からも、「変体仮名翻字版」による翻字は、今後ともより一層、本文研究には必要不可欠なものとなるはずです。その分野に目の不自由な方々が、ぜひとも変体仮名を表記できる点字を駆使して研究に参加してほしいと願っています。

 
(4)写本の翻字を「自動音声読み上げにより耳で聞いて読む」という利用方法があること。

 これは、翻字の校正などの確認作業には、どうしても導入したいものです。そして、さまざまな形で伝わる異本や異文の違いを考える上で、この本文を読み上げることによる聞き分けという行程の導入は、有効な研究手段となることでしょう。見えないことによる聞く力の鋭敏さを、大いに活用していただきたいものです。

 
(5)変体仮名がユニコードに対応したとき、視読以外の方法でデジタルテキストを利用している人々のことをどれだけ想定しているのか。

 ここで中野さんは、次のように具体的な問題を提示されました。

「か」の変体仮名として「加」「可」「閑」「我」「家」などいくつか想定できるとおもいますが、これは自動読み上げのときは「か」なのか、それとも「変体仮名であり、字母は何である」などの情報も付与されるのか、などということが検討されているのでしょうか。

 これについて、今私に腹案はありません。
 おそらく、説明的な仮名文字の説明になるのではないか、と漠然と思っています。
 根拠はありませんが。

 
 以上、中野さんの第1信への、私なりの現在思い描ける限りの回答です。
 こうした遣り取りを続ける中で、少しでも実現性の高い、可能性のある解決策を見つけていきたいと思っています。
 
 
 

2016年1月25日 (月)

点字による変体仮名版の翻字は可能か(2/from 中野)

 先週、次の記事を本ブログに掲載しました。

「点字による変体仮名版の翻字は可能か(1/伊藤 to 中野)」(2016年01月21日)

 これは、中野真樹さんの論文「日本語点字による写本翻字作成のための表記論」に触発されて、思いつくままに書いたものです。

 これに対して、中野さんから以下の返信をいただきました。
 このテーマについては、まだほとんど討議や検討がなされていないかと思います。
 中野さんとのやりとりを公開し、問題点の所在とその対処策が明確になれば、得るものの多い意見交換になるのでは、との思いから、今後とも折々に取り上げます。

 この意見交換の場を、科研のホームページ「古写本『源氏物語』の触読研究」に開設したいと思っています。
 しかし、その用意がまだ整っていないので、しばらくはこのブログに連載として掲載します。

 このテーマに関して、さまざまな立場からのご意見などをお寄せいただけると幸いです。
 
----- 以下、中野さんからの返信(1) -----


写本を点字に翻字する際の問題点について的確に整理していただきまして、ありがとうございました。

まずはじめに、確認しておきたいのは、「源氏物語写本を日本語点字に翻字する意義と目的」です。
ここであげられている問題点については、墨字で写本を現行の活字に翻字するときにも一部共通する部分があるのではないでしょうか。
変体仮名をどうするか、ミセケチなどをどのように処理するのか、漢字は現行の字体にするのか、写本にある情報をどれだけ再現するのか。
どの分野・どの研究者にとっても完璧な翻字方法などというものはなく、研究目的や方法によって、必要な情報はかわってくるのではないかとおもいます。
源氏物語の点字翻字は、どのような研究に、どのような方法でつかわれることを想定しているのかを確認することで、「どのような点字翻字を目指すべきか、またそのために解決しなければいけない問題点はなにか」が明確になるのではないかと思います。

次に、これと関連するのですが、写本の翻字は近年は紙媒体だけではなく、デジタルテキストとしてインターネット上などで公開されることも多くなっております。
この場合、翻字された文字を視読する以外に、「耳で聞いて読む」という利用方法が考えられるかとおもいます。
「自動音声読み上げにより源氏物語本文をよむ」という利用方法をしている人たちを想定する必要があるかとおもいます。
つまり、変体仮名がユニコードに対応されるというときに、視読以外の方法でデジタルテキストを利用している人々のことを、どれだけ想定しているのか。ということがとても気になっていました。
つまり「か」の変体仮名として「加」「可」「閑」「我」「家」などいくつか想定できるとおもいますが、これは自動読み上げのときは「か」なのか、それとも「変体仮名であり、字母は何である」などの情報も付与されるのか、などということが検討されているのでしょうか。
それともユニコードの変体仮名セットは、視読者の利用のみ、想定していればよいのでしょうか。

皆様のご意見をいただければ幸いです。


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〈この意見交換は、明日の「点字による変体仮名版の翻字は可能か(3/伊藤 to 中野)」へ続く〉
 
 
 

2016年1月24日 (日)

駅のホーム等で点字表示が改善されています

 以前、駅のホーム等の点字表示が、目の不自由な方のことを考えていない点を取り上げました。

 「バリアフリーやユニバーサルデザインから学ぶこと」(2014年11月28日)

 外を歩くたびに、折々に、こうしたバリアフリーのことが気になります。
 気持ちの持ちようで、街を歩いていてもいろいろと感じるものがあります。

 目が見えない方にとって、これは苦労を強いられるだろうな、とか、耳が聞こえないと途方にくれることになるのでは、などなど。

 目が見える者だけで構築されている社会のありようが、視点を変えるとまったく違って見えるようになったのです。
 そこから、手足の不自由な方についても、耳が聞こえない方についても、同じように外出することの困難さに思いを致すことができるようになりました。

 そうした中で、JR有楽町駅のホームに新たに取り付けられた転落防止のためのセーフティーガードには、垂直面ではなく、傾斜した上面に点字表示がなされているのを見かけました。
 しかも、ドアが開く左右の傾斜面に貼られているのです。
 以前、上記ブログで紹介した写真にある左側の垂直面から、大きく進歩しました。


160122_tenjieki1


160122_tenjieki2


 また、昨日はJR平塚駅のトイレの入口で、絶妙な角度で触読できる案内図付きの柱を見かけました。触読する時の手首の角度が考えられているのです。
 しかも、それが置かれているのが、トイレの入口で心憎い場所に建っているのです。いろいろと考えられた結果なのでしょう。


160124_toiletenji


 今、これが私に役立つものではありません。
 しかし、こうした配慮が感じられるものが少しずつ増えていくことは、なぜか理屈なしに嬉しいものです。

 配慮に欠けると思われる、いわゆる不備ばかりを指摘することに心苦しさを感じていました。
 それが、こうして、困っておられる方々に寄り添うようなポジションやデザインの工夫がなされている風潮を感じだすと、いい傾向だなと少しだけでも気持ちが明るくなります。

 これまで以上に気持ちの良い生活環境を作っていくことに、今私は何も協力できていません。しかし、気づいたことをこうしてブログに書くことで、一緒に社会参加し、協力しているような気持ちになっています。

 何もしないで自己満足に過ぎないものだ、と一蹴しないでください。
 いろいろな方へのまなざしが感じ取れるようになっただけでも、自分としては少し成長したな、と思っているところです。
 街には、こんなふうに変化のきざしがありますよ、と書くことが、これも社会参加の一つにつながるものだ、と思えるようになりました。
 
 
 

2016年1月21日 (木)

点字による変体仮名版の翻字は可能か(1/伊藤 to 中野)

 現在、電子版『触読研究ジャーナル』の創刊号発刊の準備を進めています。
 来月には、科研のホームページ「古写本『源氏物語』の触読研究」に、電子ジャーナルとして公開し、ダウンロードしてもらえるようにします。

 その巻頭を飾る中野真樹さんの論文「日本語点字による写本翻字作成のための表記論」は、いろいろなことを考えさせてもらえる刺激的な内容です。
 ジャーナルの刊行を楽しみにお待ちください。

 そのゲラを拝読しながら、歴博本「鈴虫」を点字で翻字することにチャレンジしたいと思うようになりました。

 現在、私は変体仮名の字母を取り込んだ翻字を進めています。
 昨秋刊行した『国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」』(伊藤鉄也・阿部江美子・淺川槙子 編著、新典社、2015年10月)の翻字を例にして示しましょう。
 次の翻字は、歴博本「鈴虫」の冒頭部分一行目です。


【従来の翻字】
なつころ・はちすの・はな・さかりに・入道
 
【変体仮名版】
なつろ・ちすの・者那・さ可里に・【入道】

 この変体仮名版を点字翻字するとどうなるか、ということを考え出したのです。

 明治33年に一文字に統制された現行のひらがなは、今の点字に対応しているので問題はありません。「ゐ」も「ゑ」も大丈夫です。
 問題となるのは、上記の翻字例で赤字で示した変体仮名を、点字でどう表記するか、ということです。

 日本語点字で写本の翻字本文を、それも変体仮名を交えた翻字本文を作成しようということなので、そこには底知れぬ大きな問題が横たわっていそうです。

 そうです、と言えるのは、まだ私が日本語点字をよく理解していないからです。
 不勉強であることを認めつつ、そうであるからこそ新たな扉が開く、ということもあるかと思い、そこに期待する部分も多分にあります。
 それはともかく、変体仮名の文字セット(約300字弱)がユニコードに対応することがほぼ確実な今、この問題は避けて通れないはずです。

 目の見える方のために作成された墨字の翻字とは異なり、点字の翻字には仮名遣いや文字遣い固有の問題があるはずです。
 それが、原文に忠実な変体仮名を交えたものにするとなると、前例がないだけにさまざまな解決すべき課題が噴出することでしょう。

 今は、変体仮名を2年後のユニコードに対応させることが、喫緊の課題だと思います。そのためには、古写本に書写された文字に忠実な翻字を点字で試みる、という具体的な問題を解決する中で、問題点の洗い直しと、その解決策を考えていくことが急務だと思い、ここにこうして急遽駄文を承知で綴ることにしたのです。

 歴史的仮名遣いと点字仮名遣いについては、古写本に忠実な翻字を目指す点においては、原文通りの表記で問題はありません。
 大きな問題は、変体仮名をどう表記するかということに加えて、踊り字、ミセケチ、補入、ナゾリ、傍記などをどうするか、ということです。つまり、写本の再現性の問題です。
 従来の翻字のように、原本に戻れない翻字では、将来に伝え残せないので意味がありません。この新たな点字翻字では、原本に忠実なものにしたいものです。

 また、「御」「給」「入道」などの漢字をどう扱うか、ということもあります。
 これには、8点式の漢字点と、6点式の6点漢字の導入が考えられます。
 しかし、ただでさえ変体仮名によって文字種が増える上に、そこに点字漢字を加えることは、翻字者や学習者に負担を強いるばかりです。

 これについては、立体コピーによる浮き出し文字で、点字が表現できないところを補うことも可能かもしれません。
 ただし、こうなると写本という対象と、それを翻字する文字や図形と、さらには誰が誰のために、という利活用者の問題が錯綜してきます。

 いずれにしても、こうした問題に興味と関心のある方々と一緒に、解決の手だてを得るための情報交換を始めたいと思います。
 とにかく、変体仮名がユニコードとして国際文字規格に公認される前に、以上の点は解決しておかなければなりません。『源氏物語』の「変体仮名翻字版」でデータベース化を進めている立場から、このことを痛感しているところです。
 意見交換の場を、科研のホームページ「古写本『源氏物語』の触読研究」に開設したいと思います。

 準備が整い次第に本ブログでご案内しますので、自由な意見をお寄せください。
 ああでもない、こうでもない、と言い合っているうちに、解決の糸口が見つかり、妙案が飛び出し、雲を摑むような話が具体化して実現する、という流れを夢想しているところです。

 以上、とりとめもない話ながらも、本記事を今後の「点字翻字変体仮名版」のための「ことあげ」とします。
 
 
 

2016年1月13日 (水)

現在取り組んでいる科研の新年会で確認したこと

 現在取り組んでいる2つの科研では、研究員・補佐員・補助員の3人の方にお手伝いをしていただいています。この3人の英知と努力と根気なくして、あれだけの膨大な情報を集積し、手際よく整理し、迅速に幅広く発信することは叶いません。

 新年を迎え、この仲間4人で、新年会を兼ねて今後の打ち合わせをしました。

 立川駅のレストラン街にある、自然食バイキングのお店が折々に行くところです。これは、外での食事が自由にできない私にとって、非常に使い勝手のいいお店です。食べられる食材の料理を、その時に食べられる分量だけいただけばいいからです。

 今年は、2つの科研が共にラストランとなるので、以下のような課題とその問題点のとりまとめを、みんなで確認しました。
 思いつくままに列記しておきます。


(1)「海外源氏情報」と「古写本の触読研究」は、来年3月に私の定年とともに終了となる。
(2)両科研で収集・構築した情報資源やデータ群は、来年4月以降はNPO法人〈源氏物語電子資料館〉に維持管理してもらう。
(3)公開中の電子ジャーナルやダウンロード可能なデータは、その利活用を積極的に広報する。
(4)今秋、インド・デリーにおいて『源氏物語』の翻訳に関する〈インド国際日本文学研究集会〉を開催する。
(5)『十帖源氏』の多言語翻訳に関して、インド8言語の試行版に着手する。
(6)『源氏物語』の多言語翻訳と翻訳研究史に関する研究成果を、印刷物としてまとめる。
(7)目が不自由な方々の触読環境を整備して、古典文学の領域から情報発信を心がける。
(8)現行の平仮名と変体仮名の触読字典作成のため、文字の説明文を完成させ、公開する中で補訂を加える。
(9)研究者に限らず社会人や学生に、ホームページ及び広報活動を通して、刺激的な情報を発信する。
(10)当面は、『海外平安文学研究ジャーナル第4号』と『触読研究ジャーナル 創刊号』の発行に全力を注ぐ。

 とにかく、これまで通り前を見すえて、ひたすら走っていきます。
 折々に、ご理解とご協力をいただけると幸いです。

 情報発信母体となる科研のホームページは、以下の通り、これまでと変わりません。

「海外源氏情報」(基盤研究A)
 
「古写本『源氏物語』の触読研究」(挑戦的萌芽研究)
 
 多くの方々から、ご意見や情報をお寄せいただけることを、心待ちにしています。
 
 
 

2015年12月 6日 (日)

体験型学習会で点字付百人一首のお手伝い

 東京の護国寺にある筑波大学附属視覚特別支援学校で、「科学へジャンプ! イン東京 2015」というイベントがありました。

 このことは、先月下旬に「五感を使って江戸時代の百人一首カルタにチャレンジ」(2015年11月23日)でお知らせした通りです。

 昨日は、宇治で〈運読〉のワークショップのお手伝いをした後も、参加されたみなさまと情報交換を夜遅くまでやったために、今朝は早い新幹線で上京することになりましました。

 地下鉄烏丸線の駅へ急ぐ道々、北大路橋から賀茂川を見下ろすと、水が冷たくなったこともなんのそのと、鷺とユリカモメが遊び出したところでした。


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 川の東側では、土砂が堆積した中洲の整備が始まっています。
 写真中央奥には、京都五山の送り火でメインとなる、如意ヶ岳の大文字が寒そうに姿を見せています。


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 東京駅から1駅もどって有楽町駅に出て、そこから東京メトロ有楽町線で護国寺駅まで行きました。

 駅から筑波大学附属視覚特別支援学校への道は、目が見えないと大変だろうと、来るたびに思います。複雑な交差点の信号と横断歩道を渡りきっても、次は急な石段が待っているのですから。
 平らな道は大幅に遠回りになるので、みんなこの階段を使うのです。


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 校門に着くと、いつもほっとします。


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 今日の「「科学へジャンプ! イン東京 2015」は、36種類ものワークショップが各教室で進行していきます。ワークショップの担当者の他にも、補助者やボランティア学生などなど、多くの方々の支援でイベントが成り立っています。

 私は午後の部で、「点字の付いた百人一首を使って、楽しみながら、古典の世界に親しもう」というイベントのお手伝いとして、『百人一首』のお話をするのが任務です。

 埼玉県立特別支援学校塙保己一学園の先生を中心として、百星の会のみなさま、長野県立松本盲学校の先生、それに加えて筑波大学と明治学院大学の学生スタッフのみなさに助けられながら、無事に『百人一首』のカルタ取りを楽しむことができました。

 今日の内容は、「坊主めくり用カルタ」「近衛家旧蔵『百人一首』の立体コピー」「お内裏さまとお雛さまの人形」「マネキンの頭部」「塙保己一座像」「匂い袋」「源氏絵付き貝合わせセット」「点字付百人一首」などなど、多彩な小道具による演出で、中学1年生の参加者に『百人一首』の世界を多角的・立体的に味わってもらえたと思います。
 先日、東京駅で打ち合わせたことを踏まえて、無事に予定通り進行しました。

 私が選んだ10首とその現代語訳と簡単な説明は、百星の会の関場さん親子の不眠不休のおかげで、無事に点訳されてこの日に間に合い、生徒さんの手元に置いて進めることができました。

 撰歌、訳文、説明を中学生向けにわかりやすい文章にするにあたっては、生徒指導の経験が豊富な妻の力を借りました。この日のためのスペシャルバージョンです。

 ちょうど先週から私のメールが不調だったこともあり、この点訳資料の作成には、関場さんに本当にご苦労をおかけしてしまいました。ありがとうございました。

 そうした結晶としての点訳資料を、私の説明を聞きながら指を走らせて触読してくれている生徒さんの姿には、感動を超えるものがありました。
 今日の点訳を持ち帰って読むことで、さらに『百人一首』が好きになってもらえたら幸いです。

 台盤にセットして臨んだ「点字付百人一首」のカルタ取りも、回を重ねる毎にスピードがアップして、熱気が伝わるようになりました。読み手として奮闘された廣田先生も、子どもたちへの当意即妙の対応が小気味よくなされていったせいもあって、あっという間に時間が来てしまいました。

 生徒さんには、過日書道家の先生が書いてくださった『百人一首』をもとにして作成した立体コピー版カルタを、参加記念として1枚ずつ差し上げました。

 終わってから、参観しておられた方々が、持参した近衛家旧蔵『百人一首』の複製を時間をかけて興味深く触っておられました。
 確かに、こうした美術品クラスの道具は、なかなか直に手に取って見ることは叶わないものです。
 いい機会に触ってもらえて、有意義な時間をみなさまと共有できました。
 私にとっても、貴重な勉強をさせていただいたことは、みなさまにあらためてお礼もうしあげます。

 なお、本イベントの実行委員長をなさっている入試点訳事業部の高村良明先生は、私の科研「古写本『源氏物語』の触読研究」でもさまざまな視点からご教示をいただいています。
 本日ご挨拶すべきところを、運営責任者として奔走なさっていたので、そのまま失礼しました。
 またの機会にお声掛けいたしますので、今日のところはこのブログで簡単な報告にかえさせていただきます。
 
 
 

2015年12月 5日 (土)

宇治の街歩きと〈運読〉のワークショップ開催

 京都の宇治を舞台にして、「4しょく会 秋のイベント 〈運読〉で楽しむ『源氏物語』〜視覚障害者が古典文学を味わう三つの方法〜」が開催されました。
 主催は、視覚障害者文化を育てる会(4しょく会)で、宇治市源氏物語ミュージアムと、宇治観光ボランティアガイドクラブの協力を得ての大きな行事です。参加者は、北は福島県、西は福岡県に跨がって50人以上となり、当初の予定を大きく上回っての盛会でした。

 私は、宇治にゆかりの深い『源氏物語』をテーマにした内容で参加してもらえないか、という国立民族学博物館の広瀬浩二郎さんの依頼を受けて、講演とワークショップを担当しました。

 広瀬さんが配布なさったお誘いの文章から、その一部を引きます。


 目で『源氏物語』を読んできた見常者に対し、視覚障害者は「聴読」(耳で読む=録音図書)と「触読」(指で読む=点字図書)という方法で、源氏の世界にアプローチしてきました。
(中略)
 聴読と触読は視覚障害者にとって伝統的な読書法だと定義できますが、じつはその背後には見常者にも共通する「行間を読む」文化があることは重要です。今回の4しょく会イベントでは、視覚障害者発の第三の読書法として「運読」(体で読む=立体コピー)を提案します。
(中略)
 物語を書いた作者、それを筆写した老若男女の思いや息遣いを実感するためには、写本そのものを立体コピーし、指で文字をなぞる身体運動が必要です。墨で書かれた線を指先で辿る行為は、写本作りの追体験ともいえます。千年以上もの間、先人たちの手から手へと伝えられてきた『源氏物語』。その運筆(筆の使い方)の妙味を体感するのが運読なのです。
(中略)
 『源氏物語』の情景を想像しつつ、写本の立体コピーをみんなで解読してみましょう。運読をより効果的なものにするために、今回は実際に『源氏物語』の舞台となった宇治に足を運ぶ予定です。
(中略)
 聴読・触読に加え、運読というユニークな鑑賞法を獲得すれば、視覚障害者にとって古典文学は身近で豊かなものになるでしょう。

 〈運読〉というのは、広瀬さんの造語です。〈聴読〉〈触読〉〈運読〉という3つの読書方法を提示して、多くの方々の注意を惹き付けて、宇治の街歩きを織り込んでの開催です。

 まず、お昼にJR宇治駅の改札口で集合し、4班に分かれて宇治市内の街歩きを楽しみにました。
 駅前では、道路に埋め込まれていた標識の絵柄を確認しました。十二単を着たお姫さまを図案化したものです。


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 宇治橋の袂に座す紫式部像の前では、その姿を手で確認なさっている方がいらっしゃいました。


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 さらに歩いて、源氏物語ミュージアムを見学(聴学)しました。
 入口のいろは紅葉のみごとさは、言葉で説明するのが大変です。


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 ミュージアムの中では、お香体験がみなさん一番印象的だったようです。

 世界遺産の宇治上神社周辺の散策も、紅葉の中を楽しく回りました。


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 平安時代後期の本殿は国宝です。その扁額に「正一位離宮太神」と書かれていることに注意が向きました。「太神」についてボランティアガイドの方と神職の方に尋ねると、「太神」はなぜ「太」の字になっているのかはわからないとのことでした。


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 この扁額は、長く倉庫に眠っていてぼろぼろだったものを、補修をして今年の2月から元あったここに掲げているのだそうです。
 「天照大神」が太陽神であることから「天照太神」と書くこともあるので、それと関連する表記なのでしょうか。どなたか、ご存知の方がいらっしゃいましたら教えてください。

 宇治上神社から宇治神社にもお参りし、知恵の輪も潜りました。


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 宇治川では、鵜と鷺が仲良く日向ぼっこです。


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 平等院は、外から垣間見ただけです。


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 本日の講演とワークショップは、宇治市観光センターが会場です。


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 ここでの内容は、「源氏写本研究の魅力と可能性」と題するもので、用意した『源氏物語』の説明を記したプリント4頁分と、立体コピーと科研の宣伝用リーフレットを配布してお話をしました。
 今日配布した資料は、私の科研のホームページである「古写本『源氏物語』の触読研究」の中の「イベント情報/配布資料・源氏写本研究の魅力と可能性」に、その全文を公開しています。参照いただけると、宇治の地を話題にして〈運読〉の実際をみなさんとやった内容がわかるかと思います。

 今日は、「【心】うかりけるところ可な お尓なとやすむらん」という箇所を立体コピーして配布しました。
 また、その前後を、朗読したものも iPhone を使って流しました。

 みなさん、思いがけない長駆の散策でお疲れのところを、熱心に聞いてくださいました。

 その後半で、名古屋工業大学大学院生の森川恵一さんが開発した、タッチパネルによる古写本触読システムの実演をしました。


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 本邦初の公開実験ということもあり、みなさん興味深くハーバード大学本「蜻蛉」の一節を指でダブルタップして、音声による説明に耳を傾けておられました。

 例えば、「心うかりける」の「心」をダブルタップすると、「心という漢字です」という音声が流れます。次に、もう一度「心」をダブルタップすると、「読み飛ばしましょう!!」という声が聞こえるようになっています。
 私は、漢字は無視して、ひらがな(変体仮名)だけを読むシステムを構築しているところです。
 読むことが困難な漢字は、今はパスすることにしています。

 次に、「うかりける」の「う」をダブルタップすると、「うかりける の う です。うかりける は、憂し の連体形です。憂し は 物事が自分の思うようにならず情けない 嫌だ という意味です。」という説明が流れます。

 今日の初公開で、いろいろと問題点も見えてきました。
 今後のさらなる改良において、おおいに意義深い試行となりました。

 今日は好天にも恵まれ、楽しく宇治を散策できました。
 参加者のみなさま、お疲れさまでした。
 関係者のみなさまも、お疲れさまでした。
 また来年、楽しいイベントでお目にかかりましょう。

 なお、『百人一首』の〈運読〉については、福島県から参加の渡邊寛子さんにいろいろと触っていただき、有益なアドバイスをいただきました。これも、今後とも試行錯誤をする中で、変体仮名の学習システムの中に組み込んでいくつもりです。

 懇親会も多くの参加を得て、いい出会いがたくさんありました。
 今後の楽しい企画も、すでに始動しました。
 みなさん、ありがとうございました。
 
 
 

2015年12月 2日 (水)

視覚障害をテーマとする3本の記事の紹介

 本年10月24日(土)に京都で開催された、第4回日本盲教育史研究会については、本ブログ「日本盲教育史研究会第4回研究会に関する報告」(2015年10月24日)に記した通りです。

 その研究会全体の詳細な報告が公開されたので、以下に2つを紹介します。

 『月刊 視覚障害─その研究と情報─』(障害者団体定期刊行物協会、社会福祉法人 視覚障害者支援総合センター)という雑誌は、この分野の情報を幅広くよく取り上げています。記者である星野敏康氏は、さまざまな情報を丹念な取材によって的確にまとめておられます。
 今号12月号(No.331、2015 December)では、過日の研究会が要領よく、わかりやすい記事として掲載されています。


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 小見出しの「学校令と源氏物語と海外留学」の項に記されている、私の発表に関する箇所だけを引用します。全体については、同誌をご覧ください。


 つづく国文学研究資料館教授の伊藤鉄也氏は、昨年10月の第3回研究会で紹介されて以来、盲史研会員とも協力しつつ「『源氏物語』を触って読む」研究を続けている。約700年前の鎌倉時代に書写された「須磨」の巻(ハーバード大学美術館蔵)を資料に、毛筆で書かれた変体仮名を立体コピーして触読しようという実証実験だ。日本学術振興会の科学研究費助成事業「視覚障害者と共に古写本の仮名文字を読み日本古典文化を共有するための挑戦的調査研究」として採択されている。
 当日配布されたのは写本の影印を1.5倍に拡大し、立体コピーしたもの。続け字や墨継ぎによる文字の濃淡などが再現され、視覚障害者にも「日本の伝統的な筆による書写の文化が体感できる」ようになっている。この実験に参加している福島盲学校国語科教諭の渡邊寛子氏と共立女子大学の尾崎栞氏も紹介され、ふたりは既に変体仮名の触読を始めているとのことだったし、さらに協力者も募集された。画数の多い漢字は難しいが、仮名を読むだけでもストーリーは追える。なにより変体仮名を読めない、知らないという点で、多くの晴眼者・視覚障害者が同じ条件で古典文化に触れられるのがこの研究の魅力だ。発表を待ちきれずに資料を触り出す人がいたのも当然だろう。今後は書写実践や音声支援システム等の導入を目指すだけでなく、変体仮名の触読に必須ともいうべき『変体仮名触読字典』、オンライン版『触読研究ジャーナル』の発行も予定されている。「700年前の写本に挑戦する」という意欲的なこの研究の進展や関連するイベント情報などは「古写本『源氏物語』の触読研究」(http://genjiito.sakura.ne.jp/touchread/)でも随時紹介されている。(3~4頁)

 
 また、日本盲教育史研究会から、「日本盲教育史研究会事務局通信№25 2015年11月30日」が会員に配信されました。そこで、日本盲教育史研究会副会長である大橋由昌氏の大会報告があります。
 その中に、私の発表に関する記述がありますので、当該箇所を引きます。


 伊藤氏の報告は、先駆的研究テーマであり、興味深く拝聴しました。豊かなかな文字文化であった平安文学作品を視覚障害者が理解するためには、同じ音を表すかな文字も数種類あるので、より深く鑑賞できる可能性が広がります。ただ現実的な教育現場での活用においては、日本点字考案以前における墨字の読み書き指導の限界性が現場の共通認識であるのですから、小中学部の漢字の構成を学ぶ導入部に使えるのではないかと直感したほかには、文字を触読してみようとする試みは、中途視覚障害者などで、今後趣味の世界などで楽しむ人も出るだろうと思いました。

 共に、私が発表した内容とその意図を的確に捉えた要約であり、すっきりとまとめてくださっています。
 ありがとうございました。
 
 3つ目は、『ノーマライゼーション 障害者の福祉 11月号』(公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会、平成27年11月)に掲載された関場理華氏(展示付き百人一首~百星の会 事務局長)の「かるたを通したコミュニケーション」と題する活動報告です。
 関場氏は、「点字付百人一首~百星の会」を精力的に牽引しておられる方です。


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 「京洛逍遥(375)嵯峨野で「点字付百人一首」を楽しんだ後は時雨殿へ」(2015年08月31日)と、「「点字付百人一首〜百星の会」の紹介と活動内容」(2015年09月01日)で紹介した魅力的な活動は、関場氏なくしては実現しないプロジェクトです。

 今回の記事から、一部を引用します。


 助成金で再度、ボランティアの方々に増産していただいたかるた台を100台と、点字付きの札を持って、大阪・埼玉・千葉・神奈川・京都・静岡・愛知・福岡等で、体験会や用具の電話説明、そんな不眠不休の普及活動(!?)の甲斐あって、全国に散らばる百人一首のファンと繋がることができました。
(中略)
 私たちの会では百人一首だけでなく、点字が苦手な弱視者も触れて分かりやすい「坊主めくり」や、「おやじギャグかるた」等々も点字札を作って、かるたを通したコミュニケーションの場の創設を目指しています。
 視覚に障がいをもつ皆さん! なんでもパソコンで終わらせてしまって、ついつい外出が億劫になってしまっていませんか? 私たちと一緒にかるた取りを楽しんで、人と人との生のコミュニケーションを復活させましょう! (58~60頁)

 この「点字付百人一首」に触発され、『源氏物語』の触読の成果を生かして、変体仮名で書かれたカルタ取りにも挑戦しているところです。

 『源氏物語』の触読につながるように、変体仮名の『百人一首』により、日本の古典文化の主流であった和歌の学習とゲームを取り入れた、新たな触読研究に取り組んでいます。

 多くの方のご理解とご支援をお願いするところです。
 
 
 

2015年12月 1日 (火)

書道家にお願いした触読用の『百人一首』

 今日、念願だった『百人一首』の立体コピーを完成させました。


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 取り札と、数首を並べたシートの2種類を試作しました。
 これを使って、目が見えない方々と一緒に『百人一首』のカルタ遊びをし、また、変体仮名の学習に役立てたいと思います。
 その先には、もちろんハーバード本『源氏物語』を触読する目標があります。

 ここに至るまでの経緯を、簡単に記しておきます。

 書家のMさんから初めて本ブログにコメントをいただいたのは、本年4月末でした。
 料紙制作20年、かな書45年、表具制作25年という経歴の方でした。
 新潮日本古典集成の活字校訂本文をもとにして、『源氏物語』の写本を作成しておられるとのことです。そこで、書写に関するアドバイスを、ということで連絡をくださったのです。

 私からは、かつて私が次のブログで批判したことと同じことをなさっているように思われます、という返事をさしあげました。

「何故かくも愚行を誇らしげに」(2010/9/26)

 この5年前の記事で私は、活字校訂本文を書写することを批判しています。それが今回は、「岩波・古典大系」が「新潮・古典集成」に変わっただけなので、直接お目にかかってお話ができないでしょうか、との申し出をしました。

 善は急げということを実践している私は、すぐに5月初旬に中央線の駅前の喫茶店でMさんとお目にかかり、長時間お話をうかがい、『源氏物語』を書写することについての私見を語り合いました。

 Mさんは「何に書くか、どのように書くか」ということに力点を置かれていました。
 それに対して私は、「何を書くか」という、物語本文に拘って話したように思います。
 この「何に、どのように」と「何を」は、まったく別の視点から生まれているものだと思われます。
 私は、「何を」の方が、古典を書写するにあたっては、まず解決すべきことだと思っていることを強調しました。

 鎌倉時代に書写された『源氏物語』を実見なさることをお薦めしていたところ、7月に国文学研究資料館所蔵の写本を閲覧に来ていただくことになりました。しかし、お互いにいろいろと雑事に追われる中で、それが9月末になり、それも延期となって、10月初旬に国文学研究資料館所蔵で鎌倉期に書写された「榊原本 源氏物語」を直接閲覧していただくことになりました。

 特別閲覧室でご一緒に、説明と共に質問に答えながら、楽しく鎌倉時代書写の『源氏物語』を見ることができました。

 その折、目の見えない方のために変体仮名を触読することにチャレンジしている話をしました。そして、『百人一首』を触読用に書いていただけないかとお願いしたところ、快く引き受けてくださいました。

 その後、試しにお書きになった写真を拝見し、手応えを感じました。
 いろいろとやりとりをしているうちに、ついに初版とでもいうべき20首の作品を送ってくださったのです。

 私からお願いした恋の歌20首は、次のような形でお弟子さんとの協力により、触読するための『百人一首』として仕上げてくださったのです。

(1)恋の歌20首の内、前半10首を変体かなを使った散し書き
(2)恋の歌20首の内、後半10首を高野切の文字を集めた倣ち書き
(3)恋の歌20首を、変体仮名を使わないで2字連綿・3字連綿

 本記事の冒頭と次の写真は、(3)にあたるもので、変体仮名を使わない作例です。


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 今回いただいた3種類の『百人一首』を実際に目が見えない方々に触っていただき、その反応や感想をもとにして、さらに書写文字に検討を加えていきたいと思っています。
 例えば、決まり字までは大きな文字で書くとか。

 掲出写真の背景をなしている数首を並べたシートは、液晶パネルを活用した音声ガイドと連動するシステムでの利用を想定しています。

 この件については、もうすこし具体的な活用事例が報告できるようになってから、あらためて詳細な報告をしますので、しばらくお待ちください。
 まずは、速報として現状をお知らせしました。
 
 
 

2015年11月23日 (月)

五感を使って江戸時代の百人一首カルタにチャレンジ

 来月12月6日(日)に、東京・護国寺にある筑波大学附属視覚特別支援学校で、「科学へジャンプ! イン東京」というイベントが開催されます。

 これは、小学校高学年〜高校3年生の視覚に障害のある生徒たちに向けた、理数系を中心とする体験型の学習会です。

 ここで、「点字付百人一首~百星の会」のみなさんが「五感を使って感じられる百人一首」というワークショップをなさいます。

 「百星の会」については、本ブログの「「点字付百人一首〜百星の会」の紹介と活動内容」(2015年09月01日)で詳しく書いていますので、ご参照願います。

 今回のワークショップのお手伝いを、私もさせていただくことになっています。
 今日は、関係者と東京駅で、長時間にわたり打ち合わせをしました。

 実施の詳細は、さらに当日まで検討を加えますので、お楽しみに、ということにしておきます。
 ただし、現在思案中のことをここに記し、本ブログをお読みいただいている方々からのご教示をいただけると幸いです。

 私の手元に、江戸時代の寛文頃(1670年前後)のものと思われる、陽明文庫(近衛家)旧蔵『百人一首』の複製(昭和56年10月、おうふう)があります。
 また、かつて教えていた学生が作成した、『源氏物語』の一場面を描いた貝合わせも幾組かあります。


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 これを、今回のワークショップの中のどこかで活用できないか、と思っています。

 今日はこれを打ち合わせの場所に持参し、「点字付百人一首」のクィーン位の女性に触っていただき、いろいろと感想をうかがいました。

 そのために、あらかじめ小野小町の絵札と取り札の1セットを拡大コピーして、立体コピーに仕上げたものも触っていただきました。


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 この変体仮名は読み難い字形をしているので、今回は触読のチャレンジはしません。

 江戸時代のお姫さまたちが遊んでいた『百人一首』のカルタがどのようなものだったのかを、少しでも五感を通して生徒たちに伝われば、との思いからの試みです。
 これは、「点字付百人一首」のカルタ取りへの導入で取り入れられないか、と思っているところです。
 ただし、まだまだ思案中です。

 思いつきでも結構ですので、ワークショップの内容へのアドバイスをいただけると幸いです。
 今回は、6名ほどの目が見えない中学生に体験してもらう、ということを想定して準備中です。

 また、このカルタを収納しているケース(帙)も、手探りで触っていただきました。
 これについては、見えなくても指の感触だけで、その豪華さが実感として感じ取っていただけたようです。


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 貝合わせについては、また別の角度から検討したいと思っています。
 この活用についても、ご教示いただけると助かります。

 1人でも多くの目が見えない生徒さんたちが、日本の古典としての和歌に興味をもってもらい、カルタも楽しんでもらえたら、と思って取り組んでいるところです。
 
 
 

2015年11月21日 (土)

「学術交流フォーラム 2015」でポスター発表をする

 総合研究大学院大学文化科学研究科の「学術交流フォーラム 2015」が、今年も賑やかに開催されました。
 このフォーラムは、文化科学研究科の基盤機関である5つの研究組織(国立民族学博物館、国際日本文化研究センター、国立歴史民俗博物館、放送大学 教育支援センター、国文学研究資料館)が、学生と教員の学術交流を目的として実施されているものです。

 昨年度は、大阪にある国立民族学博物館を会場として、テーマは「文化をカガクする?」でした(2014年12月20日(土)-21日(日))。
 そのとき私は、「視覚障害者と共に古写本『源氏物語』を読むための試み」と題するテーマのポスター発表を行いました。
 これは、科研の「挑戦的萌芽研究」に申請したばかりのときで、これからどのようなことができるか、という内容でした。

 本年度は、「文学際 ―「文化科学」を発見する―」というテーマのもとに、国文学研究資料館が会場です。


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 今回も私は、「指で読めた鎌倉期の写本『源氏物語』 -視覚障害者と文化を共有する-」というポスター発表をしました。
 これは、本年4月に科研「挑戦的萌芽研究」が採択され、次々と成果が出たことを踏まえて報告するものです。
 昨年度から飛躍的に進展した「古写本『源氏物語』の触読研究」(http://genjiito.sakura.ne.jp/touchread/)に関する内容なのです。


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 大会議室前のフロアでは、私以外では、以下の通り実に多彩なポスター発表がなされました。


  ■Aグループ■

「野生動物群に対する人為的介入を主題とした実践的研究」
    東城 義則 地域文化学専攻

「日本史における東海道の「旅」」
    倉本 一宏 国際日本研究専攻 教授

「弥生時代前半期北部九州の集落・墓地空間構造の検討」
    宇佐美 智之 国際日本研究専攻

「ハワイ・ホノウリウリ抑留所の変遷とその機能
  ——太平洋の中のホノウリウリ抑留所/収容所——」
    秋山 かおり 日本歴史研究専攻

「指で読めた鎌倉期の写本『源氏物語』
  -視覚障害者と文化を共有する-」
    伊藤 鉄也 日本文学研究専攻 教授

「『徒然草』地名新考」
    黄 昱 日本文学研究専攻

「核融合炉開発の進展とその仕組み」
    池本 憲弘 物理科学研究科 核融合科学専攻

「有害捕獲されたカラスは食資源として利用可能か?」
    塚原 直樹 学融合推進センター 助教

  ■Bグループ■

「配給制度における天津住民の日常食生活に関する考察」
    劉 征宇 地域文化専攻

「フィリピン近代美術における聖母子像の現地化
  -ガロ・B・オカンポ作《褐色の聖母》(1938年)」
    古沢 ゆりあ 比較文化学専攻

「植民地と医学-日本統治下朝鮮における医学者の足跡-」
    松田 利彦 国際日本研究専攻 教授

「うどん屋の看板」
    小島 道裕 日本歴史研究専攻 教授(文化科学研究科長)

「豊後大友氏の居館と城下町-考古学の視点から-」
    永越 信吾 日本歴史研究専攻

「GIS利用により現出される歴史地名・地名の連関性と分布例」
    相田 満 日本文学研究専攻 准教授

「外国語訳『枕草子』問題
  -「春はあけぼの」章段を中心に-」
    張 培華 日本文学研究専攻 修了生

  ■その他■

「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」
    谷川 惠一 日本文学研究専攻 教授

 今日の大会議室での研究発表は、以下の通りでした。


口頭発表 第一部

「『香名引歌之書』-和歌が語る香り-」
    武居 雅子 日本文学研究専攻

「仏教説話を題材とした説経・古浄瑠璃の諸相
             -『阿弥陀胸割』を中心に」
    粂 汐里 日本文学研究専攻

「『方丈記』の受容:夏目漱石とディクソンを中心に」
    ゴウランガ チャラン プラダン 国際日本研究専攻

口頭発表 第二部

「City Museum, City Memory, and People of the City」
    邱 君妮 比較文化学専攻

「古代日韓における彫金技術の変遷と意味」
    金 跳咏 日本歴史研究専攻

 今日は、お隣の国立国語研究所でも、興味深い研究集会が開催されていました。
 休憩時間を利用して、国研の高田智和さんのところへ挨拶に行ってきました。
 漢字を中心にしたテーマで、興味深い成果が発表されていたからです。
 日時が重複したことが惜しまれます。
 明日は、この国研での発表にも参加する予定です。
 
 
 

2015年11月16日 (月)

古写本の触読研究に取り組むきっかけとなった講演録

 『温故叢誌 第69号』(温故学会編、平成27年11月発行)が発行されました。


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 ここには、平成26年5月5日に塙保己一史料館講堂で開催された「塙保己一検校 生誕第二六八年記念大会」で、私が「英国ケンブリッジ大学と米国バージニア大学の『群書類従』」と題してお話をした内容が、文字となって収載されています。

 その日のブログには、「早朝の地震の後、渋谷の温故学会へ」(2014年05月05日)として、当日の様子を記しています。

 この日の懇親会で、私は、塙保己一は『群書類従』の版木を触って読んでいたのでしょうか、という素朴な問いかけを、お集まりの関係者のみなさまに発しました。そのことから、『源氏物語』の写本を目が見えない方と一緒に読める環境を作りたい、という提案に展開しました。
 会場にいらっしゃった方から、いろいろと親切なご教示をいただきました。
 また、夜の渋谷に繰り出してからも、ありがたい励ましをいただきました。

 それから1ヶ月ほどして、「目の不自由な方と写本を読むために(1)」(2014年06月04日)を記しました。

 このあたりから、この古写本『源氏物語』の触読について、私は具体的な動きを始めています。

 あれから1年半。

 その後は思いもよらぬ幸運に恵まれ、科研に採択され、多くの協力者のおかげによって、今はホームページ「古写本『源氏物語』の触読研究」を基盤として着実に成果を公開するまでにいたっているところです。

 私にとって、この平成26年5月5日に塙保己一史料館講堂でお話しした「英国ケンブリッジ大学と米国バージニア大学の『群書類従』」は、記念すべきものとなりました。

 非常に個人的なこととはいえ、今の展開を考える原点と言えるものとして、『温故叢誌 第69号』を紹介しておきます。
 
 
 

2015年11月10日 (火)

理科系の先生方に古写本の触読研究の現状についてお話する

 愛知県岡崎市にある東岡崎駅前は、曇天ということもあり木々の発色はこれからという感じです。


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 総合研究大学院大学の研究プロジェクト第10回企画会議に参加しました。
 学融合推進センターでは、異分野連繋型の課題の創出を目指して取り組み中です。

 今回の会場は、東岡崎駅からすぐのところにある、自然科学研究機構 分子科学研究所でした。


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 以下に、プログラムをあげます。


・開催挨拶
  総合研究大学院大学 学長 岡田泰伸
・参加者による自己紹介
・「電子スピン共鳴(ESR)で何が分かるのか? -物理,化学,材料,生体,医療,食品,年代計測...-」
   機能分子科学専攻 准教授 中村敏和
・「炭水化物食と脂肪食の選択行動に関わるニューロンの発見とその制御機 構に関する研究」
   生理科学専攻 教授 箕越靖彦
・分子科学研究所内 見学
   機能分子科学専攻 准教授 繁政 英治
・「視覚障害者が鎌倉時代の写本『源氏物語』を指で読む」
   日本文学研究専攻 教授 伊藤鉄也
・「総合教育科目『大統合自然史(仮称)』の紹介」
   学融合推進センター 特任教授 鎌田進
・「研究ノートプロジェクトの現状と今後について」
   遺伝学専攻 准教授 木村暁/学融合推進センター 助教 小松睦美
・総合討論 ・意見交換会

 まさに、異分野の先生方の中に自分が置かれていることを実感します。
 しかし、先生方の話の内容は、非常に興味深いものでした。

 1人目の中野先生の話の中では、秋刀魚に大根、唐揚にレモンを添える合理的な根拠が説明されたことが、強く印象に残っています。
 2人目の箕越先生は、炭水化物の摂取に視床下部にある室傍核の影響があることを、実験成果から示されました。糖質制限食を意識している私にとって、これは参考になる貴重な情報です。
 その後の意見交換会でも、先生にはケトン体を始めとして多くのことをお尋ねし、教えていただきました。

 休憩時間に、分子科学研究所のシンクトロン光源加速器等を実際に見学することができました。


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 写真右下の数値は、放射線量です。
 詳しい説明をしてくださいました。しかし、理解を超える内容で、申し訳ないことです。
 それでも、すごい施設であることは、見ただけでわかります。
 放熱のためにアルミフォイルが使われていました。高熱が発生しているようです。
 実験結果から研究が1歩1歩進んでいく理科系の研究手法を目の当たりにして、いい勉強になりました。

 3番目の私の話は、数時間前に名古屋工業大学で実現したタッチパネルを使った触読の動画を見ていただくことから始めました。届いたばかりの映像なので、私もこの時に初めてその完成作を見ることになりました。

 普段私は、パワーポイントは決して使いません。配布したプリントをもとにして、聞いてくださるみなさまの反応を見ながら語る、という手法をとっています。

 しかし、今日は特別です。文字を触ると音声で説明がなされるシステムが、まさに数時間前にできたばかりだからです。その興奮を伝えたい、という思いで、いつもの展開とは違う流れにしました。
 ただし、なかなかパソコンの画面がスクリーンに影写されず、開始早々より間延びのした段取りとなりました。急遽、話題を変更したためとはいえ、みなさまには大変ご迷惑をおかけしました。
 また、プロジェクターへの影写にあたっては、学融合推進センターの准教授の七田麻美子さんが奮闘してくれました。その尽力に感謝します。

 機器を使用しての講演には、こうしたトラブルがままあります。この無為な時間が生まれることを避ける意味からも、私はパワーポイントで映写しないのです。
 今日は、どうしてもタッチパネルの動画を見ていただきたくて、最初にみなさまには我慢をしていただかざるを得ないこととなりました。本当に申し訳ないことです。

 この時に影写したのは、4分ほどに編集された、出来立てほやほやのYouTubeによる動画像です。前半がデータ登録の様子、後半が学習の様子となっています。
 実際に音声を聴きながら触読している様子は、スタートしてから3分10秒経ったあたりからです。

「音声触図学習システムで源氏物語のデータを作成している様子と学習している様子」
 
 なお、このスタートに手間取ったこともあり、私の持ち時間をややオーバーしてしまいました。
 これも、あらためて参会の諸先生方にお詫びいたします。

 4人目の鎌田先生のお話は、総合研究大学院大学における教育に関するものでした。まさに、異分野連携の実践といえるプランです。

 「研究ノートプロジェクトの現状と今後について」の議論は、おもしろく展開しました。

 最後の、記録の公開については、理系のみなさんは実験記録ノートに記入しておられることを知りました。
 私は、エバーノートに書きためているので、その違いに驚きました。そんなことを漏らすと、みなさんから逆に、文系の研究におけるノートについて聞かれてしまいました。
 日常的な研究生活の基本となる部分に関する話題なので、この話は留まることを知らずに展開します。あの小保方さんの研究ノートのことなども、例にあげられたりと、本当に楽しいディスカッションでした。

 最後に、今回の講演を聞いての質問などがやりとりされました。
 私がお話ししたことに関しては、以下のことを尋ねられました。


・人との出会いについて。
  これは、「偶然」による連続である、とお答えしました。
  また、ブログによって人とのつながりと情報が寄せられてくることも。

・研究と資金について。
  科研費の運用によるもので精いっぱいであることをお答えしました。
  その他の資金調達や今後の収益とは、まったく無縁の研究であることも。
  ここも、理系とは発想が違います。

・立体コピーに用いたカプセルペーパーの仕組みについて。
  私の知る限りでの、製造業者と研究開発担当者から聞いている話をお伝えしました。
  「大阪府八尾市にある会社へ立体コピーの調査に行く」(2015年05月14日)

・これまで立体コピーの取り組みはなかったのか、という点について。
  江戸時代以降、木に文字を彫ったり、紙をプレスしたものはありました。
  現在は、それからの資料が、京都府立盲学校に大切に保存されています。
  「京都府立盲学校の資料室(その1)」(2014年08月04日)
  「京都府立盲学校の資料室(その2)」(2014年08月05日)
  しかし、今回のように、簡便な手法で作成した触読資材はなかったことも、ご説明しました。

 今回の参加は、意義深い、収穫の多い、また多くの先生方に古写本の触読研究の実際を知っていただくいい機会となりました。
 それが、特に理科系の研究者として第一線でご活躍の先生方だったので、その後の意見交換会でも壮大なスケールの話へと飛躍しながら、大いに盛り上がりました。
 みなさま、貴重なご教示やおもしろい逸話を語っていただき、本当にありがとうございました。
 
 
 

2015年11月 9日 (月)

名工大で古写本の音声システムが初稼働して感激

 早朝の小雨の中を、名古屋へ向かいました。
 北大路橋から賀茂川沿いに北山を望むと、紅葉が鮮やかになってきたことがわかります。


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 名古屋駅から乗り換えて鶴舞駅まで7分。
 駅前の道をまっすぐ行って突き当たりが、名古屋工業大学です。
 校門前の木々は、京都とはまた異なる色を見せています。


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 雨上がりの舗道に散る色付いた葉が、水たまりに浮いているのもいいものです。


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 名古屋工業大学では、古写本の触読に関して大きな収穫があったので、取り急ぎ書き記しておきます。

 大学院情報工学専攻の橋本芳宏先生と大学院生の森川慧一さん、そして愛知県立名古屋盲学校高等部の細川陽一先生に会い、音声触図学習システムを古写本の触読に応用する今後について、ざっくばらんに話し合いました。

 まず、前回私が提案したこと(2015年10月09日)の確認から。

 Windows で構築されたシステムを Macintosh で同じ動作をするようにするのは、何かと手間がかかるようです。このことは、優先順位を下げることにしました。

 マルチタッチに対応したタッチパネルに関しては、静電容量の関係からさまざまな問題があることを伺い、理解しました。
 当面は、今のシングルタッチタイプで実験を続けることになります。

 ただし、橋本先生からカメラで指の動きを読みとる、という方式の提案がありました。
 カメラで、現在指が置かれている位置を判別し、その指が置かれている位置にある文字に関して、音声でガイダンスをするというものです。
 これは、思いもしなかったことです。また、それがそんなに難しいものではない、ということです。

 古写本の文字は、上から下へと1行に17文字ほどで書写されています。
 その行を触る指の軌跡を監視すればいいので、これは応用範囲が広そうです。
 行末で改行される文字が、一単語の泣き別れの場合は面倒です。しかし、それはまたその時に考えればいいことです。とにかく、これで1行分を何度も読んで説明することができるようになるのです。文章読解への道が拓けます。

 最近は、ノートパソコンやスマホには必ずカメラがついているので、これは有望な改善策となることでしょう。
 今後は、この方式も検討していくことになります。

 前回の打ち合わせで私が提案した中に、ブルートゥースで情報のやり取りを無線化することについては、これもさまざまな問題があることがわかりました。
 しかし、自由な触読の環境を提供する上では、この無線化は無視できません。
 これは、さらなる課題として保留です。

 そんなこんなで、実際にシステムを組んでくださる細川先生の参加で、さまざまな問題点が明らかになり、またその対処策が具体的に話題となりました。
 予想外に、可能となることの多いのに驚きました。
 非常に内容の濃い打ち合わせになっていったのです。

 そうこうするうちに、私が今日の午後に分子科学研究所で古写本の触読について話をすることに関連して、橋本先生から、今すぐできることがあるだろう、と森川さんにふられました。
 つまり、タッチパネルの上に置いた立体コピーの文字を触ると、その文字について音声で説明させる、ということです。データを登録すれば、今すぐにも実現するものなのだそうです。

 実際に、いとも簡単に、「須磨」巻の最初の「よの中」という文字を1文字ずつ押すと、あらかじめ私が渡しておいた説明文を読み上げてくれたのです。しかも、用意した2種類の文を読み分けるのには驚きました。


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 現在できあがっているシステムに、ハーバード大学本「須磨」の巻頭部分をデータ登録してもらい、タッチパネルに置いた立体コピーをダブルタップすると音声で説明を読み上げるテストは、意外に早く、しかも目の前で確認できたのです。

 私が思い描いていた第1段階は、これでクリアできました。あとは、根気強く読み上げデータを登録していけばいいのです。

 さらには、午後の講演の中で、この動画を見てもらったら、ということになりました。
 実作業にあたる森川さんは大変です。しかし、触読を実演する動画ができて、今日の分子科学研究所で見てもらえたら、これに勝るものはありません。
 可能であれば是非にと私からもお願いし、できたものをユーチューブにあげてもらうことになりました。

 私の午後の出番は、3時50分からです。
 できあがったデモ版を、3時までにユーチューブに上げていただけると、私は午後の話の中で、このできたばかりの画像を参会者のみなさまに見ていただくことができます。
 まさに、電光石火の早業です。

 突然の急展開で、森川さんは大忙しとなりました。
 私は、分子科学研究所がある東岡崎駅まで行かなければならないので、11時半になると挨拶もそこそこに、大急ぎで次の場所へ移動することになりました。

 実験の大成功ということもあり、電車の時間にギリギリというタイミングで研究室を出ることになりました。鶴舞駅までは、キャリーバックを引っぱりながら、もと来た道の紅葉した木々を見る余裕もなく街路を走り抜けました。
 どうにか電車には間に合いました。
 道中、用意していた私の話の内容を変更するために、名鉄の特急電車にゆったりと座り、内容を再構成することに没頭することとなりました。
 
 
 

2015年11月 8日 (日)

〈運読〉で楽しむ『源氏物語』のご案内

 何かと慌ただしい日々を送るうちに、今年も師走が迫ってきました。
 その12月5日(土)の午後に、京都の宇治で「視覚障害者文化を育てる会(4しょく会) 秋のイベント」が開催されます。

 このイベントは、国立民族学博物館の広瀬浩二郎さんが中心となって実施されるものです。
 私は、講演とワークショップ「源氏写本研究の魅力と可能性」で協力します。

 イベントの詳細は、「〈運読〉で楽しむ『源氏物語』 〜視覚障害者が古典文学を味わう三つの方法〜」をご覧ください。

 〈運読〉ということばにハテナと思われた方が多いと思います。
 私も、広瀬さんから案内の文案を見せてもらった時、すぐに
「〈運読〉というのは、広瀬さんの造語ですか?」
と確認しました。

 広瀬さんからはすぐに、
「はい、〈運読〉は僕の造語です。この言葉が視覚障害者の仲間から賛同を得られるのか、よくわかりません。でも、きっと賛同が得られたら、今回のイベントは成功だと思います。」
という返事が来ました。

 これは大役を引き受けたことになり、自分でも立体コピーを使った触読の再確認をすることになりました。

 広瀬さんの案内文から、この〈運読〉に関する説明を引用します。
 赤字は、私が注目している箇所です。


 目で『源氏物語』を読んできた見常者に対し、視覚障害者は「聴読」(耳で読む=録音図書)「触読」(指で読む=点字図書)という方法で、源氏の世界にアプローチしてきました。
 
 
 聴読と触読は視覚障害者にとって伝統的な読書法だと定義できますが、じつはその背後には見常者にも共通する「行間を読む」文化があることは重要です。
 今回の4しょく会イベントでは、視覚障害者発の第三の読書法として「運読」(体で読む=立体コピー)を提案します。
 
 
 物語を書いた作者、それを筆写した老若男女の思いや息遣いを実感するためには、写本そのものを立体コピーし、指で文字をなぞる身体運動が必要です。
 墨で書かれた線を指先で辿る行為は、写本作りの追体験ともいえます。
 千年以上もの間、先人たちの手から手へと伝えられてきた『源氏物語』。
 その運筆(筆の使い方)の妙味を体感するのが運読なのです。
 
 
 聴読・触読に加え、運読というユニークな鑑賞法を獲得すれば、視覚障害者にとって古典文学は身近で豊かなものになるでしょう。
 さらに、運読をユニバーサルな読書方法として、4しょく会から多くの見常者に届けていければと願います。

 この「運読」ということばが、みなさまの支持を得られるかどうかは、今回のイベントの反響にかかっているようです。
 担当者の1人として、心して対処したいと思います。

 なお、この〈運読〉のイベント「源氏写本研究の魅力と可能性」は、次の宇治市内の街歩きのあとに実施されます。


 源氏物語ミュージアムで物語成立の歴史を学び、宇治観光ボランティアガイドクラブのご協力をいただき、宇治市内のまちあるきも楽しみます。
 世界遺産・宇治上神社の「さわる模型」などが、僕たちの五感を刺激し、まちあるきを盛り上げてくれるはずです。

 このイベントにふさわしい『源氏物語』の本文を、今は鎌倉時代中期に書写されたハーバード大学本「蜻蛉」巻から選んでいるところです。私の話と〈運読〉を体験していただくのにふさわしい本文は、立体コピーにして配布する予定です。

 一味違う宇治への体験ツアーとなることでしょう。
 目が見える見えないに関係なく、多くの方の参加をお待ちしています。


日 時:2015年12月5日(土)13:00〜17:00

主 催:視覚障害者文化を育てる会(4しょく会)

協 力:宇治市源氏物語ミュージアム、宇治観光ボランティアガイドクラブ

参加費:会員および学生500円、非会員700円

定 員:50名(要予約、先着順)


 
 
 

2015年11月 7日 (土)

京都ライトハウスでの点字百人一首体験会に参加

 ワックジャパンで源氏を読む会では、先月は『源氏物語』の舞台である内裏を散策しました。
 今日は、京都ライトハウスで開催された点字百人一首の体験をしてきました。
 次回は、12月5日(土)に宇治で開催される「視覚障害者文化を育てる会」の『源氏物語』に関するイベントに参加します。

 しばらくは、座学を離れて身体で『源氏物語』を感じる勉強会を続けます。

 さて、京都ライトハウスでは、毎年、日本の点字制定記念日である11月1日前後に「点字普及イベント」を開催しておられます。
 今日は、滋賀県立盲学校教員のロイ・ビッショジト先生の講演と、点字付き百人一首の体験会が、4階あけぼのホールで開催されました。

 プログラムは以下の通りです。


13:10〜14:40 講演「点字で切り開く私の人生〜言葉と文字の壁を越えて」
    講師:ロイ・ビッショジト先生(滋賀県立盲学校教員、日本点字委員会委員)
15:00〜16:20 点字付き百人一首体験会
    講師:点字付き百人一首〜百星の会
    協力:京都小倉かるた会

 本日の司会進行役は、京都ライトハウスの野々村好三さんでした。
 メモがテーブルに置けなかったこともあり、お腹に当てた点字資料を巧みに触読しながらの進行です。


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 野々村さんは、目の見えない方と一緒に古写本『源氏物語』が読めないか、ということを私が具体的な問題として最初に相談した方です。
 去年の初夏のことであり、「京洛逍遥(322)京都ライトハウスにて」(2014年06月12日)で詳しく記した通りです。

 その後、「京洛逍遥(375)嵯峨野で「点字付百人一首」を楽しんだ後は時雨殿へ」(2015年08月31日)で再会し、
2週間前にも、「京都ライトハウスで体験三昧」(2015年10月25日)でお会いしました。
 ご縁と親しみのある、『源氏物語』の触読研究についてのよき理解者でもあります。

 ロイ先生のお話は、非常に具体的でわかりやすい内容でした。
 その内容は、以下の通りです。

  1 私の母国バングラデシュの紹介
  2 バングラデシュの社会状況
  3 バングラデシュの視覚障害者
  4 私自身が辿ってきた路
  5 日本に来たきっかけ
  6 日本に来て
  7 点字に対する思い

 流暢な日本語で、ユーモアを交じえて語ってくださいました。
 インドの方々がそうであるように、どうやら日本語の習得や発音は問題が少ないようです。
 さらに、日本語の点字は、英語やベンガル語の点字に比べて、非常にうまくできていて、覚えるのに易しかったのだそうです。音の組み合わせがよく考えられているとのことでした。

 バングラデシュは日本の半分の面積にもかかわらず、人口は日本よりも多い1億6千万人だそうです。それだけに、教育の普及が遅れていることへの対処が大変です。
 また、視覚障害者の数は、日本が35万人であるのに対して、バングラデシュでは100万人と3倍です。

 日本に来て、日本文化の壁としては、日本語という言葉以上に、箸を使うことがもっとも難しいものだったそうです。
 また、現在は、日本語で考え、日本語で夢を見るのだとか。
 こうした楽しい話を織り交ぜながら、1時間があっという間に経っていました。

 質問時間の最後に、私は「日本のマンガ文化」についての感想をお尋ねしました。
 ロイ先生は、読む機会がないので申し訳ないが……とのことでした。
 このマンガとアニメ文化については、目の見えない方々にも体験してもらえる方策を検討しているところです。

 後半は、『点字百人一首』の体験です。
 今日は、ワックジャパンで源氏を読む会の仲間と一緒に参加していたので、その中から若者2人がカルタ取りにチャレンジしました。
 2人とも、大学で平安文学を専攻しているので、カルタを取るのは問題ありません。
 それよりも、点字付きのカルタを使ってのゲームが初めてだったので、貴重な体験となったようです。


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 今、変体仮名で書かれた百人一首を作成中です。
 それを立体コピーにして、そのゲーム化を考えた時に、今回の体験は大いに生きるはずです。

 今回は、初心者用の体験だったので、対戦式のルールとは違うようです。
 一応、今日のルールの一部をメモとして残しておきます。


・審判 正しさと速さを判定
・取った札は枠の外に出す
・札の場所を移動してもよい
・三枚残った時点で終了

 続いて、お馴染みの「坊主めくり」を、点字カルタでやりました。
 これには、私も参加し、2回目には11枚も取り、大勝ちしました。
 私がゲームに勝つのは、めったにないことです。


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 このルールのメモも残しておきます。


・姫 もう一枚
・男 そのまま
・坊主 すべて出す
・座布団の男は姫と同じで二枚ひく
・座布団の姫は場に捨ててある札すべてをもらう

 いろいろな機会を好機として、目の見えない方々のイベントに参加しています。
 少しでも多くの体験を通して、古写本『源氏物語』の触読研究をさらに発展させていきたいと思っています。
 今後とも、さまざまな情報をお寄せいただけると幸いです。
 
 
 

2015年10月26日 (月)

『源氏物語』の触読を志願する青年教員と出会う

 今日は、洛中洛外を東から西へ、北から南へと、バスと徒歩で大移動をする1日となりました。

 自宅からバスで熊野神社前の京大病院、烏丸御池の歯科医院、河原町御池の京都市役所、河原町四条の金融機関等で諸雑務を片付け、その足でまたバスに乗って北上し、千本北大路にある京都府立盲学校へ行きました。


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 京都府立盲学校では、爽やかな青年の熱血先生と、今後の触読実験と触読レポートなどの打ち合わせをしました。鎌倉期の『源氏物語』の写本を読んでみようという、私が次に探し求めていた人がついに見つかったのです。

 その冨田さんとは、先週末の日本盲教育史研究会の懇親会で、岸先生のご紹介で初めて会いました。

 その日の研究会で私が話した、古写本『源氏物語』を触読することが懇親会で話題になると、冨田さんの声のトーンが急上昇しました。開口一番、「僕は今日の変体仮名を読む自信があります!」と宣言されたのです。
 頼もしい、気持ちのいい言挙げでした。

 話を聞くと、視力を失ったのは2歳。生まれてこの方、ずっと点字でコミュニケーションをとってこられたのです。頭の中に、文字の形がほとんど入っていない方との出会いは、私にとっても初めてです。
 さらに嬉しいことに、古典は大嫌いで、『源氏物語』のことは今日まで興味がなかった、ということです。これは、私にとって「逃がしてなるものか」と思わせた逸材です。

 私は、とにかく直接会って話をすることを原則としています。
 これは、学生時代に民俗学の勉強をしていたことと、深く関係すると思われます。民俗や伝承の聞き取り調査などで、いろいろな方からお話をうかがって記録していたのです。足で会いに行って、顔を合わせてお話を聞く、という調査手法が、今に到るまで身に染み付いてつながっているようです。

 冨田さんは、大変忙しい方です。今日は、会議と研修の合間を縫うようにして、貴重な時間を作ってくださいました。
 バスで移動しながら、携帯のメールでやりとりしながら面談に漕ぎ着けたのです。

 今日、私が冨田さんにお願いしたことは、レポートを書いていただけないか、ということの一点です。

 一昨日の私の話に関して、最初にどのような思いで聞き、そこから自分も読めそうだという感触を持たれた時のことは大事だと思います。そして、自分も読んでみようと思われた、そのご自身の気持ちの推移を文字として記述していただけないか、ということをお願いしたのです。

 さらには、その後で懇親会で読めるという気持ちを強くされ、そして今、こうして職場である学校で触読の話をしているところまでの、率直な心の軌跡を記録として残していただくことになりました。

 快諾をいただきました。忙しい中であっても締め切りという期日があったほうがいい、とのことだったので、今週の土曜日までにワードの文書で送っていただくことにしました。
 来週もまたお話ができるので、まずは気楽に分量も気にせずに書いていただきます。

 冨田さんの場合は、すべてがゼロからの出発です。実験台にされることに対して、本人に迷いはないようです。チャレンジしてみたい、という気持ちが勝っているので、結果はともかく、これからの記録は貴重な報告となることでしょう。

 福島と東京の2人の女性に加えて、京都の男性が登場です。
 実は、次に九州の男性も参戦されます。

 私が、現在は2人の女性だけが変体仮名の触読に成功している、とお話したこともあって、岸先生から、もう一人の若者を紹介していただいています。
 話が長くなりますので、その中村さんのことは、また別の機会に記しましょう。

 きりがないので、今日はこのあたりでおきます。
 古写本『源氏物語』の触読研究は、ますますその展開から目が離せなくなっています。

 明日は、変体仮名の国際文字コードの情報が大量に入ってきます。

 このブログも、日々私のところに入る情報がオーバーフローの状態で、整理をして書く暇がなくなっています。
 今後しばらくは、脈絡もなく書き飛ばすことになりそうです。

 自分自身の研究スタイルを、従来の「印刷論文配布型」から、暫定版とはいえこうした「電子情報発信型」に変えたことは、またあらためて書くことにします。
 ネットワークを活用したこの私の研究手法も、今後は新しい研究者のスタイルになっていくことだろう、と思っています。
 こんなことも、また後日に。
 
 
 

2015年10月25日 (日)

京都ライトハウスで体験三昧

 科研の研究会で一昨日お世話になった京都ライトハウスへ、いろいろな資料と情報をいただくために行ってきました。野々村さんがいらっしゃることを教えていただいていたからです。

 ちょうど今日は「京都ライトハウスまつり2015〜つながる・ひろがる 地域の輪〜」が開催されていました。これは、利用者や地域のみなさんとの交流の場として取り組んでおられるものです。


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 4階から地下1階までの全館を開放しての一大イベントです。
 以下の赤字のコーナーに立ち寄りました。


4F:船岡老人クラブハウス発表会・トモニー紹介コーナー。
3F:どきどき☆お楽しみ抽選会!新設キッズコーナーの紹介
2F:見えないこと体験点字体験、クイックマッサージなど・・・盛りだくさん!点字クラブ、オセロ、囲碁、将棋
1F:寿司・焼きそば・手作りパン・肉まん・チヂミ・フランクフルト・洋菓子・ビール・ジュースなど模擬店いろいろ!
B1F:物品販売、催し物関係、池坊華道会による生け花教室など

 午後からのステージでは、ちょうど大正琴の演奏が始まったところです。日頃の練習の成果が、楽しく伝わってきました。

 お昼は、お寿司をいただきました。


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 パッケージを見ると、私が好きな回転寿司屋「寿しの むさし」のにぎりでした。近くの上堀川店から持って来られたものだと思います。

 2階では、「見えないこと体験」のコーナーがいくつかありました。
 まず、「木のワークショップ」へ入りました。ここは、京都ユニバーサルミュージアム実行委員会が実験展示をしておられたのです。「視覚に障害がある人もそうでない人も共に楽しめる展示とは何か?」という問題意識のもとに、今年のテーマは「木」でした。
 私も学芸員の勉強をして来たことに加え、身体に不自由を感じておられる方々との文化の共有を意識して以来、ユニバーサルミュージアムには興味を深めているところです。


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 テーブルに置かれた、ヒノキ、コウヤマキ、ニレ等、たくさんの板を触り、その木の匂いを嗅ぎました。聞香を思い出しました。
 しかし、あまりにも多くの木があったので、5枚目以降は匂いがごちゃごちゃになってしまいました。
 これは、ただ単に多くの板を並べるだけでなく、もっとテーマを絞った方がよかったのではないでしょうか。ただし、丁寧に説明していただいたので、いろいろなことを知ることができました。

 その隣の部屋では、音の3D体験をしました。


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 アイマスクをして、ヘッドフォンで音を聞きます。見えない状況で日常の音を聞く体験です。
 マッチ箱を振りながら前後左右で音が聞こえました。ただし、マッチ箱の音は、今の若い人と生活実感を共有できるのでしょうか。また、大阪環状線の駅の発車時のメロディーは、非常にわかりにくいものでした。雑音が多すぎるからです。目が見えない方の状態を体験するにしても、これは不適切な音源だと思いました。また、時間が長すぎます。
 顔に風を当ててくださったり、霧吹きで湿り気を体感させるという小技も、あまり気持ちのいいものではありませんでした。この企画は、大いに再検討の必要がありそうです。

 アイマスクをして階段や外を歩く体験は、あまり乗り気がしなかったのでパスしました。

 盲導犬啓発コーナーでは、京都ハーネスの会の方から詳しい説明をうかがいました。
 東京の立川駅北口で、盲導犬の理解を求めながら募金活動をなさっています。通勤時にその前を通りながら、いつも気になっていました。そのこともあり、思いきって部屋の中に入りました。
 初めて知ることばかりで、いい勉強をさせていただきました。
 盲導犬と目が合った時、犬君がすっと横を向き、大きなあくびをしたのです。


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 私は、警戒しなくていい、しかも退屈な存在のようです。
 それでも、服を着ていることや背中に鞄を背負っている意味がわかり、日頃の疑問の一部が解消しました。

 視覚障害者ボランティア連絡会の活動紹介・啓発コーナーでは、点字の打ち方やパソコン点訳などの説明を受けました。少し知っていることでした。しかし、我流でのことだったので、あらためて教えていただくと、いろいろなことがよくわかり、いい勉強になりました。

 池坊のいけばな体験は、行った時にはすでに終わっていました。
 学生時代に少しやっただけなので、いつか機会があれば遊び気分でやってみようと思っています。

 知らなかったことが、こうして少しずつわかっていくと、いろいろな物事が点から線へとつながっていき、楽しくなります。
 体験の意義を、再認識する1日となりました。

 追伸
 木の体験コーナーで真剣に匂いを嗅ぎ分けておられた野々村さん、あらためてお礼の挨拶もせずに失礼しました。次は、点字百人一首のイベントでお会いしましょう。
 
 
 
 

2015年10月24日 (土)

日本盲教育史研究会第4回研究会に関する報告

 会場に着いて早々、日本盲教育史研究会の引田会長、岸先生、指田先生、星野記者などなど、初夏の札幌でお世話になった方々と話をしました。

 抱えている古写本の触読というテーマがインパクトを持っていたこともあり、これまでの経緯をよく覚えてくださっていました。ありがたいことです。

 岸先生のお話では、ひらがなや漢字の学習には非常な困難さが伴うものであり、京都盲唖院が日本で最初に設立された明治10年頃から22年までは、退学者が続出だったそうです。

 それが、日本で点字が使えるようになった明治23年以降は、一気にコミュニケーションの手段として意志の疎通がはかられ、徐々に点字が広がったのです。

 現在推進している古写本に書写されている変体仮名を触読することと、この点字が果たす役割については、今後とも一般の方々に混同されないように気をつける必要があります。

 変体仮名の触読は、明治以前の筆写文字を通して、日本の古典文化への理解をみんなで共有するための手掛かりにしようというものです。点字と変体仮名の双方の機能も役割も異なるので、どちらがいいかというような単一化への理解にならないようにしていきたいと思います。

 さて、今回の研究会の案内文には、次の引田会長の言葉があります。


 日本盲教育史研究会は創立から4年目を迎え、お陰様で会員数170名を超す研究会に成長致しました。
 内容的にも、昨年の研究会で芽生えた異分野との共同研究や、聾史研との研究交流等多彩なものになってきています。
 5月の北海道ミニ研の成功や6月にロンドンの Royal Holloway 大学で開催された研究会 Blind Creations Conference 等国際交流の成果を踏まえ、新たな研究展開を図る予定です。
 日本の盲教育発祥の地での研究会に多くの皆様の参加をお待ちしています。
  日本盲教育史研究会会長
         引田秋生

 今日の引田先生のご挨拶で、この中にある「昨年の研究会で芽生えた異分野との共同研究」として、『源氏物語』の触読研究を例としてあげてくださいました。

 会場には、発表者が発言したことが即座にスクリーンに表示されていました。
 この時には、次のように映し出されていたのです。
 これは、同時通訳と同様にタイプなさる方々は大変でしょうが、参加者にとってはありがたい方式です。


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 札幌でもそうでしたが、会長をはじめとして多くの方々に本研究に期待を寄せていただいていることに感謝し、気持ちが引き締まる思いでいます。

 引き続いて午前の研究会となり、私の発表は2番目でした。


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 あらかじめレジメとして印刷されていた資料は、次のものです。


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 会場に追加資料として配布したパンフレットは、この日のために研究協力者の加々良さんが作成したものです。


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 また、「須磨」巻の巻頭部分の立体コピーを配布したことについては、みなさんから取り組んでいる内容が実感として非常によくわかった、と好評でした。

 午後の講演と研究発表は、後日公開される会からの報告に譲りたいと思います。

 本日の参加者は、70名という大盛会でした。
 プログラムは、以下の通りです。


■日時:2015年10月24日(土曜日)
    9時半から16時半
■挨拶 引田秋生
■公募報告
「戦前期盲学校の設立者・支援者」
    足立洋一郎氏

『源氏物語』を触って読む─700年前の写本に挑戦する─
    伊藤鉄也氏

小西信八が見た欧米の「盲唖教育」
    西野淑子氏

■記念講演
「日本の視覚障害者を支え続けた点字出版と点字図書館」
    全国視覚障害者情報提供施設協会参与 加藤俊和氏

■研究報告
「大阪における明治期盲唖教育史」
    近畿聾史研究グループ 新谷嘉浩氏

「インクルーシブな学校秩序の構築過程に関する社会学的探求―小学校における全盲児の学級参画と支援の組織化を中心に」
    大阪市立大学都市文化研究センター研究員 佐藤貴宣氏

「中村京太郎と普選―昭和3年の『点字大阪毎日』によるアンケート調査を中心に」
    関西学院大学人間福祉研究科研究員 森田昭二氏

 閉会後は、東京から一緒に来た3人を京都駅に送り、私は懇親会場へ直行しました。

 ここでも、引田会長をはじめとして、多くの方々から励ましをいただきました。
 また、2人の若い全盲男性が、『源氏物語』の触読研究に積極的に協力したいという申し出を受けました。
 2人とも文学との縁はなく、また1人の方は2才の時には視力を失った方なので、これまでとはまったく異なる角度から、触読に関する調査研究が可能となりました。

 この研究テーマは、ますます質量共に厚いものになろうとしています。

 折々に報告しますので、今後とも変わらぬご教示などをいただけると幸いです。
 
 
 

2015年10月23日 (金)

皇太子さまとご一緒の新幹線で京都へ

 京都で2つの研究会と1つのイベントが、3日間にわたって開催されます。
 さらに調査もあるため、今週も慌ただしく東西を移動する日々です。

 午前10時に東京駅南口乗り換え口に集まって京都に向かうのは、福島県から1人、栃木県から1人、東京から2人の4人です。そのうちの2人は全盲なので、万全の旅立ちを期して、妻には東京駅を出発するまでの介助役として来てもらいました。

 予定の16番線に上がって列車の到着を待っていたところ、駅員さんがこのホーム入る予定の列車は、今日は18番線から出発すると教えてくださいました。理由を聞くと、しばらく口ごもりながらも、皇太子殿下が乗車なさるためだとのことでした。

 目の不自由な方と一緒なので、無理をして18番線に移動することなく、すぐ向かいの17番線に来る、予定よりも7分後に出発する列車に乗ることにしました。
 ところが、その電車が、実は皇太子殿下がお乗りになる列車だったことが、乗り込む直前にわかりました。
 とにかくガードマンの多さで、それが通常の新幹線のホームではないことがすぐにわかりました。

 こんなことはめったにないことなので、弥次馬根性の塊のような私は、すぐにグリーン車輌の10号車に行き、取り急ぎシャッターを切りました。


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 私たちは3号車に乗っていました。そこにも、警察関係の方がイヤホーンをしたままで座っておられました。
 車内は空いていました。この列車には皇太子殿下が乗車されている、ということが関係しているのかどうかはわかりません。

 座席は4人が向かい合わせにして、いろいろな話をしながら楽しく京都に向かいました。
 食事の時は、すぐそばのシートが空いていたので、そこでお弁当を広げることができました。
 グリーン車なみの贅沢な座席の使い方の旅となりました。

 私のことですから、寸暇を惜しんで実証実験を、新幹線の中でもやってもらいました。
 持参した、現在のひらがなで書いた文を、横書きと縦書きでどの程度読み取れるか、お2人に実際にチャレンジしてもらいました。


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 今回のテスト用の立体コピーは文字が少し小さいことと、縦でも横でもどちらでも一緒であることがわかりました。
 これで、図書館でルビ付きの本などを立体コピーすると、目が見えなくても自分なりに読書をすることが可能となることがわかったのです。

 点字にかわるコミュニケーションのために、ひらがなの触読は新たなツールとなるのです。

 京都駅からは、バスで京都ライトハウスに直行しました。


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 「古写本『源氏物語』の触読研究」の研究会の前に、少し時間があったので、京都府立盲学校に立ち寄り、岸先生から貴重な資料を見せていただき、説明もしてくださいました。
 明日の盲教育史研究会の事務局長の身で、何かと準備にお忙しいところを、ありがたい対応をしてくださいました。


 研究会での内容は、後日ホームページを通して会議記録を掲載しますので、ここでは省略します。


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 研究会や打ち合わせが終わってからは、北大路駅のそばにあるお店で京料理をたべながら、いろいろな話に花が咲きました。

 散会後は、歩いて宿まで案内しました。今宮通りを東に直進し、賀茂川のすぐ手前にある、四季倶楽部賀茂川荘が今日の宿です。
 荷物を一旦部屋に置いてから、夜の賀茂川散歩を楽しみにした。
 賀茂川の川音は、千年前から変わりません。

 賀茂川散歩は、明朝も案内するつもりです。
 私の自宅は、この宿の近くなので、雲一つない中天に浮かぶ月を眺めながら帰りました。
 今日も、充実した一日でした。
 
 
 

2015年10月22日 (木)

名工大の音声触図学習システムを動画像で紹介

 名古屋工業大学大学院生の森川慧一さん(工学研究科社会工学専攻)が現在開発中の、「音声触図学習システム」の紹介動画が、よりわかりやすいものとなって「YouTube」にアップロードされました。


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 以下の「YouTube」のURL から、実際にこのシステムを使った使用例を動画像として確認できます。

「音声触図学習システムの紹介と使用している様子」

 これは、触図とタッチパネルを使った、音声による学習システムです。

 過日の本ブログ「名工大で触読への想いが実現する予感」(2015年10月09日)で報告したように、このシステムは私が現在進めている「古写本『源氏物語』の触読研究」で有効な、非常に魅力的な触読支援装置となる可能性の高いものです。

 来月には、また名古屋工業大学へ行くことになっています。
 触読研究と音声システム開発とのコラボレーションについて、進展がありしだい、またここで報告します。

 今後の展開を楽しみお待ちください。
 
 
 

2015年10月20日 (火)

古写本の触読レポート第3弾を公開中

 私が現在取り組んでいる科研「挑戦的萌芽研究」の成果は、「古写本『源氏物語』の触読研究」というホームページから公開しています。

 今回新たに、「触読レポート(3)」(2015年10月16日)を掲載しました。


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 本ブログで取り上げる内容が多岐にわたることから、本件の報告が遅くなりました。

 触読に関するレポートとしては、これまで「触読通信」のコーナーから、渡邊寛子さん(福島県立盲学校高等部国語科教諭)の体験報告と、渡邊さんを取材した関口祐未さん(科研運用補助員)の調査報告を掲載していました。
 次の2つがそれです。

「わかる喜び再び ─古写本『源氏物語』触読体験─」(2015年8月3日)

「触読レポート(1)(2)」(2015年8月26日)

 今回公開した「触読レポート(3)」は、共立女子大学の学生Oさん(文芸学部3年)に関する関口祐未さんの調査報告です。

 Oさんは、大学側の理解と協力が得られる中で、古写本の触読に励んでおられます。
 これからの進展がますます楽しみな、現役の学生さんです。

 渡邊さんとOさんは、今週末に京都で開催される「古写本『源氏物語』の触読研究会」(京都ライトハウス)と「盲教育史研究会」(京都府立盲学校)に、一緒に参加してくださいます。
 23日(金)に東京駅で待ち合わせをして、京都の会場に向かうスケジュールも確認し合っています。

 週明けには、また刺激的な報告ができると思います。
 どうぞ、お楽しみに。
 
 
 

2015年10月11日 (日)

点訳された古文の教科書と読み上げソフトを使った確認の必要性

 昨日の本ブログの記事について、仲間の渡邊さんから以下の情報が寄せられました。


現在の高校の古典の教科書では、「仁寿殿」は「じじゅうでん」で点訳されています。
ふりがなも、そのはずです。
「大鏡」の「若き日の道長」肝だめしのところ、第一学習社です。

本文テキストデータを音声パソコンで読みあげすると、「にんじゅでん」(学校の職員室の私のパソコン)だったり、「つとむことぶきどの」(自宅パソコンはこれ)だったり。
音声読み上げソフトの種類・バージョンにもよってまちまちです。

点字使用者が漢字を正しく読み上げてもらうのは、古文、漢文では難しいです。
どれが本当のよみなのか、わからなくならないようにしないと、と思っています。

生徒にも、先生方にも、特に試験問題の点訳をするとき、教科書通りにと、確認してもらうことにしています。

私も源氏物語ゆかりの地めぐり、機会があったらお願いしたいです。
距離感がつかめるというのは、素晴らしいですね。
実際に歩いてわかること、何よりだと思います。

 古文の教科書の本文を、音声読み上げソフトで確認しておく必要がありますね。
 全国の盲学校での教育現場では、どのように対処しておられるのでしょうか。
 目が見える見えないの問題ではなくて、正しく生徒や学生に伝わっているか、ということの確認のためにも、情報を集めてみる必要がありそうです。

 どなたか、情報をお寄せいただけませんか。
 また、調査されたことがおありの方がいらっしゃいましたら、その経緯と結果をお知らせいただけませんでしょうか。

 「仁寿殿」や「紫宸殿」の読み方に留まらず、さらにいろいろな問題点も浮上することでしょう。
 日本の文化を、各自が持つハンディキャップにかかわらず、等質な情報として均一で平等で正しくバトンタッチしていくためにも、この確認は大切なことのように思います。

 また、内裏の中や都大路を歩く事は、身体で古典を読むことにつながります。
 目が見えない方にこそ、この体験を通して、実感的に『源氏物語』を読んでもらえたらと思っていました。
 清涼殿から淑景舎(桐壺)に行くのには、北に105歩いて右に曲がり、まっすぐ90歩行くと着くのです。
 渡邊さんの希望に応えるべく、NPO法人〈源氏物語電子資料館〉として京都散策の取り組みも考えたいと思います。
 なお、この『源氏物語』ゆかりの地とされた40箇所において、ハンディキャップの方への配慮は皆無です。もちろん、源氏千年紀が終わった今では、見常者である旅人への配慮もなく、ただ設置されているだけの状態です。これも、なんとかしなくてはいけませんね。

 12月5日に、広瀬浩二郎さんのグループのイベント「視覚障害者文化を育てる会(4しょく会)」で宇治を散策しますので、こうした折に私も案内方法やコツを学んで来ます。
 このイベントの詳細は、近日中にこのブログでも案内します。
 
 
 

2015年10月 9日 (金)

名工大で触読への想いが実現する予感

 名古屋工業大学へ行くために、東京駅で京葉線から新幹線に乗り換える途中のことです。
 エスカレータの手すりが、とにかく酷く汚れているのに出くわしました。


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 「つ」の所で白く光っているのは、撮影時の光線の具合ではなくて、白い紙かサロンパスのようなものがへばり付いていました。透明の幅広の粘着テープで補修されている箇所もあります。
 とにかく、こんな汚い手すりを摑む人などはいません。無神経な駅の施設管理です。

 駅では百年イベントを展開しています。しかし、もっと足元の不衛生で不潔な環境と、駅員の心構えの浄化が先決問題です。海外からお越しの旅人に対して、恥ずかしい思いをしています。

 品川を出て、しばらくしてからでした。

「ただいま、右手に富士山が見えています。雪をいただかない富士山は、われわれ新幹線に乗務する者もめったに見られません。しばし、車窓からお楽しみください。」

という、新幹線の車内放送が耳に届きました。

 早速、ポケットからカメラを取り出して、窓越しに収めました。


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 ちょうど40年前の今ごろ、私の結婚を祝して父が
「錦繍の車窓いっぱい富士の山」
という川柳をよんでくれました。
 今、このお山も、その錦を着る準備をしているのでしょう。

 毎週のように乗る新幹線です。そんな中で、事務的なお知らせとは違う、こんな車内アナウンスもいいものです。
 車掌さんのお人柄でしょうか。

 旧国鉄のままに、サービス精神の欠片もないJRです。こんな頻繁に利用しているのに、ポイントを貯めるとグリーン車に座れるだけという、人を喰った話が唯一のサービスです。未だに親方日の丸の鉄道会社です。
 電車がひっくり返らないのが最大最高のサービスだと、無理やり思うことにして、我慢して新幹線に乗っています。

 愚にもつかない駄弁はこれくらいにしておきましょう。

 名古屋駅から中央線に乗り換えて2つ目の、鶴舞駅のすぐそばに大学はありました。


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 校門で、今日の面談者である、大学院生の森川慧一さんの出迎えを受けました。福島県立盲学校の渡邊さんが仲立ちをしてくださり、何度か来ようと思いながら、なかなか日程が合いませんでした。やっと実現です。


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 写真中央の森川さんは、名古屋工業大学大学院工学研究科社会工学専攻マネジメント分野橋本研究室に所属の学生さんです。今日は、指導教授の橋本芳宏先生はご多忙のご様子で、名刺が託されていました。異分野の先生とはいえ、次の機会を楽しみにしています。

 森川さんの仲間である、写真左の情報解析技術課技術専門職員の石丸宏一さんと、写真右の学部3年生の肌野喜一さんが同席です。私の不躾な質問にも、丁寧に答えていただきました。気楽に話ができて、稔り多い時間となりました。
 この3人は、これからの活躍が楽しみです。

 森川さんが開発された障害者用の機器を見せてもらいました。
 上掲写真の下半分に写っているのがそれです。

 そして、まずは基本的な説明を聞きました。
 「タッチパネルとパソコンを使用した音声触図学習システム」です。
 上掲の写真にあるように、地図を使っての触図学習です。

 ネット等で大凡は理解していたので、単刀直入に私の問題意識との接点を探りました。
 そして、目の前にあるパネルが、すぐに私が探し求めていたものであることがわかりました。

 後は、持参した古写本『源氏物語』の立体コピーを開発中の機器に乗せて、具体的な可能性について話し合いました。


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 今回開発されたシステムは、タッチパネル上に置いたA4判の立体コピーをタップすることで、あらかじめそのポイントに仕組まれた音声が聞こえる、という仕掛けに転用できる可能性が高いものです。

 このシステムを、地図で実演してもらいました。これは、そのまま私が考えている古写本の触読を支援する道具となります。

 上掲の写真で言えば、「須磨」巻の巻頭部の「よの中」の「よ」を指で押すと、
「〈よ〉は現在一般に使われている平仮名で書かれています。与えるという漢字〈与〉が崩れた草書体の文字です。」
と音声で教えてくれたらいいのです。

 次の文字である「の」を触ると、
「〈の〉は、現在一般に使われている平仮名であり、元の漢字の姿を留めた、あまり崩れていない字です。」

 さらに3文字目を触ると、
「〈中〉は漢字なので、読みとばしましょう!!」
としましょうか。

 漢字の触読はパスすることにしています。現在のところでは、漢字の触読は困難だと判断しています。あくまでも、ひらがなの触読を習得するプロセスを調査研究しているところなのです。

 これなら、目の前の森川さんが作り上げたシステムに少し手直しをすれば、いますぐにでも私が求めている古写本の触読システムは実現するはずです。

 地図を元にしたデモを拝見した後に、私から提案したことは以下の通りです。

(1)パネルとパソコンは切り離してほしい。
 目が見えない人にとって、パソコンが付随していると、キーやマウスの操作にじゃまをされて、本来の写本を読む目的に集中できません。また、視覚障害者にキーがたくさん並んだパソコンの操作を求めてはいけない、という基本的なスタンスも守りたいのです。

(2)パネルのUSBケーブルはなくしてほしい。
 これは、じゃまな付属物です。できるだけシンプルな道具がいいと思います。

(3)パネルに切り替えスイッチを付けてほしい。
 このスイッチのオン/オフによって、一文字の説明や一語の説明に切り替えられるのになればいいですね。

(4)パソコンの代わりにiPhoneやiPad などの携帯情報端末を利用する。
 iPhoneやiPad などの携帯端末には、スピーカーやマイクが付いています。これを活用すると、音声による機器のコントロールがしやすくなることでしょう。

(5)パネルからブルートゥースでiPhone と通信することで、容易にネットワークに接続した環境の中で触読ができるようになる。
 常にネットにつながった環境だと、疑問点の解消や、さらなる解説で触読を支援できます。

(6)情報のやりとりのために、携帯端末用のアプリを開発する。
 このアプリの更新により、ハードウェアへの負担を軽減できます。

(7)音読や解説に関するデータはクラウドに置く。
 触読のためのデータをクラウドに置くことで、情報の更新や追加が随時できるようになります。また、利用者のレベルに合わせた情報の提供にもつながります。

(8)液晶のタッチパネルは、今の1点だけを感知するものではなくて、複数の点を感知するものにしてほしい。
 それにより、ダブルタップやトリプルタップのみならず、2本指や3本指での触読が可能となるのです。ドラッグによって、文字を範囲指定して触読することもできるでしょう。
 もっとも、そうするとパネルの価格が2、3倍にもなるそうです。しかし、ここは譲れない所です。

(9)Macintoshでも稼働するシステムにすること。
 Windowsに頼っていては、創造的なものは生まれません。その前に、私が試用できないのです。そうでなければ、Macintoshで作り上げたものを、Windowsに移植すればいいのです。『CD-ROM 角川古典大観 源氏物語』(伊井春樹編、1999年)の構成と検索システムがそうであったように。

 この、私が提案したことが実現すれば、目が見えない人が今から700年も前に筆で書かれた写本を、容易に読むことができる環境が提示できるようになります。また、レベルアップを目指した学習システムも、スムーズに構築できることでしょう。

 この取り組みからの成果は、近日中に姿を見せるはずです。
 次の面談は、1ヶ月後に設定しましたので、ここであらためて森川さんにプレッシャーをかけておきましょう。
 
 とにかく、昨日のブログに書いたように、いろいろなことがおもしろい展開となっています。
 そして私は、人と人との楽しい縁を満喫しています。
 すばらしい若者たちとの出会いに恵まれています。
 
 
 

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2015年10月 8日 (木)

共立女子大学での触読調査と実験と新展開

 皇居の東側にある共立女子大学へ、竹橋駅から歩いて行きました。
 再来週、触読研究に協力してもらっている全盲の学生さんと一緒に、京都へ行きます。京都開催の「源氏写本の触読研究」の研究会と、翌日の日本盲教育史研究会に参加することに関して、その打ち合わせをしました。
 お互いに非常に楽しみにしている、調査と研究の旅なのです。

 1泊2日の詳細な打ち合わせをした後、今夏の続きとして、『源氏物語』の古写本を触読してもらいました。
 今日は、ハーバード大学本「須磨」巻の冒頭部分である「よの中~」と、初見(初触?)となる国文学研究資料館蔵本である榊原本「夕顔」巻の巻頭部分の「六条渡りの~」について、いろいろな話をしながら読んでもらいました。この前とは、文字の大きさも微妙に変えたものを持って行きました。


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 『源氏物語』の本文をいろいろな大きさで立体コピーして持参したので、その感触を尋ねました。
 前回は7月だったので、あれから3ヶ月ほど経っています。
 二十歳という若さだけではなくて、本人も努力家なので、格段の進歩を感じることができました。

 この前は、江戸時代の版本を中心とした勉強をしていて、そのような中で突然鎌倉時代の『源氏物語』の文字を触ってもらったので、本人もいろいろと戸惑いながらの触読だったようです。

 今日は、江戸時代と鎌倉時代の文字の違いが、より一層理解できたようでした。鎌倉時代の文字にも少しずつ慣れてきていることを、私が横でその触読の様子を見ているだけでも実感できました。
 とにかく若いので、その伸び代の大きさを頼もしく思いました。

 そのような中で、文字の大きさはそんなに問題にはならないことがわかりました。
 「文字を覚えてしまえば、小さい文字の方がストレスもなく触って読める。」という本人からのことばは、新たな収穫となりました。

 また、あまり文字が大きいと、なぞる範囲も広く、そして触読する時間も長くなるので、一行を読むうちにそれまでの言葉を忘れてしまう、ということです。さらには、飽きるし、どっと疲れるとも。

 なるほど、と得心しまた。

 つまり、可能であれば、適度にコンパクトな文字を触れるのがいいのです。その適度、というのが難しいので、これは今後の触読実験を繰り返す中で確定したいと思います。しかし、おおよそ文字の大きさはわかりました。文字が大きければいい、ということではないのです。正確に読めること以上に、〈流れるように読める〉、という要素も大切なことなのです。

 列帖装の写本半丁に書写された10行(約16cm ほど)が、A4版にゆったりと浮き出し文字で触読できるような、そんな立体コピーを作成すればいいのです。

 さらに、これは必備のものとして、使い勝手のよい立体コピーによる字書があれば、それを確認しながら自学自習できる、ということもわかりました。

 学生本人は、A3版大の大きな立体文字をまとめた手作り字書を使っています。学校で作っていただいたものでした。しかし、これは大きくて重たくて頁数が多いので、何かと不自由をしているようです。
 小さくてもいいので、編集さえしっかりとしていれば、折々に変体仮名が調べられて重宝する、とのことです。

 このことばを聞いて、早速神保町にある出版社に連絡をし、指導教授の了解を得てから、学生さんと一緒にこの字書の話をしに目指す会社へと出かけました。
 共立女子大学から出版社まで、一緒に歩いて10分もかからないので、この近さもこの話の進展に寄与することとなりました。善は急げを即実践したことになります。

 変体仮名をもとにした、立体文字による新しい字書作りというプロジェクトが、本日スタートすることとなりました。
 これについては、また折々にここにその進捗状況を記します。

 さらに、『百人一首』の変体仮名バージョンに取り組むことも、今日の話の中で理解を得ました。
 これは、昨日、国文学研究資料館に鎌倉時代に書写された『源氏物語』を閲覧しにいらっしゃった書道家のみなさまのお世話をしている中で、その延長上で協力が得られることとなったので、弾みがついた新プロジェクトです。

 ハーバード大学本「須磨」巻の中で使われている文字だけを使って、『百人一首』の恋の歌20首の下の句を、カルタに書いていただくことになったのです。
 平安時代の上代様の文字で書いてくださるとのことです。そのためには、現行のひらがなだけで書いたカルタは初心者用に、変体仮名を交えたものは中級者用に、さらに上級者用としてはレベルの高い変体仮名と散らし書きを交えたものにしていただく予定です。
 下の句七七の内、最初の七文字は少し大きめに書いていただくことも決めました。
 現在使われている点字百人一首には、和歌が点字で貼られています。しかし、今回の変体仮名版の立体文字のカルタには、点字は貼らずに、あくまでも各自が触読して札の配置を決めてカルタ取りをしてもらうのです。

 どこかの早い時点で、1首でもいいので全盲の方に作品を触っていただき、その感想を次のカルタの文字に反映させていくと、よりよい書写作品ができるのではないか、と思っています。
 そこに書かれた文字の形や線の流れが、このカルタの生命となります。

 とにかく目の見えない方々が触られるので、その方々と意見交換をしながら取り組んでいくしかないのです。書家のみなさまの個人の書写作品ではなくて、みんなで作り上げるという趣旨をご理解いただく中で、この変体仮名版の触読カルタを作っていきたいと思っています。

 この変体仮名版『百人一首』ができ次第に、また大方のご意見をいただきながら改良していくこととなります。

 もう一点。
 指に嵌めて使う「ゆび筆」が届きましたので、共立女子大学に持参し、学生さんに実際に指に嵌めてもらいました。感触は上々です。


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 これは、左手で古写本『源氏物語』の立体文字を触読しながら、右手に嵌めた「ゆび筆」で臨書しよう、というものです。
 そして、臨書が終わると、それをさらに立体コピーすることで、自分が書いた文字の正確さが確認できます。書写しながら、写本の変体仮名も確認でき、あらためて字形を意識して仮名文字を覚えることになります。
 自学自習用として、これは楽しく文字を学ぶプログラムに成長させたいと思っています。

 さまざまな成果が期待できるプロジェクトが、今日だけでもいくつか新たに展開し出しました。
 こうしたことに、興味と関心をお持ちの方がいらっしゃいましたら、本ブログの今後の記事にご意見をお寄せいただけると幸いです。
 
 
 

2015年10月 5日 (月)

昨日の全国盲学校弁論大会の続報

 昨日書いた、「第84回 全国盲学校弁論大会全国大会の優勝者」(2015年10月4日)の続報が入りました。

 渡邊さんから、以下の情報を教えていただきました。
 忘れないうちに、取り急ぎメモとして残しておきます。
 


全国弁論のラジオ放送は、
10月11(日)19時30分〜20時
  NHK第2 視覚障害ナビラジオ
再放送 18日 朝 7時30分〜8時

テレビは、
10月28(水) 20時〜
  NHK教育 上位3名
10月29(木) 同じ時間で 4位以下のハイライト


 
 

2015年10月 4日 (日)

第84回 全国盲学校弁論大会全国大会の優勝者

 昨日の毎日新聞に、「全国盲学校弁論大会:47歳、渡辺さんが優勝」という記事が掲載されていました。

 「光り輝くあの月へ」と題して発表された、福島県立盲学校高等部専攻科理療科1年の渡辺健さん(47)が優勝だった、というものです。

http://mainichi.jp/shimen/news/20151003ddm012040044000c.html


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(写真は上記デジタル版からピックアップしています)

 その学校名を見て、すぐに福島県立盲学校の渡邊寛子さんにメールを送りました。
 この優勝者の渡辺健さんは、渡邊さんが教えていらっしゃる方ではないですか? と。
 すぐに返事が来ました。
 高等部の弁論担当は私です、と。

 6月の東北大会を経て、静岡での全国大会で、この大金星です。

 「どうせなら、全国大会を楽しもう!」と「聴衆の感銘度」に訴えることにし、笑いをとる前向きな内容に徹底したそうです。

 「シリアスな、障害と向き合う、どちらかというと不幸自慢になりがちな弁論大会で、笑いをとるのは難しいのですが。」ともありました。

 渡邊さんらしい、みごとなアドバイスが功を奏したようです。

 もっとも、渡辺健さんはアドリブが得意な方だそうです。
 聴衆の心を鷲掴みにしての弁論だったことでしょう。

 その内容は間もなく、点字毎日の紙上に公開されます。
 テレビ放送は、10月28日(水)20時からのNHK教育放送のようです。

 目が不自由な方々を含めて、障害を持つ方に関するニュースは、毎日新聞以外はあまり取り上げません。社会的に影響のあるニュースに留まっているようです。
 この「全国盲学校弁論大会全国大会」のニュースも、昨日の時点では毎日新聞以外のメディアではまったく取り上げていません。想定される読者の興味と関心などなど、その対象が各メディアで異なるからでしょうか。

 点字の新聞は大正11年以来、唯一毎日新聞だけなので仕方がないとしても、他紙はもう少しさまざまな障害を抱える方々の情報を、日常的に流してもいいと思います。
 
 
 

2015年9月24日 (木)

色の見え方は人さまざま

 最近、いろいろな方にスマートフォン用のアプリケーションである「色のシミュレータ」(無料)を勧めています。android版もあります。


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 これは、人によって異なる色覚に関するツールです。人が物を見る時には、それぞれに見えている色が違うそうです。確かに、みんなが同じ色に見えていると思う方がおかしいのです。人さまざまなのですから。

 このアプリは、医学博士でメディアデザイン学博士でもある Kazunori Asada 氏によって開発されたものです。

 手近なところにあった、ソニーのテレビのリモコンでシュミレートしてみました。
 4パターンの異なる見え方が確認できます。


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 左上が一般的な色覚によるものであり、その右が1型2色覚、その下が3型2色覚、その左が2型2色覚です。

 それぞれの分類がどのような意味を持つのか、専門的なことは私にはわかりません。
 しかし、人によってはこんなに見え方に違いがあることを知り、折々に色を確認しています。
 違いを知ることが大事だと思います。

 毎日のようにフォトショップ・エレメンツを使っているので、日頃から色には気を配っています。そんな中で、このツールを知ってからは、自分の写真がどのように見られているのかを知ることは、ユニバーサル・デザインの観点からも意義深いことだと思います。

 目の見えない方や、色弱、色覚に問題を抱える方とのお付き合いが増えたこともあり、今後ともこのアプリは自分の意識改革の上でも重要な位置を占めそうです

 これに類するアプリは、まだ他にもたくさんあるようです。
 気に入ったものとの出会いがあれば、また紹介します。
 
 
 

2015年9月18日 (金)

江戸漫歩(111)赤坂で打ち合わせと会議

 昨日から2日続きで、国会周辺を地下鉄で移動しています。


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 今日は、上掲地図の左下にあるオレンジ色の矢印で示す赤坂駅が起点となりました。
 私は初めてこの赤坂駅に降り立ちました。
 この駅の上にある国際新赤坂ビル東館13階にある「TKP赤坂駅カンファレンスセンター」で、総合研究大学院大学文化科学研究科の教授会があるのです。


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 これには、同じ研究科に所属する国立民族学博物館の広瀬浩二郎さんも出席なので、会議の前に食事をしながら、今後の予定を中心とした打ち合わせをすることにしました。

 ちょうど目の前に「赤坂サカス」や「赤坂 Biz タワー」があります。歩き回らなくてもいいように、「赤坂 Biz タワー」の地下1階にある「げんまい食道」で食事をしながら話をしました。

 広瀬さんと一緒に歩くときには、この頼りない身体であっても、肘を貸すことで全盲の広瀬さんをエスコートできます。棒切れのような私でも、お役にたつことがあるのです。
 椅子に座って話をしていると、相手が目の見えないことをすっかり忘れて、つい話に夢中になります。

 食後は、教授会の会場となっている、道を隔てた国際新赤坂ビル東館に移動して、その地下にあるスターバックスで話しました。

 広瀬さんと話をしていると、いつも多くのひらめきをもらえます。
 今日も、意外な発見がありました。
 変体仮名の話をしていた時でした。
 「あ(安)」の他の変体仮名として「阿」があり、それが阿倍野や阿佐ヶ谷の「阿」であることは共通理解として共有できました。ところが、私の名前の「伊」も変体仮名の1つだというと、漢字としての「伊」がはっきりしない、とのことです。「藤」ははっきりと認識できるそうです。

 これは意外でした。
 中学1年で失明したので、それ以来生活に関連しない漢字はどんどん忘れていく、というよりも、字形がぼやけていくそうなのです。
 パソコンや携帯電話で文字の読み書きをするようになってからは、特に漢字の形が曖昧になっているということでした。

 「伊」も、人偏だったことはわかるが、旁はどんな字だったかあやふやだ、というのです。
 正直言って、これは衝撃でした。私の名前をメールなどに書き、口にしていても、彼の頭の中にある私の名前は、漢字ではなくてひらがなか単なる音だったのです。

 しかし、そこからまたヒントをもらいました。
 今、目が不自由な方と一緒に古写本を臨書することを考えています。
 左手で立体コピーの変体仮名を触読しながら、右手では指にはめた筆具で紙に書写するのです。

 これは、写本に書かれた変体仮名を学習する一環として取り組もうと思っていることです。しかし、今日の広瀬さんの話から、この筆写は筆文字を体得するためばかりではなくて、忘れゆく文字を思い出し、字形を再確認することにもつながるのです。また、先天盲の方には、まったくしらなかった新たな文字のスタイルを、これを機会として覚えることになるのです。

 私の名前の漢字に端を発した話は、忌憚なく何でも話ができる間だからこそ、こうしたヒントがもらえたのです。
 このことは、さらに考えてみることにします。

 無事に教授会が終わってからは、東京メトロ千代田線の赤坂駅から1駅隣りの国会議事堂前駅で丸の内線に乗り換えます。
 駅の路線案内図を見ると、地下鉄の乗り換えの複雑さがよくわかります。


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 東京駅に出てから新幹線で京都に帰りました。
 東京駅から新幹線に乗ろうとして地下鉄で行くと、どの線も歩く距離が長くて不便です。
 東京の交通機関は迷路です。
 しかも、地下深く網の目のように張り巡らされているので、水害のことを考えると身震いがします。

 南米チリの沖合での地震の影響で、今日は日本にも津波が来ているようです。
 自然災害が頻発する昨今、東京の地中を移動する日々に身を置くのも気が抜けません。
 あと1年半は、慌ただしい中でのこんなハラハラドキドキの生活が続きます。
 
 
 

2015年9月15日 (火)

京都ライトハウスの点字普及イベントの日程変更

 過日の記事「「点字付百人一首〜百星の会」の紹介と活動内容」(2015年09月01日)で、次の案内を記しました。


 10月31日(土)に開催される京都ライトハウスの体験会には、私も参加しようと思っています。
 点字の触読とともに、変体仮名の触読にも興味と関心をお持ちの方がいらっしゃいましたら、遠慮なくお声掛けください。

 この京都ライトハウスの点字普及イベントについて、日程が変更になりましたので、お知らせします。

 日時の変更と内容は、以下の通りです。


日時:11月7日(土)13時〜16時30分(受付は12時30分から)
 会場:京都ライトハウス 4階あけぼのホール
 内容:講演「点字で切り開く私の人生〜言葉と文字の壁を越えて」
    講師 ロイ・ビッショジト先生(滋賀県立盲学校教員、日本点字委員会委員)
    点字付百人一首体験会
    講師 点字付百人一首〜百星の会
 申込:10月20日(火)までに情報ステーション(075-462-4579 担当:高木・野々村)までご連絡ください。

 
 このイベントに、日頃はワックジャパンで『源氏物語』を読む会のメンバーも参加することにしました。鎌倉時代の変体仮名を読んでいることと、触読百人一首の話の流れから、この予定に変更することにしたのです。

 みなさんと一緒に、いろいろな切り口から日本の古典文学に親しんでいきたいと思います。
 
 
 

2015年9月 1日 (火)

「点字付百人一首~百星の会」の紹介と活動内容

 先週8月29日(土)と30日(日)の2日間にわたり、京都嵯峨野で合宿をなさった「点字付百人一首〜百星の会」の事務局より、会の活動についてわかりやすい説明をメールでお知らせいただきました。
 情報として広く共有するために、紹介を兼ねてその文章を以下に引用します。
 「百星の会」の会員のみなさまのますますの活躍と、会のさらなる発展をお祈りしています。

 今後の「イベントの予定」にある、10月31日(土)に開催される京都ライトハウスの体験会には、私も参加しようと思っています。
 点字の触読とともに、変体仮名の触読にも興味と関心をお持ちの方がいらっしゃいましたら、遠慮なくお声掛けください。
 


私達の活動をご紹介させて頂きます。

1.会の成り立ち

私達は、全盲の子育てママからの、
「子どもたちは学校で百人一首のかるた遊びを当たり前に楽しんでいるのに、どうして盲学校では出来なかったのかしら? 何か方法はないものかしら? 」
と問いかけられたことを切っ掛けにして、点訳・音訳者、盲学校教職員、小物制作のプロ、百人一首愛好家等々によって、結成されました。
新宿区社会福祉協議会の全面的な支援を受け、また、これまでの活動の模様は、「点字毎日」にも紹介されております。
視覚障がい者に、かるた遊びを楽しんでもらうため、また、「点字学習ビギナー」が、楽しみながら触読に親しんでもらえるよう、
「使いやすい点字の付いたかるた札」
「オリジナルかるた台」
を試作しております。
ルールには、学校教育現場で20年ほど前から実践されている、「五色百人一首」を導入し、これを立案された先生からの公認を頂いております。
いつか世代を越え、障害を越えて、百人一首を通したコミュニケーションの輪が、広がってゆくことを夢見ながら、活動しております。

2.イベントの予定

高田馬場 かるた会 10月24日(土)
京都ライトハウス 体験会 10月31日 (土)
サイトワールド お披露目会 11月3日(祝)
藤沢点字図書館 体験会 11月8日(日)
高田馬場 新春かるた会 1月16日(土)
※高田馬場の会場は、東京都新宿区社会福祉協議会「視覚障害者交流コーナー」

以上です。
長文を読んでいただきまして、どうもありがとうございました。
今後とも私達の活動に、ぜひ、アドバイスを頂けますよう、よろしくお願い申し上げます。
 
「点字百人一首〜百星の会」
    事務局 関場理華


 
 
 

2015年8月31日 (月)

京洛逍遥(375)嵯峨野で「点字付百人一首」を楽しんだ後は時雨殿へ

 JR嵯峨嵐山駅に隣接するトロッコ嵯峨駅のロビーには、牛車と撮影用パネルがあります。
 この地に立つと、もう平安朝気分になります。


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 この駅の目の前に、「ホテル ビナリオ嵯峨嵐山(コミュニティ嵯峨野)」があります。
 昨日は朝からここで、「百星の会」主催の「点字付百人一首」のイベントが行なわれました。


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 会場に入ると、カルタ取り競技の準備中でした。
 27名の参加者の内、全盲の方は12名です。
 京都ライトハウスや京都小倉かるた会からも、応援と支援のためにお出でです。

 特製のカルタ台に、点字付百人一首の札を、1ケース10枚をセットにし、2セット20枚が自分がこれから取る札となります。時間を惜しんでは、自分の札を暗記し、その位置を確認しておられます。


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 自分用の勉強用点字シートで、札と和歌の確認をしながら、作戦を練っておられる方もいらっしゃいます。


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 この点字付きカルタ取り競技は、『五色百人一首』を元にして各人の力量に合わせて行なわれるのです。

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 手元のカルタは、横に2枚のカルタ台を並べる方と、縦2段に配置される方がいらっしゃいました。これは、自由に組んでいいようです。


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 上級者の相対札の取り合いでは、各自20枚の札を守りながらも、相手の陣地にも攻め入ります。指もぶつかり合います。
 まさに、私がよく見る競技カルタと同じ迫力があります。


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 この上級者用の札には、対面するお互いが札の和歌が両方向から読めるように、点字が工夫して打たれています。
 また、カルタ台の札を固定する所にも、どちらからも持ち上げられるように、上下に溝があります。


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 初級、中級、上級と、それぞれの札で色分けされたグループが、和やかに、そして熾烈な局面を見せながら会場は盛り上がります。

 4つのテーブルに分かれ、各テーブルに選手3人ずつと1人の審判がつきます。
 和歌が読み上げられて、札を取って上に掲げると、審判は挙手で知らせます。


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 休憩を挟んでテーブル毎の対抗戦など、いろいろなゲームが組まれていました。
 みなさん、取り遅れた悔しさからか、次第にヒートアップしていかれる様子がわかります。

 いろいろなお話を伺いました。
 カルタ取りのルールは、まだ確定していないところがあります。特に、札を取ったらカルタを持ち上げるのですが、その早さの判定がまだ改良の余地があるそうです。
 ルールは、これから実践を通して見直されていくことでしょう。

 カルタ取りが終わると、全員で松花堂弁当をいただいてから、歩いて渡月橋の手前を桂川沿いに上り、百人一首の殿堂として知られる時雨殿へと移動しました。


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 時雨殿の常設展示室では、室内の周囲を百人一首を刻んだチタンパネルが貼り巡らされています。みなさんは、展示品を見ることができないので、説明を聞くしかありません。しかし、優しくなら触ってもいいとのご許可をいただき、このパネルに刻まれた文字を触読しておられました。


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 変体仮名で和歌が書かれているので、みなさんが読めるわけではありません。しかし、何人もの方が読める文字を見つけては大喜びをしておられました。これは、私が進めている触読研究の原点に出会った気がしました。

 2階に上がり、別室で平安朝の文香の体験です。
 今回は、「からくれなゐ香」「よはのつき香」「さねかずら香」の3種類を袋に入れて持ち帰ることになりました。


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 その後は、大広間で平安装束の体験となり、この着付けショーを、みなさん大いに楽しんでおられました。

 帰りは、みなさんとご一緒に、元来たJR嵯峨嵐山駅から電車に乗りました。

 私は、この点字付きの札が、変体仮名の立体コピーにしてもできる、という確信を得ました。
 ルールは「点字付百人一首」に倣いながら、墨字の仮名で書かれた札も取れるようになると、視覚障害者の興味と関心はさらに脹らむことでしょう。
 これから、その可能性を探っていきたいと思います。

 特に、点字を付けたカルタの場合には、古文の表記に問題が生じます。これは、点字と墨字で、日本語の表記体系が異なるからです。
 墨字で仮名文字の古文を読む場合には、点字とは異なる表記の問題が発生します。また、覚える文字の種類も多くなります。

 しかし、こうしたことは、『源氏物語』の触読を通して少しずつ解決する方向を探っているので、『百人一首』の場合もいずれは問題の解決に至ると思っています。

 京都駅に向かわれるみなさんとは、再会を楽しみにして、私は二条駅で電車を降りました。
 みなさまとの出会いに感謝しています。
 
 
 

2015年8月30日 (日)

「触読研究」のHPに「触読レポート(1)(2)」を公開

 先月末の、福島県立盲学校の渡邊先生が古写本『源氏物語』を触読された報告は、以下のブログに記した通りです。
 
 
「古写本『源氏物語』が触読できる全盲の渡辺さんとの一日(1)」(2015年07月30日)
 
「古写本『源氏物語』が触読できる全盲の渡辺さんとの一日(2)」(2015年08月01日)
 
「科研のHP〈『源氏物語』の触読研究〉に渡辺寛子先生の報告文を掲載」(2015年08月05日)
 
 
 その時に同席した科研運用補助員の関口祐未さんが、記録をもとにした「触読レポート」をまとめ、「「挑戦的萌芽研究」古写本『源氏物語』の触読研究」の「触読通信」を通して公開を果たしてくれました。

「触読レポート(1)(2)」(2015年8月29日)

 触読の様子と、今後の問題点がよくわかるレポートとなっています。
 お読みいただき、ご意見ご感想をお寄せいただけると幸いです。
 今後の調査研究に役立てたいと思います。
 
 
 

2015年8月29日 (土)

京洛逍遥(374)目が不自由な方々と京都駅構内を安全に移動

 福島県立盲学校の渡邊さんをはじめとする関東からの目が不自由なお客人14名を、京都駅に出迎えに行きました。
 新幹線でお出でになった視覚障害者のみなさんを、京都劇場がある場所まで案内しました。
 参考までにここでは、今日歩いた、人混みと階段を避けてゆったりと行く経路を紹介します。

 京都着の新幹線に合わせて、私は京都駅の新幹線中央口改札で待ちました。近鉄電車と向かい合わせの改札口です。


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 八条東口は、改札口までに階段があります。エスカレータは上り1機なので、外に出る時には使えません。八条東口改札を出てから、北に向かう地下自由通路には階段しかありません。
 つまり、この経路は、エレベータもエスカレータもないので、京都劇場への近道ではあっても避けました。また、時間によっては人が多く行き交います。無用な接触を避けることに越したことはありません。

 駅から京都劇場まで行くのに、段差と人混みを考えて一番安全なのは、ホテルグランビア京都へ行く廊下を使うことです。

 まず、京都駅新幹線中央口を出ると、すぐ右側に見えるエスカレータで1つ上の階(3階)に上がります。そのまま、南北連絡通路を京都タワー方向に直進します。ここは、いつも旅行客が多く、キョロキョロしながら、携帯を見つめながらの雑踏なので、人とぶつからないかと一番気を使います。
 広い通路の真ん中が、白杖を持った方は往き来しやすいと思います。旅人の動きは不規則で、予測が難しいからです。

 通路左側に京都総合観光案内所が見えたら、その向かいに京都グランビアホテルへ入るエスカレータがあります。


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 そのエスカレータで上がったら、ホテルの廊下を直進します。吉兆や浮橋という名店を横目に歩きます。
 ただし、この廊下は鍵型に2回曲がるので、その点だけは要注意です。


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 後は、その入口にある案内図の通りに行くことになります。太いピンクの矢印は、今、私が付けたものです。


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 途中のエレベータで1つ下の階(2階)に降り、ホテルのフロントを通って外に出ると京都劇場に行き着きます。その隣に、今日の昼食会場である「がんこ」(京都駅ビル店)があります。

 今回お出でになったのは7組14名です。
 1人ずつに介助の方がついておられるので、あらかじめその方におおよその道を説明しました。
 みなさん、2人ペアで整然とついて来られたので、気持ちのいいほどスムースに移動できました。

 「がんこ」の店内は、和風で感じのいい雰囲気のお店です。予約の段階から、お店の方の対応は親切で丁寧でした。
 ただし、エントランスとなっている通路の両側が溝になっているので、目が不自由だと足を踏み外す危険性があります。そのことへの配慮が必要です。私は、介助の方が木橋の左側を、目が不自由な方は橋の真ん中を歩かれるように声をかけました。


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 このお店は、まだユニバーサルデザインに対する意識はないようです。
 曲がり角も溝になっているので、目が見えていても、下をよく見ていないと足を落とします。
 今回を機に、このお店が危険な設計になっていることに気付かれたらいいと思いました。

 今回、昼食に「がんこ」をセッティングしたのは、いろいろと調べての結果です。
 京都駅では、伊勢丹の上階も含めて、ランチタイムに予約できるお店がほとんどありません。
 その中で、この「がんこ」だけは個室(20名)の予約が取れたのです。

 ここで紹介した歩くコースは、他の旅行客と行き違うことがほとんどありません。その上に、ホテルの通路ということで、絨毯や大理石のフロアを歩くので、足元も軽やかにゆったりと京都の第一歩を踏んでいただけます。天井から流れる和風の音楽で出迎えてもらえます。

 私は別の用事があるので、目的地である京都劇場と「がんこ」までご案内して、今日はこのお店でお別れです。
 お店の方には、料理を説明していただく時に、形と色を丁寧に、とお願いしました。
 淡いピンクの着物を着た中居さんが説明を始められたのを潮に、お店を後にしました。

 明日は、嵯峨野で開かれる点字の百人一首にご一緒することになっています。
 みなさん、京都の初日を存分に味わってください。
 明日は嵯峨野で爽やかな目覚めと共に、渡月橋や天龍寺の散策を楽しまれることでしょう。
 
 
 

2015年8月25日 (火)

しゃべるペン(音筆)で絵本の中の漢字と遊ぶ

 この本を開いて、紙面にペンを当ててスライドさせると、ペンがしゃべります。
 不思議な体験ができる『おとがでるえほん かいてみよう きいてみよう かんじ1』(桜雲会編、2015年3月)という本で、漢字と遊んでいます。

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 これは、視覚に障害のある子どもが、漢字の形を学習する本です。小・中学生向けに刊行されています。立川市中央図書館の調査資料係で、ハンディキャップサービスを担当なさっている福島さんと早坂さんに、この本のことを教えていただきました。いつも貴重なご教示を、ありがとうございます。


イラスト:たかはし こうこ
デザイン・DTP : Unison
音筆データ・作成:今人舎
朗読:益田沙稚子(おはなしピエロ劇団)
音声ペン:セーラー万年筆

製品の仕様
製品名 セーラー音声ペンAP-1B
外形寸法 長さ130mm、最大直径35mm
重量 35g(本体のみ)
使用電池 単4電池2本
メモリーカード マイクロSDカード(最大8GB)
USB USB2.0(データ転送に使用)
対応ファイル AP4
耐用温度 0°c〜+60°c
保管湿度 5〜95%RH
スピーカー 直径28mm、出力05W
イヤフォン出力 直径3.5mmステレオミニジャック
ストラップ 付属
稼働時間 4〜5時間
*AP4は、オーディオブック対応データフォーマットです。

 これは、目が見えない方々と一緒に変体仮名を読むことに挑戦している私にとって、いろいろなアイデアが湧き出ずる、非常に刺激的な道具です。

 触読研究で支援者として協力してもらっている淺川さんが最初に使ったので、その報告を以下に引用します。


さっそく使ってみました。
使い方は大変簡単で説明も丁寧でした。
上部にマイクがついているせいか音も大きめです。
電源を入れるときと切るときは、それぞれ異なる音が鳴ります。

左側のページは絵が主体の本で、学習する漢字を使った例文が書いてあります。
右側のページでは、学習する漢字の書き方が書いてあります。

例えば「九」という字を学習する場合、左側のページのイラストや文章にペンの先を当てると、例文をゆっくり読み上げます。

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 次に右側のページにいき、「九」の一画目の「はらい」にペン先をあてると「い・ち」、隣に書いてある方の文字にペン先をあてると「にーっい」と発音してくれます。


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 誰かが手を持って一緒に書いてくれるような感じがする本です。

 なお、ミニ USB 端子は、電源供給用として使用できます。
 いろいろな方に使ってもらい、さまざまな意見を聞いて、新たな活用方法を考えたいと思います。
 
 
 

2015年8月12日 (水)

簡易型立体コピー作成機による触読実験を始める

 「立体コピー作成機 PIAF」(ピアフ)を、国文学研究資料館の事務を通して発注していました。
 その本体が、無事に手元に届きました。


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 卓上型なので、置き場所に困らず、移動も簡単です。研究室でも作業部屋でも、いつでもどこでも使えます。
 これは、先月うかがった共立女子大学でも使用しておられた、同型の機械です。

 これまでは、立川市中央図書館がお持ちの立体コピー機を、本研究に対するご理解とご協力をいただく中でお借りしていました。

「立川市中央図書館で源氏写本を再度立体コピー」(2015年03月17日)

 しかし、順調に触読研究が進展する中で、急遽立体コピーを作成する事態も発生し出しました。
 そこで、立川市中央図書館にある精巧な仕上がりではなくても、簡易版で当座の役を果たすようにと、科研費によって「立体コピー作成機 PIAF」を購入することにしたのです。

 これは、本科研を昨秋申請した時点から、研究計画調書に初年度の「設備備品費」による購入予定物品として計上していたものです。
 立川市中央図書館のご協力が得られたので、当面の購入は見送っていました。しかし、研究成果が顕著になったこの時点で、即応性のある対処をする必要性に迫られたこともあり、予定通りの発注となりました。
 これで、精細版と簡易版の2種類の資料が作成できる環境が整いました。

 届いたばかりの「立体コピー作成機 PIAF」で、試しに『絵入源氏物語』の「若紫」の図を浮き出してみたところ、次のように思い通りの立体図形が出来上がりました。


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 これで、古写本の変体仮名を読むための立体コピーも、必要になったら即座に少部数なら作成できます。調査研究のフットワークが、これで格段に軽くなることでしょう。個別の限定的な要望にも、これならすぐに対応できます。

 この「立体コピー作成機 PIAF」を活用して、まずは、触読用の「変体仮名字体集〈立体文字版〉」を作成することになります。ハーバード大学本と歴博本の『源氏物語』から、さまざまな文字を切り出すのです。そして、切り出した文字を編集して、変体仮名を触読する上での学習練習帖の役割を持った、字書と参考書を作成したいと思います。

 現在、次のようなプロジェクト(案)を考えています。


(1)触読体験プログラム(案)
 ・使用教材
   ■ハーバード大学本『源氏物語』「須磨」〈立体文字版〉
     A4用紙/5行分/縦長いっぱいに拡大
   ■触読用「変体仮名字体集〈立体文字版〉」
     今夏より編集開始
   ◇翻字テキスト(すでに作成済)

(2)学習システム(案)
  ・失明時期と古典理解度により3パターンを用意
  ・初級は平仮名と変体仮名の学習から始める
  ・中級は『源氏物語』「須磨」本文の触読から始める
  ・上級は『源氏物語』「蜻蛉」本文の書写から始める
  ・気分転換に『百人一首』の〈触読版かるた取り〉に挑戦

 もちろん、この科研は「挑戦的萌芽研究」なので、思うようにいかないことがあっても、とにかくチャレンジをすることに意義があります。調査・実験・研究の方針は、その折々に判断して変更も自在にすることになります。その意味では、現在は順調に前に進んでいます。

 幅広くアイデアを募り、効果的な立体文字触読資料の作成と、学習システムの構築を実現したいと思います。
 これまで同様に、淺川さん、加々良さん、関口さんの3名の研究協力者の若い力を借りながら、研究計画を推進していくことになります。
 変わらぬご理解とご協力を、どうかよろしくお願いいたします。
 
 
 

2015年8月 5日 (水)

科研のHP〈『源氏物語』の触読研究〉に渡辺寛子先生の報告文を掲載

 福島県立盲学校の渡辺寛子先生から、古写本『源氏物語』を触読した体験を通してのレポートを送っていただきました。

 前代未聞の取り組みにもかかわらず、積極的に鎌倉時代の古写本『源氏物語』の触読に挑戦していただきました。本邦初とも言える、貴重な報告となっています。

 科研での試行錯誤はまだ道半ばとは言え、この成果は視覚障害者(触常者)にとってはもちろんのこと、晴眼者(見常者)にとっても、夢と希望をつなぐ新しい世界が拓けてくる画期的な出来事です。

 寄稿していただいた全文は、科研のホームページである「古写本『源氏物語』の触読研究」の中の「触読通信」というコーナーに掲載しています。

 「わかる喜び再び ─古写本『源氏物語』触読体験─ 渡辺寛子」(平成27年8月5日)

 お読みいただき、ご意見及び感想などをお寄せいただけると幸いです。
 反応があることが、我々はもとより、渡辺先生にとっても、何よりの後押しとなることでしょう。

 また、身近に全盲の方がいらっしゃったら、『源氏物語』に対する興味の有無にかかわらず、ご紹介ください。幅広い方々の触読体験を通して、古写本を読む学習環境を構築し、読書環境を整備していきたいと思っています。

 この成果の一部は、昨日紹介した「第4回 日本盲教育史研究会」で報告する予定です。
 
 
 

2015年8月 4日 (火)

日本盲教育史研究会(第4回)のご案内

 日本盲教育史研究会(第4回)が、「日本最初の盲唖院」である京都府立盲学校で今秋開催されます。

 研究会の案内が届きましたので、速報としてここに紹介します。

 私は報告者の一人として、「『源氏物語』を触って読む─700年前の写本に挑戦する─」と題するレポートを担当します。これまでの触読の成果を、広くみなさまにお知らせするものです。

 以下、この研究会の要点を摘記しておきます。
 さらに詳細な情報は、末尾の案内文(画像)をごらんください。
 
--------------------------------------
日時:2015年10月24日(土)9時半〜16時半
会場:京都府立盲学校花ノ坊校地 多目的教室
  (〒603−8302 京都市北区紫野花ノ坊町1)
◎第4回研究会(11時〜16時30分)
 ○公募報告(11時15分〜12時)
  1. 「盲教育の支援基盤(仮)」 足立洋一郎氏
  2. 『源氏物語』を触って読む─700年前の写本に挑戦する─ 伊藤鉃也氏
  3. 小西信八が見た欧米の盲・唖教育(仮) 西野淑子氏
 ○記念講演(13時〜14時30分)
   「日本の視覚障害者を支え続けた点字出版と点字図書館」
       全国視覚障害者情報提供施設協会参与 加藤俊和氏
 ○研究報告(14時45分〜各30分)
  1. 「大阪における明治期盲唖教育史」
       近畿聾史研究グループ 新谷嘉浩氏
  2. 「インクルーシブな学校秩序の構築過程に関する社会学的探求
     ―小学校における全盲児の学級参画と支援の組織化を中心に」
       大阪市立大学都市文化研究センター研究員 佐藤貴宣氏
  3. 「中村京太郎と普選-昭和3年の『点字大阪毎日』によるアンケート調査を中心に」
       関西学院大学人間福祉研究科研究員 森田昭二氏
    参加費 1000円(当日徴収) 
    主催  日本盲教育史研究会 
    後援  (予定)全国盲学校長会・日本盲人福祉委員会・毎日新聞社点字毎日
 
 
 

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2015年8月 1日 (土)

古写本『源氏物語』が触読できる全盲の渡辺さんとの一日(2)

 福島県立盲学校の渡辺先生に、日比谷図書文化館の翻字者育成講座に参加していただきました。

 最初の1時間は、私が昨日のブログに書いたように、ハーバード本「蜻蛉」の14丁裏から15丁表の見開き1丁分を読みました。

 この講座は、鎌倉時代の写本を翻字することに眼目があるので、読むというのは物語本文の内容ではなくて、書写されている本文である変体仮名の文字だけです。しかし、これがなかなかコツが必要なことなのです。

 渡辺先生は最後列にいらっしゃいました。しかし、私の科研を手伝ってもらっている関口さんが隣で介助をしてくれていたので、いつもの速さで、いつもの調子で文字を判読する上での注意事項などを説明していきました。
 まさに、昨日のブログの通りです。

 1時間ほどで見開き1丁分を確認してから、渡辺先生に前に出て来ていただきました。そして、自己紹介をしていただいてからは、私が質問をしたり、渡辺先生に今日の感想などを話していただきました。

 なかなか聞く機会のない話なので、受講生のみなさんも興味深く聴いておられました。
 多分に、渡辺先生の語りがうまかったこともあります。
 何人かから、積極的な質問も出ました。

 それにしても、一口で古写本が触読で読める方だと紹介しただけでは終わらない、一人の人間として魅力に満ちた話でした。
 これからも末長くお付き合い願える、得難い仲間であることの確証を得ました。

 3人の子育てで右手が生活の手となってしまったために、触読する際には左手が貴重だ、という話は共感をもって伺いました。生活の中に触読があるのです。趣味の世界ではないのです。
 そこに、今回のように思いもしなかったとおっしゃる古写本の触読を体験され、渡辺さんにとっても大きな一歩を踏み出されたことになります。

 こうしたことを教えていただき、私もお役にたったことを知り、またお話を伺うことで少し成長したように思います。

 横で介助をしてくれていた関口さんは、私が翻字を進めている間、指はしっかりと該当する文字を押さえておられたことを語ってくれました。
 しっかりと、私の説明のペースに合わせて、手が動いていたとのことです。

 これは、ご本人も、説明を聞きながら触読していたので、非常にわかりやすかった、との感想を述べておられました。
 やはり、この触読の習得システムには、音声によるガイドは必要不可欠のようです。

 私の字母についての説明を聞きながら、しだいにさまざまな変体仮名の字母を思い出した、ともおっしゃっていました。変体仮名に関する知識というよりも、書道をなさっていたことが効果的に習熟を早めているようです。

 渡辺先生は、日に日に変体仮名を触読する精度も速度も向上なさることでしょう。
 そして、ますます古写本を触読する楽しさを獲得なさることでしょう。
 文化の共有ということでも、貴重な心強い仲間の参加となりました。

 とにかく、全盲とはまったく思われない姿でありお話でした。
 前向きに生きておられるからこそ、こうした姿勢が私どもに伝わってくるのでしょう。
 それがひいては、受講生のみなさまに、強烈なインパクトをもって受け入れていただけたようです。

 講座が終わってから、受講者の方から、録音をしておられなかったのですか、という問い合わせをいただきました。残念なことに、そのような準備をしていなかったのです。
 受講生の多くのみなさまには、多大な好ましい影響があったようです。

 またとない、得難い時間をみんなで共有できたことは、企画した者としても嬉しいことでした。
 また、機会があれば、このような場を設定したいと思っています。

 その後、何人かの方からのメールで、啓発される貴重な時間であったことを伝えてくださいました。受講生のみなさまにとっても、翻字の勉強を続けて行かれる上で、いい刺激となったようなのでほっとしています。
 
 
 

2015年7月31日 (金)

日比谷でハーバード本「蜻蛉」巻を読む(その17)

 今回の翻字者育成講座は、昨日のブログに書いたように、福島県立盲学校の渡辺先生と古写本の触読に関して面談をした直後の、午後6時半からの開講でした。

 折角の機会なので、あらかじめ講座を運営なさっている部署の了解を得た上で、渡辺先生にも参加していただく段取りを整えていました。受講者のみなさまと一緒に、全盲の方を交えて変体仮名の翻字学習を進めました。

 そんなこともあり、この日は見開き1丁分を頑張って読みました。1字でも多く渡辺先生に確認していただき、触読の感想を聞きたかったからです。

 まず、ナゾリが認められる2カ所についての確認からです。もっとも、目が見えない渡辺先生には、こうしたナゾリの部分の判読には参加してもらえません。ここは晴眼者が役割を担う部分です。

 この2カ所については、下に書かれている文字の判断を保留したい旨を伝えました。写真版を見れば見るほど、次第に自分の認定に疑念が生じたからです。


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 「伊」(14丁裏1行目)の下に「以」があるようです。しかし、どうも下の文字は「以」ではないようにも思われます。

 同じことは、「幾」(14丁裏3行目)の下に「久」が認められます。しかし、じっと見ていると、下の「久」の認定に疑念が残ります。書きさしたようにも見えます。

 これは、原本を再度実見しないと確定できないと思い、そのことを正直にお話しました。
 これまでに、ハーバード大学にある原本は3回確認しています。しかし、ここを丹念に見たのかどうか、今思い出せません。
 次世代への引き継ぎ事項にしておきましょう。

 また、この写本では、「奈」の字体が一定しません。非常に不安定な「奈」なのです。


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 これは、この「蜻蛉」の書写者が「奈」の平仮名を苦手としていたのか、またはこの字で書写の雰囲気を変えようとしていたのか、その理由が今は思い当たりません。ご教示をお願いしたいところです。

 「寸」については、8行目の字体が極端に異なります。これは、行末だったために平たくなったものではありません。
 これも、この書写者の筆癖の一つとして挙げておきます。


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 15丁表の4行目の「し」にミセケチのような2本線が見えます。テキストは白黒なので、これが紙の繊維なのか汚れなのかゴミなのか、判別がつきません。
 この日はカラー画像を持っていなかったので、次回に結果をお知らせすることにして、先に進みました。

 ここは、次のようになっています。


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 紙面のシミが、くっきりと確認できます。
 やはり、カラー画像は、こうした時の確認に必要です。

 次回は、8月20日(木)に15丁裏から読み始めます。
 
 
 

2015年7月30日 (木)

古写本『源氏物語』が触読できる全盲の渡辺さんとの一日(1)

 福島県立盲学校高等部の渡辺寛子先生が、科研の触読研究に協力してくださっています。
 先般お送りしたハーバード大学本「須磨」巻の巻頭部を、苦労の末とはいえ読めるようになった、とのことでした。このことは、本ブログの「古写本『源氏物語』の触読【成果の記録】(盲学校の先生の場合)」(2015年07月14日)で報告した通りです。

 そこで早速、直接お会いして話を伺うことにしました。

 今日は、猛暑の中を上京してくださったので、日比谷図書文化館でいろいろな実験にお付き合いいただきました。初対面にもかかわらず、午後2時半から6時までの長時間にわたって、語り、触読し、コーヒーを口にし、意見交換をしました。その後には、スパゲッティを口に運んだりしながら、また立体コピーの活用方法や触読の教育実習システムを作り上げることについて語り合いました。

 私にとっては、つい最近まで信じられなかったことを間近にして、自分のこの目で確認することができました。そして、予想を遥かにこえた、大きな成果を実見することとなりました。
 とにかく、変体仮名で書写された鎌倉時代中期のハーバード大学本を、光をまったく感じられなくなった渡辺先生が読まれるのです。
 こんな日がいつかは、とは思っていました。それが、何と今日だったのです。
 お互いに、得難い有意義な体験の共有と情報交換ができました。

 こんな日が、こんなに早く来ようとは、誰が予想できたでしょうか。
 このことにより、さらなる課題も見えてきました。
 渡辺先生は特別だから、ということで終わらないようにするためにも、より一般化した「変体仮名翻字版」の学習習得プログラムを構築することに向かって進むことにします。

 詳しくは、後日公開する、触読研究のホームページを通して報告しますので、今しばらくお待ちください。

 お話を伺っていて、失明される前から書道をなさっていたことが、古写本『源氏物語』を触読できる大きな力となっていることを痛感しました。
 もちろん、大学時代から古典文学の研究をなさっていたことがそのベースにあることは言うまでもありません。
 いやいや、知的好奇心も忘れてはいけません。

 今日は、たくさんの触読資料を触っていただきました。立体コピーや木刻文字に紙の切り抜き文字などなど、実にさまざまでした。

 立体コピーにしても、さまざまな大きさのものを用意していました。
 結局は、1面10行の枡型本の5行分を、A4版用紙に縦いっぱいに立体コピーしたものが一番いいことがわかりました。


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 木刻文字や切り抜き文字も、さまざまな触読に関する意見を聞くのに、有効な小道具となりました。
 この文字を削り出し、抜き出した科研運用補助員の関口祐未さんの苦労は、目には見えないながらもその効果は絶大でした。触常者の興味とやる気を引き出します。そして何よりも、人を饒舌にする小道具でもあります。


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 「変体仮名」とは異なり、活字のひらがなについても触読してもらいました。


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 これについては、48ポイントの文字が一番触読しやすい、との結論を得ました。

 図書館などのカウンターで、この文字の大きさに拡大した立体コピーを作成すれば、今すぐにでも視覚障害者がひらがなの本文とひらがなのルビを頼りにして、自分の意思で自由に読書ができます。
 誰に遠慮することもなく、自分のペースで、同じところを何度でも読むことができるのです。

 1日も早い実用化に向けて、さらなる研究を展開したいと思っています。

 なお、視覚障害者向けの音声教材を開発実験しておられる先生の情報もいただきました。
 また連絡をして、アドバイスをいただきたいと思います。

 この古写本の触読に関する研究は、まだまだ発展して行きそうです。
 これまでにも増して、さらなるご理解とご協力を、幅広い分野の方々にお願いしているところです。

 それにしても、いいタイミングで渡辺先生と出会えたことに感謝しています。
 これは、先般、札幌で開催された日本盲教育史研究会に参加した折に、指田先生など多くの方々とお話しできたことによる、人と人が結ぶ縁で生まれた成果です。
 みなさま、本当にありがとうございます。
 
 
 

2015年7月23日 (木)

古写本『源氏物語』を触読するための立体コピーの新版作成

 目の不自由な方々が変体仮名で書かれた『源氏物語』を読めるようになれば、と、さまざまな取り組みを試行錯誤しています。

 本日、触読のための新しいパターンの資料をいくつか作成しましたので、アドバイスをいただく意味からも、ここに取り上げて紹介します。

 今回も、立川市中央図書館のハンディーキャップサービス担当の福島さんと早坂さんのご理解とご協力を得て、以下のような試作版を作りました。

(0)立体コピーによる触読資料は、A4版のカプセルペーパー(松本油脂製の浮き出し用紙)で作成することを原則としています。
 資料の大きさをA4に統一することは、資料の保管と閲覧の便宜を最優先させて決めました。

(1)カラー版の試作
 まず、ハーバード大学本『源氏物語』「蜻蛉」巻の14丁裏と15丁表を、カラー版で立体コピーを作成しました。
 この巻のなかでもこの場所を選んだのは、来週7月30日に日比谷図書文化館で開催される翻字者育成講座で、ここから読み進める予定の箇所だからです。他意はありません。


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 写真では、文字の浮き上がり具合が不鮮明です。しかし実際には、文字は浮き上がっています。もっとも、その浮き上がり具合は、以下のものよりも格段に低いものです。

 背景の水が滲みた所のキワの線や、汚れなどは、触読には何ら影響がありませんでした。用紙に塗布された薬品が、敏感に反応しなかったことが幸いしています。ただし、これは原寸で作成しただけのものなので、今後はさらに拡大したものでも実験をすることにします。

 カラーで立体コピーを作成したのは、白黒と違い、色の微妙な差が文字の浮き出し具合に影響しないか、と思ったからです。次回、以下に揚げるようなパターンを、カラーでも作成したいと思います。微妙に文字の浮き具合が異なるようなのです。

(2)14丁裏のカラー版(122%拡大)
 この拡大比率は、原本の10行がA4版の横幅一杯に入ることを最低条件として設定したものです。
 このカラー版は、背景処理をしてから立体コピーにかけたものです。次の(3)は白黒版なので、それと比べると、カラー版の方が微妙な反応を見せているようです。強弱が滑らかに変化しており、指への感触が柔らかいことがわかります。
 どちらが触常者にとって読みやすいのかは、これから実験を進める中で実証していきたいと思います。


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(3)14丁裏の白黒版(122%拡大)
 これは、上の(2)と比べると、文字がくっきりと浮き上がっています。
 触読しやすいように思われます。しかし、実際に一人でも多くの方に触っていただくことで、最終的な判断をしたいと思います。


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(4)14丁裏の白黒版(150%拡大)の右側5行分(前半)
 上掲(3)をさらに拡大し、上下をA4用紙一杯まで入るようにコピーしたものです。
 文字が大きくなったために、行間も開き、原本の10行分が1枚のA4用紙に入りません。そのために、左右それぞれ5行づつを立体コピーにして作成しました。


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(5)14丁裏の白黒版(150%拡大)の左側5行分(後半)
 上掲(4)に続いて左側となる5行分です。


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 15丁表も、14丁裏と同じように立体コピーを作成しました。しかし、ほとんど同じ形式のものなので、ここでは掲載を省略します。

(6)変体仮名を習得するのに役立つと思われる文字のパターン(字体)を、五十音順に立体文字にして並べてみました。


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 今回、参考資料として使用したのは、『影印本シリーズ 増補改訂 仮名変体集』(伊地知鉄男編、平成25年10月47刷、新典社)です。これは、既刊の40種類以上の変体仮名関連の書籍から、当面の用途に最適だと判断して選定し、そこから採字をしたものです。
 これは、14頁もの分量になっています。これでは資料としての枚数が多すぎます。触常者には、今しばらくはこれで変体仮名のパターンを習熟していただき、反応や意見を参考にして、さらによりよいコンパクトな字体集の作成に向けて展開していきたいと思います。
 ここで、字体集としてどの字母を選ぶかは、鎌倉時代中期に書写されたハーバード大学本によく出てくる文字を基本として、伊藤が独断で選定し構成しています。室町時代や江戸時代の古写本を読むために選んだ仮名文字ではないので、その点をあらかじめご了解いただきたいと思います。

(7)現行のひらがなである「あ」と「お」を、さまざまな大きさで立体文字にしました。
 触常者にとっては、ゴシック体が読みやすいということを伺っていたので、今回は「HG平成丸ゴシックW4」を使用しています。


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 現行の書籍などの印刷物で、ルビが多く付された本を触読することは、2人の全盲の方が実証してくださったので比較的容易であることが判明しました。変体仮名の触読ではなくて、下位レベルでの触読訓練のための情報を得ようとして、この資料を作成しました。
 この2文字はよく似ているので、触読の可否を判断するのに好例だと思います。

 今後は、どの大きさの平仮名活字が触読に最適かを、折々に調査していきたいと思います。
 ただし、これはあくまでも参考資料とするものであり、当面は変体仮名で700年前に書写されたハーバード大学本『源氏物語』を読むことが最優先課題であることに変わりはありません。
 
 今回、立川市中央図書館で作成した触読資料は、来週の30日に日比谷図書文化館で触読実験を行います。その後で、さらに詳しい報告を本ブログに掲載しますので、お楽しみにお待ちください。

 さて、この触読資料が今後ともさらにどのような成果を生むのか、ますます楽しみになりました。

 なお、触読資料作成にあたっては、科研における「挑戦的萌芽研究」の「視覚障害者と共に古写本の仮名文字を読み日本古典文化を共有するための挑戦的調査研究」で、科研運用補助員として国文研に来てもらっている関口祐未さんの貢献が大であることを明記しておきます。
 
 
 

2015年7月14日 (火)

古写本『源氏物語』の触読【成果の記録】(盲学校の先生の場合)

 ちょうど1ヶ月前(6月15日)のことでした。
 日本盲人福祉委員会常務理事の指田忠司先生からご紹介いただいて、盲学校高等部国語科のW先生に触読に関するお願いのメールを送りました。ハーバード大学本『源氏物語』の「須磨」巻の立体コピーを触読する取り組みについてのことです。

 すぐに、以下の返信が来ました。


中途失明の全盲です。
もとは弱視で、大学時代は源氏物語を少々かじりました。
見えていた時は、書道を続けていたので、変体仮名がどう使われているのか、楽しみです。

 早速、「須磨」巻の巻頭部分の立体コピーを送りました。
 原寸、1.5倍拡大、2倍拡大の3種類の大きさのものです。
 この立体コピーについては、「3種類の変体仮名の立体コピーを作る」(2015年06月16日)の記事の写真を参照してください。

 届いた頃を見計らって、連絡しました。
 すぐ(6月18日)に返事が来ました。


今、触っていたところです。
ノーヒントでどのくらいいけるかと、
出だしは
「よのそ」ですか?
須磨なのですね
原文を探したら、
わかったつもりになってしまうので、
もう少し、
自虐的な時間を過ごしたいと思います。

 見えない中で、自分と闘いながら触読のテストをしてくださっていることが伝わる、私にとっては感激するメールでした。
 「自虐的な時間」とおっしゃることばから、まさに手探りの中で古写本『源氏物語』に挑んでおられることに、感謝の念でいっぱいになりました。
 「よの中」を初見で「よのそ」と触読されたことから、漢字の読み取りがいかに難しいことであるかがわかりました。しかし、「須磨」巻は漢字が少ないので、このことは何も問題とはなりません。とにかく、変体仮名をどのように読まれるのか、ということが最大の関心事となるのです。

 それから2週間半後(7月6日)に、私が送った立体コピーが読めたので翻字テキストを添削してほしい、という連絡を受け取りました。ほとんど正確に読み取られたテキストを拝見し、私の到達目標の一つが達成されたことを実感しました。
 読めるはずだ、という期待が現実のものとなり、朗報をうれしく噛み締めました。
 貴重な記録となるので、その時の文面の一部(少し調整)を引きます。


昨日、源氏物語の写本の触読をなんとか
最後までやってみました。
が、よくわからない部分が残っています。

実は、実家の母が、
元高校の書道の教員でありまして、
私も弱視で見えていた時は、
高校・大学と書道部で仮名を書いておりましたが、
だいぶ変体仮名を忘れているので、
母に来てもらい、解読を手伝ってもらいました。

原寸大は触読するには、小さくて、よくわかりません。
二倍のだと、学生時代に自分が書いていた
大きさに近いので筆遣いを追えます。

でも、変体仮名の使い方に癖というか、
このみがあるので、

この写本は
「と(止)」が多いのですね。
私は、「登」の方がきれいなので、「止」は
創作で散らし書きするときは好んで使いませんでした。

「本」とか、「於」など、
指を持ってもらって動かして思い出すものもあり、
15年以上筆を持っていなかったので、
思い出し切れていないというか、
納得しきれていないのですが。

二倍のものにはない部分で、
原寸大では
触ってもよくわからないところが後半にありました。
母にもよくわからない部分が二か所。

解読したものを添付します。
違っているところをご教示ください。

 私からは、現在進めている「変体仮名翻字版」による翻字例をお送りしました。
 加えて、以下の質問をしました(7月9日)。


(1)どのようにして読まれたのか。
(2)読み難かった文字は何か。
(3)どのような立体コピーを用意すればいいのか。
(4)どのような参考資料や情報があればいいのか。
(5)半丁を読まれての感想と今後への要望。

 これに対して、翌日すぐに回答がありました。
 ここにも、その文面の一部(少し調整)を引きます。
 あらためて、本ブログでの紹介に理解を示していただきました。
 ありがとうございます。


以下 質問の回答です。

(1)どのようにして読まれたのか。
まず送られた立体コピーをノーヒントで触りました。
「送りましたメール」をいただく前で、大きさが3種類、4部ずつと知らずに、
一番大きい二倍で触り、
出だしのひらがな「よの」、ところどころの「し」「く」などしかわからず、文脈が
想像できませんでした。どこの巻かも。「いづれの御時」でないことはわかりました。
その後、メールで須磨の冒頭と知り、しばらく触っていても進展がないので、自宅
で息子に参考書から須磨の冒頭を読み上げてもらい、音声パソコンに打ち込みました。
たぶん、大島本系統でしょう。
サピエで点訳データを探したのですが、古文表記の原文が探せませんでした。
パソコンの原文をヒントに触りながら変体仮名を推測し、原文に漢字を当てていきました。
原寸大では全然読めなくて、二倍が学生時代に書いていた仮名の大きさに近いので
筆遣いが想像できました。
それでも二倍の立体コピーは文章が途中で切れるので、意味が通じないところがあ
り、7/5に書道の元教員の母に出てきてもらい、指を動かしてもらって、変体仮名を
思い出すのを手伝ってもらいました。
 
(2)読み難かった文字は何か。
止、志、新、那、本、奈、堂、於、春
「可」で上の点画があるものとないものがある。それが「万」と紛らわしい。
文脈から推測するも不十分。
一度触ればわかるもの 「里、万、須、徒」
 
(3)どのような立体コピーを用意すればいいのか。
二倍サイズで最後まであるとよい。
が、その後、触っていると、つい昨日のことですが、原寸大でも読めてきた!
二倍ではわからなかった最後の行の冒頭の「三」が
原寸大だと「三やこ」とつながって認識できる。触り足りなかったかも。

 ※伊藤注:原寸大の触読については、すぐに次の訂正メールが来ました。


さきほど、学校から送ったメールの中で、勘違いがありました
原寸大で読めた最後の行の冒頭「みやこ」は、
二倍、1,5倍にはない部分でした。
「三」に読めるわけないですね。
「むかしこそ」ですから。

 
(4)どのような参考資料や情報があればいいのか。
・原文データ 音声パソコンで耳ですっきり入るひらがなだけのもの。
   意味を取りたいので。
・翻字データ 今回つけていただいたもの。
・変体仮名の触読できる一覧(立体コピー)
   触り比べて当てはめる楽しさ。
 
(5)半丁を読まれての感想と今後への要望。
久々に知的な刺激で楽しかったです。
原文を味わうことが、点字使用になるとなかなか困難です。
古文点訳は、歴史的仮名遣いで忠実に正しく点訳されているのを探すのが難しいです。
教科書に載っているものはほんのわずかで、進学校がテキストとしているような
参考書の点訳を探してまでは読む余裕がないです。日々の仕事で忙殺されてます。

 
 この回答を見ていると、全盲の方々に古写本『源氏物語』を触読していただく上での、重要なヒントが数多くあることに気付かされます。

 こうした遣り取りを繰り返す中で、よりよい触読のための環境作りを進めたいと思います。

 先週金曜日に、共立女子大学で学部の学生さんに触読していただいたことも、経験の積み重ねとして貴重な体験です。

 いずれも、現在進行形で語れる調査研究であることが、本課題の推進力であり魅力だと言えるでしょう。

 「古写本『源氏物語』の触読研究」は、こうして着実に成果をあげながら、先の見えないトンネルを抜けつつあります。
 多くの方々のアドバイスを受けながら、さらに触読実験を続けていきます。

 現在は、ここに紹介したW先生と直接お目にかかり、触読ができた経緯のさらなる聞き取りと、今後の対処を話すための打ち合わせの日程調整に入っています。
 進展がありましたら、またここに報告いたします。
 
 
 

2015年7月11日 (土)

古写本『源氏物語』の触読に関する【朗報】(共立女子大学の事例)

 こんなにも早く、古写本『源氏物語』の触読ができる人と出会えるとは思っても見ませんでした。
 ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」巻の巻頭部分を、初見にもかかわらず、たどたどしくではあっても、目の前で一人の若者が触読する場に身を置き、感動とも感激とも違う不思議な思いに包まれていました。

 目の前で起こっていることは、紛れもない事実であることは明らかです。
 触読できるはずだ、できるに違いない、という自分勝手な思いが、しだいに確信に変わっていく時間は、予想外というべきか、そんなに時間はかかりませんでした。

 先週、福島県立盲学校高等部国語科の先生から、私が送った立体コピーが読めたので翻字テキストを添削してほしい、という連絡を受け取っていました。ほとんど正確に読み取られたテキストを拝見し、私の到達目標の一つが達成されたことを実感しました。
 読めるはずだ、という期待が現実のものとなり、朗報をうれしく噛み締めました。
 直接お目にかかり、触読ができた経緯を聞き取り、今後の対処を話すための打ち合わせの日程調整に、一昨日から始めていたところです。

 それが今は目の前で、古写本『源氏物語』の触読が実証されたのです。その確証が、明らかに確信に変わったのです。
 自分の中で、また一歩前に進んだことが身震いをさせました。

 この私にとって記念すべき舞台は、千代田図書館の近くにある共立女子大学本館の14階でした。


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 この大学の校舎は、以前に一度、『十帖源氏』の輪読会の会場として借りたことがあります。
 今回の学生の指導にあたられた先生は、かつて一緒に大学院で学び、『源氏物語別本集成 全15巻』の翻字のお手伝いもしていただいた、旧知の仲間です。
 不思議な縁があり、私が触読研究に取り組んでいることを聞かれ、連絡をくださったのが発端です。

 今回の触読の現場に立ち会えるまでには、1人の全盲の学生の指導をしてこられたお2人の先生と、メールで何度かやりとりをしていました。
 さらには、昨日は東京芸術大学の先生などの美術分野の専門家も交えて、お互いの取り組みに関する情報交換と今後のことを綿密に打ち合わせた後に、この学生との面談と触読実験に臨んだのです。

 共立女子大学の先生からは、3年前に初めて全盲の学生を受け入れることとなったことから、これまでの指導の内容や経緯を詳細に伺いました。
 しかも、昨年の2年次からは学生が日本の古典文学の勉強を希望したこともあり、変体仮名の触読に取り組まれることになったのです。前代未聞の学習指導に、さまざまな試行錯誤と可能な限りの手を打たれたのです。

 『首書源氏』や『竹取物語絵巻』を教材にして、立体コピー機を最大限に活用した指導に取り組んでおられたことは、学生の希望を叶える上では最良の選択だったと思います。
 このことを知らずに、私は独自の視点と立場で、この学生が触読を始めた同じ昨秋、科研費「挑戦的萌芽研究」に応募し、今春採択されてから本格的に触読研究に取り組んだ矢先のできごとです。

 学生本人の意欲と共立女子大学の先生方の熱意が相俟って、すでに江戸時代の変体仮名はほぼ習得できたと言える状態にありました。この学生が古文が好きだ、というのが学習における一番の原動力となっています。

 大学側が、本人にとって理想に近い環境を作ろうとしておられるのが、お話しを伺っていてひしひしと伝わってきました。

 とにかく、昨日の千代田図書館での午前のみならず、午後も濃密な時間を持つことができました。
 先生方や学生及び講師のみなさまと、このような貴重な時間を共有することができ、すばらしい日となりました。

 学生には、今後とも、いろいろと無理難題を持ちかけることになるはずです。それを心して、諦めないで、粘り強く付き合ってください、とお願いしました。

 全国の盲学校の生徒及び卒業生のみなさんたちをも巻き込みながら、変体仮名を読むことで、触常者と見常者ともども、日本の伝統的な文化の共有を目指すことに加速していきたいと思います。

 とにかく、目が見えないことは、何も障害ではありません。障害や障壁は、触常者と見常者の間に立ち塞がっているだけなのです。その意味では、この学生さんは、この障壁を文化の共有という面から往き来できる、点字ばかりではなくて墨字も触読ができる、2種類の能力を発揮できる存在なのです。文化の橋渡し役もできるのです。

 さらに私からは、点字のすばらしさはそれとして認めながら、それに加えて日本文化としての縦書きの仮名文字を、一日も早く自在に操ってほしいことを、そして、仮名文字で自由に自分の気持ちを伝えられるようになってほしい、との願いを伝えました。この学生は、点字で日記はつけているとのことでした。

 国文学研究資料館には、25万点もの日本の古典籍の画像資料があります。
 変体仮名が読めるようになると、この膨大な資料を解読できる可能性が生まれるのです。
 また、古典籍の資料紹介も、思うがままにできるようになります。

 目が見えるにもかかわらず、国文学研究資料館が所蔵する基礎資料を活用することもなく、活字の市販本で読書感想文を書くことで古典研究をしているつもりになっている研究者が多いことを、私は憂えていることも伝えました。
 研究は、やはり基本的な文献をもとにしてすべきなのです。安易に活字本や校訂本文で誤魔化してはいけないのです。その意味では、自力で変体仮名が読めることは、研究という世界への入口に立ったとも言えます。

 私の以下のブログの記事も読んでほしいと伝えました。

「京都府立盲学校の資料室(その2)」(2014年08月05日)

「視覚障害者が古写本『源氏物語』を書写できるか?」(2014年08月22日)

 これを読むと、書道に挑戦したくなるはずだからです。変体仮名が読めるだけでは、まだ道半ばです。仮名文字が書けることが、コミュニケーションのありがたさと喜びを我が身のこととして実感できるものへと変質していくはずです。

 なお、現行の平仮名は、ほとんど自由に触読できるそうです。彼女は、私が要求するハイ・レベルな〈変体仮名〉〈源氏物語〉〈700年前の写本〉という課題をクリアできるのですから、現代のひらがなが触読できるのは当然でしょう。
 とすると、図書館で立体コピーのサービスが容易に受けられたら、子供向けやジュニア向けの本に留まらず、総ルビ付きの文章であれば自在に触読できることが実現するのです。これは、いますぐにでも実現可能なこととなったのです。

 これは、図書館のサービス業務を豊かにします。図書館の風景も変わります。
 視覚障害者も、自分の意思で、自分のペースで、思うように行きつ戻りつしての読書ができるようになるのです。対面朗読者への気遣いや、点訳ボランティアへの感謝、そして朗読メディアの貸し借りの煩わしさから開放されます。

 こうした展開は、今後ともさらに教育システムと指導方法を含めて、幅広い展開が可能となります。そして、あらためて検討課題として浮上します。

 この詳細は、後日また記します。
 ここに書きたいことは溢れるほどあります。

 今回は、2人共に女性です。それでは、男性ではどうだろうか。
 触読はゆびだけだろうか。また、そこに音声によるガイドやアドバイスを取り入れると、どのように学習が促進されるのか。などなど、あげればきりがありません。

 しかし、今は、二十歳の1人の女性が、ハーバード大学本「須磨」の巻頭部分を触読できた、という朗報を記すことに留めておきます。

  (数日後に、福島県立盲学校の話としてつづく)
 
 
 

2015年7月10日 (金)

異分野の仲間から触読のアドバイスを受ける

 1万点にも及ぶ古書販売目録の調査のために、朝から千代田図書館へ行っていました。

 お昼休みに、最上階のレストランから皇居を眺めました。
 連日の雨がやっと上がりました。しかし、晴れたとはいえ、まだ不安定な気候の中にあることには変わりません。


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 千代田図書館が所蔵する目録資料調査に着手して4年目です。しかし、調査に行ける回数が少ないこともあり、まだ4パーセントの冊子を確認しただけに留まります。とにかく、捗りません。

 東京に居られる期間も、あと2年を切りました。図書館の書庫の書棚に眠る膨大な資料群は、誰かに託すしかありません。と言っても、まだ後継者が1人もいません。興味と関心がある方との出会いを、今も待ち望んでいるところです。

 当初より、『源氏物語』の古写本に限定しながらも、その周辺の情報も抜き出して整理しています。
 今日は、『源氏物語』に関しては数点抜き出しました。しかし、目新しい情報ではありません。古書価格の変移がわかるので、メモをしているものです。

 その代わり、私の問題意識が移り変わることが影響してか、視覚障害に関する本の書名が目に留まるようになりました。これまではまったく目にも止まらなかった書名が、急に視野に入ってくるのです。おもしろいものです。

 昭和10年に刊行された、盲目の村長に関する本がありました。インターネットで検索したところ、偶然にもその一部を読むことができました。明治31年から40年までの10年間の体験談から、貴重な情報が得られそうです。早速メモとして抜き出しました。

 この千代田図書館では、休憩時間などに館員の方や別件で調査に来ている仲間との情報交換で、思いがけないヒントやアドバイスがもらえます。
 今日は、触読や朗読に関する有益な情報を、数多くいただくことができました。
 以下、忘れない内に列記しておきます。


・古写本の文字をカラーコピーしたものを立体コピーすると、浮き出し方に高低の変化がつけられるのではないか。

・縦書きの文字であっても、それを横に寝かせた(文字を90度倒した)状態で指を横方向に移動させて触読したらどうなるか。

・文字を触った時に、その文字に対応した音声が流れるシステムを開発した際に、読み上げる声の抑揚に気をつけること。

・平成25年4月1日から「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)」が施行されたことに関連して、今回の私のテーマの後押しとなる支援がないかを調べること。

 現在取り組んでいる課題を、一緒に考えていた時のことです。そして、こうした異分野からの多視点のアドバイスを、自由な発想で意見として言ってもらえる仲間が身近にいることに、感謝しているところです。
 気の置けない仲間というのは、何でも言い合えて、本当にありがたいものです。

 この日の調査は午後3時で打ち切り、千代田図書館から目と鼻の先にある共立女子大学まで、高田郁の『みおつくし料理帖』の舞台である飯田川沿いを歩いて下って行きました。

 (以下、共立女子大学の話につづく)
 
 
 

2015年7月 8日 (水)

電子版『古写本『源氏物語』触読研究ジャーナル』の原稿募集

 本年度採択された科研「視覚障害者と共に古写本の仮名文字を読み日本古典文化を共有するための挑戦的調査研究」では、研究成果の公表や情報を共有する場を確保する意味から、電子ジャーナルを年1回刊行することになりました。

 雑誌名は、『古写本『源氏物語』触読研究ジャーナル』(ISSN番号:2189-597X(仮))としました。

 視覚障害者が古写本などに書写されている変体仮名を触読することに関連する、「論文」「小研究」「研究余滴」「資料紹介」などの積極的な投稿をお待ちしています。

 投稿される前に、「『古写本『源氏物語』触読研究ジャーナル』応募執筆要綱」をご覧いただき、執筆の意向を編集担当者にお知らせください。

 また、発刊後の電子版のイメージは、「『海外平安文学研究ジャーナル』(ISSN番号 2188ー8035)(オンラインジャーナル)」と同様の形式となりますので、当該サイトを参照し確認してください。

 「創刊号」の原稿に関しては、今月7月末までに仮の論文タイトル等を教えてください。

 お知り合いの方への伝言も、よろしくお願いいたします。

===


雑誌名:『古写本『源氏物語』触読研究ジャーナル』
      【ISSN番号:2189-597X(仮)】
 
1.論文分量 400字原稿用紙で30枚以上(12,000字以上)
 小研究(20枚以下)
 研究余滴(10枚以下)
 資料紹介(自由)

2.原稿表記 原則として日本語表記・横書き

3.原稿締切 9月末日

4.体裁 A5版の版面を想定したオンライン画面

5.推奨版面・活字11ポイント、27行×34字詰、余白上下左右20ミリ

・フォントは、MS明朝、Times New Roman

・節ごとに小見出しを付す

・注は版面ごとにそれぞれ下部にアンダーラインを引いて付す

・注番号は本文の当該箇所に丸括弧( )付きの数字で示す

・参考文献情報は、以下の情報を盛り込むこと

著者名、論文名/書籍名/コラム名、巻号数、掲載頁、出版社、(掲載誌名/新聞紙名/媒体名)、刊行年(新聞の場合には発行日付)。

海外の書籍の場合には出版地名、Web媒体の場合にはURL。

(参考文献書式の例は後掲)

6.原稿入稿 ワード文書およびエクセルデータをメールに添付して送付

・問い合わせ 送付先アドレス【ito.tetsuya@mac.com】

7.校正 執筆者の校正は初校のみ。

・ただし、公開から1年以内に1度だけ改訂版に差し替え可能

・10月23日(金)までに仮版ができるようにいたします

8.図版・写真など 掲載許可が必要な場合、原則として資料手配、使用料は執筆者の負担。
 図版・写真は、原稿枚数の中に含む

表記・参考文献書式(参考)

・書籍名:『源氏物語』『日本の仮名文字』

・論文、章名:「触読用文字の大きさに関する研究」「第1章 点字の歴史」

・人名:石川倉次、ルイ・ブライユ(Louis Braille)


 
参考書籍書式例

1 書籍

(日本):著者名『書籍名』pページ、校註・訳者名(出版社、刊行年)

『新編 日本古典文学全集21 源氏物語2』p161、阿部秋生・秋山虔・今井源衛・鈴木日出男 校註・訳(小学館、2000)

伊藤鉄也編『ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」』p17(新典社、2013)

(海外):著者名, 斜体書籍名, pページ, 校註・訳者名, 出版地, 出版社, 刊行年.

Mario Rossi, Fascino del racconto di Genji, p.172, Roma, Tradizione, 1985.


2 論文

(日本):著者名「論文名:副題」『掲載誌名』(発行号数)、pページ、発表年

伊藤鉄也「海を渡った古写本『源氏物語』の本文:ハーバード大学蔵「須磨」の場合」『日本文学研究ジャーナル』(2)、p113-128、2008

(海外):著者名, “論文名:副題”, 斜体掲載誌名 発行号数, pページ, 発表年.

John Doe, “Codex of the Tale of Genji”, Succession 6, p.75-91, 2002.

※ 書籍からの引用もこれに準ずる


3 新聞

(日本):「記事名」新聞紙名(発刊月日)、発行年

「ルイ・ブライユ生誕200年」○○新聞(1月4日)、2009

(海外):記者名, 記事名, 新聞紙名(発刊月日), 発行年.

Jean Dupont, Vie de braille de Louis, ABC(Juillet 7), 2010.


4 オンライン文献

(日本):著者名「記事名」URL

伊藤鉄也「立体コピーで変体仮名を浮き上がらせる」http://genjiito.sakura.ne.jp/touchread/

(海外):著者名, “記事名”, URL

Jane Doe, “Aiming at universal design”, http://genjiito. sakura.ne.jp/touchread /


5 映像資料

(日本):監督名『タイトル』配給/発売、公開/発売年

アーサー・ペン『奇跡の人』東和、1963

(海外):監督名, 斜体タイトル名, 配給/発売,公開/発売年

Arthur Penn, The Miracle Worker, United Artists Entertainment LLC, 1962

※DVDの場合はタイトルの後に括弧書きで(DVD)、ダウンロード販売の場合は(DD)と併記する(DD=Digital distribution/ダウンロード販売)。

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2015年6月16日 (火)

3種類の変体仮名の立体コピーを作る

 立川市中央図書館のご協力をいただき、『源氏物語』「須磨」巻の巻頭部分の立体コピーを作成しました。

 これは、視覚障害者の職業支援や学校教育を担当なさっている先生から、『源氏物語』の立体コピーを読んでみたい、という連絡をいただいたので、その試験版をお送りするためです。

 今回は、先日届いたばかりの、立体コピー用紙「カプセルペーパー」を図書館に持参して作業をしました。お手伝いは、科研運用補助員の関口祐未さんにお願いしました。

 実際に作業に取りかかると、いろいろと新しいことがわかります。
 まず、コピー用紙の違いです。

 立川市中央図書館にあるカプセルペーパーは、数十年前の機器導入当時の相当古い物でした。
 それに引き換え、今回持参した用紙は、今春2月に製作されたものです。

 立体コピーの結果は意外でした。図書館にあった古い用紙の方が、線がくっきりと浮き出ているのです。シャープなのです。
 紙を長時間寝かせたものの方が、浮き上がりの具合が手に馴染んで感触がいいのでしょうか。ウヰスキーのような話です。


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 しかし、これから多くの立体コピーを作成することを考えると、残り少ない熟成物の用紙に頼るわけにはいきません。
 あくまでも、現在入手できる最新のカプセルペーパーを使うことにします。


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 もう一つ、興味深いことがわかりました。
 カプセルペーパーペーパーに最初にコピーする複写機の違いです。

 国文学研究資料館にある富士ゼロックス製のコピー機を使って、カプセルペーパーに前処理をした物を図書館の立体コピー機に通すと、少し太めのボテッとした仕上がりになったのです。

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 立川市中央図書館のリコー製のコピー機でカプセルペーパーに前処理をした物の方が、明らかにきれいに浮き上がっているように見えるのです。

 素人が見よう見まねでやっている実験なので、厳密なものではありません。複写機で前処理したときに映る黒い部分に惑わされていることも考えられます。

 しかし、国文学研究資料館で前もってコピーして持参したものは、やはり図書館の複写機で前処理してから立体コピー機にかけたものとは、その浮き出し具合に違いがあります。
 ダイヤルで熱量と圧力を変えても一緒です。

 結論としては、立川市中央図書館の複写機でカプセルペーパーに前処理をして、それを立体コピー機にかける、という工程が一番安定したサンプルが出来るようです。

 今回は、原寸、1.5倍、2倍の3種類を、圧力8で作りました。


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 これを、盲学校等に送って触読実験をしていただくことにします。

 なお、図書館で機器を操作している時に、間違ってカプセルペーパーの裏面に写本の影印をコピーしたものが、次のようなおもしろい結果を見せてくれました。
 文字が反転して浮き出したのです。


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 まさに、木版の版木に仮名文字を彫った状態となっているのです。
 これはこれで、また活用が考えられそうです。

 なお、先日の「700年前に書かれた『源氏物語』の仮名文字が自宅で浮き出たこと」(2015年06月13日)という記事で、水中ライトで文字が浮き出たことに関して、カプセルペーパーの開発元である松本油脂製薬株式会社第三事業部第三研究部の徳村幸子さんより、次のような励ましのメールをいただきました。


ダイビングのライトで文字を浮き出させることに成功とは面白いですね。
ブログを拝見させていただくと、ハロゲンランプとのこと。
ちょうどライト照射時の熱エネルギーが、黒字部分のカプセルを膨張させる熱量とマッチしたものと思われます。
化学薬品(物質)的には、特に問題はないと考えられます。
ただし、膨張させるだけの熱量が発せられているということになりますので、ライトの取扱(発熱やまぶしさなど)に御注意いただくことを推奨いたします。
簡易的に実験できることはすばらしいことと思います。
取扱に御注意いただきながら、色々と御検討いただけると幸いです。

 また、新典社の岡元学実社長から、以下の情報が届きました。


3Dプリンタを使用し変体仮名の触読サンプルを作る件につき、グラフィックデザイナーによる影印文字のモデリング(3Dソフトを使用し文字を3D化する)及び印刷会社による3Dプリンタ実機での作成が可能です。弊社がどこまで手をつけて良いのかまだ判りかねる状況ですが、一応報告いたします。
また、各種盛り上げ印刷のサンプルを集めておりますが、点字と同様に0.5ミリの高さを出せるものがあるか(通常のUV盛り上げ印刷ですと0.07ミリ程度)を基本に調べております。
実際に触読認識できるのは0.5ミリ以下からどこまでなのか。
お分かりになりますでしょうか。

 最後の「実際に触読認識できるのは0.5ミリ以下からどこまでなのか」という問い合わせについては、これから調べることになります。

 700年前に書写された『源氏物語』を触わって読む、という無謀とも言われている挑戦も、こうして牛歩の歩みながらも、着実に前進しています。
 今後の展開を、どうぞご期待ください。
 そして、触読実験の申し出と、情報提供をよろしくお願いいたします。
 
 
 

NPO法人〈源氏物語電子資料館〉広報室より

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